「いくわよ…ブルータス!!」  
そう唱えると,オバケの足元から氷が飛び出し一瞬にしてオバケは消滅した。  
「…っふう。まったくこの辺もオバケが多くていやねー」  
ロザリーはレイピアを鞘に収めながら呟いた。  
ニセ魔王が全て消滅した影響でオバケたちの数も少なくなるかと少し期待していたが,  
相変わらず勇者にオバケ退治を依頼する者が後を絶たない。  
「そういえばルカ君たち,何しているのかしら」  
ふと,そんなことを考える。  
そういえばベーロンと戦った後も忙しくて皆と会っていなかったっけ…。  
「久しぶりに会いに行こうかしら。マルレイン様の様子も気になるし…」  
マルレインはベーロンの『分類』から外され,ルカの家にいるはずだ。  
「…そういえば,ルカ君とマルレイン様ってどうなったのかしらねえ…。ふふふ…って,なんでこんなこと気にしてんのよあたし!!」  
もう女の盛りを迎えて、自分が嫁に行けるかどうかも微妙なところのに!!  
影がピンク色になって以来、散々な目にあってきたのだ。  
ピンク色の影の勇者になどお化け退治は依頼出来ませんなあ、と仕事を断られることもあったし。  
好意を抱いていた男性からは、ピンクなんてアブない色した影を持っている女なんて付き合いたくねー、と言われるし。  
そもそも影がピンク色だったら、性格も淫乱なんじゃないか、なんて野次も飛ばされるし!  
全てあの魔王のせいだ。あんなアホ魔王の呪いにさえかからなければ…!!  
今だってルカ君にとりついていろいろと迷惑をかけているのだろう。  
「きいーーーーーっ!!あいつのこと考えただけでムカムカしてきたわ……!」  
叫びながらロザリーは何もない草原の中,ぶんぶんと傘を振り回し、地団駄を踏む。  
 
「おい子分。いつになったら世界征服をしに行くのだ?余は待ちくたびれたぞ」  
影――スタンリーハイハットトリニダード14世,この世界を恐怖に陥れる(予定)大魔王はそう言いながら家事を手伝いをする少年の後ろをうろつく。  
「ええー?スタンはまだ世界征服する気でいるの?」  
少年は皿を拭きながら露骨に嫌そうな顔をした。  
「当然だろう。魔王たるもの,この世に生まれてきた以上世界征服するのが当然の務め」  
「止めておいた方がいいと思いますけど…?」  
「あ,マルレインお帰りー」  
マルレインと呼ばれた少女はパンを入れたバスケットを抱え,ドアの前に立っていた。  
「ぬ,王女か」  
「だからそういう風に呼ぶの止めてってば」  
くすくすと笑いながらマルレインはテーブルの上にバスケットを置く。  
「ちゃんと買えた?」  
「うん。はいルカ,これお釣り」  
「ありがと。もうちょっとで手伝い終わるから,もうちょっと待ってて。あとで散歩に行こうね」  
傍から見ていても,二人の間になんとなく甘い雰囲気が漂うのを感じる。  
「子分ーーーーーーーーーーーー!!余の話はどうなったのだ!世界征服が散歩になっているではないか!?」  
スタンはそんな二人を見てイライラしたらしく大声で叫んだ。が,影が怒鳴ってもそんなに緊張感はない。  
「まだ言ってるのスタン…」  
「あ,そういえば」  
マルレインは何かを思い出したように呟いた。ルカ,スタンの視線がマルレインに集まる。  
「そういえば,あの傘を差した勇者の方が村にいましたよ?」  
「なにい!?」  
スタンは影を仰け反らせて驚く。  
「へー,そうなんだ。じゃあウチにも来るだろうし,母さんとアニーに早く伝えなくちゃ」  
「く…あの勇者め…何処かで落ち勇者にでもなっているかと思えば…!」  
影はこぶしを握り,ブルブルと震えていた。  
「スタン、心配していたんだ。なんだかんだいって、やっぱりスタンってロザリーさんのこと…」  
「黙れええええええええええええ!!」  
にこにこと言うルカにスタンは怒りをあらわにする。  
「おのれ勇者!どこをほっつき歩いているのかとハラハラしていたころにやってきおって!!待ちくたびれたわ!」  
けなす様で、本当は心配していたと察することが出来るセリフをぺらぺらと一通り言った後、  
「余はちょっくら村へ行ってくる。付いて来る必要はないぞ子分」  
スタンは影から人型へ変身した。  
「行かないよ…。そういえば、人のスタンって久しぶりだね」  
「そういえばそうかも。でも影のほうが面積とらなくていいよね」  
あせる魔王とは対照的に,いつまでもどこまでものんきな二人だった。  
 
