瞼が重い。  
 甘い匂いがする。  
 髪から花の香りがして、指を這わすたびにゾクゾク背筋に何かが走っていく。  
 「…恥かし…い…」  
 壁際に追い詰めたビュティは観念したのか瞳を閉じて、オレの唇を黙って受けた。口の中に踊るたどたどしい熱い舌が、歯の裏とか、上あごの奥とか、そんな所をなぞるのでオレは気が気じゃない。  
 ぷちゅくちゅちゅくちゅく…残響がする。エロいエロいキスのノイズ。21歳未満お断りのやらしー音吐。  
 「奇遇だな、オレもだ」  
 人差し指の腹に全神経を集中させてそっと胸に触れた。  
 「やっ…!」  
 びくんと大げさに痙攣して胸をかばうように背を曲げたビュティに被さるように逃げ場を封じる。  
 「……や?」  
 「だってこんなのおかしーよ!  
 なんか間違ってる気がするんだもんー!大体なんで男の人ってこんな事したいのよう!」  
 ベッドの上で足をじたばたさせながら悶える腕の中の少女は、それでもオレをあの時みたいに冷たい声で撥ね退けたりはしない。  
 「少なくとも、オレはお前のことが好きだからこうするんだと思うんだけど……どうなのかな。自分でもよく解らん。  
 アタマに響いてる『ビュティを押し倒せ』って声に従ってるだけだったりして」  
 嘘は付きたくない。ビュティは賢い。きっとオレの“ドッキリ・スペクチャー”なんかすぐ見抜いてしまうだろう。薄っぺらな愛を囁いて嫌われるより、冷たい本心を拒絶される方がマシな気がした。  
 オレの言葉にビュティの周りの空気がぴんと張り詰めたのが見えるかのようだ。冷たい目のビュティがむくりと起き上がる。  
 「……なにそれ」  
 「単なる本心。ドキドキうるさい心臓の鼓動が真実だと思えない哀れな大人の言い訳かもね」  
 「わけわからん」  
 
 「……んー、オレは口下手だからナニ言っていいのかわかんねえんだよ。  
 でもなにかをお前に言わなきゃならないと思うから必死で言葉を探してる……んだけど、それが全部シッチャカメッチャカでチャランポランでどーでもいいくだらない台詞になっちまう。  
 どう言ったらこのアタマん中に渦巻いてるものをビュティに解ってもらえるんだろうな」  
 口が止まらない。おかしいな、オレこんなにお喋りキャラだったっけ?  
 泡食ってだらだらツマんねえ言い訳じみたことが勝手に吹き出すオレの唇に、気がついたらビュティの指が触れていた。  
 細く冷たい、少女の指。  
 「わかった。……もういいよ。」  
 オレの全てを封じるちいさな人差し指。  
 「……ボーボボは恋とかした事ないんだね。――――――なんか、カワイイ」  
 にへーっとビュティが笑う。柔らかい声でオレの心のどっかをぎゅっと苦しくする。  
 「あたしが初恋の人か。……えへへ、なんか照れちゃう」  
 ぽりぽり後ろ頭など掻いたりなんかして、ビュティがオレの身体からするりと抜け出した。パンパンとパジャマをはたいてしわを伸ばし、髪の毛を手ぐしでさーっと整える。  
 「いい?ボーボボ。あたしはボーボボが今まで付き合ってきた女の人とは違うの。  
 これまでの手順はみーんな忘れて、一番最初の状態にリセットしてちょうだい。いいわね」  
 「……何の話だ」  
 「いーから!リセット!今すぐ!」  
 キッとオレを睨みつけたビュティがベッドの上にちょこんと正座をして目を閉じた。  
 オレと言えばいきなりリセットなどといわれてもワケが分からないモンで、仕方がないので同じように正座をして目を閉じた。  
 「なーんにも訊かないから、何も訊かないで。  
 ボーボボも初めて。あたしも初めて。いい?全部初めてよ」  
 「……おい、ビュティ、オレはその、別に無理矢理どうこうとかは……」  
 「いーの。あたしがしたいんだから、付き合ってよっ」  
 オレは彼女のヘンな迫力に負けて、仕方なく(という言い訳をしながら)ビュティの唇に触れた。  
 
