「っ……いってぇ……」
レヴィはガンガンと痛む頭を押さえながら、むくりと起き上がった。周囲を
見回すといつもの小汚い自分の部屋。頭の中で鳴り響く騒音に悩まされなが
ら、昨夜の事を少しずつ思い出す。
仕事が一つ片付き、ブラックラグーンのメンバーでイエローフラッグに繰り
出した。その最中にエダが割り込んで来て、ロックも道連れにバカルディの
飲み比べになったのだ。ダッチとベニーは「程々にしとけよ」と言って、途
中で切り上げた。
その後は、うーん……
「そういや誰かと一緒に帰って来たような気が……」
何気なく部屋の隅に目をやり、そのままレヴィは固まった。
危機感のない間抜け面で眠っているのはロック。いつまで経ってもホワイトカラー
臭さが抜けない男。で、そのすぐ隣にいるのがエダ。武器を卸す罰当たりな暴力
協会の暴力シスター。タンクトップを脱ぎ捨て、その豊満なバストを惜しげも
なく晒している。
そして、ロックはその顔をエダの双乳に埋めて幸せそうにしているわけだ。
「うーん、もう飲めないって……」
寝言をほざきながら、エダはロックの体に回した腕にぎゅっと力を込めて抱き締め
る。ロックはロックでどことなく満ち足りた表情。
ぶつっ、と何かの切れる音がした。
「………」
レヴィは無言でホルスターから愛用の二挺拳銃を抜き取り、弾丸が入っているのを
確かめる。そしてゆっくり撃鉄を起こした。
その音に反応してロックがもぞりと身を起こす。
「あれ、レヴィ……」
「死ね」
BANG!BANG!BANG!
「うおわあああああっ!?」
超速度で飛びのいたロックの脇を銃弾が突き抜ける。
「な、何すんだ、お前!?」
「うるせえええええっ!」
さらに銃声が轟いた。銃弾が壁や床を次々と削り取って行く。バラライカや張が思わ
ず感心するような身のこなしでそれを避けながら、ロックは壁に張り付く。
「ま、待て!これは何かの誤解だ!何かは知らないけど」
「人の部屋でよりによってこんな色ボケと番ってるのが誤解か、このボンクラ!
てめえの墓には墓標はいらねえよな!?」
「るっさいなぁ……何の騒ぎよぉ」
阿鼻叫喚の中で起き上がったエダが、ぼりぼりと頭を掻いた。
「エダ……って、何だよ、その恰好!?」
エダの露になった裸身を見て、ロックは赤面して壁に張り付く。レヴィは
ロックに銃を向けたまま、ライオンでも睨み殺せそうな凶悪な視線をエダ
に向ける。
「てめえもいつまでも貧弱な裸放り出してるんじゃねえ!さっさと服着ろ!」
そしてロックに向き直り、改めて銃口を額に向ける。
「えーと、レヴィさん、話し合いを希望したいんですが……」
「遺言はそれでいいのか?」
にこやかに微笑み、レヴィは引き金を引く。が、銃弾は飛び出さなかった。
虚しい手応えにレヴィは繰り返し引き金を引くが、何度やっても同じ。先程の
乱射で撃ち尽くしたのだ。
「チッ」
「チッ、じゃねえだろ!本気で殺す気か!」
「おお、それがどうした!」
「あーっ!」
突然上がったエダの大声に、レヴィとロックの視線が向く。エダは乳房に手を
当てながら渋面で言った。
「ロック、歯形ついてるって、乳首の周り」
再度空気が凍った。レヴィの二挺拳銃からカラの弾倉が床に落ちる。そして、
レヴィはゆっくりと新しい弾倉を装填していく。
「ぶっ殺す!」
「ちょ、ちょっと待てぇぇっ!」
再び銃声が部屋の中に満ち溢れた。
何とかレヴィが収まったのはそれから数分後。
結局昨夜何があったのかは三人ともはっきり覚えてはいなかった。部屋に
帰って来てからもさらに飲んだのは確かなのだが、ボトルを三本空けたあた
りで記憶が途切れている。
