「はしゃぎすぎた、と思わないか」  
 コツコツという冷たいローファーの音が自分に向けてつきつけられた銃口の引き金をノックする音に聞こえる。  
エダは恐らくは生まれて初めて本気で神に懺悔したくなっていた。最も目の前の女性は神というよりは羅刹の類であろうが。  
「私の目を盗んで麻薬を流していたのみならず、小銭まで得ようとしたわけか」  
 五万ドルが小銭なもんかよ、と心の中で毒づく。間違い無く生命の危機にも関わらず随分と余裕があるなと少し驚いた。  
目の前のキリストの哀れみに満ちた顔が腹が立つ。神様ならどうにかしてみせろ、この状況を。  
「おい」  
「はひィっ!!」  
 凶悪な冷凍光線の如き視線と声にエダはたちまち余裕を失う。  
「おやおやどうしたんだシスター。丸で自分がその愚かな生き物だと言いたげじゃないか。声まで裏返らせて」  
「は、ひ、い、いやそのっ」  
 全身ががくがくと震える。怖い、物凄く怖い。いつもならガンさえあれば二挺拳銃とだってやり合う覚悟はあるつもりだったが、  
ここにガトリングガンがあろうがRPGがあろうがこの目の前の女はそれを避けて首をへし折りに来るのでは無いかと思わせる。  
 このくそったれの街──ロアナプラで間違いなく最強にして最狂にして最凶の女、「バラライカ」は確実に怒ってエダの前にいた。  
 
 いつものように、イエロー・フラッグに繰り出した。二挺拳銃とそのツレの日本人は相変わらず仲睦まじい事で、丸でハイスクールのカップルみたいだった。  
最もこちとらハイスクールなんざ一度たりとも行った事は無いが。  
 頭から湯気を出しそうなくらい盛り上がってる二人を軽くからかって、ついでに店内の(いくらかは)マトモな男と軽く飲んで、  
結局ファックはする事無く教会に戻ってきた。シスター・ヨランダは暫くの間旅行とかで帰ってこない。武器の発注も全部エダがやらなくてはいけない上に、一応ココは教会だ。  
礼拝堂の掃除くらいはしておかねばヨランダが帰って来たときに何を言われるか分かったモンじゃない。眠い目を軽くこすりながら入った礼拝堂に、誰か人影をみつけ───  
 
眠気と同時に生きた心地まで吹っ飛ぶ羽目になった。  
 
「なあ、シスター」  
「はひっ」  
 情け無いことに声が裏返りっぱなしだが、そんなエダを誰が責められるだろう。目の前で(教会だというのに葉巻をふかしている)ゆっくりと足を組み替えているこの女はバラライカ。ホテル・モスクワの大幹部なのだ。  
というか、この地球上で間違い無く最強の女の一人である。スパイダーマンだって恐れをなすに違いない。  
「この街はとても微妙なバランスのもとに成り立っている───」  
 ふーっと煙が天井に向けて昇っていった。ステンドグラスが煙に軽くぼやける。  
「火薬庫だ。この葉巻の火種一つ、始末を間違えただけであっという間に火の海になる──それはわかるな?」  
「は、はひぃ」  
「小銭の為にその均衡を乱す──私は決して平穏などを望みはしないが、無用の騒ぎが少々面倒なのも事実だ。ましてや──」  
 じゅ、と教会の机におしつけられる葉巻。  
「ナメられるのは極めて不愉快だ。不愉快だと言っているんだ、シスター・エダ」  
「は、はひぃ!!す、すいません申し訳ありませんゴメンナサイっ」  
 ついに堤防決壊。今までどうにかガクガク震えながらも直立していた二本の足はあっさりと折れてエダはこれ以上無いほど無様に土下座していた。  
奥歯がカチカチ言うのが止まらない。死ぬ、多分死ぬ、三秒後には金属音とともに後頭部にごりっと感触があってそこから鋼鉄の牙が脳味噌を喰い散らかす───  
「おやおやどうしたんだシスター。まさか、まさかとは思うが」  
 ゆっくりと腰を上げながらバラライカが近づいてくる。近づくローファーの黒が死神のマントに見えたってそれは無理も無いことだと思う。  
「いやいや、そんな事があるわけがない。この街の武器販売を一手に引き受ける教会のシスターたる貴女が、そんな無作法をするわけが無い。シスター・ヨランダだってそうだ、  
 そう──たまたま紅茶を注文した筈が何かの手違いでちょっと違う葉っぱが届いた。はたまた、我々に協力してくれるつもりで礼の双子を追っていたのが心許ない、口さがない連中の言葉で賞金狙いのように伝わった──」  
 思わずその言葉に飛びつこうと視線を上げたエダの目の前に、見知った鉄の筒がつきつけられる。  
「そうだったらどれだけ良かった事かな」  
「あ。………ああ………」  
 やっぱり死ぬ。畜生何が神だコン畜生、生まれてこのかた一つだってアンタからの恵みなんざ無かったよ、  
ああもう次に生まれ変わったらサタニストに──  
 
