東京某所 安ホテルにて  
 
部屋に備えつけられた粗末なベッドに腰を下ろすと、  
ビュティは深いため息をついた。  
その瞳にはわずかに涙が滲んでいる。  
「へっくん…」  
一年ぶりの再会を果たした少年は、あろう事か人類の敵である  
ケガリーメンに所属…しかもAブロック隊長にまでなっていた。  
「嘘だよね。悪い夢なんだよね?」  
打たれた頬の痛みが少女のつぶやきを冷たく否定する。  
「…へっくん…どうして」  
 
ビュティは恋をしていた。相手は誰であろうヘッポコ丸である。  
 
かつていっしょに旅をしていた時は別にどうとも思わなかった。  
オナラを武器に戦う、少し年上の少年。  
バトルを見ると異常に興奮する癖はあるが、そう不快というわけでもなく  
だからと言って恋愛の対象として見る事もなかった。  
「へっくんもみんなと同じ大切な仲間」。一年前の別れがくるまではそう思っていた。  
 
しかし皆と別れた日の夜、布団の中でウトウトしている時に  
ビュティは何故か、ふと気づいてしまった。  
(へっくんって、私の事好きだったのかな)  
以前から思い当たるフシがないでもなかった。  
敵の攻撃から何度もかばってくれたし  
目の前に私がいると妙にはりきってたし。  
 
でも。  
 
(私はそれに気づかないフリをしてたのかもしれない)  
 
ビュティは恋愛には疎かった。  
「生き別れた兄を探す」という重大な目的がある以上、  
惚れた腫れたの恋愛事に興じている暇はないし  
私には縁のない話だと、頭から決めてかかっていたかもしれない。  
無意識のうちにそう思いこみ、彼から送られてくる  
ほのかな恋のサインを黙殺していたのではないか。  
そこまで考えて、自分のしてきた仕打ちに今さらながらショックを受けた。  
 
それからは夜になると自然とヘッポコ丸の事を考えてしまい  
胸が熱くなり、幾晩も眠れない夜を過ごしていた。  
恋する相手がすぐ近くにいないのをもどかしく思い、  
時には雑踏の中で彼に似た白髪の少年を見かけ、思わずドキリとした事もあった。  
とてつもない遠距離恋愛、いや遠距離片思いとでも呼ぶべきか。  
これが一年も続いたのだから、乙女の一途さというものには恐れ入る。  
 
(いつか、また会えたら)  
その時は…。  
いつになるかは分からない。でも、もしまたいっしょに  
旅をする事になったなら…。  
 
そんな少女の見ていた甘美な夢は、少年の一撃により儚く崩れ去ったのである。  
 
コン 「入るぞ」 ガチャ コン  
ノックの合間にボーボボ達が部屋に入ってきた。  
「どうしたビュティ。いつもなら『ノックの意味ねー!!』とか  
 ツッコんだりするのに」  
「ねぇボーボボ。もしかして私のせい…なのかな」  
「私のせい…ヘッポコ丸の事か?」  
「ヘッポコ丸の事かー!!!!」  
「うん」  
穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めた首領パッチを  
ビュティは手際よく窓の外に投げ捨て、ベッドに座り直してから続けた。  
「私…その、へっくんに嫌われるような事をしてたかもしれなくて。  
 ケガリーメンになったのも、私といっしょにいたくないから  
 なんじゃないかって…」  
「………」  
「姐さんは悪くありませんよ!」  
無言で聞いていたボーボボに代わり、ガ王がいきりたって力説した。  
 
「ちょっと冷たくされたからって、グレて敵に回っちまうようなヤツが  
 悪いんです! あのヘッポコ丸ってヤツはよっぽど軟弱だったに…」  
「へっくんの事を何も知らないのに、そんな風に言わないでよ」  
 
ガーン!!!  
 
