その日、僕の住む孤児院に、一人の女性が子供を引き取りに来た。そして、女性は僕を選んだ。その理由を、僕は知らない。アマンダと名乗る  
女性は、とても優しげな笑顔を僕に向ける。けれど僕は不安だった。アマンダがどういう人かも、何故僕を選んだのかも、全て謎だった。だから僕は、彼女と  
目を合わす事が出来なかった。そのまま彼女に手を引かれ、タクシーの中へと入ろうとするが、僕は二の足を踏んだ。本当に、この人についていっても大丈夫  
なのか、と。そんな僕を見たアマンダは、女神のような優しい微笑を浮かべながら、僕に手を伸ばした。何も心配要らない、私が貴方を護る、と言わん  
ばかりに。ふとアマンダのその緑色の瞳に視線を合わすと、何か熱い物が胸からこみ上げてくるのを、僕は感じた。それを僕は我慢できなくなり、泣きながら  
アマンダの腰にしがみついた。それをアマンダは、ただただ抱きしめながら、タクシーへと誘った。  
 
今のアマンダの微笑みは、あの時と完全に一緒だった。そして、マレクの目から、涙が零れ落ちる。その涙は、マレクの心を硬く閉ざしていた氷が溶け出した  
物と言うのにふさわしい物だった。  
「・・・・マレク?」アマンダが異変に気付く。そしてマレクは、その豊満な胸の谷間に顔を埋め、大声で泣き出した。今までの悲しみ、怒り、辛さを全て  
吐き出すかのような大きな泣き声で。そんなマレクを、アマンダはただ抱きしめることしかできなかった。自分が不甲斐無いばかりに、マレクに苦しみ  
を全て背負わせてしまった。アマンダはその罪を、『弟に犯される』という形で償おうとした。だが、マレクはそれを望まなかった。  
『お姉ちゃんが気持ちよくなければ、僕も気持ちよくなれない』、その言葉は、マレクの心を鮮明に表していた。誰よりも純粋で、優しくて、繊細。それ故に  
傷つき、涙したのであろう。融合体の力で復讐を果たしたものの、それはマレクをさらに追い詰めただけで、何も解決しなかった。それは、マレクがまだ  
人間の心を失っていないからであって、今流している涙が、それを証明していた。  
泣きじゃくるマレクの頭を撫で続けるアマンダ。するとマレクが、泣きながら喋り始めた。  
「うっ・・・うう・・・お・・・お姉ちゃん・・・・、僕ってやっぱり・・・・・弱虫・・・なの・・かな・・・・?」  
「どうして・・・・・?」  
「だって・・・・・僕、こんなに・・・・泣いちゃって・・・・うっ・・・・うう・・・・・・」  
再び泣き出そうとするマレクに、アマンダは優しく語り掛ける。  
「マレク、今貴方が泣いているのは、貴方が人間らしい、優しい心を持ってるからなのよ。私はそれが、人としての本当の強さに繋がると  
信じているの、だからマレクは強いし、これからもっと強くなるわ・・・・」  
「本当に・・・・?、強くなれる・・・・・?」  
「ええ、その日が来るまでは、私がマレクを護るから・・・・・」  
「お姉ちゃん・・・・・」マレクはすすり泣きながら、アマンダに甘える。マレクは嬉しかった。心置きなくアマンダに甘えられた事、アマンダがこんなにも  
僕を愛してくれていた事、そして、僕は決して独りぼっちじゃ無い事・・・・・。思い切り泣いた後は、何だか穏やかな気持ちになった。そしてマレク  
は、柔らかな乳房の温もりを堪能する。ここが自分の居場所だ、と言い聞かせながら。  
 
