何でこーゆーコトになったのか、それを落ち着いて考えよう。
オーケイ、俺は酒が入ってる。泥酔とは言わないが、バカルディを一本は空けている。
いや、しかしいつものとうり、レヴィが隣にいてダッチも───あれ?ダッチはどこに──?
「ハイロメオ、お待たせン♪」
がらりとシャワールームの扉が開く。そこから出てきたエダは、何ていうか───その、酷く魅力的だ。
「エダ、その──物凄く申し訳ないんだが、何でこんな事になっているのか、俺にはさっぱり──」
視線を逸らしながらごにょごにょと言い訳をするロックの隣にマットを弾ませてエダが座る。
「何でこんな事に、か。それってそんなに大事?」
「いやその、俺は───その、それが悪いって言ってるわけじゃないけど、誰とでもそういう事は───」
「そういうコト?それってどういうコト?それと──」
つつ、とエダの指がロックの顎を撫でる。
「誰とでも、ってコトは魅力ある人間とならイイってコト?」
「あ、………あーその、そのな、エダ、オーケイ?落ち着こう、落ち着こう」
「アタシは落ち着いてるよ?ねェロメオ」
する、と手がロックの顔を抑える。覗き込むように、悪戯な子供のような表情と妖艶な女の顔で──
「女に恥かかせないでよ?どうであったって、今アタシ達はココでこうしてるんだよ?そんでアタシはシャワーも浴びちゃった」
「え、………エダ」
「ここまでさせといて逃げるのはブシドーって奴に反するんじゃないの?」
もうどーでもいーや。なるようになれ。最後の最後でロックは最低の考えに到達すると、エダをがばっと押し倒した。
「あン、………その気になってくれたのはいいケド、乱暴なのは嫌よ?」
「ああ、わかってる………けどエダ」
「?」
「猫被んなくていいよ。レヴィと話してる時みたいな感じで──」
エダはロックの顔面に傍らの枕をフルパワーで投げつけた。
「うわっぷ、何す………」
「最低だよこの日本人!!ムードとか雰囲気とか知らないのか!!何でこんなガラにもない喋り方をしてると思ってンの!?」
「それそれ」
にかっ、とロックが笑う。
「な、何よ」
「そういうエダのほうが、俺は好きだ」
才能という言葉がある。人にはなかなか出来なかったり、特殊なコトをさして使われる言葉だ。
この場合、よくもそんな恥ずかしい台詞が素面で吐けるモノだなという才能であろうか。エダは一瞬ぽかんとし、顔面を真っ赤にした後──
爆笑した。
「は、ははは!!ヒハハ、アンタ最高だよロック、いっつもその調子だったのかよ!?」
「なッ………笑うところじゃないだろ!?俺は本気で──」
「ははは、ゴメンごめん………くふふ、でもねロック」
エダの腕がするりとロックの首筋に絡まる。
「あたしもそういう馬鹿のほうが好きだよ」
ロアナプラ。この世の劣悪を全て詰め込んだようなこの街において、エダが今まで寝てきた男はどいつもこいつも似たようなファックしかしない。
要は吐き出せればいいのだ。女はその為の受け皿としか思っていない。前戯もソコソコにさっさと突っ込んでさっさと出す。
エダもそんな関係を別に悪いとも思っていない。それなりに感じるし、激しいピストンがあれば自分だってイケる。結果オーライ、だ。
しかし──
「ろ、ロック………んゥっ、さっきから………胸ばっかり………」
他の男ならさっさともう挿れている。その感覚に慣れきった身体には、来るべき刺激が無い感覚と、同時に──ねちっこい前戯が新たな感覚を連れてくる。
「乳首、硬くなってるな………気持ち良いか?エダ」
首筋で響くロックの声が、妙にぞくぞくさせる。胸を丹念に揉まれ、乳首をしごかれ、まだ下には手も触れていない。
それでも──わかる。自分の股間が、今までにないくらいビショビショになっているのが。
何だろう、この感覚は。もういつだって入ってきて良いし、ソレが欲しい一方で、
「ン、んッ………あ、ん」
このもどかしさを、もっと感じたい。
「エダ、奇麗だな………肌」
ロックの舌が胸を、乳首を、そして腹を這う。必死にその感覚に耐えようとしても、どうしてもエダの唇からは喘ぎが漏れる。
「んっ………はぁ、は………ぁンっ、ん……」
「我慢しないでいいよ。もっとエダの声、聞かせて」
ついにロックの手が内股に忍び寄り、──肝心のところを触る事無く、内股を撫で回している。
「ろ、ロッ………クぅ………ッ」
