ロアナプラに戻ってからのロックは、いい意味でも悪い意味でも人が変わったようだった。  
原因は日本でのあの事件。ホテルモスクア。バラライカ。  
抗争に身をおいていたロックは、自らの認識の甘さを思い知らされ、その帳尻を合わせるかのように  
仕事に没頭していった。あの時の自分なりの覚悟を忘れまいと必死だった。  
ダッチはよほどの大物でないかぎり、仕事の交渉はロックにまかせるようになった。  
ロックもその期待に応えた。その外見ゆえになめられることが多いロック。  
百戦錬磨の強面の悪党達。物怖じはしなかった。むしろ自分の心のなかの暗い炎を押し殺す  
ほうに神経を使った。ドスの効いたセリフをサラリと言えるようになった。  
引き際を覚えた。畳み掛けるタイミングを覚えた。頭の悪い悪党達を手玉にとることを覚えた。  
そのうち、自分ももう立派な悪党になっていることに気がついた。  
それも悪くない──そう思うようになっていた。  
 
ベニーが珍しく飲みに誘ってくれた。向かった先はいつもの酒場ではなかった。  
小奇麗で、家庭的な雰囲気を持った店だった。来ている客も心なしか穏やかな顔をしていた。  
ロアナプラにもこんな店があったのか──呆けていると、ベニーがニヤニヤとした顔で  
こっちを見つめている。  
「俺も初めてこの店を見つけた時はびっくりしたよ。落ち着いて酒が飲めるとこなんて自分の家  
以外にはなかったからね。感傷に浸りたくなる時なんかはピッタリ、さ。ここは。」  
言いながら、ベニーはビールを美味そうに飲み干した。上機嫌のようだ。  
話の主導権はベニーが握っていた。ロックは適当に相槌を打ちながらゆっくりと酒を楽しんだ。  
ラグーンの仲間たちと浴びるように酒を飲むのが普通になってしまっていたので、逆に新鮮だった。  
そうだ、大学時代はこうやって気心の知れた仲間とサシで飲むのが好きだったんだよなぁ。  
皆でワアワア飲むのは性に合わないんだ──そういってよくコンパの誘いを断ったもんだっけ。  
まさにベニーの思惑どうりにロックは過去の感傷に浸っていった。  
そして、ベニーの話のネタが尽きる頃には、二人とも酩酊状態で完全に目が据わっていた。  
「ダッチは──ロックのことをよくやっていると褒めているよ。」  
「へぇ。光栄だなそれは。」  
ロックは心ここにあらずというような──ふり、をしてベニーの言葉を聞き流した。  
「君は変わった──前みたいな青臭さがなくなった。思い切りのよさもいい。  
見ているこっちはヒヤヒヤすることもあるがね。」  
「警告かい?それは。」  
ベニーは肩をすくめ苦笑いをした。  
「助言だよ、ロック。何を考えてるかはしらないが──」  
「ホテルモスクワ、バラライカには手を出すな、てところか。」  
ベニーの口から笑みが消えた。まっすぐにこちらに視線を投げかけてきた。  
顔が強張っていいるのがわかった。心の中で暗い炎が燃え盛っている。  
あの子の最後の姿を思い出した。銀次の顔が浮かんだ。  
そして──新しい玩具をみつけたように嬉々として自分を覗き込む──  
バラライカの顔が浮かんだ。  
「ベニー、おれはバラライカさんを恨んじゃあいないよ。むしろ感謝しているくらいだ。」  
ベニーの顔からは表情が消えていた。  
「この話は終わりだ、ベニー。近いうちにでかいヤマがある。その準備をしなきゃ。」  
「帰るのかい?ロック。」  
「いや、まだ飲みたりないな。心にしこりができちまった。」  
「気に障ったのなら謝るよ。ロック。」  
「いや、君のせいじゃない。さぁ飲もう。」  
結局いつもの酒場とおなじような飲みかたになってしまった。  
炎は消えていた。いい夜だった。  
帰り際に、何でも自分で背負い込もうとするな、俺たちは仲間なんだぜ、  
とベニーが言ってくれたことがうれしかった。  
 