 こうして抱くと、本当に小さな女の子なんだなぁと実感する。身の丈がどうとか以前に、全てのパーツが絶望的に小さい。髪の毛にしたって細くて柔らかで、なんか自分とは別のイキモノのような気さえする。  
 「……入るのかなぁ」  
 ぼそっと思わず呟いてしまった言葉が彼女の耳に届いたのは不運だったとしか言いようがない。  
 「へーきよ。もーっと身体のおっきい人知ってるから」  
 ぐぼっとヘンな勢いで息を飲んだんだか息が詰まったんだかは解らない。ただ息が止まった。息が出来ない。自分で顔が青くなるのがわかる。  
 「どしたの、ボーボボ」  
 きょとんとしたビュティの顔がはっとして、それからしまったなぁという表情になって、お互い沈黙した。  
 「……なぁビュティ、オレ意外に人間が小さい上に嫉妬深いみたいよ。  
 やばーい、なんにも訊くなとか言われても無理無理無理ー!ゼッタイムリーフルベース!」  
 じたばたじたばた身体を捻って捩って身体中にむくむく湧き出す黒色の雲に翻弄されるオレに、困り顔のビュティがヤケクソで声をかけた。  
 「えーとほら、あー、天の助くんとか!……ダメ?」  
 「天の助が粉微塵になって原材料の天草まで戻っちゃうYO!」  
 「いーじゃん!ボーボボだってこー、ぼんきゅっぼんのきれーなおねーさんとか知ってるんでしょ!?それでおあいこ!ねっ」  
 「やだやだやだー!オレのは業務的なアレだけどビュティのは本域のアレだろー!」  
 ぎゅっと彼女が両手を握る音まで聞こえるような、重苦しい、声。かすれた悲鳴。  
 「……ちがうよ。あたしのは、事故的な、アレ」  
 その声にオレは身体中掻き毟られるような気がした。全身が押しつぶされそうに苦しい。  
 「…わぁかったーっ!なんも訊かーん!お前も訊かない!それでいい!ビュティもそれでいいな!」  
 「――――――ん。」  
 痛々しく笑うビュティを見て、どうしてオレはこう、大人をするのに不自由なのかな、と我ながら情けなくなった。  
 
 小さな胸、細い首筋、白い肌。欲情しろってのが無理だ。勃つわきゃねーべ、こんな子供で。おにーさんはボンキュッボンのおねーさん専門ですよー!  
 「やっぱり胸とか、ぺたんこで面白くない?」  
 「ソンナコトナイヨ」  
 「顔にウソって書いてある」  
 「ウソジャナイアルヨ」  
 「なんで中国人?」  
 参ったな、オレが望んでるのはこーゆー事じゃないんだけど……なんて言ってもビュティには違うニュアンスで取られるに決まっている。だからと言って腹を決めただけで解決するような問題でもない。  
 「……しょーがないなー」  
 「ななななななななな」  
 思案に暮れるオレをほったらかして、いつの間にかビュティのあの小さくて細い腕がオレの下着の中に進入していた。  
 「手伝ってあげましょー」  
 「ややややややややややややややめめめめめめめめめめめめめめめ」  
 「壊れたCDみたい。おっかしいの」  
 いつも通りの天使の笑顔。なのに下着の中で蠢くのは大胆で繊細な悪魔の和毛。  
 ああああああ!年下の!しかも倍も歳の離れた被保護者に!オレは一体何をさせているのか!そして律儀に反応してんじゃないよマイサン!  
 「あのうビュティさんマジうわっキタコレやばいやばいやばいって洒落になんないって」  
 「洒落じゃないもん。うりゃうりゃうりゃ」  
 チクショー嬉しそうな顔しやがってこの女。しかもなんて手さばきだ、確実にそこいらの商売女よか上手いぞコレ。  
 ……こんなもん上達する理由を考えただけでまた全身が引き裂かれそうになるけど、とりあえず今はこの指先から神経を逸らすことが出来ない男の性が憎すぎる。  
 「まったく、大人をからかう悪いムスメだ!こりゃお仕置きだな!」  
 ビュティの身体を持ち上げて無理に腕を引っ張り出し、何とか攻撃を逸らして叱るオレの顔を両手で固定し、彼女が唇を重ねた。  
 
