岡島緑郎は考える。  
今に至る過程がどのような物であったのかを。  
熱帯の気候に蕩けたような今の自分の思考力でも、  
レヴィとバカルディの呑み比べをした所までは思い出せた。 
それはいい。  
妙にしつこくレヴィが絡んできて、  
無理矢理呑み比べに持っていかれたような記憶があるが、まあそれもいい。  
 
岡島緑郎は見る  
目に映る自分の身体を。  
いつもの白い半袖のワイシャツと、いつものスラックス。  
ツマミにしてたビーフジャーキーのカスが胸のポケットに引っ掛かっていたが、  
いつかみたいにレヴィのゲロ(本人は頑なに否定した)に塗れているよりはいい。  
 
しかし違和感もある。  
まず、締めていた筈のネクタイが無い。  
古典的酔っ払いの如くハチマキにでもしたかと思ったが、どうもそうではないようだ。  
 
違和感はまだある。  
自分の視界内に、自分の両腕が無い。  
おぼろげな皮膚感覚を辿ると、どうやら今座っている椅子の背の後ろに、  
後ろ手に縛られているようだ。  
手首と擦れる布地の感覚は、縛る紐状のそれがどうやら自分のネクタイらしいと訴えている。  
 
「…………なんれ?」  
 
首を巡らす。  
視界に、ポニーテールと黒いタンクトップと悩ましいホットパンツのお尻。  
ホルスターを着けたその背中は折れ曲がって前傾し、彼女より小さな人影と会話していると知れた。  
 
「…………おい、れびぃ? これは……?」  
 
「……んじゃ、15万でティル・ドーン(朝まで)。  
 もし怪我させたりしやがったら、炙り焼きにした上でぶっ殺す。文句ねェな?」  
「…………うー、なんだかボられてる気がする」  
「仕方ないよ姉様。僕らはこの人達に匿われてる立場だし。  
 それに、どうしてもあのお兄さんに『お礼』がしたいんだろ?」  
「そうね兄様。私たちも妥協という物も知るべきだわ。来るべき社会復帰に向けて」  
「…………テメェらを社会に復帰させるのは、思いっきり気が進まねぇな」  
 
「何の話だよ、おいレヴィ!」  
 
やや目が覚めて来たのか、呂律を転がせるようになった舌で訴え掛けると、  
レヴィが煩げに振り向いた。と、彼女の影になっていた双子の姿も目に入る。  
 
「あンだよロック? 起きたのか? ま、丁度いいか。商談も済んだ所だしな」  
「…………商談って何だ? それに俺のこのナリは? なんで縛るんだ?」  
 
不信感バリバリのロックの視線を困ったように受け止めると、レヴィはポリポリ頭を掻いた。  
 
「んー、まあ、なんつーかほれ、アレだ。ロック、お前これから朝まで暇だろ?」  
「忙しい」  
 
即答。  
限りなく嫌な予感がするから即答。  
同時に後ろ手を戒めるネクタイと格闘開始。  
 
「んあこたぁネェよ。暇な筈だ。呑み比べをする前に、お前そう言ったしな」  
「状況が変わった。今は忙しいんだ。レヴィ、ほどいてくれ」  
「いいから聞けよロック、良い子だから。  
 なァに、ちょいとコイツラに朝まで付き合ってやればいいンだ。  
 大丈夫、ちゃんと言いくるめたから痛いことなんてされネェよ」  
 
そこで今まで黙って聞いていた双子が、レヴィの両側から顔を覗かせる。  
 
「そうよお兄さん。私も兄様も、貴方の身体を傷つけるようなヘマはしないわ♪ 慣れてるから」  
「そうさお兄さん。僕も姉様も、貴方のくれた優しさにお返ししたいだけなんだ♪ しっぽりと」  
「…………と、いう訳さ。健気なモンじゃねェか。受けてやれよロック?」  
「嫌だ断るって言うかナニ持ってるんだよそれ来るな止めろ来ないで止めて嫌だこら出て行くなレヴィ行かないでお願いきゃー!!」  
 
レヴィはロックの悲痛な叫びに、少しだけ哀れむような寂しげな微笑を向けた後、ドアを開けて部屋を去った。  
閉じかけるドアから腕を突き出して、バカにしたように手をひらひらさせてから。  
 
「ひ、卑怯者 裏切り者 薄情者ーッ!」  
 
『バタン』と閉まったドアの音が、断頭台の刃が自分の首を落とした音のようにロックには聞こえた。  
薄い暗闇の中を、二つの影が滑るように歩み寄ってくる。  
 
「ごらんよ姉様。お兄さん、こんなに震えてる」  
「そうね兄様。まるでいつかの猫みたいだわ」  
 
クスクス笑いながら近付いて来た双子に、絶望的な恐怖を感じる。  
ってか、猫って何だ? 『三味線の作り方』って単語が浮かんだが、コレはどういう事だ?  
 