「すごい・・・・汗、かいちゃったね・・・・・」アマンダの言う通り、2人の汗は多かった。部屋の温度はさほど高かった訳ではなかったが、その  
汗の量は、互いを深く愛した証だった。  
「本当だ・・・べとべとするね・・・・」マレクはそう言いながら、自らの肉棒を蜜壷から抜く。入り口からは、大量の精液がどろっと流れ出す。これで  
アマンダも融合体になるのかと思うと、後味の悪さを感じた。それとは対照的に、アマンダは満足そうな顔をしていた。自分も時期に融合体になると  
言うのに、恐怖心の欠片も感じさせなかった。  
「お姉ちゃん、シャワー、先に行ってきなよ」マレクはアマンダに言う。  
「マレクは・・・・そうして欲しいの?」  
「え・・・、いや、その・・・・何というか・・・」  
答えに困るマレクの手を、アマンダは握った。  
「一緒に行きましょ、洗ってあげるから」  
アマンダの暖かい手に引かれ、マレクはシャワールームへと向かった。  
 
浴槽ではアマンダがシャワーの温度を調節している。いいよ、と言われてマレクも浴槽に入る。人肌程の温度の温湯が首筋に当り、鎖骨の浅い窪みに水溜りを作る。厚みを  
増した胸板を伝っていた。そこをアマンダが泡立てた石けんの染みたスポンジで優しく擦る。  
「すごく逞しくなったね、かちかちだよ」  
大胸筋を洗いながら、それを指でそっと押すアマンダ、弟の成長がとても嬉しいようだ。  
「少年院でしごかれたから・・・・嫌でもこうなっちゃうんだ・・・・」  
「ふーん、そうなんだ」泡の着いたマレクの身体に自身を滑らせ、臀部に手を伸ばす。マレクは一瞬硬直するが、耳元でアマンダが囁く。  
「動かないで、キレイにしてあげるから」  
言われなくても、マレクは動けなかった。石けんに塗れた柔乳と乳首が密着し、変形しながら身体を這う。長い手が臀部、股間、背骨をスポンジで擦る。  
アマンダのキメ細かいすべすべの肌と、ぬるぬるの泡が一度は収まったマレクの情欲を再び呼び起こした。勃起を隠そうとするも、硬直した  
それは既にアマンダの手の中だった。小さく呻くマレクを他所に、アマンダは黙々と身体を洗い続ける。肉棒から手を離すと、今度は座椅子に座る  
よう言われ、それに座る。アマンダは手にシャンプーを乗せ、マレクの銀色の頭髪で泡立てる。10本の指の腹で頭皮を丁寧に、ツボを刺激するかのように  
なぞる。その間にも、アマンダの豊満な乳房は肩や首の後ろに密着してくる。弟の髪を洗うアマンダの表情は、とても嬉しそうだった。やがてそれも終わり、温湯が  
マレクの頭に掛かる。目を瞑り顔と髪の水分を拭うと、ガタン、とシャワーをハンガーに戻す音がした。だが温湯は流れ続けている所か、勢いを増していた。おかしい、と  
思った矢先、アマンダが後ろから抱き着いてきた。声をかけようとしたが、マレクは異変に気付き、黙り込んだ。  
(アマンダ・・・・泣いてる・・・・・)  
全開にしたシャワーの音ですすり泣く声は掻き消されていたが、完全ではなく、微かに聞こえていた。呼吸も切なげだった。アマンダの後ろから掛かる温湯も、涙を  
誤魔化す為のものだった。マレクは慰めたい気持ちでいっぱいだったが、行動に移せない。そうしても、アマンダは拒否するような気がしたからだ。何も出来ず、ただ抱かれる  
しか出来ない自分に苛立ちを覚える。そのまま、沈黙が流れた。そしてアマンダが先に口を開いた。  
「・・・・マレク・・・・、先に上がって・・・・・」アマンダが暗く言う。かなり感情を押さえ込んでるようだ。  
「え・・・?、どうして・・・・?」  
「いいから・・・・先に上がって・・・・私の部屋で待ってて・・・・・」  
黙々と言うアマンダに、マレクは少し恐怖を感じた。別にアマンダは怒っているわけではない。だが、従わなければいけないような気がして、マレクは後ろ髪を  
引かれる思いでバスルームを出た。そして廊下に出たとたん、アマンダがわっと泣き崩れる声が聞こえた。  
気丈な面を持つアマンダの事だから、きっと涙をマレクに見せまいと思っていたのだろう。その泣き声を聞いたマレクは胸が締め付けられ、立ち止まる。バスタブの中で  
倒れ、シャワーの温湯に打たれながら涙するアマンダの姿が目に浮かび、マレクの目からも涙が零れる。だがマレクは振り向かなかった。振り向いてバスルームに行った  
所で、アマンダがそれを望むとは思えなかったからだ。マレクは涙を拭いながら、アマンダの部屋へと向かった。  
 