 引かれる引き金が、妙にゆっくりと見えた。  
 
「………ふむ、まぁこんなところか」  
 頭の反対側からジャムが吹き出した様子も無い。尻餅をつきながらエダは何故自分が生きているかが理解できなかった。  
バラライカはと言えば排莢を済ませて銃を軽く弄んで、  
 
 ずどん!と近くの椅子に向けて発砲。信者が祈りを捧げるスペースにはぽっかりと一つ穴が出来上がった。  
「二挺拳銃と日本人に感謝しろ。ラグーン商会とは我々はこれからも末永くやっていきたい。だからお前は殺さない──おや、どうしたエダ?なんだなんだおもらしかはしたない」  
 エダは完全に腰を抜かして失禁していた。  
空砲?空砲だと?誰がそんな良心的なシロモノが「ホテル・モスクワ」の、ましてやバラライカの銃に装填されているなんて幸せな考えを持てる?  
笑われて顔がかぁと火照るが、どうにも足腰に力が入らない。  
「あの双子に銃を突きつけられた時もそうだったのか?ん?」  
 揶揄するようにバラライカはしゃがんでじっくりと見回してくる。その視線に──普段とは違う意味での恐怖をエダは感じた。  
「あの双子はもともとチャイルド・ポルノに出ていたわけだ、そんなのに銃をつきつけられて腰をぬかして───  
 全く、暴力教会が聞いてあきれるな。そんなざまでは──」  
 突如としてバラライカは雌豹の如きしなやかさでエダを抱きすくめる。  
「嗜虐欲に火がついてしまう、な」  
「ッひ………」  
 もうどうなっているのだかわからない、しかし唯一つ確かなことがある。ピンチは変わらず、筋書きが珍妙な方向に向かっている──  
ああもうクソッタレ、本当に心底神の御威光も御慈愛も皆無な教会だ!!毒づいたエダはその瞬間、ある意味で全てを諦めた。  
 
