燦然と降り注ぐ日差しの下、この街の市場は賑わいを見せていた。  
人と物がごったがえし、いくつもの言語が飛び交う。  
その雑踏の中を一人の女が歩く。  
「えーと、9ミリ1500発、12.7ミリ弾200発、10番ゲージのOOバック弾が300発、RPGの予備弾頭が七本…。」  
その女…レヴィはその手の中の物騒極まる買い物リストを読み直し、やおら背後を振り返り、怒鳴りつける。  
「おらロック!何ちんたら歩いてんだ!もたもたしてると海に放り込むぞ!」  
「む、無茶言うな…。」  
たった今彼女が読み上げた全ての品目を持たされたロックはそう呻く。  
さんさんと照りつける日差しの中、両手に山ほどの弾薬ケース、対戦車ロケットを背中に背負い、  
ずるずると足を滑らせるようにして歩く彼の姿は、さながらゴルゴタの丘に十字架を運ぶキリストの様であった。  
数時間前、事務所で暇そうにしていたのをレヴィに見つかり、『買い物行くから付き合え』と半ば強制連行状態で引っ張ってこられ…気が付いたらこの有様である。  
「ったく、それくらいの荷物持った位で泣き言言ってんじゃねぇよ。」  
「そんなこと言うならダッチに頼めばよかったじゃないか…。」  
「バーカ。それが出来たらお前なんかを荷物運びに徴用するか。」  
弾薬箱の向こうで、レヴィが面白くなさそうに吐き捨てる。  
「あの野郎、朝からどっかに消えちまいやがった。いないもんは使いようがねぇだろ?」  
「せ、せめてベニーを…。」  
「あー、あいつはこの間何かのCD-ROMが届いてからというもの、部屋から出てこねぇ。」  
「CD-ROM?」  
「何か日本語とヘンなマークが描いてあったな。こんな奴だ。」  
彼女の指が、虚空に日本の『成人指定』のマークを描く。  
「…。」  
「理解したか?行くぞ。」  
「あ、ちょっ…。せめて半分持ってくれって…おいレヴィ!」  
ロックはレヴィの背中に声をかけるが、彼女の特徴的なポニーテールはすでに雑踏の中に溶け込んでしまっている。  
「…。」  
それこそサラリーマンがつくような深いため息をついた後、ロックは事務所への行軍を再開した。  
 
「よう、兄ちゃん兄ちゃん。」  
その声が自分に向けられている事に気付いたのは、そう呼ばれて数秒経ってからだった。  
「…。」  
油の切れた機械のような緩慢さで、ロックは首を声のする方向へ曲げる。  
道端に軒を連ねる露天商の屋台。  
その中の一つで、アラブ系の男が手招きしている。この道に店を構える商人の一人であろう。  
「…何だい。」  
「あんたも大変だな、いつもあんなアバズレに引っ張りまわされて。」  
「別にいつもって訳じゃないさ。」  
「そうかね。俺がアンタを見るときは、いつも死にそうな顔であの女の尻を追っかけてるんだが。」  
「…用がないなら行かせてもらうよ。」  
「あー、ちょっと待ちな兄ちゃん。」  
再び歩を進めようとするロックを引きとめ、男は小さな薬包紙の包みを取り出す。  
「そんな頑張ってる兄ちゃんに、俺からのささやかなプレゼントだ。」  
「…何それ。」  
「そんなうさんくさそうな目で見るなって。あやしいクスリじゃねぇよ。コイツは…そう、いわば『酒の調味料』だ。」  
「聞いたこともないな。」  
「とにかく、これを酒に混ぜてあの女に飲ませてみな。一発でご機嫌になるからよ。」  
「…気持ちだけ頂いとくよ。」  
「遠慮するのはよくねぇな。ほれ、持ってけ持ってけ。」  
男はロックの意向を無視し、彼の胸ポケットにその包みを押し込む。両手を荷物に塞がれたロックにそれを止める術はない。  
「おい、ちょっと…!」  
「ローック!手前これ以上時間かけやがるならマジで殺すぞっ?!」  
「ほれ、あのおっかない女が呼んでるぜ。」  
男はぽん、とロックの肩を叩く。  
「使うか使わないかはあんたの好きにすりゃいい。じゃ、神のご加護を。」  
「…ありがとうよ。」  
露骨に疑わしそうな口調で男に礼を言い、ロックはその屋台から離れた。  
 
