「…ヒロインは…誰にも…譲らない…」  
月が見下ろす草原で、そう呟いたのはオレンジ色の物体。その物体の足取りはぎこちなく、しかし確実に女性用テントに向かっていく。  
「…ヒロインは…アタイのもの…」  
ウワゴトのように繰り返しながら女性用テントの出入口をオレンジ色の物体が開く。月明かりが差し込んだ先には二人の女性が眠っていた。  
 
女性用のテントの中には、普通の男性が見れば迷わずよからぬ行為に及んでしまうような、夢のある風景が広がっていた。  
黄色い髪の女性は、上半身を少し毛布から出し眠っている。少し大きめなTシャツの首元からチラリズムしている鎖骨、そして胸の谷間…まったくもってハァハァもんだ。実際、この小説を書いている僕も妄想でハァハァしかけている。  
まだ幼さの残る寝顔をしている少女は、ピンクに水玉のはいったパジャマで、毛布を両足の間に挟みこみ、抱き枕のようにして眠っている。思わず『毛布になりたい…』と思ってしまうような光景。  
 
こんな夢のような風景がオレンジ色の物体の前に広がっていたのだ。  
 
しかしオレンジ色の物体の目は一人の少女だけをロックオンしている。黄色い髪の女性には目もくれず、まだ幼さの残る寝顔をしている少女の枕元に歩み寄る。しかし羨ましいぞコンチクショウ。  
「…ヒロインは…渡さないわよ…。」  
オレンジ色の物体の手にはトゲ…ビュティを恐怖のドン底に突き落とすトゲ…トゲの中には世界一恐ろしい物質であろうエキスがたっぷり…凶器とも呼べる、そのトゲが残酷にもビュティの喉元に牙を剥いた…。  
 
……………  
 
 
 
「……お願い………やめて…首領パッチくん!!」  
ビュティは目を覚ました。どこかのアニメでしか見れないような勢いで飛び起きた。  
「(ガクガクブルブル)ハァ…ハァ…夢…?(ガクガクブルブル)」  
汗をぐっしょりかいた額を拭う。心臓はバクバクいってるし、体は火照っているように熱い。  
「わ、私…なんて恐ろしい夢見てんの!!(ガクガクブルブル)」  
一応ツッコミをいれておいた、小声で。  
 
「…大丈夫…ですか?」  
隣で眠っていたはずのスズが心配そうに声をかけた。  
「ス、スズさん!?もしかして…起こしちゃいましたか…?」  
「いえ、気にしないでください。」  
スズは微笑みを浮かべ、そう言った。  
「それよりどうしたんですか?汗ぐっしょりですけど…」  
そこでビュティは体の火照りが強くなっていることに気付いた。まさにドキがムネムネしているという状態だ。ビュティの目の前にはスズ。  
(スズさんって…色っぽい…)  
別にビュティは鎖骨フェチってわけではないが、時々のぞく鎖骨、そして胸元の白く綺麗な肌…ビュティの胸はさらに高鳴った。  
 
スズはビュティにとって、もはや毒だった。  
「…ホントに大丈夫ですか?」  
ビュティの顔を見、首を傾げるスズ。その声、少し寝癖のついた髪、そしてビュティのことを案ずる表情。  
「…あの〜…だ、大丈夫ですか…?」  
眠いのだろうか、少し潤んだスズの瞳はビュティの瞳を見つめている。そして形のいい魅力的な鎖骨…フェチではないが。  
「…ビュティ…さん?」  
何も考えられない。考えたくない。ビュティの瞳はしっかりとスズを捉らえている。  
「…そ、そんなに見ないで…くださいよ…。」  
少し頬を赤らめ目を逸らすスズ。…可愛すぎる!  
 
「…スズさん…」  
まだ幼さの残る少女にはとても似つかわしくない吐息交じりの艶めかしい声。  
「…は、はい?」  
自分の名を呼ぶ声がいつもと全然違う。スズは戸惑いながらも、あくまで冷静に対応しようとした。  
「どこか…具合でも悪いんですか…?」  
エスパーであるスズはなんとなく人の思っていることがわかる。そんな自分の特殊な能力を恨んだ。先程の自分を呼ぶ声から、明るさでも元気さでもなく…欲望を感じ取ってしまったから。  
 
ビュティさんは私を欲しがっている  
 
我ながら馬鹿らしいと思う。しかし軍艦にも認めてもらった自分の能力が間違えているとは思えない。  
 
ビュティさんが私を欲しがっている  
 
ドクン。  
心臓が大きく脈打った。自分でも少し呼吸が早くなっているのがわかる。  
「…ビュティさん…どこか具合が悪いのなら早く寝た方が…」  
ごまかすように口を開く。何かしていないと、ビュティが放つ欲に飲まれてしまいそうだからだ。  
 