「うわぁぁぁん! グレてやる! 敵に回ってやるぅ!!!」  
ビュティにちょっと冷たくされ、一瞬でグレた軟弱コアラは  
傷ついた心を癒すために、夕闇の街へ飛び出していった。  
「晩ごはんまでには帰ってくるのよ〜」  
走り去るガ王の背中に優しく声をかけると、  
ボーボボは改まった様子でビュティに向き直った。  
「ヘッポコ丸がビュティを避ける理由は何となく予想がつくが」  
胸がちくりと痛む。ボーボボも、たぶんみんなも、へっくんの気持ちを分かってたんだ。  
私だけ気づかなかった…気づかないようにしてたんだ…。  
「それが"ヘッポコ丸が敵になった理由"なのかは分からん。  
 その辺は次号あたりの本誌でハッキリ明かされるはずだ。答えを急く必要はないさ」  
「うん…それは分かってるけど」  
「まぁ、あらゆる理由を想定して手を打っても損はないだろうがな」  
そう言うとボーボボは、自分のアフロから何かの包みを取り出した。  
 
「何これ?」  
「ビュティに買ってきたんだ。開けてみろ」  
言われるままに包みを開いてみると、化粧品らしいビンが入っていた。  
ラベルをよく読んでみると……  
 
バストがみるみるビッグに! 豊胸ジェル「チチデールβ」  
 
「何これー!?」  
「これは豊胸ジェルと言ってな、つまり胸を大きくするための…」  
「そんな事は分かってるよ! 何で私にこんなの渡すの!?」  
ビュティが耳まで真っ赤にしながらボーボボを問い詰める。  
「もちろんヘッポコ丸対策だ」  
ボーボボがしれっと答えた。  
「え…ええぇぇぇぇ!? 何で!?」  
「さっきのエロ本屋でのビュティの反応で気づいたんだ。  
 ヘッポコ丸が巨乳モノのエロ本を愛読してると思った  
 ビュティがアイツに送った視線…尋常じゃなかったからな。  
 それで胸の事で何かトラブルがあったのか、と思い当たったわけだ」  
「だってあれは…そ、そういう意味じゃなくて!」  
「若いお前達の事だから恐らく  
 
 ヘ:なぁビュティ ヒマだからおっぱい揉ませてくれよ  
 ビュ:何よそのセクハラ発言は ふざけてるの?  
 ヘ:(@u@ .:;)なんだと まぁいいや どうせ揉むほど大きくないだろうし  
 ビュ:小さくて悪かったわね アンタのしょぼいテクじゃこっちからお断りだけど!  
 ヘ:ふん!  
 ビュ:ふん!  
 
 決 裂  
 
 みたいなお約束な展開で険悪になったかと推理したんだが」  
「何その不快な推理!? お約束じゃないよそんなの!!」  
「ちなみに男の俺がこういう物を買うのは恥ずかしかったので  
 ビュティの名前で領収書をもらってきました」  
「それじゃ私の方が恥ずかしいよ!!」  
 
立て続けにツッコミを入れたビュティの肩を  
ボーボボの大きな手のひらが優しく包み込んだ。  
そのまま屈みこんでビュティの瞳をまっすぐ見据える。  
「どうやら少し元気が出てきたようだな」  
「え…?」  
「まだ理由が分からないのにビュティが落ちこむ事はない。  
 ヘッポコ丸を締め上げて、理由を聞き出してからでも遅くないだろう。それに…」  
そこでいったん言葉を切ると、ビュティの肩から手を放してのそりと立ち上がった。  
「ビュティのツッコミは俺達ハジケリストにとって  
 無くてはならない存在になっているんだ。  
 ツッコミが優秀であればあるほどハジケが引き立つからな」  
「ボーボボ…」  
「次の戦いもビュティのツッコミが必要になるはずだ。よろしく頼む」  
そう言うとボーボボはニヤリと笑い、右手をビュティに差し出した。  
「…うん」  
ボーボボの手を握ってビュティが微笑む。  
やり方に多少問題はあるが、ボーボボなりに励ましてくれている。  
ビュティの傷ついた心には、その不器用な激励が嬉しかった。  
 
