「銀さん。私は、ずっと銀さんと一緒だった。だから……」  
 雪緒が銀次を振り返った。長い黒髪が風に流れる。  
 銀次は畳から目を上げ、己の主を見た。細い肩に、鷲峰組を背負った少女。彼がずっと影のように付き添い、見守り続けてきた、唯一無二の存在。  
(……お嬢、そっから先は、言っちゃいけねぇ)  
 畳についた拳を、白くなるまで握り締める。  
 雪緒の次の言葉は想像できた。銀次は、雪緒の言葉を止めなくてはいけない。止めるべきなのだ。分かっていた。  
 それなのに、口元まで出かかった言葉が、どうしても出てこない。  
 
 聞きたいのだ、雪緒の言葉が。  
 雪緒が自分に恋心のようなものを抱いているのは知っていた。  
 しかし、所詮、親代わりとして一番近くにいた男だったからだ。  
 全てが終わり、雪緒が鷲峰組の呪縛を離れた時、どこか普通の男と幸せな家庭を築くだろう。……そうあるべきなのだ。  
 だが、自分は違う。己の物にはならないと分かっていながら、ずっと恋情を抱いていた。  
 少女から徐々に女に変わっていく雪緒への思いを、必死に押しとどめてきたのだ。  
 
 その最愛の人が、「自分と共に逝く」と、言おうとしている。  
 誰がこの、業火のような誘惑に克てるだろうか?  
 
 銀さん、と雪緒が呼んだ。  
 顔を上げると、雪緒がフワリと微笑んだ。泣くのをギリギリ堪えているような、儚い笑顔だ。  
「……だから、私はここから先も、一緒ですよ」  
(あぁ……)  
 黒いサングラスの下で、銀次は目を閉じた。  
 もう、戻れない。  
 自分はこの人を護ると誓ったのに、死出の旅路へ道連れにしてしまう。  
「お嬢……あっしゃア」  
 激しい後悔の念が、銀次を責め立てた。止めるべきだったのに、止められなかった。  
 止めなかった理由は、自分の鬼のような恋情のせいだ。  
 銀次は、拳を畳に叩き付けた。  
「銀さんッ、何するの、やめて!」  
 着物の裾を翻して、雪緒が銀次に飛びついた。しかし、銀次は拳を止めない。畳が赤く染まっていく。  
「……やめて!」  
 甲高い叫びと、ガラス同士がぶつかる軽い音は同時だった。  
 銀次が目を見開く。  
 雪緒は銀次の首に抱きつくようにして、唇を重ねていた。銀次は固まったまま、雪緒と共に後ろへ倒れる。  
 深い沈黙と静寂の後、雪緒がゆっくりと唇を離した。  
「……お、お嬢……」  
「……私は、後悔してませんから」  
 顔を真っ赤に染めた雪緒が、ぷいと横を向いて言った。  
 
「でも……ただひとつ、後悔があるとすれば……」  
 雪緒が、横を向いたまま視線を下げた。  
「お嬢」銀次は倒れたまま、彼女を見上げる。  
「銀さん……私の願いを、聞いて下さいますか?」  
 ゆっくり顔を上げた雪緒のただならぬ雰囲気に、銀次は大きく頷いた。  
「勿論です。あっしにできることでしたら、何でも……」  
 銀次の真剣な表情に、雪緒は儚く微笑んだ。そして、銀次の胸に、トンッと額を押しつける。  
「子供の頃……何か悲しいことがあると、いつも、この胸を借りていましたね。……最後は、父が死んだ日だったかしら」  
「……お嬢?」  
「銀さん」  
 雪緒の声が、銀次の肋骨を震動させる。  
「私を……抱いてくれませんか?」  
「そんな、お安い御用です」  
 銀次は雪緒の頭をそっと撫で、胸の中に抱き込んだ。暖かく柔らかい身体がぴたりとくっつく。  
 次の瞬間、腕が跳ねのけられた。銀次はあっけに取られ、雪緒を見つめる。  
「そうじゃないんですッ!」  
「?」  
「私が言ってるのは、その、つまり……お、女として抱いて欲しいって……言ってるんです!」  
 銀次の頭が、一瞬、空白になった。  
 女として抱いて、それは……つまり、  
「なッ?」銀次は、思わず声を上げた。  
 雪緒が顔を上げ、真っ直ぐ銀次を見た。まるで落ちる夕陽のように顔が赤い。  
「私、男の人を知らないんです……」  
 雪緒の肩は、小刻みに震えている。  
「お嬢、」  
「知らないまま……終わるのは……嫌」  
 