「この村も相変わらずねー。心配して損したわ」  
ロザリーはルカの家へ向かう前に,オバケ被害などの勇者が必要な問題が起きていないか村を点検しに行ったのだ。  
だが村は平和そのものといった感じで,問題など何一つないという。  
「あのトラブルメーカー魔王がこの村にちょっかい出していないなんて思えないんだけどなあ…。ま,いいか。平和が一番よねー」  
「誰がトラブルメーカー魔王だ」  
「ひゃ…!」  
背後から声を掛けられたかと思うと,突然首をがっちりとホールドされた。  
「や…ちょっと誰よ!?」  
「余だ。わからんのか」  
明らかに人を馬鹿にしたような声に,ロザリーははっとした。  
「その声は…バカ魔王!!」  
「スタンリーハイハットトリニダード14世だ!」  
そう言うとスタンはロザリーを放す。  
「ふふん,相変わらずだな勇者よ」  
「けほっ…あんたも…そのマヌケ面は変わらないわね…」  
ロザリーは絞められた首をさすりながら五月蝿そうに言った。  
「うるさい!貴様もまだ勇者面しおって!余が君臨したからには勇者などもう必要ないというに!」  
「言ったわね!?あんたみたいのがいるから勇者がいなくちゃなんないのよ!!」  
「ちょっとお二人さん,そういうのは村の外でして下さいよ…。仲がいいのは良いことですけど」  
村中で怒鳴りあいをする二人に,村人は迷惑そうに言う。  
「いや,仲良くないです!誤解しないで下さい…」  
「やっぱり仲良く見えるのか…?」  
そう言うか言わないかのうちに,二人は首根っこを掴まれ村の門外に出されてしまった。  
「こんのバカ魔王ーーーっ!どうして私が村の外に出されなきゃいけないわけ!?」  
「知らん。余のせいなのかそれは?」  
「そうよ!あんたのせいよ!!」  
ロザリーは叫びながらスタンの胸をぼこすこ力任せに殴る。  
その叫び声に、スタンは鼓膜が破れるな、と判断した。  
「…確かにうるさいぞお前。いい歳してみっともない」  
「うっ…。と,歳の事はどうだっていいじゃないの!あんたには関係ないでしょ」  
「ふむ。少しは気にしているようだな」  
「…黙んなさい。これから私,ルカ君の所に行くんだから」  
そう言うと,ロザリーはスタンの横切ってルカの家のほうへと向かう。  
「ちょ,ちょっと待て!もしや長居する気か貴様?」  
「はあ?なに慌ててんのようろたえ魔王」  
「いいから余の質問に答えろ!!」  
「…癪だけど答えてあげるわ。ルカ君の迷惑になるといけないから夜には出るつもり。この村に泊まりたいけど…さっきあんなに騒いじゃったからねえ…あんたがいなければどんなに良かったことか…」  
「そ,そうか…泊まりはしないのか…」  
妙に大人しくなったスタンにロザリーは不審な目を向ける。  
「どうしたの?大人しいじゃない」  
「むっ…いや,そんなことはないぞ」  
「……?」  
ロザリーは怪訝そうな顔をしたが,すぐまた歩き始める。  
 