「あ、ッあ、うぁあっ」  
 にちゃりぴちゃりといやらしい水音が礼拝堂に響く。音は礼服の内側、エダの内股から聞こえて来た。  
バラライカの指がしなやかにエダの秘所を弄る。まるで初めての行為の如き切ない声を上げながら、エダは荒く息をつく。  
「ふふ、どうした?全く、困った奴だな………ここは教会でお前は聖職者なんだぞ?」  
 細かく。いやらしく。容赦無く。普段は女性であることより遥かに恐ろしさのほうが際立つ女傑は、こんな事でだけ恐ろしいほど細やかに女性を感じさせる優しさでエダを嬲っていた。  
 失禁した下着を脱がされ、抱きすくめられたまま先程からひたすらに愛撫されている。しかし、上手なそれに愛は無い。  
ネコが捕えたネズミを玩具にする感覚と何ら変わり無い。それにも関わらず──  
「っう、ぁあ、〜〜〜んッ〜〜〜!!」  
 エダは。修道衣で隠れているその全身は朱に染まっている。顔は上気し。そしてなにより。  
修道衣の下でバラライカが撫で回す乳首は固くしこり。蜜壷はしとどに濡れている。エダは、これ以上無いほどよがり狂っていた。  
「可愛らしいものだな、シスター・エダ。そんな可愛らしさを見ると──」  
 バラライカの口元がに、と歪む。同時に、  
「い、いぁぁあッ!!」  
 突如、激しく、そして乱暴に指が突き立てられ、そのままぐりぐりとかき回される。  
「全く、いじめたくなってしまうじゃないか?」  
 そう言いながらもバラライカの顔も上気している。いつもの冷徹さが完全に失われたわけではないが、もともとがすこぶるつきの美人、何ともいえぬ凄みのある色気が漂う。  
抱きすくめられ、愛撫されながらエダは自らがおかしくなるのをそのせいだという事にしていた。  
「はーっ、はぁーっ、は………っ」  
 指による抽挿が止み、エダは全身をがくがく震わせながらバラライカに抱きついて必死で息を整えていた、否、整えようとした。しかし──  
「んふっ!?」  
 バラライカの唇が、舌が。突然エダを蹂躙する。口腔内を激しく、そしていやらしく。一切余すところ無く絨毯爆撃のように。  
バラライカのキスはディープという言葉が生ぬるいほどに攻撃的で破壊的だった。その間も容赦なく、秘所と胸を責め続けられる。身をよじるも逃げられるわけも無く、呼吸困難もあって急速に意識が飛びかける。  
長い長いキスが終わるころには、エダは完全に意識朦朧として、連続で与えられる快感に身を震わせるだけとなっていた。  
「さて、そろそろ一度気をやってみせてくれるか?」  
 その言葉と同時に、バラライカは再び激しい指による抽挿を再開する。もはやエダには声を抑える術は無かった。  
「あ、ぁ、あ、ぃぅッ、は、ぅあぅはッ、い、う、んんンんッッッ!!」  
「そろそろかシスター?声が甲高くなってきているぞ、全く、ここは聖堂だと言うのに。仮にも神に仕える身でありながら、神の前ではしたなくもイクのか?」  
「ンぃ、いッ、イキます、イキますっ、い、イク………っ、あ、ぁ、あ………ッ」  
「ふふ」  
 耳元でぞくりとする色気のある笑いを聴いた瞬間。エダは全身をがくがくと震わせながらバラライカにしがみついて達していた。  
 
 大きく肩を上下させて上気したままバラライカから離れ、ぼうっとした視線でエダはバラライカを見る。  
………畜生、まだだ………まだコレが続く。あの目は丸っきり満足なんかしていない、玩具の仕組みを理解して徹底的に今から遊ぼうという、残酷な目だ。  
それも、タチが悪いことに子供のそれではなく悪い大人のだ………  
「エダ。勝手に達して、お前はすっきりだろう。だが私は全然すっきりしていないぞ?どうする?どう責任を取る?ん?」  
 薄っすらと頬を上気させてバラライカはエダに再び、雌豹を思わせるしなやかさで近づいた。  
再びバラライカの手がゆっくりとエダの礼服の下に侵入し──  
「面倒だ。エダ、悪いがこの機会に新調しろ」  
 言うや、何時の間にか握られたナイフでエダの服はすっぱりと切られた。  
先程までの行為の後で乱れた下着が、そしてその下で未だ硬いままの乳首などが外気に晒される。  
「うひゃぁッ!?」  
「騒ぐな、暴れるな。手元が狂って欲しくはなかろう?」  
 そのまま下着までナイフで切られ、まるでシャツをはだけたかのようになった状態のエダを見ると、  
「ふむ」  
 袖と背中の部分は未だ繋がったままだ。それを手早く礼拝用の机の脚に結び付けてエダを軽く拘束する。  
「え?ぇ?」  
「さっきの様子じゃ随分と可愛らしい反応を見せてくれるようだからな、まだ………」  
 バラライカの指先が陰核に触れる。  
「っぁあ………っっっ!!」  
「ココも剥いていないのに」  
「え、やっ………ぁ、あ、いゥうっ、あ・ぁあ………あっ!!」  
 ゆっくりとこね回すようにしながら、バラライカはエダのクリトリスを剥いていく。  
思わずのけぞるエダだが、先程の拘束が著しく動きを制限する。  
「随分と膨らませてるじゃないか?そんなに構って欲しかったか?」  
「ひぅ、ふぁぁぁ………っ!!」  
 丹念に揉み解すように弄り回したと思えば爪の先で弾くように強い刺激を与えたり、とバラライカの右手がしなやかに動くたび、エダは陸に打ち上げられた魚の如く激しくその身をよじる。  
唯でさえ緊張の頂点に達した後にイカされ、身体は敏感すぎるほどに敏感。死を予感すると種としての防衛本能から生殖行動に関して貪欲になると言うアレだろうか。  
そう、なにしろこうしてよがり狂っている今でさえ、『気が変わった』とずどんとやられないとも限らない──なにせ、バラライカなのだから!!  
 そんな思考と陰核に与えられる刺激のスパイラルが急速にエダを昇りつめさせていく。最後にぴちゃりという感触──それがバラライカの舌であると気づいた瞬間でもあったが──を感じた瞬間、再びエダは全身を震わせて達していた。  
 