誰もいない事務所に明かりを付けて、ソファーに身を投げ出した。  
まだ眠りの兆候は訪れない。帰路では千鳥足だったが、意識ははっきりしていた。  
心地よい酩酊が体中に広がってゆく。このまま煙草をくゆらせながら朝を待つのも悪くはない。  
だが、明日のことを考えると睡眠はとっておきたかった。  
棚の裏から白い錠剤を出した。ダッチからもらったものだった。ダッチはチンピラからまきあげたのさ  
、と言っていた。これ本当に睡眠薬なのかい?と聞くと、半分はな、と白い歯を  
むき出して笑った。酒の勢いで気がおおきくなっているのか、不思議と恐怖心はなかった。  
2錠ほどシートから押し出して、口の中に入れビールでおしながそうとしたその瞬間だった。  
けたたましい程の電話のベルが鳴り、驚いて全部吐き出した。  
電話をかけてきたのはバラライカだった。  
「事務所の前に車を止めてあるわ。他に用件がなければ少し話がしたいの。まってるわ。」  
酔いが一気に覚めた。変わりに吐き気が襲ってきた。  
 
「車の中からフラフラと歩いているあなたを見つけたの。カモってくれといわんばかりだったわ。  
護身用の武器は持っているの?」  
「慣れないものは持たない主義なんですよ。襲われたらその時はその時だ。」  
ククっとバラライカは小さく笑うと視線を車の外に向けた。  
軍曹と呼ばれる男は相変わらず寡黙で、ロックが車に乗ってから一言も言葉を発してない。  
 
軍曹が運転する車は、ホテルモスクワの本拠地に向かっていった。  
日本でのことがあった後も、ラグーン商会はモスクワからの仕事を引き受けていた。  
バラライカとも何度も話をしている。もちろん立ち居地はダッチの後ろだったが。  
案内された部屋は客室だった。ロックは表向きは平然と振舞っていた。  
バラライカが扉を閉めると完全に個室で二人きりになった。  
もちろん部屋の外では軍曹がたたずんでいるに違いない。有事の際はすばやく飛び込んでくるだろう。  
そんなロックの考えを読んでいるのか、ロックのほうを微笑みながら見つめ、  
バラライカは扉の鍵を閉めた。唖然とするロックを意に返さず、バラライカはいかにも高級そうな  
ソファーに身を預けた。  
「かけたら?」  
ロックは小さく会釈をすると、バラライカと向き合う位置に腰掛けた。  
俺を殺す気ではないのか?──いや、この女性は気まぐれで人を殺せる。  
そのふところから銃が飛び出し、額にそれが押し付けられるまでに1秒も掛からないだろう。  
そしてその引き金は恐ろしく、軽い。子悪党相手には通じた交渉術も何の意味もなさないだろう。  
状況は絶望的だ。しかし──  
ロックはゆっくりと顔をあげると、しっかりとバラライカの目を見据えた。  
バラライカの瞳は青く澄んでいた。これが人をゴミのように殺す女の目か?  
一瞬動揺したが、それを顔に出すロックではない。  
「その目だ。」  
「?」  
バラライカはさも興味深そうにロックを見つめ返してくる。  
「トーキョーにいた時もその目をしていた。輝きはあの時とはダンチだがな、  
ロック──お前はどっち側の人間だ?その目を見ているとこっちの立ち居地も危うくなってしまう。」  
「俺は俺です。どっち側の人間でもない。ミスバラライカ。あなたもあなただ。あなたの立ち居地  
とやらにも俺は興味はない」  
「またくだらんことを──」  
バラライカの顔が一瞬ゆがんだ。それが合図だった。  
ロックは右足にくくりつけてあったナイフに手を伸ばした。体が反射的に動いた。  
──訓練していた。速度は充分だった。それでもバラライカの銃が額に押し付けられるのと  
ロックのナイフがバラライカの咽喉元に届いたのは同時だった。  
「私が油断していたのかな、ロック。──体がさび付いてきた証拠だ。貴様ごときと同時とはな」  
「撃ちたければうてばいい──そのかわり、あなたも無事にはすみませんよ」  
ククっとバラライカは笑うとロックの額から銃をはずした。同時にロックもナイフを下げる。  
身体中の神経が悲鳴をあげ、額から汗がどっと吹き出した。  
その瞬間左肩を蹴り飛ばされたような衝撃を受けた。床に転がった。  
肩が熱い──撃たれた。嘘のように血が流れていく。  
血は止まらない。痛みはなかった。ただ熱かった。  
「甘いな、ロック。──映画じゃないぞ」  
炎が燃え盛っていくのが分かった。転がっていたナイフに手を伸ばす。  
今度はその手が吹き飛ばされた。手首の近く。動脈の近く。たぶん長くは持たない。  
「殺せ。」  
首を回してようやく視界に入ってきたバラライカにむけてはき捨てるようにいった。  
バラライカは葉巻をくわえながら、無言でロックを見下ろしている。  
「喚けよ。ロック。今度は最後まで聞いて──」  
「殺せ。」  
遮るように言った。炎は消えていた。憎しみの感情は不思議となかった。  
諦めに近い感情はあった。バラライカと目が合った。その透き通った青い目の秘密が知りたかった。  
自分でも馬鹿げていると思ったが、自分を殺すであろうこの女の秘密が知りたかった。  
「殺せ。」ロックは壊れた機械のようにつぶやき続けた。  
そのうちバラライカの両腕が首にからみついてきたのがわかった。  
意識が暗転した。  
 