「…泊まらんのか…ふん,面白くない」  
スタンはぶつぶつと呟いたが,当然ロザリーに聞こえるわけはない。  
「…あ,アンタ。また世界征服なんてバカなこと考えているんじゃないでしょうね!?」  
思い出したように突然振り返ったロザリーにスタンはびくりとする。  
「……。そのビビリ様…もしかして考えていたんでしょ!?」  
疑わしげにロザリーはスッと目を細める。  
「…ッ…考えてなどおらぬ!何を言っておるのだ妄想勇者!!」  
「はん,どうだかね」  
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」  
なぜいつもこう頭が上がらないのだ、自分は。魔王なのに!  
そんなことを考えながら、魔王はのこのこと勇者の背中を追っていった。  
途中で後ろから掴み掛かってやりたいという衝動にも駆られたが、そんなことをしたら間違いなく腰に刺さっているレイピアで刺されるので止めておいた。  
影ならまだしも、人型のままで刺されたら間違いなく痛い。  
「あ、ルカ君じゃない!」  
「む…」  
顔を上げると、小道の先にルカとマルレインが立っていた。  
ロザリーはひらひらと手を振り、二人に駆け寄る。  
「お元気でしたか、ロザリーさん」  
「あー、元気元気。二人も仲良くしているようで、おねーさん安心しちゃった」  
「え、な、仲良く…?ロザリーさん、それどういう…」  
「マルレイン様顔赤いですわよ?可愛いらしい」  
うふふふふ、と穏やかにルカたちと話すロザリー、もといピンク影の勇者を見て、スタンの心中は穏やかではなかった。  
王女とならいいが、なぜかルカと一緒にいるのを見ると、心がささくれ立つのを感じる。  
「なんだ、これは…」  
スタンはわしわしとジャケットの上から胸に手を当てたが、特に何も起きなかった。  
「どうしたの、スタン」  
普段と違ってとても静かなスタンに違和感を感じたのか、ルカは尋ねる。  
「いや、なんでもない…。おい、へっぽこ勇者、子分」  
「な、なによ!?へっぽこって…」  
「余は疲れた。少し休むことにする」  
「は?」  
ロザリーは眉根にしわを寄せ、意味が分からないという表情をしたが、言葉をかける前にスタンは影になって、どこかへ消えてしまった。  
「なんなの、あれ」  
「大丈夫ですよ、何度かこういうことありましたから」  
「そうなのですか?マルレイン様」  
魔王も疲れることがあるの…意外と人間っぽいところもあるのねと妙に感心するロザリーだったが、すぐに心配そうな顔になる。  
「で、でも…帰ってこないなんてことはないわよね?ね!?」  
念を押すように言うロザリーに、ルカとマルレインは苦笑した。  
「ロザリーさん、やっぱり心配なんですね…。スタンのこと」  
「なーんだ、二人とも本当は…」  
「え?違う違う。私はただ…」  
ただ…何だろう。  
スタンがいなかったら、勇者は、ロザリーはどうなるというのだろうか。  
後の言葉が言い出せなくて、ロザリーは思わずどもってしまった。  
「……。まあ、夜になったらそのうち帰ってきますよ。腹減ったーとか言って」  
「そうそう。それまで、家でお茶でもしましょうよ。アニーも喜びます」  
「あ、ああ…そうね…」  
スタンがいなくなったら、ロザリーはどうなるというのだろうか。  
厄介な魔王がいなくなって喜ぶのか。  
ピンク色の影を治す者がいなくなったと嘆くのか。  
口喧嘩の相手がいなくなったと惜しむのか。  
それとも。  
それとも…、  
自分が心置きなく接することが出来る男性ががいなくなったと寂しがるのだろうか。  
「…いやだわ」  
ロザリーはぽつりと呟く。  
スタンがいなくなることが嫌なのか、それとも魔王のことを男性と見てしまった自分に嫌気が差したのか、彼女自身も分からなかった。  
 