「勝手だなぁ。二度もさっさとイクのか………」  
「ひっ、はぁっ、やっ、もう、もうかんへん………んんッ」  
 イッた直後だと言うのにバラライカの責めが止む事は無い。唇を奪われ、胸を丹念に揉まれながらバラライカは自らも着ているものを脱ぎ始めた。  
「懐かしいな。昔は女虜でお前のように可愛らしいのは良く可愛がった。一晩も可愛がればなんだって吐き出してしまうようになる………」  
「はぁっ、はぁっ、は………ぁっ」  
「少しはコチラにも奉仕してくれよエダ。神の恵みを、という奴だ」  
 豊満な胸がエダの顔面に押し付けられるようにされる。何時の間にか拘束は解かれていて(同時にエダはいつのまにか全裸であったわけだが)エダは自由になった両手と舌で必死にバラライカの胸を愛撫しようとする、が。  
「っぁあ、あ、………〜〜〜ッッッ!!」  
「おいおい、口も手も止まりっぱなしだぞエダ。酷いな、私にだけさせるわけか」  
 先程までより更に濃厚なバラライカの愛撫が、エダを必死でバラライカにしがみつくような格好で耐えさせることしか許さない。しかしそれでもバラライカは愛撫を命じる。無論、一時たりともその手が止まることは無く、だ。  
「ふふ………エダ、わかるか?」  
 エダの手を自らの股間に導くバラライカ。既にそこはしとどに濡れている。  
「お前が随分可愛らしいものだからこうなってしまった………そろそろ本番と行くぞ」  
「え………」  
 そう言うとバラライカはエダの左足をぐっと上にあげ、自らの股間をぴったりと密着させる。  
「ふ、………ぁあッ!!」  
 エダは女性同士での行為は初めてだった。その思いもかけぬ感触に、一瞬で達しかかる。しかしそんなエダの様子を見て、バラライカの唇がにやりと吊りあがる。  
「動くぞ」  
「え、ぁ、ああっ、ア!!あ!!ああっ!!」  
 丸で男に貫かれているかのような激しい腰の動き。しかし、互いの陰核がこすれあい、愛液をローション代わりに入り口同士が擦れ合うその感覚は全く持って未知。  
「ンっ、ふふ、イイぞ、ぁッ、私も随分御無沙汰だったからな、ふぁッ」  
「あっ、あっ、あっ、ああ………っっっ!!」  
 バラライカの上気した顔もどんどんと淫蕩さを増していく。同時にエダは本日三度目の絶頂が近づき───  
 
 
エダがようやく解放されたのはそれから更に三回もイカされた後だった。微動だにできないほど消耗したエダを尻目にさっさと立ち上がったバラライカは『そうだな、後はうちの武器を全部磨きなおしておけ。それで許してやる』と言い残して去っていった。  
「全部って………まるっきり軍隊じゃねえか、ガンだけでどれだけあるんだよ………」  
 ぼんやりとした頭でそれを考えた視線の先には全てを見ていた聖者の像。  
「畜生、ファッキン・ジーザス・クライストだ………」  
 そう呟くと、エダはそのまま意識を失った。  
 

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