「ごめんね遅くなっちゃって・・・・、まだ起きてたの?」  
約10分後、何食わぬ顔で戻ってきたアマンダ。着ていたのはキャミソールにパンツだけだった。マレクはベッドに腰掛けていた。アマンダが  
来るまで、ずっとこうしていたのだろう。  
「もう・・・、待っててくれたの?、先に寝てても良かったのに」  
自らもベッドに座りながら、横からマレクに話しかける。  
「うん、でも・・・・、お姉ちゃんと一緒に寝たいから・・・」そう言うマレクの瞼は、少し閉じそうにピクピクと動いている。きっと睡魔に耐えて、健気にアマンダ  
を待っていたのであろう。  
「さ、もう寝ましょう、夜も遅いし」アマンダがマレクの肩に手を置いたその時、マレクが口を開いた。  
「お姉ちゃん・・・・・、どうして泣いていたの・・・・?」  
その言葉に、アマンダは目を丸くする。が、すぐにはぐらかした。  
「さ、さあ・・・・、泣いてなんかないわよ」だがマレクにはすぐ嘘だとわかった。アマンダは嘘を吐くのが下手だからだ。  
「誤魔化さないでよ・・・・僕、知ってるんだから」  
少々ドスの効いた声で言うマレクの言葉に、アマンダは狐に抓まれたような顔をする。それを無視して、マレクは話を続けた。  
「僕・・・、お風呂から出たとき、お姉ちゃんが泣く声を聞いて・・・辛かったんだ・・・・、お姉ちゃんが泣いているのに、僕は何も出来なくて・・・  
、だから・・・・お姉ちゃん・・・・、泣きたい時は僕に・・・・何か言ってよ・・・・」  
「マレク・・・・・」  
「僕・・・・何が出来るか・・・わからないけど・・・・僕に何か出来るんだったら・・・・・、お姉ちゃんの・・・力になりたいんだ・・・  
お姉ちゃんが僕の事を大好きなように、、僕だって・・・お姉ちゃんが大好きだから・・・・お姉ちゃんの為に・・・・何かしたいんだ・・・・だから、辛い  
事があったら、僕に言ってよ・・・・・」  
その言葉を聴いたアマンダは、はっとした顔になった。そして、その見開いた緑色の瞳から、涙が零れだした。涙を流しながら微笑み、アマンダ  
は口を開いた。  
「やっぱり・・・・解ってたんだ・・・・・」  
「・・・・・え?」  
「私・・・・・バレるって解ってたけど・・・泣いてる所・・・・見られたくなくて・・・・あんな事したけど・・・・バカみたいよね・・・・」  
「お姉ちゃん・・・・・」  
「でもねマレク・・・・、私が泣いていたのは・・・・辛かったからじゃないのよ・・・・」  
「どうして・・・・?」  
「・・・・嬉しかったから・・・・・」アマンダは震える声で理由を話した。  
 