「お願い。銀さんなら……総代に、恥、かかせないでしょう?」  
 雪緒の髪が、銀次の頬に触れた。  
「し、しかし、お嬢っ……」  
 
 銀次の言葉は、雪緒の唇でふさがれた。  
 二度目の口づけ。今度は、さっきより長い。  
 不器用な唇遣いに、銀次はサングラスの下の目をきつく閉じた。  
 唇が勝手に応えていく。銀次の舌が、雪緒の固く閉じられた唇を割り、口内へ進入していく。  
 角度を変え、歯を開かせる。自然と怯えて引っ込もうとする雪緒の舌をとらえて吸い、上顎をなぞり、小さな歯列をゆっくり舐め上げた。  
 
「……ん、ふっ」  
 堪らず、雪緒が吐息を漏らし、銀次の肩を少し押した。眼鏡の奥の瞳がひどく潤んでいる。息は荒く、頬が真っ赤に上気している。  
 肩で息をする雪緒を見つめ、銀次は緩く微笑んだ。  
「これが、男と女のキスってやつでさァ。……お嬢には、やっぱり無理だ」  
 
 これで諦めてくれれば、と思った。  
 実際、銀次もギリギリのところで止まっていた。もう少し雪緒を味わってしまえば、歯止めが効かなくなる。  
 暴走してしまう自分が怖かった。  
 
 銀次は半身を起こし、真っ赤な顔をして俯く雪緒の頭を抱いた。  
「だから、お嬢……これで」  
「私はッ……もう、子供じゃないです!」  
 眉を吊り上げた雪緒はそう叫ぶと、いきなり銀次のベルトに手をかけた。銀次が止める間もなく、ズボンのジッパーを下ろす。  
 
「お嬢っ、待っ」  
「……銀さん」  
 雪緒は目を見開いた。  
 さきほどのキスで、既に半立ちになっていた男のモノが、布を押し上げているのもそうだが……何より……   
 
「……フンドシ」  
 
 雪緒の絶句に、銀次は天を仰いだ。  
 
「こっ、個人的な好みを言わせてもらえばっ、……その、六尺褌より、越中の方が……」  
 雪緒の言葉に、今度は銀次が絶句した。  
 数秒の沈黙の後、なんとか銀次は、  
「……以後、参考にさせてもらいやす」  
 と答えた。  
 
 雪緒はグッと唇を噛みしめ、無防備になっていた銀次の褌に手をかけた。  
「待……、お嬢ッ」  
 銀次は咄嗟に手で前を隠そうとしたが、遅かった。  
 既に固くなっていた銀次の一物が、跳ね上がるようにして露出した。  
 反り返ったモノは、褌に手をかけていた雪緒の手首をピシリと叩く。  
 
「……ッ」  
 雪緒は、そそり立った男の一物に息を飲んだ。  
 こんなに大きな物は、見たことがなかった。  
 子供時分、父親の物を見たこともあったが、もちろんそれは「正常時」の男根で  
……興奮状態の男性のモノが、こんなに大きくなるとは知らなかった。  
 
(怖い)  
 喉まで出かかった言葉を、なんとか押しとどめる。  
(でも、……もう、決めたんだもの)  
 雪緒は、ゴクリと唾を飲み込んだ。  
 
 本で得た知識なら、いくらでもあった。  
(確か、陰茎を手や口で摩擦……することで、海綿体に血液が行き渡って、  
 勃起状態になるのよね)  
 雪緒は、いきなり銀次の猛るイチモツを握り、上下に動かした。  
 白く細い指が、浅黒い肉棒の上を滑る。  
 