結局、スタンは夜になっても帰ってこなかった。  
「遅いなあスタン…。何しているんだろ」  
ルカは壁にかかった時計を見ながら言う。ロザリーもそれにつられるように、時計を見、立ち上がった。  
「ああ、もうこんな時間ね…私、もうお暇しますわ」  
そう言うと、すぐにアニーにグローブをがしっと掴まれ静止させられてしまった。  
「あらあらロザリーさん、夜は危ないわよお。お化けも出るし、この辺明かりも少ないから変なヒトに襲われたりするかも」  
ルカの母親はおっとりとした口調で言ったが、ロザリーの意思は固い。  
「いえ、大丈夫ですわ。私、仮にも勇者ですし」  
「おねーさま、泊まっていってよう。せっかく久しぶりに会ったんだし…」  
それに、あたしおねーさまとおフロ入りたいなー…とアニーは駄々をこねた。  
「でも、ご迷惑になります」  
「いいのよ、ちょうどお客さま用のお部屋…スタンちゃんがいつも使っているけど…そこが空いているから」  
「す、スタンが帰ってきたときに怒鳴られますわ…」  
こめかみをぴくぴくさせながらロザリーは遠慮がちに言ったが、ルカの母親は全く引く姿勢を見せない。  
「大丈夫よ、そのときは一緒に寝ればいいじゃない」  
「……っ!」  
その意味はまだ分からないアニーと発言者である母親を除いて、その場にいた人間が凍りついた。  
「いや、その…、それは…」  
「おねーさま、せっかくふかふかベッドに眠れるんです。断る理由なんてないですよ!」  
「アニーちゃん、でもね…。いや、駄目か…こんな話、不健全すぎる…」  
ロザリーは頭を抱えた。  
「はい、じゃあ決定ですね!あたし、お風呂にお湯沸かしてきます!!」  
そう言うと、アニーは風呂場に駆け込んだ。  
「ろ、ロザリーさん…」  
「今夜はスタン、帰ってこないかもしれないですし…大丈夫ですよ、多分…」  
ルカとマルレインのフォローも空しく、しばらくロザリーは頭を抱えたままそこに突っ立っていた。  
 
一方、勇者たちから離反した魔王はというと。  
「くそ、なんだあいつのあの態度は!」  
スタンはむしゃくしゃしながら、その辺にあった岩に座る。  
「余は魔王なのに…魔王なのに、あの女は余に従おうとせぬ。余は誰からもひれ伏される王だというに!」  
彼女は勇者だから魔王に従わないのだ、という理由は彼の頭の中にはないらしい。  
「おいジェームズ。ジェームズ!!」  
「はい、なんでしょう坊ちゃま」  
魔王の忠実な執事は、地面から沸いて出るようにして現れた。  
「あの勇者、どう思う」  
「は…ロザリー女史をですか?そりゃあいい身体をしていらっしゃいますよねえ彼女は。  
鍛えているようなので締まりもいいでしょうし。しかし締まりといえばレベッカちゃんも良いものだと…」  
「いや、もういい」  
べらべらと喋り続けるジェームズをスタンは一方的に遮った。  
ジェームズはしゅんとしながらも、いつもと様子が違うスタンを心配そうに見つめる。  
「ロザリー女史とまた何かあったのですか?坊ちゃま」  
「…ロザリーは余のことを好いていないのだろうか…」  
「…まさか坊ちゃま…」  
スタンはふっとため息をつく。  
「やはり変なのか?魔王たる余が人間、それも勇者を求めることは…」  
「いえ、そんなことはないとこのジェームズは思いますぞ。  
それにもし本当に嫌なのだったら、顔を合わせるたびにあの剣で斬り付けたり、あの壺にもう一回封印しようとするでしょう」  
壺、という単語にスタンはびくりと身体を震わせたが、すぐに頭を振って嫌な記憶を消した。  
「う…うむ…、嫌ではないのか…。だが、どうすればいいのだ…」  
「…直接、気持ちを表せばよいのでは?」  
悩む主に、執事はぼそりと呟く。  
 
「…はあああああああああああ…」  
ロザリーはあてがわれた一室に入るとすぐに盛大にため息をついた。  
結局、アニーやマルレインと一緒に風呂に入ることになってしまったし、  
ルカの家に厄介になってしまったのだ。しかも、魔王の部屋に泊まることにまでなった。  
「ありえない…。魔王が使ったベッドに寝るなんてありえないわ…」  
ふと、ロザリーは自分の足元にある影を見つめた。  
影は、相変わらず濃いピンク色。  
アニーは、このピンク色の影を気に入っているらしい。  
お風呂で「この影、可愛いですよねっ」としきりに言っていた。  
「くっ…、そういえば、あいつに影治せって言うの忘れてた…」  
再び地団駄を踏みそうになったが、やめておいた。仮にも人様の家で勇者が地団駄踏むなど恥ずかしすぎる。  
「早く帰ってきなさいよスタン…」  
ぽす、という軽い音を立ててベッドに横たわる。  
髪の毛がばさばさと目の前に下りてきたが、払おうともしなかった。  
「疲れた…」  
あの魔王といると、なんだかすごく消耗する。  
たくさんのお化けを深い洞窟の中で退治した時より、もっと疲れているかもしれない。  
「全部、あの馬鹿魔王のせいなんだから…」  
そう言って顔を白いシーツに埋める。知らないヒトの匂いが鼻腔に入り込んできた。  
なんとなく、安心する…。  
そう思うとすぐに瞼が重くなって、目に被さってくる。  
「あ…これスタンの…?」  
朦朧とする意識の中、宿敵である魔王のベッドに寝てしまったことに気付いたが、睡魔に襲われ、起き上がる気にはなれなかった。  
「やだ…な……わたしってば…」  
ロザリーは大きく寝返りを打った。そして、そのまま瞼は閉じる。  
 