「そう・・・なの?」  
「そうよ、マレクが無事に生きていてくれて・・・・・私の胸に抱かれていて・・・・・今まで生きてきて・・・・こんなに  
嬉しいことなんて・・・・無かった・・・・ごめんね・・・・お姉ちゃん、強がってた・・・・カッコ付けてた・・・・・」  
「お姉ちゃんは・・・何にも悪くないよ・・・・・僕・・・気にして無いから・・・・」  
マレクの慰めの言葉を聞いても、アマンダは俯いて、肩を震わせるばかりだった。そんな姿を見てられなくなったマレクは、ベッドの近くの  
小箪笥からハンカチを取り出し、頬を伝う涙を拭いた。  
「マレク・・・・」  
「お姉ちゃん、もう泣かなくてもいいよ、僕が傍にいるんだから・・・・ずっと一緒だから・・・・・」  
涙を拭くマレクの顔は、16とは思えないほどに無垢で、とても、虐めを受けていたとは思えない程に、純粋だった。そんなマレクの言葉  
は、アマンダの涙を押さえるどころか、余計に泣かせてしまっていた。アマンダはマレクをその胸に抱き、声を張り上げて泣いた。  
みっともない、と思いながらも、アマンダは泣いた。最愛の弟が戻ってきてくれたことが、弟の温もりが、涙を加速させた。ずっと  
このまま、マレクを抱いていたい、二度と離したくない、もし離してしまったら、二度と戻ってこないような気がした。だから腕に  
力を入れている。マレクのいない世界に、意味などないとも思えた。  
「お姉ちゃん、僕・・・・強くなるよ、強くなって、お姉ちゃんを守るから・・・・・」  
アマンダはその言葉に、涙を流しながら頷く。マレクの言葉は、一つ一つが愛に満ちていた。やっとアマンダの涙が収まり、アマンダはマレクを抱いたまま  
横になった。マレクは嬉しそうに、谷間に顔を埋める。その表情は、無邪気そのもので、アマンダをほっとさせるものだった。  
「マレク、ほんとに私のおっぱい好きね」  
「うん、すごく柔らかくて、気持ちいい・・・」  
「ふーん、マレクはおっぱいが好きなんだぁ・・・・・・」少し意地悪そうにアマンダはマレクをからかう。はっとしたマレクは顔を真っ赤にしながら胸から  
顔を離した。  
「ち、ちがうよ、そんな、そういうのじゃなくて、えっと・・・・」  
「ふふっ、ごめんごめん、エッチな理由だけじゃないって事、私はちゃんと知ってるよ」  
耳の上をアマンダは撫でながら、マレクに弁解する。落ち着きを取り戻したマレクは、続きを話す。  
「その・・・お姉ちゃんのおっぱいは、僕、すごい好きなんだ、でも、お姉ちゃんはおっぱいが大きいだけじゃない、綺麗で、強くて、誰よりも  
優しくて、だからこそ、僕はこのおっぱいに甘えたくなるんだ・・・・・」  
頬をほんのり紅く染めながら言うマレクの瞳に、嘘は感じなかった。この子は純粋に、愛が欲しくて甘えてきてるのだ、とアマンダは確信した。  
「もっと、甘えたい?」  
「うん、もっと、お姉ちゃんのおっぱいに、甘えたい・・・・」  
「そう・・・・わかった、ちょっと離れて」  
アマンダが抱いていたマレクから手を退けると、徐にキャミソールを脱ぎ、ベッドの下に放り投げた。その後、今度はパンツまでも脱ぎ捨て、アマンダは一糸纏わぬ  
姿となった。予想してなかったせいか、マレクは目を丸くしている。そんなマレクに、全裸のアマンダが言う。  
「マレクも脱いで」  
「ぼ・・・僕もなの・・・・?」顔を真っ赤にしながらマレクは戸惑う。  
「そうよ、そのほうが気持ちいいから、とっても暖かいのよ」  
少し黙り込んだマレクだったが、上体を起こし、ボタンを一つずつ外す。そしてシャツ、スボン、トランクスも全て脱ぎ捨て、2人は再び  
全裸に戻っていた。あの時とは違う、逞しくなったマレクを、アマンダは横目で見つめていたが、身体を動かして仰向けになり、満面の笑みで両手を広げた。  
「おいでマレク、お姉ちゃんがいーーーーーーっぱい、愛してあげる!」  
 