「さて、俺はちょっと出掛けてくる」  
「どこに行くの?」  
「実は俺自身にも"ヘッポコ丸が敵になった理由"に思い当たるフシがあってな」  
「え? 何それ?」  
「共に旅をしていた時に…食べちまったんだ、ヘッポコ丸の分のタコさんウインナー」  
「………へ?」  
「あの時アイツは笑って許してくれたから良かったが…  
 もしずっと怨みに思っていたのなら、今ごろ  
 ヘッポコ丸の心中では相当な怨念が積もっているに違いない。  
 何しろ普通のウインナーじゃなく、タコさんウインナーを食われたんだからな。  
 それに『食べ物の怨みは恐ろしい』とも言うし…」  
「………はぁ」  
一瞬ツッコむべきか迷ったビュティだったが、ボーボボの表情が  
あまりにも真剣なのでとりあえず流しておいた。  
ヘッポコ丸がウインナーひとつで敵になるようなキャラクターとは  
とても思えない。が、『ボボボーボ・ボーボボ』が不条理ギャグマンガである事を  
考えれば、その可能性は必ずしもゼロではないだろう。  
「そんなワケで、タコさんウインナーをある程度用意しておく事にしたんだ。  
 とにかく、やれる事はやっておかなくてはな…。  
 遅くなるかもしれんが、心配せずに先に寝ててくれ」  
「うん、気をつけてね」  
 
部屋の時計が9時を知らせた。  
ボーボボもガ王も、首領パッチさえあれから姿を見せない。  
ビュティはひとりで夕食を済ませ、しばらくシャワーを浴びていたが  
隣のボーボボ達の部屋にはまだ誰も帰ってくる気配がない。  
少し心細くなってきた事もあり、今夜は早めに寝る事にした。  
 
ところが。  
 
昼間に衝撃的な事があったせいか、目が冴えてどうしても眠れない。  
何度となく寝返りをうち、ため息をつき、とうとうあきらめて部屋の電気をつけた。  
所在なく、ふとテーブルの上を見ると、ボーボボから渡されたビンが目に止まった。  
唐突にボーボボの言葉が脳裏に蘇る。  
『とにかく、やれる事はやっておかなくてはな…』  
「やれる事をやっておく…か」  
 
胸の大きさに関しては、自分でも以前から気になっていた。  
誰にも言えない、密かなコンプレックス。  
自分と同じくらいの年恰好の女の子を見かけると  
頭の中で自分の胸と、目前の娘のそれを比べたりした事が  
何度かあり、そのたびに屈辱を味わってきた程だ。  
(まさかこんな形でボーボボに見破られるとは思わなかったけど)  
私がヘッポコ丸の恋心に気づかなかったのは  
胸の悩みによって、自分に自信がないせいもあったかもしれない。  
違うかもしれないけど…やれる事は、やっておかなくちゃ。  
 
パジャマを上だけ脱いで、ビンを手にベッドへ腰掛ける。  
いけない事をしているような気がして、なんだか、すごくドキドキする。  
何度か深呼吸して気を落ち付かせ、ビンのふたを開けた。  
ヌルヌルした半透明のジェルを人差し指に軽くすくい取ると、  
それを自らのバストに恐る恐るこすりつけてみる。  
「…冷た」  
興奮でほてった身体には、少々冷たすぎたようだ。  
それでも説明書きにあるように、左右の胸に均等に、丹念に擦り込んでいく。  
作業に没頭しているうち、擦り込んだ箇所が少し熱を帯びてきた。  
「あ…すごい、大きくなってきちゃった」  
ジェルには媚薬効果もあったらしい。膨らみかけの、なだらかな胸の先で  
淡いピンク色の乳首が、存在を誇示するかのように大きく屹立し、左右に揺れている。  
「なんだかいやらしい…」  
何気なくつぶやいた少女の表情が、不意に淫靡な笑みに変わる。  
胸全体を両の手で包みこみ、ぐにぐにと揉みしだく。  
手の中で固く勃起した乳首が擦れ、電気が流れるようなピリピリした快感が  
全身を駆け巡っていく。腋のあたりからじっとりと汗が流れる。もう我慢の限界だった。  
下着ごとパジャマのズボンを下ろし、すでに濡れていた股間へ手を滑らせると  
まだ幼さの残るクレバスにそって荒々しく指を這わせる。  
「あんっ! あ、あっ…くう…んっ……は…ああっ」  
右手で割れ目の上部で頭をもたげる肉芽を刺激し、  
左手の指はピンと勃った右の乳首を挟み、クリクリと捻る。  
「やっ! そこ! あ! いいっ! んんっ!」  
甘美な声のリズムに合わせるかのように、右手の動きがだんだんと早くなっていく。  
「は…んっ、へっくん! へっくんっ!! あっ、んっ!!」  
荒い息をつくビュティの脳裏に、ふと白髪の少年の顔が浮かんだ。  
 