「うあッ、駄目だ、お嬢ッ」  
 銀次の四肢が、ビクリと反応する。  
 制止の言葉とは裏腹に、銀次のイチモツは一気に膨らみを増す。  
 
「私にも、意地があるんです!」  
 雪緒はそう言うと、着物の裾を割って、銀次の足を跨ぐような形で膝をついた。  
 赤い襦袢の間から、真っ白い太股が露出する。  
 そしてそのまま、男根の先端、小さく開いた尿道に、恐る恐る舌を這わせた。  
 
「くッ」銀次が呻いた。  
 ピチャ、チュル……チュ、  
 物音ひとつしない屋敷の中に、淫猥な舌鼓が響く。  
 雪緒の舌は尿道を外れ、徐々に下がっていき、  
 竿の部分に浮き上がった血管を丁寧に舐め上げていく。  
 
 雪緒が頭を動かすたび、こぼれた黒髪が、銀次の腹部を撫でた。  
 己の股間に顔を埋める雪緒を見下ろすと、乱れた襟元から、  
 ふっくらと匂い立つような胸の谷間が覗いている。   
「……お、お嬢……」  
 
 かすれた声で呼ばれ、雪緒は、息の荒い銀次を見上げた。  
「もしかして、気持ちよく……なかったですか?」  
 潤んだ目でそう言われ、銀次は思わず頭を振った。  
「まさか!」  
「……良かったです」  
 雪緒は花のように微笑むと、手に握っていた男根を、一気に口いっぱい含んだ。  
「ンッ、ふッ、んぐ……ンふ……はっ」  
「くあッ」  
 柔らかい頬の裏側に亀頭が擦れ、銀次は堪らず声を上げた。  
 
 その時突然、雪緒が口から男根を吐いた。  
 唾液と先走りで光った銀次のイチモツが、冷たい外気に晒される。  
「ん、ン……ング!げふっ、ごほッ」  
 雪緒は口の端から唾液を流し、何度も噎せている。  
 どうやら、喉の奥まで入れすぎてしまったようだった。  
 
「お嬢ッ!」  
 背中を撫でようとした銀次の手を、雪緒自身がはねのける。  
「良いんですッ!それより、すいません、銀さん……途中で、やめてしまって」  
「な……ッ、そんな事どうだって……」  
「続けます」  
 銀次は雪緒の威圧に押され、固まった。  
 
 雪緒は目尻を拭い、再びそそり立つ男根を口に含んだ。  
「ン……」  
 口内に唾液を溜めていたらしく、くわえた唇の端から、  
 透明な唾液が一筋、陰茎を伝って流れた。  
 その唾液を指につけ、手と口で、何度も摩擦を繰り返す。  
 ズルッ、ズッ、ピチャ、ズッ、ズッ、  
 徐々に早くなる律動。  
 ズッ、ズッ、ズルッ、  
 
「くッ、あ、……イクッ」  
 銀次が叫ぶ。  
 トプ、ビュクッ……ドプッ。  
 大量の精が、勢いよく放たれる。  
 
「きゃあッ」  
 銀次が四肢を痙攣させたのと、雪緒が小さく叫んだのは同時だった。  
「はぁ……は……お、お嬢……スンマセ……」  
 銀次は荒い息をついて、雪緒を見た。  
 雪緒の黒髪、唇、頬、そして眼鏡にも、白濁した精液が飛び散っている。  
 
 トロリと、眼鏡のフレームから精液が雫となって、畳に落ちた。  
 
「あ……ちょっと、ビックリしてしまっただけです……。  
 こんなに、その、精液が……出るものだって、知らなくて」  
 
 赤い顔をして、雪緒が眼鏡を外した。  
 顎についた精液が喉を伝わり、胸の谷間に消えていった。  
 
 一度出したことで、快楽に白濁していた銀次の意識が、クリアになっていく。  
 目の前にいるのは、自分がずっと慈しみ大切に育ててきた女性。そして今は、鷲峰組の総代……己の主だ。  
 その雪緒の顔一面は、自分の精液で汚れている。  
 深い罪悪感と共に、激しい欲情が再び湧き起こってくるのを銀次は感じた。  
「お嬢、」  
 眼鏡の精液を着物の袖で拭き取っていた雪緒を、銀次はグイと引き寄せた。  
「あッ」  
 銀次の胸に飛び込むような形で、雪緒が倒れ込む。  
 