信じられない。何だ今の声?自分にあんな甘えた声が(演技で無く)出せたなんて!?顔面を真っ赤にしながら、それでもエダのおねだりは止まらない。
「お願い、もう………ね?」
「ダメ。もっとエダの可愛い顔、見たい」
本当にコイツは頭がイカれてるのか、こんな台詞は一体どこのロマンポルノで覚えたのか。それでも、その言葉すらが心地良い。
「んふッ………」
決して上手くは無い。だが丁寧で、相手を労わるようなキス。舌と舌を絡めあって、お互いの口の中を犯し回る。
ゆっくりとロックの指先が入り口を撫で回す。すでに愛液が零れ出るそこは、滑らかにロックの指を飲み込もうとする。
「指、入れるよ」
「んは………は、ンっ!!」
にゅるりと己の大事なトコロに異物が入り込む感覚。そのまま小刻みに指が動かされる。中の壁を軽く引っかかれる。
「や、は、ンあう………あ、ろ、ロッ、くゥ、ん、あ、ああ!!」
「凄いね。暖かいし、ビクビクしてる。エダ、気持ち良い?」
乱暴に突っ込まれている時なら簡単に答えられたその問いに、奇妙な恥ずかしさが付きまとう。エダは顔面を真っ赤に染めて頷いた。
「ん。ちょっと激しくスルね」
「や、ロック、もう、いッ……や、だめ、ダメっ、あ、ああ、ンあッあ!!」
いやらしい水音とロックの荒い息がエダの耳朶を犯す。膣を掻き回されながら乳首をしゃぶるように唇が刺激する。
「らめッ、ろ……っくゥ、もうッ、もういっちゃ………」
信じられない。決して取り立てて上手いわけでも無い、この頼りない男に、一方的にイカされそうになっている。
何か、今までにした事も無いセックスだ。そう、ファックではなく──セックス、とはこんな感じなのだろうか?
「いいよ、エダ。イッちゃえ。物凄く、可愛い」
そう言いながら唇を奪われる。舌を絡め取られたまま、エダは全身を痙攣させるようにして一回、声も出せず達した。
「ぅ、あッ………」
舌と唇、頬の内側まで使って丹念に刺激する。舌先で亀頭を、尿道をくじる。巻きつけるように舌でカリを苛める。
攻守交替、というわけでも無いが、さっきのお返しとばかりにエダはロックの股間に顔を埋めて攻撃していた。
まるで生娘みたいに可愛らしくイカされたことへの照れもあり、エダは懇願しても許さないくらいに快楽を与えようと、技術全てを使って口腔奉仕していた。
口で激しくしゃぶりながら、その根元の袋をやわやわと右手が刺激し続ける。どんどんと張り詰めて、確実に達しそうになると──
「………ふふ」
一時的に刺激を与えるのを止める。おかげでさっきからロックの逸物の先端からは透明な液が滲みっぱなしだ。
それを舐め取る。緩急をつけて頭が上下する。さっきからロックの身体が小刻みに震えている。それほどまでに、感じている。
「エダ、も、もう……さ」
「だぁめ。さっきあんなにアタシを可愛がってくれたじゃんか。今度はアタシの番」
ゆっくりと、丁寧に。時折、激しく、でも決して出させない。甘美な地獄に、ロックはのたうっていた。
「随分辛そうだね、ロック………でも出しちゃ駄目だよ?」
袋にも舌を這わす。軽く、挨拶のようにソレを噛む。その間も指はにちゃにちゃと音をさせながら陰茎をさする。
「だ、ダメだ、エダ、も、もう出る………ッ」
「ロック、まだ駄目だってば、我慢して……ね?」
それが止めになると知っていながら、エダはあえて一際強烈にロック自身を吸引する。
「う、うわ、ァあッ!!」
エダの口内で強烈に弾ける。我慢に我慢を重ねたそれは勢いも強く、エダの喉を焼く。しかしそれらを全て受け止め、嚥下する。
「え、エダ、ごめッ……ンぁ、あ」
出したばかりの敏感なソレをエダは丹念に舐めとりながら吸い上げる。丸で連続して射精してしまうかのごとき感覚にロックは情け無い声を出す。
「ふふ、一杯出したね、ロック……」
悪戯っ子のようにエダが肉茎をつつく。と──やおらロックががばっと起き上がり、エダを組み敷いた。
「キャっ………」
ガラにも無い、丸で女の子みたいな声を上げた自分にエダは赤面する。
「え、エダ、その………、俺、もう我慢できない。い、入れていいか?」
「………そうしようって、最初から誘ったんだよ、ロメオ」
にっこり笑って、エダはロックに軽くキスをした。
「………んは……うぁ」
ゆっくりと、でも確実にロックの剛直がねじ入れられる。決して人並みはずれて大きいわけでも無いし、長いわけでもない。だが──
「………は……ぁッ」