 「お仕置きィ?できるもんならやってごらんなさいよー。あたしは一筋縄じゃいかないわよーん」  
 熱い舌が口の中へ入ってくる。まるで生き物みたいに蠢き踊る舌は、オレの舌を絡め取ったり唇を滑ったり、あごのあたりから首筋、喉仏、鎖骨などにぬるい軌跡を残す。  
 ぞくぞくぞくぞく  
 背筋がそそけ立つのになんだか泣きそうになるから、オレはしばらくされるがまま。  
 ああ、なんてこった。  
 オレの好きな女はこんなに儚いのに  
 どうしてお前、そんなに強いんだ?  
 イヤじゃないの?こんなこと上手くなってる自分が嫌いじゃないの?  
 眉間にしわを寄せ、オレは我慢が出来なくなってビュティの小さい身体にぎゅっと抱きついた。  
 「ひゃ!」  
 「オレね、ダメなオトナですよ。  
 でもね、頑張るから。ビュティの役に立てなくてもいいよ。その代わり絶対に守るから。  
 もうこんなこと二度としなくていいから。  
 ビュティがヘッポコ丸を好きだろーが、首領パッチ、天の助、田楽マン、他の誰かを好きだろーが、もーどーでもいいよ。オレはオレがお前を好きって知ってるから。ちゃんと認めたから。  
 だからもういいよ。いいんだよ。な、だから、もういいよ」  
 
 後半は声が歪んでたんじゃないかなと心配になった。時々引っ掛かる自分の途切れ途切れの台詞がみっともなくて嫌だなあと思っている。  
 「……なーんか、勘違いしてない?ボーボボ」  
 あきれ声のビュティと目が合うと、彼女はんー、と思案顔を傾げて唸っている。  
 「あたしね、これ今イヤイヤやってんじゃないよ。  
 ボーボボが気持ちよーくなってくれたら嬉しーなーって、それだけだからね」  
 にっこり微笑むかわいい女の子。よそ行きの笑顔。いつもの気楽さ。……ああムカつく!  
 「オレはそんなのヤだよ!」  
 思わず怒鳴った声に自分で驚いた。その倍、彼女が驚いた顔で一時停止。  
 ……〜〜っ!あーわかった!言うよ!全部言っちまえばいいんだろ!!  
 「……あーもう!じゃあ言うけど!  
 ビュティお前ほんとにオレと今からセックスする気あるか?ねえだろ?その妙技で一発抜いてやろうってだけだろ?  
 オレは!ヤなんだよそんなの!やるんだったらお前の心ごと抱きたいの!身体だけもいらんし、とーぜん手や口なんかでいじられてもなーんにも嬉しかねーんだよ!分かるか?解れよ!判ってくれよ!  
 お前が男キライなのも知ってるよ!オレみたいな身体のでかい奴が特に苦手なのも知ってる!急に抱きしめたら身体がマジで凍ることも知ってる!  
 でも、それでもお前笑ってオレのこと許してくれたから、嬉しかったよ!震えるぐらい嬉しかったよ!」  
 