激しい痛みで目を覚ました。口から自然と悲鳴が漏れそうになる。唇をかんで耐えた。  
左肩と右腕は包帯でぐるぐる巻きにされていた。止血はされているようだった。  
だが、それだけだった。  
「戦場では皆似たり寄ったりのものだった。包帯が足りず、止血もできず死んでいった同志もいた。  
それくらい我慢しろ。」  
声の主は軍曹だった。部屋には医療器具と言えるようなものはなかった。  
ロックが横たわっているベットとパイプ椅子がひとつ。  
──その椅子も軍曹と呼ばれる屈強な男が腕を組んで占有していた。  
どうやら治療というよりか延命措置を施されただけらしい。  
「俺は──どのくらい寝ていたんでしょうか。」  
「2時間程度だ。──しかしお前も──」  
言い終わらないうちに軍曹は笑い始めた。この男が笑うのを見るのはロックは初めてだった。  
「何がおかしいんですか。」  
軍曹は笑いをかみ殺しながら答えた。  
「あの方に白兵戦で──しかもあんなちっぽけなナイフで──お世辞にも勇敢とは言えんぞ。」  
「確かに勇敢とは言えんな。犬死にしてはもともこもない。」  
いつのまにかバラライカが入ってきていた。うでを組んで壁に寄りかかっている。  
犬死になんてとんでもない。俺は自分の身を自分で守ろうとしただけだ。  
例えバラライカ相手でも自分の意思を、自分の言葉を曲げるつもりはない。  
あの時そう誓ったんだ──日本で。もう逝ってしまったあの子と。  
軍曹はバラライカに軽く敬礼すると部屋を立ち去った。  
バラライカはパイプ椅子に足を組んで腰掛けると、無言でロックを見つめていた。  
「何故──殺さなかったんですか?俺を。」  
「テストだよ、ロック。まぁ不合格だったがな。ナイフを突きつけたところまでは及第点をあげても  
いい。」                                          話がさっぱり見えてこない。  
「テストって一体──?」  
「お前を私のそばに置きたくなったのさ──引き抜きだよ、ロック」  
「なっ──」  
引き抜きの件はいいとして、テストで人をうったりするのか?そんなことのために──  
「俺は──殺されるかと思ったんですよ!」  
「だが、お前も私を殺そうとした。」  
言葉が出てこない。確かにあの時俺は自分の意思でバラライカを──人を殺そうとした。  
だが殺そうと思わなければ──  
「それにナイフに手をかけたのはコンマ何秒かお前の方が早かったぞ。  
お前は気がついてないかもしれんがな。お前の方が初めからケンカ腰だったいい証拠だ。  
正当防衛とはいわせんぞ。──まあ暴力も交渉の一つの手だ。  
チンピラ相手なら通用したかもしれんがな。相手を見てつかうべきだったな。ん?」  
バラライカはさも上機嫌そうにロックのベットに腰掛けた。  
こちらの言わんとすることは読まれ、その上、的を得た反論をされた。  
ロックは、気が抜けたようにバラライカをみつめるばかりだった。  
が、そのうち痛みがぶり返してきた。ロックは表情を悟られまいと下を向いてうつむいた。  
「痛むか?」  
ロックは答えない。肉体が意思を裏切り始めた。口を開くと泣き言を言いかねない。  
それだけは、避けたかった。  
ふん、とため息をついたバラライカは、髪をかきあげながら見覚えのある銀のシートをとりだした。  
「あっそれは──」  
ダッチからもらった薬だった。  
「お前のズボンの中に入っていたぞ──あまり感心せんな。こうゆう遊びは。」  
「? ダッチはただの睡眠薬だと──」  
バラライカは一瞬目を丸くし、そのあとけたたましく笑い始めた。  
ヤバイ薬だったのか──飲まなくてよかった。ロックは心底思った。  
「そうか──睡眠薬か──では、飲め。鎮痛作用もあるだろう。  
お前が寝ているうちにここから出してやろう。」  
ロックにはバラライカの囁きが悪魔の宣告に聞こえた。  
 
