保健室のドアを開くと、養護教諭が事情を説明した。マレクは休み時間に校庭で遊んでいた際に高熱を出して倒れたらしい。白いカーテンを  
退けると、頬を少し紅く染めたマレクが、苦しそうな顔で横たわっていた。アマンダの存在に気が付いたのか、マレクはうっすらと目を開けて  
アマンダの方を見た。  
「アマンダ・・・・」  
「マレク、大丈夫?、なんともない?」  
「大丈夫だよ、ちょっと熱っぽいだけだから・・・・」  
無事を主張するマレクだったが、直後に小さく咳き込んだ。アマンダは紅い頬に手を触れる。やはり大丈夫だとは言えない熱さだった。  
「マレク、立てる?」  
「うん・・・・難とか・・・・」  
アマンダに支えられながらゆっくりとマレクはベッドから降りた。そして2人はは養護教諭に挨拶を済ますと、保健室を後にした。アマンダに  
支えられながらゆっくりと歩くマレク。時折聞こえる小さな咳の音が、アマンダにとって聞いていて辛かった。火事場の馬鹿力とも言うのか、  
マレクの体も重く感じられなく、ひたすらアマンダはタクシーへと向かった。  
 
家に向かうタクシーの後部座席で、マレクはアマンダの肩にもたれ、苦しそうに息をしていた。それをアマンダが火照った首の後ろや後頭部、背中を  
摩りながら励ます。  
「大丈夫だよ、もうすぐ家に着くから、それまでの我慢よ・・・・・」  
高熱に必死で耐えるマレク。アマンダが一番恐れていた事が、今現実となってしまった。私の為に無理をしすぎて、体を壊してしまって・・・・  
、いつも人の心配ばかりして、自分の事を疎かにしがちで、全部一人で抱えてしまって・・・・アマンダは思った。血縁は無くとも、兄弟と  
言うのは、どういう訳か変な所ばかり似てしまうと。  
 
家に付くとアマンダは先に料金を払い、マレクを支えながら家に入った。その後マレクを彼の部屋のベッドに寝かせ、自身の荷物を整理し、薬と  
水を持って部屋を訪れた。  
「お待たせ、マレク、薬よ」  
マレクは薬とコップを受け取ると、それを一気に飲み干し、また横になった。体温を測ると、37.2程だった。  
「良かった・・・大した事無くて、少し安静にしてればすぐ良くなるね」  
「うん・・・・ごめんねお姉ちゃん、心配掛けちゃって・・・・・」  
血の色で紅くなった目でマレクが謝る。  
「何言ってるのよ、マレクは病人なんだから、今は自分の心配して・・・・」  
マレクの紅い額を撫でながらアマンダが言う。弟の苦しそうな顔を久しぶりに見たような気がした。もう見たくは無い、こんな目にもう遭わせたく  
無かったのに、弟は苦しんでいた。無論、生きていれば辛い目に遭うのは当たり前だが、弟の過去の苦しみを知っていたアマンダにとっては、苦痛  
以外の何者でも無かった。  
「お姉ちゃん、明日仕事なんでしょ?、だったら早く寝ないと・・・・」  
案の定、マレクはアマンダの心配をして来た。一番辛いのは自分なのに。  
「・・・そうね、でも、もし我慢できないくらい苦しかったら、私の部屋に来てね・・・・」  
アマンダはマレクの頬を撫でながら返事をする。そして一言、「お休み」と言いながら自室に戻った。  
ベッドに横たわるや否や、アマンダは自身から一気に力が抜けてゆくのを感じた。今日は何かと多忙な日だったせいか、アマンダは大きく  
溜息を突いた。それと同時に、アマンダの脳裏にマレクの苦しそうな表情が映った。こうしている間にも、弟は病気と戦っている。何も出来ないのが  
悔しかった。ふと横を見ても、弟は居ない。再び一緒に住むようになってからは、ほぼ毎日一緒のベッドで寝ていた。仕事中は心を鬼にして  
隊員たちに接しているが、それは決して楽では無かった。怒鳴ってばかりいると、自身の心がどんどん黒い何かに染まっていく様な気がした。しかし  
家に帰ると、何時もマレクが笑顔で迎えてくれていた。勉強に家事と、もしかしたら私より忙しいのに、それを全く感じさせないような屈託の無い  
笑顔で、「お姉ちゃん」と言って甘えてきてくれた。それはアマンダにとって最高の癒しであり、仕事で黒くなった心を洗ってくれた。甘えてくる  
マレクを見ていると、とても優しい気持ちになれた。そのマレクは今、隣の部屋で病に苦しんでいる。本当はずっと傍に居てあげたいが、風邪が  
うつると拒否されるだろう。一番辛い時に傍に居て上げられなかった、あの時の事を思い出した。  
「マレク・・・・・」枕に顔を埋めながらアマンダは泣いた。昨日一緒に寝ていた弟の残り香が悲しかった。眠りに入ってゆく最中、またマレク  
との思い出が蘇った。  
 