そんなアマンダが、マレクには『女神』に見えた。マレクは導かれるように、豊かで暖かなアマンダの胸に抱きつく。それと同時に、アマンダもその  
銀色の頭を、力いっぱい抱きしめ、左の二の腕にそれが乗っかる形で横になった。愛しき弟の顔は、陽だまりで眠る子猫の様だった。  
姉の部屋で、姉のベッドで、裸の姉に抱かれる、セックスの激しい快感とは違う、静かな心地よさだった。こんなにも心が安らいだのは、生まれて  
初めてだとも思った。  
「気持ちいいでしょ、こうして、裸で抱き合うのって」  
「うん、お姉ちゃんの体、凄く暖かい・・・・」  
子猫の微笑を浮かべながらマレクが言う。余りの可愛らしさに、アマンダは目を細めた。  
「私、今まで生きてきて、今日ほど幸せだと思った事は無かったわ・・・。マレクのいない2年間、私は独りぼっちだった。新生XATを立ち上げる為に、必死で  
努力して、隊員たちに厳しくして、鬼教官って言われて、強くあろうとしていたけど・・・・・、家に帰っても誰もいなくて・・・・寂しくて・・・  
・・毎晩泣きながら寝てたわ・・・・。お酒に逃げたこともあったけど・・・何も解決しなかった・・・・」  
道理でアマンダが痩せたわけだと、マレクは思った。僕のいない毎日が、アマンダにとってどれだけ辛かっただろう、気持ちはマレクも同じだった。再び  
涙目になるアマンダに、マレクは甘えながらも慰めの言葉をかけた。  
「大丈夫だよ、お姉ちゃんはもう、独りぼっちじゃない、僕が傍にいるから、ずっと一緒だから・・・・」  
「マレク・・・・・」  
「お姉ちゃん、大好き、愛してるよ・・・・・・世界で一番・・・・・」  
「私もよ・・・・マレク、愛してる・・・・・」  
弟の愛の言葉に、アマンダは一筋の涙を流した。たった一人生き残った、私の大事な人。仲間達が死んでゆく中、一番守りたかった人。それが今、私の  
胸に抱かれ、幸せそうな子猫の微笑みを浮かべている。それがアマンダにとって、最高の幸せだった。そのマレクは今、瞳を閉じかけている。よほど眠気に  
襲われてるようだ。  
「マレク・・・・もう遅いから、寝たほうがいいわよ」  
「うん・・・お休み、お姉ちゃん・・・・」するとマレクは胸から顔を離し、アマンダに『おやすみのキス』をした。ほんの五秒間、その間にマレクは、『ちろっ』っとアマンダの  
唇を舐める。そして唇を離すと、マレクは再びその優しい胸へ顔を埋めた。一瞬何が起こったのか、アマンダは最初は理解出来なかったが、ぐっすりと眠るマレクの寝顔を見て  
思った。マレクは起きていられるぎりぎりまで、アマンダを愛そうとしたのだろう。10歳も年下とは思えぬ律儀さだった。当の本人は、既に眠りについている。その  
寝顔は、全ての苦しみから解放されたような、完全に無防備な可愛らしいもので、アマンダの母性本能を鷲掴みにした。  
今まで見たマレクの寝顔は、ザーギンの攻撃に巻き込まれて気絶した時の物と、ザーギンとの戦いで気絶した時の物だったが、どれも苦しそうな物で、見ているるのが  
辛かった。それを思うと、この寝顔はマレクが完全に安心しきっている証とも言えた。そんな事を思ってるうちに、アマンダは自分の本心に気がついた。『私が守りたかったもの』は、  
これの事だと言うことに。ふとアマンダは思った。時期に自分の身体も融合体と化すのか、と。しかしアマンダに恐怖心は不思議と無かった。マレクに  
一歩近づけるような気がしたからだ。以前、マレクは親友のヨハンが自ら命を絶った時にアマンダにこう吐き棄てた。  
『アマンダはこの国の人間だから解らないんだ』  
 
