久々に帰ってきたルカ君と一緒にパン屋さんへ行った。おばさんたちは小麦の買出しに  
行っていて、店内にはバゲットぐらいしか置いていない。誰もいないのに鍵が開いている  
のは、テネル村の中に『泥棒』の分類がいないからだ。分類がなくなった今でも、やっぱ  
り分類の意識は残っている。だから、私とルカ君は二人きりで、薪を置いたテーブルの周  
りに座る。デートみたいに。  
「テネル村のパン屋さんは冬でも暖かいよね」   
 ルカ君の言葉を聞いて、私は落胆とほんの少しの嫉妬をする。  
 落胆はもちろんルカ君が変わってしまったことに対して。いつの間にか、私よりも数段  
大人びてしまったルカ君は、私の好みから大きく外れてしまっている。  
 嫉妬は、テネル村の外の世界を、何でもないことのように言ってしまう態度に対してだ。  
きっと今のルカ君にとっては何でもないことなのだろうけれど。でも、私たちテネル村に  
住む子供たちにとっては、村の外はとても遠くにあるものなのだ。だから、外の空気を感  
じさせるルカ君は、とても魅力的なもののように見える。私の好みではなくなったはずな  
のに、私を惹きつけるルカ君のことが、とても妬ましく思える。  
 
「他の場所なんて知らないわ」   
 だから、私は白いワンピースにぴったりの、若草色の毛糸のショールを乱暴に外す。少  
し暑くなくなった。さっきからいつもよりずっと、パン屋の中が暑い。ルカ君がいるせい  
かもしれない。こんなに暑いのはほとんどないから。  
 ルカ君が困ったように眉を寄せるのが、昔のルカ君みたいで溜飲が下がる。  
「ごめん、ジュリア」  
 ルカ君が肩を落として、うつむく。もやもやとした胸やけが一瞬だけすっとする。この  
まま、昔みたいに戻ってしまえばいいのに。私が好きだったルカ君に。私を甘やかしてく  
れるはずのルカ君に。  
「そうよ。私はルカ君と違って、『村人』のまま大きくなるんだから」  
 ルカ君は居心地悪そうに身を縮める。私に拒絶されて悲しいからじゃなくて、ただ、困  
惑して居心地が悪いのだと思う。年上の男の子みたいに私のわがままをやり過ごそうとし  
ている。ルカ君にひどいことを言ったのは私のほうなのに、ルカ君の気持ちが私から離れ  
てしまっているのは気分が悪い。  
 もう、私にとってはルカ君は好きでも何でもないはずなのに。  
 前とは違って、剣を持っているし、筋肉も付いた。影が薄くなくなってきた。背も少し  
伸びたかもしれないし、服の生地も戦うためのものに変わっている。ルカ君はもう、ルカ  
君じゃないみたいに見える。  
 
「……なんで、ルカ君は変わっちゃったのかしら」  
「え?」  
 思っていたことがつい口をついた。ルカ君が聞き返す。  
「だって、私は本当にあなたのことが好きだったのよ。優しくて、気が弱くて、きっと結  
婚して私のわがままを聞いてくれると思ってたのに」  
 すごく傲慢かもしれないけれど、私はルカ君の弱いところがとてもいいと思っていた。  
私をどこまでも受け入れてくれそうなところがよかった。分類通りの未来なのだから、せ  
めて、私の未来を楽にさせてあげようと思っていた。  
 でも、今のルカ君はすっかり変わってしまっていて、これぐらいの無茶な言動には慣れ  
っこだって顔でいる。まったく傷つけられたりしてないみたいだ。私に何の感情も動かさ  
れない、こんなルカ君は私の未来に必要ないはずなのに、どうして、こんなにもやもやと  
するんだろう。  
「なのに、何で」  
 ルカ君を睨む。もやもやとした胸やけみたいなのを吐き出そうとする。  
「何で、ルカ君は私の言うことを何でもないみたいに思えるの?」  
 声が大きすぎて屋根が揺れたような気がした。外に聞こえたかもしれない。それに、こ  
れじゃ、告白みたい。ルカ君が、やっぱり困ったみたいな顔をする。こういう煮え切らな  
さは嫌いじゃない。けれど、好きなだけでもない。  
 消極的なルカ君が好きだったせいで、成長したルカ君まで好きになるなんて、そんなこ  
と認められるわけがない。  
「ルカ君は、ひどいと思うわ」  
 私は目を伏せる。真剣に話しているつもりなのに、下を見ると敷き石の数を数えてしま  
う。煮え切らないルカ君が好きなのに、何か行動してもらわないと落ち着かない。  
 私は、とてもおかしい。  
「……」  
 ルカ君が私の頭を撫でる。なんだか慣れていたので、王女様にもしていたのかしら、と  
思う。かわいい子だった。勝気そうで、猫みたいな。  
 