ただ、ロックがエダの乳房に顔を埋めて眠っていたという事実があるだけだ。
他にも色々したようだが。証拠物件は歯形の他には首筋のあたりのキスマーク。
あっけらかんとしたエダと猛獣顔負けの殺気を放つレヴィに耐えかね、ロック
はトイレに行くと言って姿を消した。
「ふーっ……」
煙草を吹かしながら、エダはレヴィを横目で見る。ぶすったれた顔で天井を見
上げているレヴィに、エダは煙草を一本差し出した。レヴィは無言でそれ
をひったくる。
「ンな怒んなよぉ、ヤッちまったわけじゃないみたいだしさぁ」
「うるせーな、殺すぞ」
「しっかし意外だったねぇ」
にやにやしながら言うエダをレヴィは睨むが、いつものような迫力はない。
「何が?」
「いや、あの二挺拳銃が弾の残りが解らないぐらい逆上して撃ちまくるなん
てさぁ。なかなか見れるもんでもないだろ?」
「何くだらねー事べらべら言ってんだ、表出るか、お前」
凄むレヴィだが、エダはまるで意に介さずに片手であしらう。
「照れ隠しで凄んだって締まらねーって。つーかさ、マジなの、あんた?」
「何が!?」
「言わなくてもわかんだろー?」
「………」
レヴィは思わず赤面して黙り込む。そのへんの女子高生のような反応に、話
を振ったエダ自身が驚いた。
「ふーん……じゃあ、あたしは教会の方に帰るわ。ロックとはまた今度飲み
直すから」
「てめーな……」
「珍しいもんが色々見れて楽しかったぜ。そうそう」
ドアから出ようとしたところで、立ち止まりエダは首だけで振り返った。
「ヤルんなら避妊はしとけよ」
「死ね!」
レヴィの投げつけた酒瓶は壁にぶつかり、砕け散った。
「えーと、エダはもう帰ったのか?」
部屋に戻って来たロックが恐る恐る言った言葉に、レヴィは再度眉間に皺を寄せる。
「残念だろ?乳繰り合ってた相手がいなくなって」
トゲが生えまくった声音を受けて、少々気後れしながらもロックは反論する。
「いや、あれは……」
「随分気持ち良さそうにしてたもんなぁ。色々してたみたいだし。あんな色情狂の
乳に嬉しそうに吸いつきやがってよ」
「エダだなんて思ってなかったって!女がそばにいる、っていうのは解ったけど……」
「よーするに女なら誰でもいいわけだ?やらせてくれるんならさぁ」
「聞けよ!」
レヴィの嫌味をロックは強引に遮った。その口調の強さにレヴィは驚いて口を噤む。
「女だってのは解ってた……けど、俺はレヴィだと思ってたんだ。てっきり夢だと
思ってたけど」
「………」
レヴィはどう反応していいか解らず、咥えていた煙草を落ちつきなく吹かした。
ロックは静かにレヴィに近づきながら、胸ポケットから煙草を取り出す。
「火、貸してくれないか」
「ライター、じゃないよな……」
少しかすれた声で言うレヴィに無言で頷き、ロックは煙草を咥えた。寄り添うように
レヴィに近づき、煙草をそっと近づける。
煙草の先端が触れ合い、火がゆっくりと移っていく。視線が宙空で絡み合い、やがて
ロックの手がレヴィの肩に回った。微かに身じろいだレヴィだが、何かに魅入られた
ように固まったままだ。ロックの瞳から視線を離せずにいると、やがて口許から煙草
が滑り落ちた。そして、ロックの口許からも。
どちらからだったか。やがて唇の距離が近づき、触れ合った。ためらいがちに触れた
レヴィを、ロックは強引に抱きしめる。互いの唇の柔らかさに酔いしれていると、ロ
ックの舌が境界線を破り侵入してきた。
歯、舌、歯茎、レヴィの口内の全てをロックは蹂躙して行く。思うさまレヴィを味わい
やっと離れると、銀色の唾液の橋が唇の間にかかった。
とろんとした目で見つめるレヴィの肩を押し、ロックはそのままベッドになだれ込んだ。