夜も深まり、満月がすっかり夜の空に昇った頃。  
暗い部屋には、金髪の女性がすうすうと寝息を立てて寝ていた。  
そして、月明かりに照らされたドアの隙間から一筋の影が女性に音も無く近づく。  
 
 
『直接、気持ちを表せばよいのでは?』  
ジェームズは突然そんなことを言い出した。  
『は…?ジェームズ、それは一体どういう意味だ?』  
『ですから…口で表すことが出来ないのであれば、身体で…』  
『身体って…』  
『同衾すればよいのですよ、坊ちゃま』  
平然と、満面の笑み(いや、いつも同じ表情だが)でジェームズは言った。  
『ど……どどど同衾!?』  
スタンは驚いて声を張り上げた。  
どうきん…同衾って…その…男と女がアレでナニをするという…  
引きまくる魔王に対し、執事は嬉しそうな声で続ける。  
『そうすれば、ロザリー女史は必ず坊ちゃまのものになるでしょう!  
ああ…しかしあのような女性が奥様になるとは…王妃とお呼びせねばなりませんねえ。あ、女王様でもいいですね!』  
『なにを言っておるのだバカモンがあああああああああ!』  
 
 
 
「しかし…言われたは良いが、ヤツにその気が無かったら強か…。いやいや考えないことにしよう」  
恐怖の魔王として君臨しようと日々努力するスタンだったが、こういうことに関してはへたれていた。  
とっぷり夜も暮れると、スタンはこそこそと薄っぺらい影になって、居候中の自分の家に侵入した。  
「…これは夜這いというのではないのか…?」  
ジェームズ曰く、夜這いの方が男にとって緊張感が出て興奮するのだそうだ。理由はよく分からないが。  
「…っと…余の部屋にいるのか、あの独身勇者は?勝手に使いおって…大方あの食えぬ家族が仕向けたのだろうが…」  
そう言うと瞬時に影になって、僅かなドアの隙間からロザリーが寝ている部屋へやすやすと侵入したのだった。  
 
「……」  
「……。おい勇者…なぜ床に寝ているのだお前…」  
侵入したはいいものの、当のロザリーは穏やかな寝息を立てながら寝ていた。しかも、ベッドではなく床に。  
「硬い床が好きなのか?貧乏くさいな…。明日身体が痛くなるぞ」  
もう若くないんだからな、鼻で笑いながらスタンはそう言った。  
彼女が起きていたら絶対にレイピアで指されるであろう。  
「……よいしょ」  
だが、やはり見ていて痛そうだったし、こんな所でするわけにもいかないのでベッドに運んでやることにした。  
影では物に触れられないので、人型に戻る。  
肩を抱き、膝裏に手を回してゆっくりと持ち上げ、ベッドに下ろしてやった。  
その間、ピンク色のパジャマ(ルカの母親のものらしい)に包まれた太ももや、胸に触れてしまったような気がした。むにゅっという効果音もつけてもよいくらいに、強く。  
「…貧相な胸をしているかと思えば…」  
普段来ているがちがちした服だと大して胸は目立たないのに、実はかなりあるんじゃないか?  
スタンは勝手にロザリーの裸を想像して、ついでに先ほど触れた感触を思い出して悶えていた。  
「っ…ゆゆゆゆ勇者!余は…その……ええい!皆まで言わす気か貴様!!」  
眠っている相手に吼えたが、肝心の勇者は相変わらず眠っていた。  
「いいか!同衾するぞいいな!?余は言ったからな!!後で泣いても知らんぞ!!」  
一方的にしゃべると、心臓をばくばくさせながらロザリーに顔を近づける。  
誘うように薄く開かれた唇に軽く口付けた。  
それだけでスタンとしてはかなり満足なのだが、一回すると、なぜかもう一度触れたくなってしまった。  
今度は、少しだけ長く触れたい。  
スタンは欲望に忠実に、それを実行した。  
「……ん……」  
口を塞がたロザリーが眉根にしわをよせて声を上げるまで、スタンは長く長く唇を合わせていた。  
声に驚いたスタンが唇を離すと、ロザリーはすこしだけ息を震わせ、頬を上気させて顔を傾ける。その拍子に、とろりと唾液が唇の先から零れ落ちた。  
月明かりに照らされあまりにも扇情的なその様子に、スタンも少しだけ浅黒い肌を赤らめた。  
「黙っていれば可愛いものを…」  
可愛い?  
可愛いだと?  
いやいやいやいやいやいや!なにを言っておるスタンリーハイハットトリニダード14世!!  
こんなことをこの自信過剰女に言ったら図に乗るに違いない…。こういうことは思っても言わずにいるものだ!  
 
