―深夜、寝床の中、  
少年は困っていた。  
どれ位困っていたかと言えば、動悸・息切れ・不眠・かなしばり(!)といった症状を引き起こす程。  
 
―横にはスヤスヤ眠る可愛らしい少女…―  
 
 
事の起こりは一週間前。彼女はこの家を訪れ、共に生活し始めて以来、一人部屋を当てがわれていた。  
 
事件は彼女の就寝間際。寝床に入り、ふと、目を天井に向ける。何かが顔を覗く。  
…蛇…。  
けたたましい叫びと共に彼女は飛び起きた。  
 
季節は夏。  
あまりの暑さに、窓を開けていたのがマズかったようだ。  
…虫除け・蛇除けはしていた筈ではあるが…  
 
無論、その夜、彼女はその部屋では寝ることが出来ず、少年の妹の部屋に居候することになった。  
 
…ここまでは、少年としても『心配事』の範疇であった。  
 
翌日、『もう大丈夫』と彼女にその部屋を返す。そして、その夜。  
少年は何故か、寝苦しさを感じ、目を覚ました。  
「(おかしい…自分以外の息遣いが聞こえる…。)」  
と目を開きその方向を確認する。  
 
…  
……  
………!!  
 
瞬時に身体が硬直し、叫び声をあげそうになる。  
 
「(ちょ、な、なんでマルレインがここに!?)」  
少女…マルレイン…が自分と同じ寝床の中で、心地良さそうに眠っていた。  
 
さらに翌日、彼女に『その事』を問うと、  
「…ごめんなさい、何だか、あそこじゃ眠れなくて…。」  
流石に、それは問題があるだろうと、説得を試みるが、彼女の強情さは、その行為を止めさせない。  
「ルカといると安心出来るの。」  
「…でも、変な事はしないでね。」  
…と無邪気にトドメまで刺されてしまい、グゥの音も出ない少年。  
 
そして、眠れぬ夜を過ごしながら、少年は今に至っているのであった。  
 
――――  
少女は迷っていた。  
勢いに任せ、少年の寝床に潜り込んだは良いものの、それからが展開しない…。  
 
 
事の起こりは一週間前。  
少女の部屋に一匹の蛇が迷い込む。少女にとって蛇ごとき何でも無い。  
…この時、彼女は一計を案じる。  
…この家に住み着いてから、少年…ルカ…との関係が全く進展しない。  
父、ベーロンを倒した時の彼は何処へやら…。  
そんな、彼に業を煮やし、こっちからアプローチをかけるべく、その計画…夜這…を実行したのであった。  
 
しかし、当日は眠ってしまう、という大失態を演じ、しかも彼に抗議される始末。  
抗議への反発から、  
『一緒に寝ても何もするな』  
と言ったは良いけど、まさか本当に何もしてこないとは思わなかった。  
 
…本当に彼は男なのだろうか?  
 