 「――――――――――――はーい、ボーボボさんすとぉーっぷ」  
 気楽なあの声。いつもの軽い突っ込みのときの。  
 「あたしをどーしてそんなに悲劇のヒロインに仕立て上げたいのかわかんない。  
 …そりゃまあ、ちょっとはボーボボの言ったこと当たってるトコもあるけど、そんな深刻じゃないってば。よくあることじゃない。ね、心配しすぎだよ。  
 あたしヤな人とベッドにいて逃げないほどお子様じゃない。14歳って案外オトナなんだから」  
 ひとつ頬にキスが下りてきた。軽く掠めるような、口づけ。  
 「身体が大きい人あたし好きよ。抱きしめられるのも好き。男の人が誰も彼も怖いだなんていうロマンチストじゃなくてごめんね」  
 オレの左手をあの小さな両手が持ち上げて、自分の胸に押し当てた。  
 「……ね、どくどくしてるでしょ。これ、怖がってるように聞こえる?」  
 「――――いいや」  
 「んふふふふ。  
 ――――――――やさしくしてね?」  
 茶目っ気たっぷりに彼女がウインクをした。俺はひとつだけ浅く頷いて少女の胸に左手を押し当てたまま、右腕でビュティの身体を全部引き寄せた。よろよろと縺れる足が絡まって重心さえ容易く奪ってしまえる。  
 「あっ……!」  
 小さく上げた吐息とも悲鳴とも付かぬささやかな声が、凍っていた血を溶かして一気に流れたような感覚を覚えた。ぞくぞくぞくそく。背筋に、首筋に、耳の裏に、血が通う。  
 「もー知らんぞ、殴っても止めてやんねえ」  
 「……ボーボボのえっち。」  
 「悪かったな!オレはえっちですよ!エロエロですよ!へんたいですよーだ!  
 腰が立たなくなるくらいやってやるからな、絶対寝かさねーからな、覚悟しとけよ」  
 「えっちえっちえっちー!ボーボボのちょうえっちー!」  
 やーん、とまるで猫が無理に抱かれたときに両前足を突っ張るみたいにオレの腕を押しのけるのに、目がうるうる潤んでて、唇が今まで見たことないくらいに真っ赤になってた。  
 「……………………う、ん…ッ」  
 
 熱がひどい風邪の時を思い出す。  
 眩暈がして頭痛がして、それから……動悸と息切れと……混乱……  
 シーツに広がるショートの髪が電気が消えた部屋の窓から差し込む街灯の光に柔らかく反射していて、なんか卑猥だ。閉じられた瞼に舌を這わすとパジャマの背中をぎゅっと握られた。  
 頬を伝って首筋に、鎖骨に、胸に。彼女がそうした様に同じぬるさでなめくじの通り道。  
 「んくぅ……ん」  
 下着どころかパジャマも脱いでないそこへ、右腕を、右手を、中指を滑り込ませた。  
 「やぁっ……よご、れちゃう……ぅ…」  
 「あたらしーの買ってやる」  
 「そんな無駄遣い…」  
 うるさい唇をふさぐ。つまんないこと考えてる余裕を潰してやる。舌で、唇で、息で。  
 ひく、ひく、ひくと細い腰が揺れるたびにぞく、ぞく、ぞくと背筋に戦慄が走る。何かに急かされるように自分の中指が何度も何度も少女の神秘をなぞる。  
 「いっ……や、や…あっあっ」  
 パジャマの生地は決して厚くない。糊のパリッときいた綿パジャマ。執拗に何度も何度も、その向こう側にある猫の肉球みたいなそれを擦るので、なんだかそこの布が柔らかくなってきたよーな気がするのは多分、思い過ごしじゃない。  
 「……やって、なにが。なぁ、なにが、や?」  
 「いじわるぅい!」  
 「ゆってみ、このくちでゆってみ」  
 「へんたい!」  
 「あーいいなそれ、ぞくぞくする。もっと言って」  
 「……うぅぅぅ……パジャマの上からじゃやだぁー」  
 ああ、修行が足りないオレときたら顔が赤くなるよヤメテヤメテこっちが照れる!……とかいいながらズボンのお腹からそーっと手を差し込んで、ぱんつの上からより具体的に分かるそこを愛撫する。  
 「あっあっあっ…やっ…ちがうー!」  
 ぽこぽこ殴られるのは承知で中指は布一枚の壁を乗り越えずにまだ見ぬ神聖に祈りを捧げる。もうずいぶん前から動くたびにささやかな音を立てて活動している中指。オレの腕を掴むビュティの力が切なく強くなっていた。  
 「違うなら自分で動かせよ」  
 「ボーボボまじタチ悪いィ!」  
 