「今のルカ君は好きじゃないわ。でも、ルカ君は好きなの」  
「……」  
 ルカ君はやっぱり何も言ってくれない。私との相性がぴったりなら、ルカ君も少しは優し  
くしてくれればいいのに。でも、優しくしてくれたら、ルカ君じゃない。  
「ねえ、ルカ君」  
「……?」  
 ルカ君が不思議そうな顔をした。  
「キスして」  
 私は物語の中の女の子みたいなことを言った。ルカ君とそういうことをしてしまえば、  
もやもやとした気分も終わるかもしれないと思ったから。突飛な考えなのはわかってると  
思う。けれど、胸の中に何か抱え込んでいるような感じは、続けていたくない。  
「……」  
 ルカ君はやっぱり何も言わずに、顔を近づけてきた。とっさに目を瞑る。だって、恋愛  
小説では、女の子はキスするときに目を瞑るから。でも、そのせいでルカ君の唇が薄いの  
がわかってしまって、恥ずかしかった。石釜のせいで、とても暑い。顔が火照っている。  
白いワンピースはきちんと長袖になっているから、とても暑い。  
「ジュリア……」  
 ルカ君の手がワンピースのボタンを外す。ルカ君から何かしようとするのはほとんどな  
い。今も、私が避けようとしたらすぐにやめてしまうはず。けれど、ルカ君が私とそうい  
うことをすれば、ルカ君は私のことをなかったことみたいにはできないんじゃないかと思  
ったりもする。私の発想はいつも自分本位なはずなのに、ルカ君相手にはうまく行かない。  
「んっ……」  
 舌が入ってきた。キスは初めてだったから、なんだか不思議な感じがする。でも、舌で  
口の中を撫でられていると、段々気持ちよくなってきて、感覚がおかしくなっていった。  
 
 キスを何度か繰り返すと、ジュリアのからだから強張っている感じが抜けていった。白  
いワンピースを半分だけ脱がして、白のレースの下着に触ってみる。やわらかかった。ジ  
ュリアは大きな目をとろんとさせて、ボクを見つめている。  
 やっぱりきれいだ。血管が薄く透けそうなぐらいに色が白くて、ほっそりとしている。  
肩幅も狭くて、両腕で抱え込めそうだ。ジュリアがぼおっとしているせいで、睫毛がすご  
く長いのがわかる。からだをボクに預けているから、感触がそこかしこから伝わってくる。  
 どきどきする。興奮もしている。なのにボクは勃起していない。  
 それは、マルレインに対する罪悪感のせいではなくて、ジュリアが着ているワンピース  
みたいに真っ白な感じがして、怖いからだと思う。せっかく好きだと言われたのに、ボク  
に手を出せる感じがしない。  
 なのに、興奮して、触りたいとは思っているのだから、よくわからない。  
 