「マレク、なにかしらこれ?」  
アマンダの手には、水色の封筒があった。それを見たマレクは背筋が凍った。  
「さ、さあ・・・僕は知らないけど・・・・・」  
「そう・・・私も知らないわ・・・・」  
上手く誤魔化せたと思ってマレクが胸を撫で下ろしたのも束の間、アマンダは少し怒気の入った声で返答した。  
「じゃあ、誰のかしら?」  
「え・・・?えーっと・・・その・・・・・」  
言い訳に困るマレクに、アマンダは真剣な目で返す。  
「マレク、お姉ちゃんが何で怒ってるのか解る?」  
「な、何でって・・・・」  
冷や汗を掻く弟を見たアマンダは、溜息を一つ吐き、また話を進めた。  
「私ね、マレクが嘘吐くのって凄く辛いの、悲しいの、だから正直に言いなさい、事と次第によっては怒らないわ」  
マレクは殺気を姉から感じ、全てを告白した。  
「実はそれ・・・・ラブレターなんだ・・・・クラスメイトから貰った・・・・」  
「ふーん・・・・」アマンダは封筒を見ながら呟く。そしてアマンダがマレクの顔を見た瞬間、マレクは殴られると思い、目を瞑った。だがマレク  
の顔に走った感覚は痛みではなく、マレクの最も好きな、乳房の感触と温度だった。  
「・・・・アマンダ?」  
「やるじゃないマレク、ラブレターだなんて」  
アマンダは怒るどころか、喜びながらマレクを抱いていた。だが当の本人は状況がよく飲み込めなかった。怒るどころか、アマンダはどこか嬉しそう  
だった。  
「・・・・アマンダ、嬉しそうだけど、怒らないの」  
さっきとは打って変わった嬉しそうな顔で、アマンダは答える。  
「だって、ラブレター貰ったのよ、嬉しくない訳無いじゃない」  
「どうして?」  
「もう・・・・自分の身内がモテてるんだから、嬉しいに決まっているでしょ」  
とりあえずマレクは、アマンダが怒っていない事にほっとした。  
「良かった・・・・てっきり僕、殴られるんじゃないかって・・・思ってた・・・」  
「そんな事しないわよ、今まで私、怒ってマレクを殴った事、ある?」  
「・・・・無い・・・・」  
「でしょ、こんな可愛い弟、殴ろうなんてする方がどうかしてるわ」  
アマンダはなおもマレクを抱きながら頭を撫でる。そしてまたラブレターの事を聞いてきた。  
「それで、どうして家に持って帰ったの?」  
「・・・何だか学校で棄てちゃうと、相手に悪いような気がして・・・・・」  
「やっぱり・・・・」アマンダは目を細めた。  
「私の思った通りだわ・・・・マレク、貴方のいいところはその優しい心なのよ、こんなにかっこよくて優しい男の子がいたら、女の子なら  
放って置かないわよ」  
「そ・・・・そうかな・・・・?」  
「当たり前じゃない、もう・・・可愛いんだから・・・・赤くなっちゃって・・・・・」  
容姿を誉められたせいか、マレクは照れていた。だがマレクの心情は複雑だった。僕がアマンダ以外の女の子に好意を持たれたのに、アマンダは  
それを咎めるどころか、それを喜んだのだから。  
 