「…スズさん…っ」  
頬が紅潮し、口は半開きで、呼吸をするたび肩が揺れる。そんなビュティが四つん這いで少しずつ、少しずつスズに近づいていく。その潤んだ瞳は上目遣いでスズをしっかり捉らえている。  
「…ビュ、ビュティさん?」  
「わ、私…体、熱くて…っ。私…なんか…おかしいよ…。」  
二人の手がゆっくりと重なる。肌と肌が触れ合ったところから体の隅々まで電流が走ったような感覚。その感覚にスズは思わず声をあげてしまう。  
「あ…っ。」  
(手と手が重なっただけなのに…ビュティさん…私も…どこかおかしい、みたいです…っ)  
 
スズの手を握ったまま、ビュティが更に近づいてくる。  
「スズさん…私…私…っ。」  
ビュティの表情は切なげで、まったく冗談とは思えない。  
「ビュ、ビュティさん…!?」  
上半身と上半身が触れ合う寸前、ビュティの動きが止まった。恥ずかしさからか、目を逸らし、うつむいていたスズだったが、突然静止したビュティを不思議に思いビュティを伺い見た。  
スズの視線に、ビュティの熱い視線が不意に交わる。  
 
「…スズさん…私…と、止まらない…。」  
「…え?…ん…っ!」  
体が後ろに倒れそうになるほどの衝撃と軽い痛みに目を見開いたスズ。間近に目を閉じたビュティの悩ましい顔。そして唇に暖かく、柔らかい感触…。少ししてお互いの唇が少し離れる。もちろん視線は絡めたままだ。  
「んっ…ふ…ぅ…。」  
ビュティは更に頬を紅潮させ、息も少し荒くなっている。唇が離れている間に、スズはなんとか息を整えようとしていたがそれは叶わなかった。  
 
さっきのより軽いが、少しの衝撃と、暖かく柔らかい感触。今度はさっきのように触れるだけでなく、まるでスズの唇を貪るように深く、激しく口付ける。  
「…ん、ぅ…ん…!」  
ビュティも堪え切れず甘い声を漏らす。ビュティの舌がスズの口の中に入ってくる。スズの口内を、ビュティの舌が遠慮なく犯していく。  
「…んんっ…ち、ちょっ…ビュ…ティら、んっ…くるし…いっん…!」  
スズは息が出来ずに苦しいとビュティに伝えようとするのだか、唇を塞がれ、舌を入れられ、うまく発音できない。仕方なく押し退けようとビュティの胸元を押そうとするが腕に力が入らず、スズの手はビュティのパジャマを掴み、快楽に流されないようにするために使われた。  
 
脳があまり動いてない。最初はビュティがどうしたのか、どうすればいいのかと考えていたのだが、いつしかスズの思考は停止してしまった。  
 
…くちゅっ…ちゅぶ…  
 
卑猥な水音が響く。どちらのものかもわからない唾液がスズの口元から雫する。  
深く甘いキスが快楽を呼び覚まそうとしているのだろう、体が熱い。  
息を吸おうとすると、ビュティの舌が更に深く侵入してくる。うまく呼吸ができない、頭がクラクラする。  
「…ュ、ビュ…りぃ…らん…っ!」  
限界が近かった。体が酸素を欲っしている。  
 
スズの懇願が届いたのだろう。ぷはっという音と共に唇が離される。  
「はぁっ…はぁっ…」  
体は呼吸を必要としているのに、唇が離れることが少し寂しかった。  
「スズさん…ゴメン、なさい…で、でも…もっと…」  
その安息の時間も切ない時間も、ビュティの切なげな言葉によって、すぐに終わった。充分に呼吸を整える暇もなくまた口付けられる。  
「…んっ…ふっ…ひぁっ!?」  
スズが素っ頓狂な声をあげてしまったのには理由がある。スズの右胸をビュティの手がしっかり掴んでいる。  
「んっ…ちょ、ちょっ!ビュティさん…っ!?」  
 
「スズさん…私…私…」  
言いながらもスズに口付け、胸を激しく揉む。  
「ちょ…ビュ、ティ…さ…んっ。ダっ、ダメ…れす…っん!!」  
その時、ビュティの中で何かが弾けた。おかしな自分に戸惑っていたはずなのに、何故か笑みが零れたのだ。  
唇を離し、スズの額に自分の額をコツンと当て、ビュティはゆっくりと口を開く。  
「ダメって言われても…言ったでしょ?止まらないって…」  
妖しく艶めかしい笑み。スズはその笑みに圧倒され、なんの抵抗もできないうちに肩を押され押し倒された。  
 

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