 ブラジャーの中に手を入れると、意外に胸が大きいことに気付いた。生胸を触ってしま  
った。そのことに興奮してぎゅ、と掴む。  
「いたっ……」  
 ジュリアが小さく叫ぶ。驚いて手を離すと、ジュリアは控えめにからだを摺り寄せてき  
た。ボクはバランスを崩して、壁に背中を預ける。壁が熱を持っているから、そういえば、  
ここはパン屋だったとぼんやり思い出す。  
 もし、誰かに見られたらどうしよう。  
「ジュリア、誰かに……」  
 言おうとしたら、ジュリアの唇にふさがれた。唇の上をジュリアの舌が控えめに撫でて、  
おずおずと入ってくる。舌の真ん中を触ると気持ちいい、本で読んだのを思い出して、唾  
液ごと吸う。  
「…ん、ふぅっ…」  
 ジュリアの肩が揺れていて、興奮しているのだと思う。ジュリアも、欲情したりするこ  
とに驚いて、それから下を確かめてみたいと思った。  
 下着の上から人差し指を当てると、少し湿っていた。  
 ずくん、とからだが熱くなる。ボクはいつの間にか勃起していた。  
 
 唇を離すと、唾液がほんの少しだけ糸を引いていた。ジュリアの目が潤んでいて、息が荒  
くなっている。生々しくて、顔が熱くなる。  
「ルカ君が、そんな顔する……と、私が、恥ずかし……い、わ」  
 ジュリアが目を伏せた。勝気な彼女がそんなことを言うのがかわいくて、力の加減をでき  
ないまま、抱きしめる。勃起したものを下着に押し付けるようになって、ジュリアがからだ  
を硬くした。  
「やっぱり、やめようか」  
 ボクは自制心を最大限に働かせる。自分の意見を言えるようにはなっていたけれど、誰か  
を傷つけてまで自分を通すほどじゃない。  
 でも、下着を触る手を離そうとすると、ジュリアがボクの腕を掴んでこう言った。  
「でも……私は、ルカ君のことが好きよ」  
 
 女の子の中っていうのは意外とぬるぬるしている。指を入れたらジュリアが痛がったか  
ら、棚にあった溶け掛けたバターを借りた。すると、指がどんどん入っていく。ブラック  
ホールみたいに全部吸い込むみたいに思えた。中のほうを触ると、ぎゅっと締め付けてき  
て不思議な感じがする。ボクはジュリアがいいというのを待てないまま、ワンピースの裾  
を上げて、挿入した。  
「んっ、……やぁ、あ!!」  
 ジュリアのからだが強張る。急ぎ過ぎたのかもしれないと心配になって、今度はゆっく  
り動こうとする。けれど、ジュリアの中はぎちぎちに締め付けていて、動くことができな  
い。  
「ジュリア、……ち、力を抜いて……」  
 ジュリアは勢いよく頭を縦に振る。けれど、締め付けは全然緩んでくれない。ボクは安  
心させようと、子供にするみたいに背中を撫でた。ジュリアの苦しそうに詰めた息が、段  
々落ち着いてきて、なんとか動けるようになる。  
「う、動くよ……」  
 ジュリアの細い腰を掴んで、ゆっくりとからだを上下させる。ワンピースの裾が血で  
赤く染まっていて、ジュリアもはじめてだったことに気付く。何度も往復していくと、  
段々ぴしゃぴしゃ、と水っぽい音が響いてくる。  
「あっ……や、痛い、のに……」  
 ジュリアが荒く息を吐いて、涙をこぼす。ボクは段々抑制が効かなくなって、細い腰を  
ぐっと引き寄せて、打ち付けるように動かした。  
 
 行為が終わると、私は急いで服を着なおした。ルカ君は少しぼおっとした顔で、濡れた  
床を掃除している。でも、まだ夢から覚めていないみたいなルカ君の様子は、悪くなかっ  
た。  
「ねえ、ルカ君」  
「……?」  
 ルカ君が私を見上げる。立っていると、おなかの奥がびりびりとしびれていたけれど、  
顔には出さないように気をつけた。自分から誘ったみたいな形になったけれど、恥ずかし  
かったからだ。  
 私はルカ君に近づいて、顔を覗き込んだ。ルカ君が少しだけ顔を赤くする。セックスし  
たあとなのに、偉そうじゃないのは、ルカ君のいいところだと、私は思う。  
 目が合うと、さっきまでのもやもやした気持ちがすっきりとして、とてもいとおしくな  
る。  
 私はルカ君の頬にキスをしてこう言った。  
「ルカ君。……私のこと、好き?」  
 

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