『いつか、また会えたら。その時は』  
 
「へっくんっ…私っ、わたしへっくんが好きっ! 好きなのっ!!」  
興奮のあまり、かすれて裏返りかけの声が室内に響きわたる。  
「へっくん! ゴメンねっ…ホントは好きなのっ…! あっ! うんっ! あっああぁぁぁぁっ!」  
ピンクの髪を振り乱し、身体を弓なりにのけぞらせ、エクスタシーの波が少女の全身を包んでいった。  
そのままベッドに倒れこみ、大きく息をしているうちに  
ビュティは深い眠りに落ちていった。  
涼しげなライトグリーンの瞳から、涙がこぼれ落ちた…。  
 
ビュティが目を覚ますと、すでに朝の9時をまわっていた。  
「…あ、あれ?」  
ベッドに横たわっている自分の身体が、何も身に付けていない事に気づいて驚き  
少ししてから昨晩自分がした行為を思い出し、顔を真っ赤にした。  
「……っと、いっけない! みんなもう帰ってきてるのかな?」  
ベッドから飛び起き、あわてて着替え始めると、隣の部屋から  
ボーボボや首領パッチの声に混じって、工事作業をしているかのような  
けたたましい轟音が聞こえてきた。…どうも嫌な予感がする。  
 
「おはようボーボボ! ゴメン寝坊しちゃって…」  
ドアを開けたとたん、ビュティは見た。  
部屋いっぱいにウネウネと蠢いている軟体動物…タコの大群を。  
その中心で、チェーンソーと火炎放射器を手に  
タコを相手に悪戦苦闘しているボーボボと首領パッチを。  
そして彼らの足元で白目をむいて、太鼓のようにふくれた腹を  
上にして倒れているガ王を。  
 
「何やってんのー!?」  
「ん? おお、やっと起きたか。昨日は夜更かしでもしてたか?」  
わざとなのか、分かっていないのか…ボーボボが実にデリカシーのない質問をする。  
「べ、別に…それより! あの…何してたの?」  
「見ての通りだ。首領パッチといっしょにタコさんウインナーを作ってたんだが」  
「ええぇぇぇぇ!?」  
「まぁ聞いてくれ…タコさんを大量に仕入れてきたまではいいんだ。  
 でも…タコさんからどうやってタコさんウインナーを  
 作ればいいかが分からないんだ!! ちくしょおぉぉぉ!!!」  
悔しさのあまり、ガンガンと激しく床を殴りつけるボーボボ。  
「ガ王に(無理やり)味見してもらってたんだが、ヤツももう限界らしい…  
 くそっ! このままじゃヘッポコ丸に殺される…うう。くそおっ!!」  
「気にするなよ。俺もお前もよくやったって。ヘッポコ丸も  
 鬼じゃないんだから半殺し程度で済むだろ。最悪の場合  
 俺が主人公になってやるからさ…」  
ニヤニヤ笑いながら慰める首領パッチを尻目に、ビュティがおずおずと告げた。  
「あの…タコさんウインナーはウインナーから作るんだけど」  
 
な、なんだってー!?  
 
「そうだったのか…それは気づかなかった。まさに逆転の発想!!  
 どうりで何度やっても『イカさんフランクフルト』しかできないと思った…」  
「イカさんフランクフルトって何ー!?」  
「ボーボボはまだマシだろ。俺なんかビーフシチューになっちまうんだぜ?」  
「どうやってタコからビーフシチュー作ったのー!?」  
ビュティはため息をつき、やれやれといった表情で微笑む。  
「もう。しょうがないなぁ…作り方なら私が教えてあげるよ」  
「おおっ! さすがビュティさんお優しい!!」  
「ビュッティさーん! ビュッティさーん! 僕らのビュッティさーん!!!」  
 
毎度の事ながら、彼らのハジケについていくのは大変だ。  
でも、私にはそれができる。できる事はやるんだから。  
まだかすかにうずく乳首を刺激しないように注意を払いつつ、  
調理に取りかかるビュティなのであった。  
 

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