 絡み合う二匹の蛇のごとく、巻きついて離れない。  
 ……これはなんだろ、まさか愛なんて言うんじゃなかろうな。  
 違うと思う。けれど欲のみか?と訊ねられても返事は肯定ではない。  
 「――――――――なあビュティ、気持ちいいとこ悪いんだが……オレらがやってるこれなんだろう。慰めあいかな?暇つぶしかな?ここから何か始まるのかな?それとももっと何か違うものなんだろうか?」  
 動きを止めて思案顔で呟くオレを彼女が平手で殴った。  
 「そんなつまんないこと考えてる暇がある割にはえらいことびんびんじゃない」  
 ほっぺたをつねられてぐいーっと引っ張られてレトロな叱られ方をした。  
 「ボーボボって結構少女趣味なのね。愛を囁いてなきゃ不安?それとも一夜でも心を求めちゃうロマンチストなのかしら。意外に倫理とか常識とかにがんじがらめにされてるからこそハジケリストだったりするんじゃないの?  
 ……とにかくノボせた女の子の身体ほっといてツマんないこと言ってんじゃないっ!真面目にセックスしろぉ!」  
 「だって!だって!なんかわかんねえんだもん!」  
 オレのこねたダダに付き合ってか、彼女は怒り顔を冷たく平静に戻し…でも少し微笑みながら…言った。まるで小さな子に諭すように。  
 「――――――――それが恋をしてるってことなの。  
 自分の欲しいものが手に入らないから不安なんだよ。わかった?ちゃんと自覚しなさい」  
 目からうろこが落ちた。  
 なんかいろんなものが落ちた。  
 動けない。  
 「……うん」  
 「ったくもう、オトナのくせに恋ってモノをナメてんじゃないの?結構手に負えないモンなんだからねっ」  
 「うん」  
 何度目のキスだろう。長いこと彼女の唇に噛み付くようなキスをした。  
 オレはよく知らなかったんだ。  
 人とひとつになること。  
 自分を分解すること。  
 お前を好きになってヤな自分も見たよ。汚い感情も持ったよ。お前の心を望んだばかりに苦しくて寂しくてやだったよ。意外に自分が人の目を気にするタイプだってのも知った。  
 でもビュティ、お前はどうなんだ?オレをどう思ってる?  
 ……いや、いい。手に入らなくても、ビュティが笑ってるのを見ていられるなら。  
 
 「あっあっあっあ」  
 綿の下着の上から擦ると小さく声を上げるビュティのぐっと閉じられた瞼がひくひく痙攣する。唇が半開きになってキスをするたびにカチカチと歯が当たる。その鈍い衝撃がいいと思った。  
 「恥かしい?」  
 「ばかっそんなこと訊くな!」  
 おおこわ。オレは口を閉ざして口の端を持ち上げ、ただ指と舌と肌だけになる。  
 「……髭とか毛が、ちくちくして、いい」  
 かーっと顔を真っ赤にして少女がエロいことを言って自己嫌悪で悶えている。それを眺めてなんだか癒された。  
 「けっこービュティってエロいんじゃん」  
 うわあーん!枕を顔に当てて大泣きするフリをする間にも腰のグラインドが止むことがないので可笑しい半面ぞくぞく背筋に走る快感が背徳的だなあと他人事のように思った。  
 「うは、ぐちゃぐちゃ」  
 指に絡まる粘着質の粘液はオレの指を思う存分ふやかしていて、指と指の間に透明なつり橋が掛かっていた。橋げたの太さが意外な気もするし、これから先のことを思うと安堵もする。  
 「……やだぁもう〜……そーゆーこと普通女の子に言う!?」  
 「――――――こいつは失礼、レディ」  
 もう一度キスをした。ビュティはオレのキスを嫌がらない。……ということはオレを受け入れてくれるってことかなぁ?女はキスが大好きだけど、好きでもない野郎にされるのはきっと拒むはずだから。  
 「……嘘でもいい。オレのこと、今だけ、好きだって言ってくれ。  
 そしたら安心すると思うし、ひどいことも絶対にしないよ。今苦しくて仕方ないんだ、だから助けてくれたら嬉しいんだけど」  
 腰抜けが囁く声に、にやりと笑った娼婦が唇の端から「女」の声を出した。  
 「逃げないでちゃんと戦えよ、毛の王国の生き残り」  
 この女はオレを良く知っている。つかまれたら嫌な所をよく知っている。ぐうの音も出ない。  
 「〜〜〜〜ッ!わかったよっ!」  
 キスをするキスをする、ただ唇にキスをする。  
 この少女を愛しているのかどうかはまだわからない。……でも、心の底から守りたいと思うこの感じはたぶんいつまで経っても嘘にも過去にもならないだろうか。  
 自分のこの直感は信じていいもの?自分に自信がないわけじゃないけど、いつものハジケやパワーと技でねじ伏せられるもんじゃないから、いまいち抱え込めず持て余している。  
 
