「おなかが空いたなあ」  
人気の無い、暗い路地裏。  
降り始めた雨をぼろい商店の看板でよけながら、わずかばかりの乾いた地面に、少女はじかに座りこんだ。  
最後に食事らしい食事をしたのはいつだっただろう。  
もしかしたら、まだ母親が居た頃が最後かもしれない。  
雨が降ってしまっては、かっぱらいもやりにくくなる。  
すきっ腹をかかえて、少女は神と天に毒づいた。  
もう、家には帰れない。  
 
帰る家がないわけではなかった。  
しかし、家に居るのは、アルコール中毒で、乱暴者で怠け者の最低の男・・・そんな男の種で自分が発生したと、  
考えるだけで鬱になりそうな、そんな奴。  
男の留守を狙って帰ったつもりが、たまたま行き会ってしまえば、男のストレス解消の的にされるのが常だ。  
運が良ければ、さんざんの折檻の挙句に、僅かばかりの食料を貰える可能性もあったが、その可能性は限りなく低い。  
仕事もせず、日がな一日飲んだくれている父親にとって、優先すべきはアルコールであって、つまみなど二の次だ。  
ましてや子供に食わせるなど。  
子供に与える食事を買う金が有ったら、自分の飲みぶちに充てる男だ。  
母親はそんな父親に、とうの昔に愛想をつかして、何処かに逃げた。  
少女は母の顔を覚えていない。  
「まったく、役立たずの雌餓鬼だぜ。もうすこし見栄えがよけりゃ、身体でも売らせて儲けてやるのに。」  
少女がやせっぽちで見栄えの悪い原因、それは父親であるところの彼が、甲斐性なしで人でなしであるため、にほかならないのだが。  
ろくに食べ物も貰えず、顔さえ見れば殴り倒される・・・体中、いつも、どこかにあざや怪我がある、栄養不良の子供。  
「胸も尻もいつまでもぺったんこでヨォ、味見してやる気にもならねぇ、一応穴は有るのか?え?おい?」  
男は、むりやり少女の片足を掴んで、抱えあげ、破れかけの下着を剥ぎ取ると、彼女の股間をじっと見た。  
「やだ、やだ、止めて!止めて!」暴れる少女の両足を掴んで、足の動きを封じると、汚い指を容赦なく擦りつける。  
「っと、ココか」  
少女の膣口を探り当てると、男は指をぐいぐいと押し込んだ。  
「痛い、止めて父さん!止めて、止めてってば!」  
少女が泣き喚くのも、意に介す事無く、指の根元まで膣の中に納め、それから引き抜いた。  
「お前くらいの子供が好きな変態も、最近は多いって言うしな。ちゃんと穴もあるし。」  
にやにや笑いながら男は言った。両足で逆さに吊り下げられ、少女は暴れるのを止めていた。  
「決めた。今晩から、客をとりな、レベッカ。」  
男が一瞬、少女から視線を外して油断した、そのチャンスを逃さず、少女は上半身をしならせ床にあった酒びんを手に取ると、  
男の頭めがけて放り投げた。  
声にならない声をあげて、男が倒れる。  
少女も、足を男に掴まれたままだったため、すごい勢いで地面に打ちつけられた。  
「死んだかな・・・」  
床に転がって微動だにしない男を見下ろし、少女は少し考えたが、止めた。  
盗みには既に何の罪悪感も無い少女にとっても、客を取る、売春するということについては、ただただ想像が出来ない恐ろしさがあった。  
父親の指をねじ込まれたときの痛みや不快感・・・ただの指ですら、そうなのだ。  
男の性器をソコに・・・考えただけで吐き気がする。  
 
少女は疲れ果てて、そのまま地面で眠ってしまった。  
明け方になると、雨は止み、とぼとぼと少女は歩き出した。  
ふと見ると、向こうの角に、この辺の街には不釣合いな、小奇麗な格好をした女が、突っ立っているのが見える。  
「ねえ、お嬢ちゃん」  
少女が近づいていくと、女は警戒心のかけらも無い声で、話しかけてきた。  
「この写真の女の子を探してるの」  
女が差し出した写真を見もせず、女に体当たりして女が抱えていたバックを奪うと、少女は一目散に逃げていく。  
裏路地に入り込み、戦利品のバックの中身を吟味する。  
まず、ガムを発見し、ポケットに入れる。それからキャンディを見つけて、ひと粒口に放り込んでから、箱ごと自分のポケットに。  
財布を広げ、現金だけを抜き取る。カードを奪っても、少女の歳ではカードの使い道など無いからだ。  
あとからソレは大人に売れば、有る程度のお金を貰える。  
昔は、家にもって帰った。  
そうするとあの男は、とても褒めてくれて、美味しいものをいっぱい食べさせてくれた。  
それも、あの男が酔っ払うまで、だけど。  
あの男は酔っ払うと暴れだすから。  
少女は大急ぎで食べ物を身体に詰め込んだ。  
そこまで考えたところで、目の前に大人の男の足が有るのに気がついた・・・しかも最悪・・・警察官だ。  
「レベッカ」  
少女はカバンを放り出して、逃げようとしたが、首根っこをつかまれ、手荷物のように抱えあげられてしまった。  
もう1人の警察官が、カバンを拾うと、少女とカバンを抱えて警察署まで運んでいった。  
 
「驚いたわ、この子がレベッカちゃんだったなんて。」  
「この子のオヤジはアル中で、子供の食事に気を配ったりしませんからね。幼く見えてもしかたがないですな。」  
さっきの女が、警察官と話している。  
驚くべきことに、女は少女・・・レベッカを探しに、このスラムまで入り込んだらしい。  
「奥様が喜びます・・・驚くかも・・・でも、ちゃんとした食事と教育を与えたら、この子も生まれ変われると思いますわ。」  
「そうであるといいですな、ミス・マーガレット。」  
「あのね、レベッカちゃん、私はあなたのお母様に雇われて、あなたを探しに来たのよ。」  
少女は床に座り込んだまま、大人たちの顔をみることなく下を向いていた。  
「あのアル中に知れたら、金をよこせとか言いかねない。直接レベッカちゃんにコンタクトが取れたのは、幸運ですな」  
警察官が言った。死んだ、と言ってないということは、くそ親父はくたばらなかったのか。  
大人たちの言葉が、異国の言葉であるかのように、聞き流しながら、少女はそのことだけを残念に思っていた。  
 
続きます。  
 

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