移民であるが故に虐められたマレクの悲痛な叫びだった。アマンダ自身は気にしていなかったが、マレクにとって『移民』という要素は、途轍もない重荷だった。そしてマレクは  
今、『融合体』という、もう一つの、決して降ろすことの出来ない重荷を背負っていたのだ。今の世界でナノマシンに感染し、融合体と化した人々は差別に苦しんでいて、それを  
少しでも減らすためにアマンダはXATを甦らせた。それまでアマンダ『人間』として戦って来たのだが、もう人間の体はどうでもよいと思った。移民という壁は崩せなくとも、自身  
も融合体なれば、マレクと痛みや苦しみを分かち合えると思ったからだ。既に人間の体に未練は無かった。大切なのは、『心』だから・・・・・。  
そうしているうちに、マレクの顔がぼやけて見えてきた。アマンダは目を擦って思った。もっと見ていたい、マレクの可愛い、子猫の寝顔を、ずっと見ていたいのに・・・。だが  
睡魔は容赦なく襲ってきた。もう限界か、仕方ない。もう寝よう、とアマンダが目を閉じかけた瞬間、微かに声が聞こえた。眠たい目を開けてマレクの顔を見るが、相変わらず  
可愛い寝顔を浮かべながらすやすやと寝息を立てている。気のせいかと思った矢先、マレクの薄い唇が開いた。  
「・・・・お姉・・・・ちゃん・・・・」今度ははっきりと聞こえた。マレクは寝言で姉を呼んでいたのだった。さらにマレクは体を密着させて、乳房に顔を  
埋めながら寝言を続けた。  
「・・・お姉ちゃん・・・・ずっと・・・ずっと、一緒だよ・・・・僕が・・・お姉ちゃんを・・・守るから・・・・大好きだよ・・・お姉ちゃん・・・・」  
寝言ではあったが、この言葉はアマンダの心を射抜いた。夢の中でも求められているという事が、アマンダにとっては嬉しかった。まだまだ子供だけど、人として一番大切な  
物を持っているマレクが、アマンダは大好きだった。マレクの体を抱く腕に力が入る。そして、アマンダも愛の言葉を囁く。  
「私もよ、マレク、だーいすき!」  
その言葉の後、アマンダも『聖母(マリア)の寝顔』を浮かべながら眠りについた。  
 
最初はただの寂しい子供だった。ただの保護者でいたかった。  
だけど何時からだろう、私は君に恋していた。いけないと解っていながらも、君が  
頭から離れなかった。だけどもう嘘は吐かない。真っ直ぐに君を愛したい。だから  
もう泣かないで、もう、独りぼっちじゃないから、私が傍にいるから・・・・。  
 