バラライカはさもうれしそうにロックを上目遣いで見つめている。  
早くこの悪夢のような現実と痛みからにげだしたかった。心が折れる音が聞こえた。  
言い訳を用意しようと自問自答した。言い訳はいくらでも出てきた。  
そんな自分に絶望した。  
ロックはバラライカから薬を受け取ろうと手を伸ばした。が、その手は遮られベットに押し付けられた「?」  
 
バラライカは薬を4錠ほどシートから押し出すと、自らの口にためらいもなく放り込んだ。  
「なっ──」ロックは絶句した。  
薬を咀嚼しているのか、真っ赤なルージュを引いた唇がなまめかしく動いた。  
しばらくしてバラライカののどがごくりと音を出して鳴った。  
下半身が熱くなる。バラライカのうなじにむしゃぶりつきたい──突拍子もない妄想に駆られた。  
何を考えているんだ俺は──欲望を振り払おうとしているとバラライカと目が合った。  
「どうということはないぞ、ロック。さあ飲め。」  
バラライカにいつもと変わった様子はない。ロックも何錠か薬を押し出すと口に含んだ。  
薬品特有の苦味が口に広がったが、ロックも子供ではなし、一気に飲み込んだ。  
確かにとくになんと言うことはない。部屋を静寂が包んだ。  
バラライカはベットの上から動く気配はない。ただ、ロックの瞳をじっと見据えていた。  
ロックも見つめ返していたが、しばらくすると身体中がゼリーに包まれているような  
不思議な感覚に襲われた。遠くに、鳴っているはずのない音楽が聞こえる。  
意識を集中させないとそっちの世界に体ごともって行かされそうだ。  
なんとか踏みとどまろうと、バラライカの両肩を掴んでしまった。  
バラライカは何も言わない。ただ、ロックをおもしろそうに見つめているだけだ。  
その青い目──それが現実世界との唯一の接点のような気がしてひたすら追いすがった。  
「気分はどうだ?ロック。」  
気がつくとバラライカはロックに馬乗りになってその股間を指でもてあそんでいた  
 