 銀次は折れんばかりに、雪緒の細い身体を抱きすくめると、真っ白いうなじに唇を這わせた。  
 十八歳のきめ細かな少女の肌は、ひどく熱い。  
「……感じてンですね」  
「銀さ……ンッ」  
 驚いて顔を上げた雪緒に、銀次は噛みつくように口づけた。  
 優しい接吻ではない。蹂躙するようなキスが何度も繰り返される。  
 舌で歯をなぞり、わざと大きな音を立てて唇を吸った。  
「あ……ふ」  
 何度も繰り返すうち、逃げ腰になっていた雪緒の身体が、徐々にグッタリ重くなる。  
 ひどく早い鼓動が、互いに触れ合った皮膚から伝わる。  
 
 銀次は雪緒に口づけたまま、彼女の着物の襟をグイと開いた。  
 成長途上の真っ白い乳房がこぼれた。腕の中で、雪緒の身体がビクリと震える。  
 銀次は、まだ少女の固さを残す乳房に手を触れた。  
 手の平から、鼓動が直に聞こえてくる。  
 指に力を入れると、柔らかくのめり込んでいく。そのまま乳首を挟むようにして、徐々に荒く揉みしだく。  
「……ん、ンッ」  
 唇を塞がれたまま、雪緒が呻いた。  
 未熟な胸に、力を入れすぎたのかもしれない。  
 銀次は乳房にかける力を緩めると、小さく起ちあがっていた乳首を、指の腹で少しずつ揉んだ。  
 
「……ッ」  
 唇を離し、雪緒は大きな吐息の塊を吐いた。露出した肩に黒髪が散らばる。うなじには汗が浮いている。  
「好くなるように、しますから……」  
 銀次はかすれた声で言うと、ぷっくり固くなり、充血している雪緒の乳首を舐めた。  
 そしてそのまま、舌の上で転がし、吸い、柔らかく噛む。  
「あァッ!」  
 雪緒が腕の中でのけぞり、銀次の髪を掴んだ。そのまま後ろに倒れ込む。  
 
 割れた雪緒の着物の裾から、青い熱気のようなものが上がってきた。  
 仄かに酸っぱいような、この香りは。  
「濡れてるんスね」  
 銀次が満足げに言った。  
「ち、違います……!」  
 真っ赤になって否定する雪緒に、銀次はサングラスを外し、穏やかに微笑んだ。  
「良いんスよ。今日は、屋敷にゃ誰も居ねぇ……思う存分、感じて……声、上げて下さい」  
「そんな……あッ」  
 銀次は雪緒の裾を開くと、閉じようとする膝をグイと押し分けた。  
 
 淡い茂みから、濡れた桃色の秘所が覗いている。  
「こんなに綺麗なのは、見たことねェ」  
「や……っ、そんなに……見ないで下さいッ!」  
 手で顔を覆い、頭を振る雪緒に構わず、銀次は秘部に顔を埋めた。  
 舌で陰核を探し、濡れそぼって起っているそこを、ゆっくり吸った。  
「あ……アァッ!」  
 びくん、と、雪緒の身体が大きくのけぞる。  
 透明な蜜がトロトロ溢れだし、着物の裾を汚していく。  
「クリトリスが敏感ですね……今まで、独りで、なすってたんスか?」  
「そ、そんなこ……ぁあッ!」  
 銀次は、充血して真っ赤な真珠のようになっている陰核の包皮を剥き、更に舌で攻めた。  
「ッあ、ッ、あッ……ダメ、もぉっ、ああああッ!」  
 雪緒は銀次の髪を掴み、ビクンッと大きく背を反らせた。  
 白い足袋を履いた足が突っ張り、痙攣する。  
 
<続く…はず>  
 
 
 

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