「な、なあ君達。お礼なんか良いから、コレほどいて俺を自由にしてくれないか?」  
「あらお兄さん、遠慮なんて良くないわ」  
「そうさ、お兄さん。遠慮なんて良く無い事だよ。今は楽しもう?」  
 
ロックの右腕を『姉様』が、左腕を『兄様』が、それぞれ抱き締めて、それぞれがロックの膝の上に跨る。  
ロックの腿に、『それぞれの』感触。  
 
「た、楽しむって……君達は……。俺はお礼なんて望んじゃいない。なのに何故こんな…」  
 
「「何故って?」」  
 
2人は耳元で、声をハモらせた。  
囁き声が吐息となって、ロックの耳を嬲る。不覚にも感じてしまった自分に、かなり幻滅。  
 
「「そうしたいからよ。他になぁんにもない。そうしたいからそうするの♪」」  
 
双子はそのまま耳に唇を寄せると、息を合わせてゆっくりと、耳たぶを舐(ねぶ)り始めた。  
 
「をぁッ!」  
 
異様なほど熱い吐息を吹き込まれ、耳たぶを軽く噛まれ、思わず声があがる。  
 
“ちゅぴっ! ちゅぷっ…れろるっ”  
 
そんな生々しい音が頭蓋の内側にステレオ反響し、おぞましいやら気持ち良いやら。  
スラックスの中の分身が、酔いの眠りから目覚める感触に、思わず顔を顰める。  
 
(ヤバイ。今『これ』に気付かれたら、もう言い訳なんて出来な…あ)  
 
思ってる内に、『姉様』の膝が、『ロックのソードカトラス』に当たった。  
 
「わぁ♪ お兄さん、これなぁに?」  
 
膝でグリグリと、2玉と竿の三点の結節点をくじられる。悶絶したくなる程の快感。  
と、続けて先端に甘い感覚。『兄様』の手が、スラックス越しに『愚息』の頭を撫で始めた。  
軽く爪で引っ掻いたり、裏筋に沿って『姉様』の膝の方まで撫で下ろしたり。  
(ちなみにその間も、ずっと耳を舐められてたりする)  
 
「素敵な『砲身』だねお兄さん。日本人はまだ『入れた』事無いけど、これなら姉様も満足だ」  
「もうっ! 兄様! レディのそういう事を軽々にバラすものじゃないわ」  
「あはは。ごめん姉様。なんせ久しぶりだからさ」  
 
耳の穴を貫通してそんな会話をされるほうはたまったモンじゃない。  
身を捩って、あらん限りの力を振り絞って脱出を試みる。  
同時に、次にネクタイ買う時には安物でもいいから自分の腕力で切れる物にしようとヘストンに誓った。  
 
「あン。もう、動いちゃダメよお兄さん。じ・っ・と・し・て・て・?」  
 
座ってる椅子が軋むような、信じられないような力で肩を押さえつけられて、抵抗を諦める。  
どの道、ネクタイが切れた所でこの双子からは逃げられはしないだろう。  
ロックはこのまだあどけない顔の二人を称して「虎だ」と表現した事があったが、今は何だか食虫植物に見えた。  
『姉様』の唇が右の耳たぶを離れてロックの正面に回りこむ。  
唾液に濡れてつややかな、小さな唇。  
小ぶりの顔、つぶらな瞳、整った目鼻立ち、サラサラのプラチナブロンドの前髪。  
『美しい』と表現して差し支えない、いやむしろそうとしか表現できない顔。  
ロリコンの気など無いつもりのロックでも、思わず見惚れるような顔。  
その顔が、少しも淫靡を感じさせない淡い微笑みを浮かべて、ロックの鼻の頭に軽くキスした。  
 
「唇のキスは、止めておくわね? あのお姉さんにとって置くわ」  
 
あどけない微笑でそう言って、そのまま顎の先と喉仏に連続してキスを落とした。  
『兄様』の方は、今は耳たぶの後ろを下から上に一定のペースで舌で舐め上げ、唇で撫で降ろしている。  
 
「ふふっ。お兄さんの首、綺麗ね」  
 
『姉様』は言いながら、耳の下から前に伸びる首の筋を何度も舌とキスで確かめる。  
そのキスが鎖骨の間の窪みに集中しだした頃、タイミング良く横合いから『兄様』の手が伸びてきて、シャツのボタンを上から順に器用に外し始めた。  
その腕がスラックスの中に入れてたシャツを引っ張り出して、最後のボタンを外すと同時に、  
『姉様』が下着代わりのTシャツを一気に首までめくり上げる。  
左の肩口から『兄様』が覗き込んで、一言。  
 
「お兄さん、胸毛無いんだね」  
 
胸の中央、心臓の辺りにキスしながら『姉様』も一言。  
 
「そうね、子供みたい」  
 
「日本人じゃ、そう珍しい事でも無い」と言い訳しようかと思って、馬鹿馬鹿しくなって止めた。  
そんな事したら、恥ずかしくなってムキになってるみたいに見える。  
実際、赤面はしていたが。  
それに気付いたのか、『姉様』がくすっと笑う。  
 
「ああ、お兄さん。別にからかった訳じゃないの。ホントよ?」  
 
言いながら、ロックの左乳首を軽く舌で舐られ、快感に腹筋が痙攣したのが判った。  
同時に後ろに回り込んだ『兄様』の右手が、右乳首を軽く引っ掻く。  
左手は腹筋を撫で下ろして臍の下、ベルトの上辺りを愛撫する。  
 
「…………くっ、あ」  
 
低く呻く。  
『姉様』の唇が、『兄様』の右手の指ごと右乳首を吸う。  
それに合わせて、唾液を塗り広げるように『兄様』の指も動く。  
双子ゆえに息の合った絶妙の愛撫が、じわりじわりと快楽の喫水が下がる。  
前後に挟まれていいように嬲られ、弄ばれる感覚。  
 
(till Dawn? これが朝まで続くってのか?)  
 
地獄で見る良夢ってのはこんな感じなのか? それとも天国の悪夢か?  
バカルディ以上に自分を酔わせる快感に思考を溶かされながら、虚ろになりつつある瞳をなんとなくドアに向ける。  
 
「…………覗いてんなよ、レヴィ……」  
 
合わさった視線に少女のように顔を赤くして、慌てて走り去ったホットパンツのお尻に、低く毒吐いた。  
 

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