「ねえ、マレクはクラスに可愛いって思う子、いないの?」  
耳元でアマンダが問う。  
「い・・・いないよ・・・・」  
「本当に・・・・?一人くらいいるでしょ?」  
アマンダは微笑みながらマレクの頭を強く抱いて胸に押し付ける。ただでさえアマンダは腕力がある為、マレクは息がし辛くなり、勢い良く  
顔を離し、大きく息を吸い込んだ。  
「いないってば、クラスに・・・好きな子なんて・・・・」  
真剣そのものな顔でマレクは本心を語る。その表情に、アマンダは少し驚いた。  
「そう・・・・じゃあ、マレクはどういうのが好きなの」  
「僕は・・・僕が一番好きなのはお姉ちゃんだよ・・・」  
再び柔乳に顔を押し付けながらマレクは言う。  
「もう・・・・お世辞が上手いんだから・・・・」  
「お世辞なんかじゃないよ!僕が一番好きなのはお姉ちゃんなんだから」  
今まで見たことの無い弟の気迫に、アマンダは驚いた。まさか普段穏やかなマレクが、ここまで強く自己主張してくるとは思っても無かったからだ。  
「・・・わ、解ったわ・・・それで、マレクは私の何処が好きなの?」  
「お姉ちゃんは強くて、綺麗で、優しくて・・・・」  
「そう・・・でも、マレクはこの先、私より若くて綺麗な女の人に遭うかもしれないのよ」  
紛れも無い事実であった。アマンダとて20代後半に差し掛かった身、自身の容姿が若者に負ける可能性を、薄々は自覚していた。  
「そういう人はいっぱいいるかもしれない、でも・・・・・」  
「でも?」  
「僕の事をここまで愛してくれたのは・・・お姉ちゃんしかいなかった・・・」  
嘘が全く感じられない瞳でマレクは語る。その瞳は、吸い込まれそうな程に美しかった。  
「マレク・・・・」  
「独りぼっちだった僕に手を差し伸べてくれたのは・・・お姉ちゃんだけだった・・・・僕にはもう、お姉ちゃんしか見えないんだ・・・・」  
マレクの本気を感じたアマンダは自身の胸から弟の顔を離し、その少し潤んだ瞳を見つめた。  
「マレクの気持ちはよく解ったわ、こんなに思ってくれてるなんて、私嬉しい・・・」  
「お姉ちゃん・・・・」  
嬉しそうに目を細めるアマンダ。それを見たマレクは、小振りながらも肉厚な唇に軽くキスした。それをアマンダは何も言わずに受け入れ、黙って  
マレクに押し倒された。そして2人はそのまま深く愛し合った・・・・・。  
 
 
翌日のXAT基地内の化粧室、アマンダは鏡に映った自身の顔を見て溜息を突いた。美しさに見とれていたのではない。酷い顔ね、と小言を放つ。目の  
下には隈が出来ていた。昨晩あれだけ泣いたのだから。だが悩んでいても仕方ない、マレクはただの風邪だし、その内治るだろうと自分に言い聞かせ  
ながらアマンダは化粧を済ませて仕事へと向かった。  
演習所にて、この日はバイクの運転を教えていた。何時もの如くアマンダは冷静な怒鳴り声を上げる。タイムが伸びない新人隊員がいたため、アマンダ  
は頭を抱えた。その隊員がアマンダに駆け寄る。  
「教官、マシン変えてくださいよ」  
隊員はどうやらタイムが伸びないのはマシンが悪いと思ってるようだ。その勘違いを正すためにアマンダは冷静に叱る。  
「それは出来ないわ、貴方はまだマシンの性能を上手く引き出せてないだけだから、それで我慢しなさい」  
「ですが教官、このマシン扱い辛いんですよ、整備不良何じゃないんですか?」  
それを聞いたアマンダの唇がわなわなと震えた。そして隊員を睨み付けると、隊員はしり込みした。なにせXATの鬼教官、アマンダ・ウェルナーを  
怒らせたのだから。  
「貴方ねえ、そうやってタイムや成績が伸びないのを他のせいにして楽しいの?、自分で努力しなさいよ、それじゃあXATは勤まらないわよ!」  
今までに無い鬼教官の気迫に隊員は成す術も無かった。完全に黙り込んだ隊員deatta.  
荒い息をするアマンダ。その直後、アマンダは視界がぼやけるのを感じ、その場に倒れこんだ。  
 