「(意気地無し…。)」  
そう、心の中で何度も呟くが、事は解決しないのであった。  
 
―――  
そして現在…  
二人は眠れない、悶々とした夜を過ごしていた。  
―――  
 
その夜、少年は疲れていた。  
一週間、まともに眠る事が出来ていないならば当然の事であろう。  
 
ふと、何かどうでも良い事を考え、そして、  
「さて、寝よう…」  
と寝返りをうつ少年。  
―ふにゅ―  
 
「えっ?」  
少女の乳房に身体が触れる。  
そして、彼女と視線が合う。  
 
 
「〜〜〜〜!!(こ、殺される!)」  
少年は覚悟を決める。  
その間、0.1秒足らず。  
しかし、彼女の反応は予想だにしないものであった。  
 
「あっ…」  
この展開を望んでいたかのような、艶かしい声。  
 
そして、少年の時は停止する。  
予想だにせぬ反応に頭が混乱した為であったが、彼女にはそれが我慢ならなかった。  
 
「…意気地無し。」  
大きな眼を潤ませ、そう呟く。  
 
刹那、彼は世界に引き戻され、そして、  
 
『ぷつっ』  
 
 
理性が飛んだ。  
 
 
絡みあった視線。  
そして唇を重ねる少年。  
大きく見開かれる彼女の眼。  
 
 
――クチュ、ニチ――  
徐々に激しさを増す口付け。  
少年の手が彼女の、背と乳房に伸びる。  
 
背を愛撫する度しなる躰。  
少しだけ手から溢れる乳房。  
潤んだ眼。  
絡みあった舌。  
その息遣い。  
 
―あまりにも煽情的―  
 
―あまりにも愛しい―  
 
―――  
 
自分の躰のどこに、潜んでいたのか、  
と思えてしまう、心地良さ。  
 
背を、乳房を愛撫される度、躰に安堵と熱が巡る。  
 
―――  
 
少年の口付けは軽くなり、やがて、唇を離す。  
 
軽く深呼吸。  
 
そして、舌を首筋に這わせる。  
「ひっ…ぁっ…。」  
少女の悲鳴にも似た嬌声。  
もっと聞きたい、と邪な考えが口付けを、乳房へ、乳首へと移させる。  
 
―――  
 
躰が自分のモノでは無い感覚。  
自分でも初めて聞く淫らな声。  
 
乳首へと口付けられると、意識が少し白くなる。  
自分はこんなにも淫らな女だったのか、と自嘲するが、それもすぐに快楽に遮られる。  
 
少年の手が、少女の性器に触れる。  
 
―ニチュ―  
 
濡れた音。  
 
躰がのけ反る。  
「ね、ちょ…と…待っ…て…。」  
自分の躰がどうにかなってしまいそうで、息も絶え絶え、彼にそう懇願する。  
 
―――  
 
二人の眼差しが再び絡み合う。  
 
少女の懇願は少年に嗜虐心を覚えさせる。  
「…やだ、待たない…。」  
彼女を愛撫する指が、段々と激しくなっていく。  
「ゃ…ぁ……ぁっ…あっ」  
彼女は目を大きく見開き、何度も躰を震わせる。  
と、突然、彼女から力が抜ける。  
 
「!」  
 
―――  
 
「ごめん!ホントにごめんなさい!!」  
少女に平謝りの少年。  
 
少女からすれば、彼の豹変は嬉しいのだが、流石に度を超えた快楽は辛い。  
と、平謝りの彼を見て、少し意地悪を思いつく。  
 
「…じゃあ…」  
 
そっけない振りから、言葉を紡ぐ少女。  
彼は神妙な面持ちで耳を傾けている。  
 
「…今度は、私の番よ、ね?」  
妖艶な眼差しが彼を射抜く。  
 
―――  
 
―ピチャ…クチュ…―  
少年の性器に少女の舌が這っている。  
攻守逆転。  
 
「ぁァぁア…くっ…」  
何度目かの射精。  
彼女の顔を精液が汚す。  
 
少年の表情があまりにも淫らだったのだろうか?  
 
上目使いに顔を見つめ、明らかに高ぶっている彼女。  
その指は、激しく自慰を行なっている。  
 
甘い水音が部屋に響く。  
 
――――  
 
「ねぇ…」  
少女は少年の性器から口を離し、誘い込むかの様に足をM字に、そして自ら性器を指で開く。  
 
―クチュ、ニチュ―  
 
少女は有らん限りの、痴態を見せようとする。  
 
ごくり、と鳴る彼の喉。  
誘い込まれるままに、性器を挿入する。  
 
 
―ミシッ―  
 
―あぁ、そうだ、私は初めてだった―  
 
今更ながら、思い出す。それほどの痛み。  
 
しかし、  
 
―ビクッ―  
「ヒぃァあア!」  
 
意識と痛覚を奪う程の『快感』。  
何故?、という疑問すら吹き飛ばされる。  
 
―――  
 
少年は『それ』を、もっと抵抗あるモノと思っていた。  
だが、そんな予想すら打ち消す快楽。  
 
―ビッッ―  
射精。  
自分は何度、出しただろうか?  
…何故か、治まらない。  
 
脳が、躰が蕩けそうになる。  
そして、  
―グプッ、ズチッ、ヌチュッ、ヴプッ―  
力任せに、荒々しく腰を打ち付ける。  
何度、射精しようが知った事ではない。  
快楽と、  
 
―彼女が愛しい―  
 
 
ただそれだけが、少年を動かしていた。  
 
―――  
 
何度、絶頂を迎えただろうか?  
 
濡れた、肉のぶつかり合う音が響いている。  
 
少女の眼は見開かれ、口からは短いあえぎ声。腹は精液で薄らと膨らみ、躰はビクッビクッと痙攣を繰り返し、ただ為すがままにされている。  
 
少年は、快楽を貪る様に少女の躰を貪る。  
その姿は、少女には妖艶な気を放っている様にも見えた。  
 
相手を、快楽を求める、ただそれだけの純粋な行為。  
 
 
少年の動きが、一層、荒く、力強くなる。  
 
そして、大きな、とても大きな快感の波が二人を浚う。  
「ひッ!ぁあアアぁア!!」  
「ぅウァアあああ…!」  
 
二人の意識はそこで完全に暗く染まった。  
 
―――  
 
翌朝。  
おはようの次の会話は  
少女「お腹がタプタプしてるみたい…」  
少年「ご、ごめん…」  
から始まる。  
 
よそよそしい二人。  
 
「(初めてなのに…たまってたのかなぁ…?)」  
「(何百年間もの性欲が一気に…)」  
 
 
その時、  
「おニーちゃーん、おねーちゃーん。お疲れのところ悪いけど、ご飯だよー」  
 
…  
 
「((バレてる…))」  
 
更に顔を赤らめる二人。  
 
 
 
ふと、少年が口を開く。  
「…マルレイン。…愛してるよ…。」  
 
恥ずかしそうに呟かれたその一言は、少女の胸を貫く。  
 
「じゃ、服を取ってくるね。歩くの辛いでしょ?」  
 
 
そう言うと少年は服を着て、腰を押さえながら出ていく。  
 
 
少年の顔、声、匂い、そして優しさ。  
 
喜ぶに身体が溶けそうになる。  
 
 
二人は  
 
とりあえず  
 
今夜からは  
 
ぐっすり眠れるのだろう。  
 
 
 
 
 
 
…二ヶ月後  
 
「赤ちゃん、出来たみたい(はぁと)」  
 
と告げられ、少年があたふたするのは、また別の話。  
 
 

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