 ……これは入らないだろ、我ながら。ズボンを脱いで下着も脱いで、ビュティもせっせと脱がしちゃって、冷静になった感想。  
 「硬度が足りないね。口でしてあげようか」  
 オレのふにゃちんを挑発するように少女が赤い唇の隙間から桃色の舌と白い歯を見せる。にやにや笑ってて、まるで年上のお姉さん。童貞くんを上手に手ほどきしてあげる優しい経験者。  
 「男ナメんなよムスメッコー!……いつか必ず痛い目見るぜ」  
 「もうとっくに見たもーん。子供扱いするヒマがあるんだったら気合入れて勃てなよボーヤ」  
 口の減らない女にムカムカイライラ。怒りのパワーでちんこって勃つもんなのか?両手首をググーと押さえつけて考えうる限り一番エロいキスをした。もう一度しろなんて言われてもきっと出来ない。  
 「あ、ゴムねえや」  
 「……出てくるんでしょう、そのアフロから」  
 オレの手を振り払ったビュティが髪をごそごそ引っ掻き回すのがモノスゴク居心地が悪くて、ケツとかちょうぞわぞわした。あんまりくすぐったくて気持ちいいんだけど妙に気色悪いからズボンのポケットの財布から紳士のマナーを取り出す。  
 「おっ二つ綴り…一個使ってますねぇ」  
 「見んなエロ!……そりゃあオレは大人ですから、こんなのは常識ですよ。だってないと困るしそもそもオレんサイズとかって普通に売ってないし生でやるほどオレ根性座ってないしだいたい」  
 「なに言い訳してんの?」  
 きょとんとした少女が興味もなさそうにそんなことを言った。……マジへこむ。  
 あのね、無理。お前を遠くから見てるだけで平気とかカッチョイイこと言ったけど全然無理。  
 「…るっせぇな」  
 「何怒ってんのよ」  
 ビュティがオレの腕にキスを滑らせて怒っちゃやーよ楽しくやりましょうねぇ、とニヤニヤ笑いで子猫チャンの笑い顔を見せた。  
 いろんな顔を持っている子猫チャン。素っ気無くって甘えたと思ったら突き放したり、心底不愉快な顔した次の瞬間ニヤニヤ笑ったり……おにーさんは敵いません。  
 「んじゃ、まあ、やろうか」  
 「あははは雰囲気なぁい〜……うん。やろうぜ」  
 細く小さな腕が絡む。頬に当たる二の腕のすべすべと柔らかさが幸福をつれてくるような錯覚をもたらした。  
 