目を覚ましたアマンダの目に映ったのは、真っ白な天井だった。どうやら医務室に運ばれたみたいだ。起き上がってカーテンを開けると、医師がカルテ  
を見ている。起き上がったアマンダは医師に自身の体調を聞いた。  
「アマンダさんは昨晩、殆ど寝ておられない様ですね」  
「はい、弟が病気で、面倒を見てあげてたんです・・・・・」  
聞いてるのか聞いてないのか、医師はカルテを見ている。そしてアマンダにこう告げた。  
「軽い疲労でしょうね、今日は少し早めに帰りなさい」  
「でも・・・・」  
「アマンダさん、今は自分の体の事を心配してください、でなければ仕事も務まりませんよ」  
医師の強くも心の篭った注意に、アマンダは黙り込んだ。  
「アマンダさんは弟さんを心配しすぎです、もう少し自分の事も気に掛けたらどうですか・・・・・?」  
「ですが・・・・」  
「『自分を守れない者は他者も守れない』、そういったのは貴方ですよ」  
その言葉にアマンダははっとした。そして肩を震わせながら自身と弟の話をした。  
「私・・・・弟を一度、助けられなかった事があるんです・・・・・中学生の頃に虐められて・・・・私は仕事が忙しくて何も出来なくて・・・・  
・・そして弟は・・・・彼らを・・・・殺しました・・・・」  
話を聞いた医師の目からは、涙が薄っすらと浮かんでいた。医師はハンカチで涙を拭うと、涙ぐむアマンダを励ました。  
「・・・ご苦労されていたんですね・・・・・ですがだからこそ、貴方には自分の心配をして貰いたいのです、今日は早めに帰りなさい」  
「・・・はい・・・・」  
その日、アマンダは何時もより早い5時に基地を出た。  
 
家に着くと、まずアマンダはマレクの部屋を訪れる。当のマレクはベッドの中で教科書を読んでる。どうやら遅れをとらないように勉強している  
みたいだ。  
「ただいま、勉強してたの?」  
「うん、体調のいい時は少しでも遅れを取り戻さないとね」  
「もう・・・ゆっくりしてもいいのに・・・・」  
教科書を読むマレクの額にアマンダが手を触れる。まだ熱があるようだ。  
「マレクは頑張り屋さんね、でもまだ熱があるから、無理しちゃだめよ」  
「うん、解ったよ」  
昨日の苦しそうな顔が嘘のように見える笑顔で、マレクは返事した。アマンダはその後部屋を後にし、掃除、洗濯、夕食の支度を始めた。  
暫くぶりにする家事は、思った以上に大変だった。これをマレクは勉強と一緒にやってたのかと思うと、頭が下がる思いだった。やがて出来たスープ  
を部屋に運ぶと、相変わらずマレクは本を読んでる。今度は文学みたいだ。横のテーブルにスープを置いて声を掛ける。  
「マレク、ご飯出来たわよ」  
それに気付いたマレクが本を閉じると、スプーンに手を伸ばす。だがアマンダはそれを止めた。  
「どうして?」  
「私が食べさせてあげる」  
「いいよ・・・それくらい、自分で出来るから・・・」  
ほんのり頬を桃色に染めてマレクが言う。  
「恥ずかしいの・・・・?いいじゃない、2人だけなんだから、あーんして・・・」  
優しく諭すアマンダの言う通りにマレクが口を開くと、木製のスプーンが口に入ると、程良い温度のスープの味が口内に広がった。野菜のいっぱい  
入った、風邪に効くスープだった。  
「美味しい・・・・トマトが入ってるね・・・・」  
「そうよ・・・早く治るといいわね・・・・」  
そう言いながらアマンダはマレクの白銀に光る頭髪に覆われた頭を撫でる。さらさらで滑らかな髪の質感が心地よかった。  
「可愛い・・・マレク、何だか大きな赤ちゃんみたい・・・・・」  
「止めてよ・・・・恥ずかしいから・・・・」  
苦笑しながらマレクは反論する。それもまた可愛らしかった。  
「2人きりだからいいでしょ、そういう所も私は好きよ」  
マレクにはそう言うアマンダの顔が、死んだ母親と重なって見えた。アマンダは時折、自身の母親を思わせる顔になる。血が繋がってる訳でも  
ないのに、どうしてお母さんに似てるんだろうと、マレクは思っていた。  
食事を終えると、アマンダはマレクの口の周りに付いたスープをふき取ると、マレクの額に自らの額を付けて熱を測った。どうやら昨日に比べて  
大分下がったみたいだ。薬と水を渡すと、アマンダはマレクの頭を撫でながら話す。  
「じゃあ私はシャワー浴びてくるから、ゆっくり休むのよ」  
そう告げてアマンダは部屋を後にした。  
 
シャワーを浴びながらアマンダはマレクの元気そうな顔を思い出す。それだけでとても幸せだった。もし  
風邪が治ったら、思い切りこの胸で抱きしめてあげよう、と思いながらたわわに実る乳房を掴んだ。  
 

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