そのしなやかな指使いにロックの中の何かがゆっくりと鎌首をもたげた。  
それは熱く滾ってあっという間に鉄のように硬くなった。  
「いいな、ロック。お前はいい。」  
バラライカももはや目の焦点が合っていない。  
ロックは上半身をゆっくり起こすとバラライカを乱暴に抱き寄せた。恐怖心はなかった。  
撃たれた傷の痛みもどこかに吹き飛んでいた。そのままバラライカの豊かに実った胸に  
顔をうずめた。ずり落とすようにスーツを剥ぎ取った。真っ黒な下着を剥ぎ取った。  
バラライカは相変わらず指でロックのペニスを弄んでいる。  
ズボンのジッパーを下げ、トランクスから器用にペニスを取り出すと上下にこすり始めた。  
さきほどとはうって変わって乱暴な手つきだ。  
おもわず腰が浮いてしまうロックを妖艶な顔つきで見つめながら、あいた方の手で  
ロックの引き締まった胸板に指をはわす。  
ロックはバラライカの背中をぎゅっと抱きしめながら、赤ん坊のように乳頭を吸っていた。  
その一心不乱な表情に満足気なバラライカは、乳首を軽くつねってやった。  
一瞬ロックは表情が歪んだが、その口は相変わらず胸から離れない。  
バラライカは母親が子供をあやすような表情を浮かべロックの頭を撫でさすった。  
「立て。ロック。こっちを向いてな。」  
既に理性を失っっているロックは、あやつり人形のようにその言葉に従った。  
仁王立ちになったロックのペニスに、バラライカはふっと息を吹きかける。  
ロックのペニスはその腹につかんばかりに反り返っていた。  
先ほどまでロックを可愛がっていたバラライカの手は先走りでべとべとになっている。  
それを自らの長い舌できよめながら、バラライカは熱い視線を投げかけてきた。  
ロックはいかにも切なそうな表情で何かを訴えていた。  
 
バラライカはあらん限りの力で唇をすぼめロックのペニスを締め付けた。  
ロックは壁に背を預け、必死にそれに耐える。薬のせいもあってかその快楽は今までに  
味わったことのないものだった。あのホテルモスクワのバラライカが──  
俺の足元にひざまずいて口で奉仕をしている。あんなに必死な表情で──  
「ふっ、ふっ、んんっ、」  
リズミカルな頭の動きにバラライカの声が混じる。限界が近い。  
「俺、もうっ!」  
ロックはバラライカの動きを止めようと、頭を抑えた。  
その瞬間バラライカの舌が鈴口をベロンと舐め上げ、唇でそれ自身を締め上げた。  
止まらなかった。腰が主の意思に反して突き上げられ、バラライカの喉の奥にペニスが達した刹那、  
全てをぶちまけた。バラライカは咳き込みながらも口を離そうとはせず、  
大量に吐き出される白い欲望を全て飲み干した。  
「フフ、勇ましいな、ロック。」  
そう言って微笑むバラライカの唇には、まだ白いものがこびりついていた。  
その表情にロックの理性のタガがまた一つはじけ飛んだ。  
バラライカを抱え上げベットへ向かった。その体の軽さに、柔らかさにロックは驚きながらも  
今度はロックが上になる体勢で、バラライカをそこに横たえた。  
そのまま有無を言わさずバラライカの黒いパンティを剥ぎ取る。  
バラライカは一瞬身を硬くしたが、抵抗はしなかった。  
相変わらず微笑みながら──しかしロックをしっかりと見据えながら──こう言った。  
「私にこんなことをして──あとは知らんぞ?」  
「構うもんか」  
ロックはバラライカの足の間に顔をうずめ、そのまま舐め上げた。  
バラライカは声を上げない。片手でロックの頭を撫でながら──その表情はまるで捨て犬がミルクを  
飲んでいる様を見つめる少女のように──ロックの好きなようにさせていた。  
バラライカの蜜液とロックの唾液がピチャピチャと鳴り響く音だけが、部屋を支配した。  
 