そんなことを考えて後悔でロザリーのすぐ脇でのたうちまわっていると、  
「うう…ん…なあに……?」  
気配に気付いたのか、やたら色っぽいうめき声を出しながらロザリーは起き上がった。  
声だけで、スタンはまた悶えそうになる。  
とろんと瞼が半分降りた瞳が、逆光に照らされたスタンを捉える。  
「ん、誰よ…ルカ君?お母様?」  
「どうやったら余と子分を間違えるのだ寝ぼけ勇者よ…」  
あきれたようにスタンは呟きながら、ベッドの脇に腰を下ろし、頭がよく働いていない様子のロザリーに顔を近づけた。  
まじまじとロザリーはスタンを見つめ、ようやく自分の置かれた状況に気付いた。  
「えええええええええ!?ななななななんで、なんでここにいんの!?」  
「ここは余の部屋だ!まったく、床で寝るわ起きたらおきたで騒ぐわ…少しは落ち着かんか!」  
「う、そう…だったわね。考えてみればここ、あんたの部屋だったわ…」  
今夜は帰ってこないのかと思っていたロザリーはがっかりすると同時に、少しだけ安心した。  
「じゃ、私はリビングのソファにでも寝るから!じゃあね〜」  
そう言ってスタンのベッドから抜け出そうとしたが、案の定スタンに手首を掴まれ、押し止められてしまった。  
振り放すように腕を振ったが、やはり男性の力で押さえつけられているだけあって、スタンは決して放そうとしなかった。  
「や……っ、なによ!」  
「部屋から出る必要は無い。ここに寝ろ」  
スタンはあわてるロザリーとは対照的に、静かに言う。  
「え、いいの…?じ、じゃあ床!床ね!!あんたが床に寝てね」  
笑顔で嫌なことを言うロザリーを、スタンはじっと見つめる。  
あんなに色っぽい女は何処へ行ったのやら…。  
はあ、とため息をついた。  
起こさずにことを済ませた方が良かったのではないかという気までしてくる。  
「なによ、そのため息?もしかしてレディーを床で寝させる気!?」  
「さっき床で寝てたやつが何を言うか。余も、お前もここで寝るんだ」  
そう言って、下を指差す。  
ロザリーがここってなによ…と言いながら下を見、すぐに顔から血の気が引いた。  
「え、まさか…一緒に寝ろっての?」  
「…そういうことだ。ほれ、服を脱げ。なんなら脱がせてやろうか」  
「なに馬鹿なこと言ってんのよ!なんでいつの間にかアンタと、その…性交渉…しなきゃなんないことになってんのよ!」  
「なんでだと?余がしたいからだ」  
「なにがしたいからよこの馬鹿!俺様!!人でなしっ…あ、ヒトじゃないけど!」  
ありったけの罵声を浴びせながら、したいから、ということは…とロザリーは考える。  
もしかしてスタンは自分のことを…?とロザリーは少し変な期待をしたが、  
いや違う、こんな魔王、ただ性処理のために自分を使おうとしているだけだ。そう、絶対にそうだ、と決め付けた。  
 

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