耳元の熱い吐息。さっきからの妙なムード。何か、今までとは全く違う──そんな感じに、エダも大きく息をつく。
「エダの中、気持ち良い……ぬるぬるして、凄く熱いんだな……」
「ちょ、馬鹿っ……変なコト言わなくて、いッ……んあ、あッ!!」
「キツいな、まだちょっと………すごくイイ」
「や、ちょっ、それ………んんンっ!!」
ゆっくりと確かめるようにロックが身体を動かす。その度に入り口が、陰核が、そして奥がじんわりと刺激される。
こんな感覚も、今までに無い。突っ込まれたら、後はひたすら突かれて終わり。こんなねっとりとした快感は──
「あ、ン………や、ッ………んン」
──未経験だ。
「エダ、動かすよ……」
そう耳元でロックが囁き、最初はゆっくりと、そして段々と激しく腰が打ち付けられ始める。
「あ、ああ、あッ、ふあ、ン、ああッ、あっ」
いつものファックと同じような、でも何かが圧倒的に違う。──ああそうか、アタシは今、抱きしめられながら突かれてる。
「ロック、ろ………っくゥっ」
「エダ、凄い……凄い気持ちイイ……」
時々、またこね回すみたいに動きを止めてロックは身体を合わせる。その度にすすり泣くような声をあげてエダが乱れる。
「ロック、それ、それダメ………や、ん、それ気持ち……いッ……」
「エダ、……エダっ」
ぱんぱんと肉と肉がぶつかる音。必死でロックにしがみついて何かに耐える。オルガスムなら何度も体感しているのに──
「ロック、ロック……ぅ、あ、ああ、ンあッ」
「エダ、……ッく」
何か、自分でも知らないような感覚が近づく。
「あ、ああ、ダメ、らめッ、いっちゃ、いっちゃう、ロック、アタシまたいっちゃ……!!」
「エダ、お、れも、もう、げんか……いッ!!」
ラストスパートと言わんばかりにロックの腰が早く打ちつけられる。エダは目尻に涙を浮かべながら大きな波に飲み込まれるように──
「………ウタマロってのはこういう意味だったのね」
結局あれからさらに二回、都合三回も繋がってへとへとになったままエダは傍らのロックに呟いた。
「いや、………多分違う」
バックから突いて、上になり、下になり、色々体位を変えて──そうしているうちに何となく三回もしてしまった。
ロック自身も驚いていた。こんなに俺は溜まってたんだろうか。
「それにしても………どこにそんなパワーがあるのよ?見た目は大した事無いのに」
確かに、ホテル・モスクワの兵士やダッチに比べ、その肉体は比べてやるのが可哀想なくらいに貧相なものだ。だが──
「いや、エダが可愛くて、つい」
忘れる無かれ。この男は筋金入りに恥ずかしい男なのだ。
「ロック手前、今までどこほっつき歩いてやがった!!」
ラグーン商会に戻ったロックが最初に浴びたものはシャワーでは無くレヴィの怒声だった。
「いや、その………ゴメン、俺昨夜の記憶無くてさ」
嘘はついていない。昨夜の記憶は確かに無いのだ。数時間は。
「あぁ!?ザけんな、手前があの程度のラムで──」
そこでぴたり、とレヴィの足が止まる。
「どうした?」
「………女物の香水の匂いがしやがる」
ダッチの問いに、般若の形相でレヴィが答える。
「へえ、ロックが珍しい。まあたまには楽しんで来たほうが──」
「黙ってろ四つ目野郎、五つ目の目を開けて欲しいか」
ベニーの言葉を冷静にかつ殺人鬼の視線でレヴィは止めるとゆっくりとロックに向き直った。
「ククク………こいつはたまげた、仕事場に顔も出さずに大先生はお楽しみってわけか」
「い、やその、レヴィ?オーケイ、落ち着こう、落ち着こう」
「アタシは落ち着いてるぜ、ロック?」
確か数時間前にも同じような会話があったと思った。状況は天と地ほども違うが。
「オーケイだロック、アタシが甘かったよ。新入りの教育が甘すぎたようだ」
「れ、レヴィ?」
「根性叩き直してやる。先ずそのクソッタレのスーツを脱ぎな」
「いや、それは関係無い……」
「いいから脱げッてんだよッ!!」
レヴィの右手がロックのワイシャツをむしるように引っつかむ。と、ボタンが飛び、その下からは──
「♪」
ダッチが調子ッぱずれの口笛を吹いたのも無理は無い。でかでかと至るところにキスマークがついていたのだ。
「………ロ・ッ・クゥゥ!!」
「騒がしいわね。また二挺拳銃と日本人がジャれてるみたい」
「本当に彼等で大丈夫なのか、時々不安になるな」
ラグーン商会のドアの前、バラライカと張はお互い首をすくめあった。
終