時間過ぎるにつれ、ロックの稚拙な愛無はバラライカの性感帯を探し出していった。  
白い太ももが震える瞬間を見逃さなかった。シーツをぎゅっと掴む瞬間を見逃さなかった。  
探し当てたところをバカのように舐め続けた。  
バラライカの息が熱くなっているのが分かった。バラライカの表情が見たかった。  
しかし、さっきまでロックの頭を撫でていた手は今や、自らの股間に押し付けるものに変わっていた。  
少女のように穢れない肛門が、まるで生き物のようにヒクヒク動いている。  
ロックは自らのペニスをこすりあげながら、バラライカに奉仕を続けた。  
自らを慰め始めたロックの姿に、バラライカも高まっていった。  
しかしこのままでは声を上げてしまいそうだった。  
普通の女のようにはしたない声を──早く終わらせなければ。  
「もういいわ──ロック。口でして上げる。今日のお遊びはこれで終わりよ。」  
ロックはすんなりと顔を上げた。少し残念な気がしたがこっちにも立場というものがある。  
しかし、ロックはバラライカの予想に反して覆いかぶさってきた。  
「ロック!もういいでしょう。傷が開くわ。」  
バラライカは狼狽したが、きつい言葉を投げかける気にはなれなかった。  
だがその言葉を無視してロックはバラライカの股の間に自らをあてがう。  
「ロック!お前──。」  
バラライカは本気になって手で押しのけようとした。しかしいつものように力が入らない。  
少しはしゃぎすぎたか──薬の効用が効いていたのだ。  
「んっ!」  
本気でかんじてしまっていたせいか、バラライカの中にすんなりとロックが入ってくる。  
そのまま遊び無しで真っ直ぐ突きこんできた。  
頭の中で火花が飛び散った。子宮にロックのものがこすり付けられているのが分かる。  
深い位置のままそのまま小刻みにそこをノックしてきた。ロックの表情は見えない  
下をうつむいたまま、尋常じゃないスピードで腰を振りたくっている。  
獣のように荒い息を吐きながらバラライカを睨み付けてきた。  
体が完全に動かない──クスりのせいではない。この瞳に射すくめられたのだ。  
それを受け入れたとたん津波のような快感がバラライカを襲った。  
「あっ、ううっ、ううーッッ」  
バラライカは小刻みに息を吐きながら呆けたように声を上げた。自ら足をロックの腰に巻きつけた。  
しかしロックはそれを跳ね除け、両足を右肩に担ぐような体勢でさらに突き上げてきた。  
 
ロックは自らの中にすくう獣を解放する快感に酔いしれていた。  
人に嫌われるのが嫌だった。だから他人の気持ちを理解しようと必死になった。  
それがいつのまにか当たり前なっていった。そして、「自分」は限りなくなくなっていた。  
──今は違う。  
戒めの鎖の強さに比例して、「自分」は大きくなっていたのだ。  
それがわかった。わかったことがうれしかった。  
「自分」がなくなっていないことを、確認できたことがうれしかった。  
バラライカの細くて白い首が呼吸をしようと懸命に動いている。  
それにかぶりついた。悲鳴を押し殺している。  
鳴かせてやる。  
犬のように腰をふりたくる。肉と肉がぶつかり合う。  
バラライカはこの状況を甘んじてうけいれているのか。  
演じているのか。本気なのか。  
頭の中でもう一人の自分が騒ぎ始めた。  
悪い癖だ。かき消した。お前なんか、いらない。  
ロックの頭の中は、いや、ロックは、何か光の結晶のようなものに物凄いスピードで引っ張られていった。  
 