 
柔らかな朝の日差しがカーテンから漏れて、丁度目の辺りに当った。その刺激で目を開け、ゆっくりと体を起こす。もう朝か、とアマンダは目を擦った。ふと横を見ると、昨晩  
激しく愛し合った弟が、穏やかな笑みを浮かべながらまだ寝ていた。細かな傷跡が残る頬を指の腹で撫でる。私がもっとしっかりしていれば、弟はこんな傷を負わなくても  
良かったのに、と少し思った。  
「お姉ちゃん・・・・」相変わらずマレクは、夢の中で私と一緒らしい。今日は休日だから、もう少し寝かせておこうと、アマンダは着替えて寝室を出た。その30分後に、マレクも  
目が覚め、しわくちゃのパジャマ姿で大欠伸を書きながら出てきた。  
「あ、マレクおはよう、朝ごはんの用意、出来てるわよ」  
「うん・・・アマンダ、おはよう・・・・」寝ぼけてるせいか、微妙に口が回らない。しかも呼び方は『お姉ちゃん』から呼び捨てに変わっていた。それをアマンダは咎めようとは  
しない。そもそも『お姉ちゃん』と呼ばせることを強制したわけではないから、アマンダは気に留めなかった。マレクがトーストを齧る。普通に朝食を食べ、朝をこうして『普通』に  
過ごすのはどれくらいぶりだろう、この『普通』が、こんなにも幸せだとは、全く意識したことも無かった。この『普通の日常』も、私が守りたかった物だと思った。私はそれを  
守りきった。だからこそ、こうして最愛の弟と朝を過ごしている。その弟も、少しであるが成長した。まだ幼さの残る顔立ちだが、彫りが深く、甘いマスク。XATの隊員たちが  
見たら、男達は嫉妬し、女達は骨抜きにされるであろう。そんな事を思っていると、マレクが不意を突いた。  
「アマンダ、僕の顔に何か着いてる?」マレクの顔がテーブル越しに近づく。はっとしたアマンダは動揺せざるをえなかった。大人と子供の中間地点のその顔も、アマンダの  
頬を紅く染めた。まじまじとマレクが見つめてくる。  
「あ・・・えっと・・・ミルクが着いてるわよ、拭きなさい」慌ててハンカチを渡す。それを受け取ったマレクは、口の周りに付着したミルクを拭き取った。そうしながら、マレク  
はまたアマンダを動揺させる一言を放つ。  
「何だか今日のアマンダ、可愛い」  
アマンダの顔面があっという間に真っ赤になり、頬を両手で押さえ、照れながら言葉を返す。  
「やだぁ・・・私、弟に『可愛い』って言われちゃった・・・・・」  
「いけないの?」  
「いけないと言うか・・・何て言うか・・・・」  
照れるアマンダを見つめながらマレクは思った。僕の姉は、とても可愛いと。  
その後食事を終えたマレクは食器を流しに持っていった。やけに時間がかかる、きっと洗っているのだろう。そう思ったアマンダは、ソファに座りニュースを見ていた。ニュースでは、  
また融合体が絡んだ事件が報じられていた。アマンダが顔をしかめる。この融合体にも、家族や大切な人がいたであろう。そんな状況で、仕事を休む自分が情けなく感じた。  
「アマンダ、どうかしたの」食器を洗い終えたであろうマレクが、不意に声をかけてきた。  
「え・・・・?あ、何でもないわ、本当に」  
「そう・・・・隣、いいかな」  
「うん、いいわよ」マレクがアマンダの隣に座る。するとその瞬間、アマンダはマレクに抱きつかれた。突然の事に少し驚くが、直ぐにマレクの背に手を廻し、軽く叩いた。  
「ど、どうしたの?いきなり・・・・」  
「僕はどうもしないよ、ただ・・・・・」  
「ただ・・・・?」  
 
 
 
 
 
 
 
 
「何だか『お姉ちゃん』、悲しそうな顔してたから、つい・・・・」  
切ない表情でマレクが言う。しかも呼び方が『お姉ちゃん』になっていた。きっとアマンダの表情を見て、いてもたってもいられなかったのだろう。本当に、マレクは優しい人に  
成長したと思った。アマンダはマレクを一度体から離し、再びその柔らかい胸に抱いた。  
「お姉ちゃん・・・・」  
「マレクは本当に優しいね・・・・そういう所、私大好き・・・・・」  
「僕もだよ・・・・僕も、優しいお姉ちゃんが、大好きだよ・・・・・・」  
胸に抱いている弟は、とても暖かい。既に人に在らざる存在なのに、肌の感触も、体温も、全て人のままだ。そしてなにより、マレクは人の心を失っていなかった。やはり、体は  
関係ないとアマンダは思った。マレクの心は、誰よりも暖かった。  
「お姉ちゃん、今日仕事休みだけど、どうするの?」マレクが聞いてくる。  
「今日は買い物に行くのよ、マレクの新しい服とか、買わないといけないし、マレク、体大きくなったからね。」  
「じゃあ、今日はお姉ちゃんとデートだね」にっこりと笑って言うマレクの笑顔が愛しかった。  
「そうね、今日はずっと一緒ね。」甘い一時を過ごしながら、アマンダは神に感謝していた。  
 
神様、ありがとう。素敵な弟に巡りあわせてくれて・・・・・。  
 
 

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