 ……あっあっあっ  
 はぁはぁはぁはぁ  
 やっあっ…うっあっああんぅ…ぅ…  
 はっはっはっはっ  
 いっやっあっうんっん、ん、ん。ん、ん、ん……  
 この、喘ぎ声って奴はどうもいけ好かない。間抜けな気がしてどーも落ち着かない。笑って吹き出しそうになる。  
 あっはっはぁっはぁぅうぅうあんあんあんあん  
 はぁっはぁっはぁっはぁ  
 いやっいやぁいやっううううう…うう、ううーっ  
 なん、だよっ…や、なのかぁ?  
 うっあっやっあっあっだってっあっあっ  
 だってって、なにがっ  
 き、きもちいいんだもん  
 へっへへへ、ざ、ざ、まあみ、ろ  
 ぼーぼぼ、うま、うまい。きもちい、いや  
 やなのか、いいのか、はっきりしろよ  
 いいっいいっいいよぉ、いいんだってばっあっやだっいやっ  
 は、は、は、は、どっち、だよ  
 くすくす笑いながらビュティの足を高く持ち上げて、オレは一生懸命腰など振る。ビュティはオレのマイサンなど当然みたいにやすやす飲み込んでしまった。エロいところは刺激するたび切なくマイサンを締め上げる。  
 手、こっち、やってみ。ほら、わかるか、ちゃんと入ってんだろ  
 うわ、ほんとだ、すごい。なんか、生命の神秘ってかんじ  
 おなか痛くないか?どっか苦しくないか?  
 ……息、くるしいかな。でも、楽しい。セックス、楽しいの、はじめて  
 ビュティが本当に嬉しそうににっこり笑った。息を弾ませて赤い顔でコケティッシュつー単語を人生で初めて使ってしまうほど可愛らしくて魅力的で胸がきゅんとした。  
 小さなあごを指でそっと掬うとそっと目を閉じたので、オレも目を閉じて恋人同士みたいなキスをする。  
 
 「うひゃー、いっぱいいいいぃぃぃ」  
 けらけら笑ったビュティが摘んでいるブルーのずっしりしている近藤さん。  
 「ぬるぬるぅ。うひゃひゃひゃひゃ」  
 「……風呂場まで持ってくんなよそんなん」  
 「なんでーおもしろいじゃーん」  
 湯船に浸かっているオレが苦々しく顔半分を湯に隠してぶくぶくぶくぶくカニになってると、それを持ったままビュティが湯船に入ってきた。  
 「あたし男の人とお風呂入るの初めて。おもしろいねえ」  
 「……せまい……」  
 明かりを付けない薄暗くて狭いホテルバスルームは、ビュティがローズオイルとかゆうのをご所望されたのでそれを湯船に入れている。むせ返る人工的な薔薇のきつい匂いは甘ったるくて少女趣味で寒気さえした。  
 「しょーがないじゃん、ボーボボ身体おっきんだもん。じゃあさ、足の間とか、座っていい?」  
 いい?なんて訊く前にもう移動の体制に入っている。うんともすんとも言わぬ間に、オレの腹にかわいらしいお尻がちょこんと乗っかった。……この天然娼婦め。  
 「そんなとこ座られるとちんこ勃っちゃうよお兄さん」  
 声はのんびりしながらバスタブに抱えられるような格好でオレはされるがまま。  
 「……なぁーんか妙に言葉に刺があるなぁ。なによ、気持ちよくなかった?」  
 ぷうっと膨れっ面したビュティが振り返りざまにほっぺたをぎゅうーっとつねってオレに訊ねる…というか尋問?  
 「いいや」  
 「じゃあなんでそんなに態度悪いの」  
 「別に」  
 「――――――怒るよ」  
 「あ、それ怖いヤメテ」  
 「じゃあちゃんと理由を教えなさい」  
 むー、と渋い顔をしてしばらく時間をおき、オレはやっとのことで言葉を搾り出した。  
 「……だって一緒にイけなかったんだもん」  
 「あははははははボーボボまじ童貞。かわいー」  
 オレの恋する子猫チャンはそう言って笑った後、蜂蜜みたいに甘ったるいキッスをオレのほっぺたに一つ降らせた。  
 
 
 
 

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