「…ったく本当に使えねぇなお前はよ!これしきの荷物で女みてぇにヒーヒー言いやがって!」」  
「…。」  
「手前それでもタマついてんのかオイ?どっかに落っことしてきたんじゃねぇか?」  
「…。」  
事務所。  
床に突っ伏して肩で息をするロックを見下ろし、レヴィが罵詈雑言を投げつけていた。  
それらの暴言を驚くべき忍耐力で受け流し、ロックは立ち上がるとふらふらとした足取りで冷蔵庫へと向かう。  
「な、何か飲む物を…」  
「おー、ちょうどいいや。あたしにもよこせ。ウィスキーだ。」  
「はいはい…。」  
自分と彼女の分のグラスを取り出し、氷をそれに入れた所で、ロックはふと胸ポケットの中の存在を思い出した。  
取り出し、レヴィに背を向けて薬包紙の中身を確認する。  
白い粉。  
「…どこが怪しくないって?」  
呟き、粉を指につけて舐めてみる。  
「…麻薬や毒薬の類じゃないみたいだな。」  
それでもこの得体の知れない粉末をグラスにあける気はしない。ロックは薬包紙を畳み始めた。  
「おらロック!さっさと酒持って来い!」  
そこにレヴィの投げつけた雑誌がロックの頭を直撃した。その衝撃で紙が開き、その上の粉のほとんどがグラスの一つに落ちる。  
「あ。」  
「酒もろくに入れらんねぇのか?貸せ!」  
レヴィがずかずかと詰め寄り、グラスを手に取り、ウィスキーを注ぐ。よりにもよって粉の入った方のグラスに。  
そしてロックが止める暇も無く、そのグラスを一気に呷った。  
「あ…あぁああぁぁ…」  
脂汗をだらだらと流し、顔面蒼白で呆然と自分の顔を凝視するロックをいぶかしげに観察するレヴィ。  
「何間抜け面晒してやがんだ?ボーっとしてっとこの酒みんなあたしが飲んじまうぞ。」  
酒のボトルとグラス、氷入れを持ってソファへ向かうレヴィを、ロックはただ目で追い続ける。  
「…を?」  
と。ソファに辿り着く直前、突如彼女の膝が落ち、床に倒れ込む。  
「あぁぁあああぁぁあぁぁあ…」  
「な…何だこれ…んっ!」  
顔を紅くし、床で身体をくねらせる。同時にホットパンツの内側からは透明の液体が太腿を伝って流れ始めた。  
 
「…ロックぅ…手前、酒に何か入れやがったな…。」  
レヴィは床に転がったまま、先ほどより一層汗を分泌するロックを睨みつける。  
「い、いや俺は入れるつもりはさらさらなくて…雑誌が当たった衝撃でグラスに…」  
「何入れやがった?!」  
「し、知らない。確かめる前に雑誌が飛んできて…」  
「…ちょっとそれが入ってた入れ物持って来い。」  
ロックは、粉の入っていた薬包紙をレヴィに手渡す。  
彼女は半身を起こし、その表面についた粉の残りを観察し、ロックがやったように指につけて舐める。  
「…ロック。」  
「な、何?」  
ごんっ。  
しゃがみ込んだロックの頭に、レヴィの拳が落ちる。  
「手前何考えてこんなモンを…媚薬だ!」  
「え…えぇーーーーーっ?!」  
「ったく、道理で…。どこでこんなモン手に入れやがった?」  
「市場で男が…。俺は要らないって言ったぞ!」  
「…まぁいい。毒じゃないしな。さて、ロック。」  
レヴィが、完璧に座った目でロックをにらむ。  
「こうなった責任…取ってくれるよな?勿論。」  
「……………ハイ。」  
「NO」と言える訳が無かった。何せ彼女の手はホルスターの銃にかかっていたのだから。  
 
 

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