壁に手をついて懸命に快楽の渦に飲み込まれまいと耐えた。  
ロックに後ろから貫かれている。ロックは獣のような声を上げている。  
自分はそんなわけにはいかない。同志達がいる、今まで積み上げてきたものがある。  
積み上げてきた?自分のやりたいようにやってきただけではないのか?  
軍隊の名を借りて、自分の暴力衝動を満たしてきただけではないのか?  
いや、私には死線を共に潜り抜けてきた同志達との絆がある。  
それはなにものにも、代えがたい。それにすがった。  
だが、このざまはどうだ。人を殺したこともないただのガキに組み伏せられている。  
女としての喜びを全身で感じている。  
ロックが腰を小刻みに動かしてきた。限界が近いのだ。  
一気に現実に呼び戻された。手足を動かして逃れようとした。その手足が動かない。  
腰をねじって引き抜こうとした。がっちり両手でホールドされている。  
コイツ──殺してやる。  
ロックが低い息を吐き出した。同時に、流れ込んできた。  
バラライカはのけぞった。また抗いようのない快楽が襲ってきた。  
「殺してやるわ。」  
口に出して言ったつもりだった。しかし、聞こえてきたのは女の甘ったるいため息だった。  
まるで他人事のようだった。  
 
自分に覆いかぶさっているロックの髪を掴んで引き剥がした。  
ロックはされるがままだった。股から精液が音を出して流れ出してきた。  
身体中から血の気が引いた。こぶしを固めて頬を思いっきり殴った。  
ロックは何も言わない。足で蹴飛ばした。ロックは吹っ飛んで壁に叩きつけられた。  
スーツから銃を取り出し、撃った。ロックの足が飛び跳ねた。  
すぐには殺さない。報いは、させてやる。  
「何か言い残すことはあるか?小僧。」  
ロックは何も言わない。怒りが沸点に達した。  
もう片方の足を撃った。ロックの全身がビクッと痙攣した。  
顎を掴んで顔を上げさせ、額に押し付けた。足に血液とは違う冷たいものを感じた。  
ロックは、失禁していた。  
 
「ほうっておけば死ぬ。そのまま道路にでも投げ出しておけ。」  
「はっ。しかし──」  
「何か問題はあるか?同士軍曹。」  
「・・・・・」  
「そうだな。ダッチには連絡しておけ。葬儀の準備でもしておけとな。」  
「はっ」  
 
表向きにはダッチが瀕死のロックを奇跡的に見つけたということになった。  
本当のところ、ロックの命を救ったのは軍曹からの電話だった。  
ロックのいる場所を正確におしえてくれたのだ。  
しかしダッチは乗組員にはそれを話さなかった。  
いかれたチンピラに襲われたことにした。  
全てロックの意思だった。  
 
「本当にそれでいいのか、ロック。俺は──いや、俺たちはやったっていいんだぜ。」  
「それじゃあ、皆死ぬことになる。」  
「関係ねえよ。自分でもビックリしてる。こんなに頭にきたのは久しぶりだぜ。」  
「俺がやる。」  
「?」  
「俺一人でやりたいんだ──いうなれば俺とバラライカとの個人的問題って奴さ。」  
「いかれてんのか?お前。」  
「とっくの昔に俺はいかれてるよ、ダッチ。知ってるだろう。」  
 
レヴィは夜のロアナプラを毎日のように徘徊した。銃でおどし、情報をかき集めた。  
チンピラを探しだすのにやっきになっていた。  
 
俺が死んだってロアナプラは何も変わらない。  
バラライカが死んでホテルモスクワがなくなっても、違う勢力がまた幅を利かすだけだろう。  
ここには殺しの連鎖しかない。  
その中に、ロックもどっぷり浸かっていた。  
 

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