「まーいったなあ」  
 うずと積まれた雑誌とビデオの山の狭間に頭をつっこんで、ロックはそんなことを呟いた。そこら中に散らばっているのは、いかがわしい薬屋(兼エログッズ屋)や、バラライカに頼んで譲り受けた「参考資料」だ。  
「こないだは勢いでなんとかなったけどなあ……」  
 ぶつぶつこぼしながら、適当な雑誌を山の中から引っ張りだし、中身をめくる。ブロンド美女の笑顔がお出迎えだ。ただし、性器にはごっつい拳が突きいれられているのだが。  
 やれやれ、と首を振って、紙のカップですっかり冷めた珈琲を口にする。酸味が強すぎて、飲めたものじゃないがカフェインだけは体に入る。  
「よく考えたら、次の機会があるとは限らないんだよな」  
 自分に言い聞かせるように呟く。なんだか疲れたような表情を一瞬だけ浮かべて、うーんと伸びをする。散らかった部屋を見渡して、よし、と頷き、片づけを始める。手当たり次第にベッドの下に突っ込み、残りは壊れかけのロッカーの中に。  
「ちょっと……集めすぎたな」  
 苦笑い。  
「何を?」  
「うわ」  
 飛び上がり、振り返ると見慣れた姿。乱暴に閉めたロッカーを背中に守るようにして、レヴィに対面する。  
「な、なんでもないよ、レヴィ」  
「あわてながらなんでもない……ね。それを信じる奴がいるとしたら飛び切りの阿呆だな」  
 
「……それはともかく、どこからはいってきたんだよ」  
 ロッカーに寄り掛かりながら懸命に話をそらせようとする。変なやつだな、という顔つきをしながら、女は入り口のドアを指さした。  
「あそこから」  
「鍵は……?」  
「こないだ一つ持っていったから」  
 当然のように言う口調に、諦めたような表情を浮かべるロック。一方のレヴィは、一つ鼻をならした。  
「お前、気づいてなかったのかよ……気付けよ」  
「落としたと思ってた」  
「落としたらすぐ鍵変えろ。全部持ってかれれるぞ。死んでもいいのか?……まあ、いいや。それより酒呑もうぜ。ちょいといいのくすねてきたからよ」  
 言いながら、緑色の角張った酒ビンをロックの目の前まで掲げて見せる。ラベルには、No.10の文字。  
「おお、タンカレーのNo.10じゃないか」  
 どうだ、とばかりに胸を張るレヴィ。その横でロックは冷蔵庫へ一目散。  
「氷用意するよ。冷やして呑もう」  
「おうよ」  
 
 レヴィの抱えてきた酒びんは三本。いつのまにか二本が空になり、キンキンに冷やした最後の一本を、舐めるように二人は愉しんでいた。  
 冷凍庫に直につっこんであったおかげで、ねっとりと舌にからみつくようで、清冽なうまさを伝えてくれる。  
「だからよぉ、おめぇは甘いって言うんだよ」  
「性分でね。ただ、レヴィ……」  
 話がヒートアップするにしたがって、酒の勢いも重なって、レヴィはぶんぶん腕を振り回す。一方のロックはそんな彼女をみて、にこにこ笑っていた。  
「そういえば、おめえ、里帰りとかしねえのかよ」  
「……死んだ人間がそこらを歩き回る訳にはいかないだろ」  
 タバコを咥えながら、それをぴょこぴょこ動かして、これだけはだるそうに答える。  
「心残りとかあんだろ……女とかよ」  
 きししし、といやらしい笑みを浮かべてみせるレヴィ。そんな彼女の表情を受けて、軽く苦笑しながら、男の視線はどこか宙にさまよっている。その瞳はきっと過去のどこかを見つめているのだろう。  
「無いとは言わないさ」  
 その口調の、その表情の中に何を読み取ったのか、女は不意に張り付けていた笑みを収めて、顔をひきつらせた。それまで感情ののっていた瞳が、すうっと暗闇に包まれる。  
「そうかよ」  
「何を怒ってるんだよ」  
「別にー」  
 言いながら、タバコを灰皿でねじりつぶし、ジンをあおる。明らかに機嫌わるいじゃないか、と思ってもさすがに口に出したりはしないロック。  
 
「ああ、でも日本の女には未練ないのかもなあ。あれだろ、日本人てな、白人の女が好みなんだろ、みんな」  
「はあ?」  
「姐御にはでれでれだしなあ、なあ、ヤポンスキ」  
 あの女性につれない対応ができる人間など少ないと思うのだが……すくなくとも現世には。そう思っても、どうしようもない。目の前の女性もそれに劣らず危険なのだから。  
「絡むねえ」  
 レヴィのショットグラスにジンを注いでやりながら、困ったように言う。その液体の動きを、闇い目で見つめる女。  
「……さっき隠してたエロ本も表紙はみんな白人だったぜ」  
 血の気がひくというのはこういうことを言うのだろう。一瞬にして真っ白になるロックの顔。  
「み、みてたんだな。あれは違うんだよ」  
「……別にあたしは責めてるわけじゃねえよ」  
「責められてると思ってる訳じゃないよ。ただ……違うものは違う」  
 不意に一声、ハッと笑い声をあげて、レヴィはパタパタと手を振った。  
「ワリィワリィ。別に、いじめたかったわけじゃねえよ。たまたま見たからからかったんだって」  
「違うってば」  
「しつけえな、おめえも。いいってば」  
 
「違うって言ってるだろ」  
 タバコを取り出そうとしていたレヴィの左手をつかみ取り、力を込める。  
「話を聞きなよ、レィディ。別に俺は、売春婦どもの裸なんぞ拝みたかったわけじゃないんだ。あくまで参考資料に集めてきたんだよ」  
「はん?資料?」  
「そうだよ」  
「…………何の?」  
 数秒固まったあとで、そう訊ねるレヴィ。訊かれたほうのロックはほうけたような表情で、しばし考える。それを明らかにするのは、よけいにまずいことなんではなかろうか。  
「えーと」  
「……ふん」  
 つまらなそうに鼻をならされ、つい頭に血を登らせたのが運のつき。  
「今度レヴィを抱くときの参考資料だよ!」  
「……」  
 あ、と口をつむぐロック。  
「ふうぅん」  
「あ、ほら、なんていうか、やっぱり、それなりに喜んでもらわないとつまらないわけで……って俺、何いってんだ。そうじゃなくて、いや、そうじゃないわけじゃないんだけど、ええと……」  
 まだ掴まれていた腕を、ゆっくりと逆に包み込むように、握り返すレヴィ。その柔らかで、温かな感触にロックは、口をつぐんだ。背筋にぞくりと疼く何かがある。  
「アタシを喜ばせようとしてたんだ?」  
 ねめるように見上げる瞳。酔って上気した膚から漂うほのかな甘い、複雑な香り。掌や指の間をねぶるのは、普段銃把を握り、銃爪をひき、人の命を一瞬にしてゴミ屑と同じにしてしまう指。  
「それともいじめようとしてたのかな」  
 そのセリフを、ロックは鐘の鳴るような音といっしょに聞いていた。  
 ずいぶんうるさい音だと思ったそれは、自分の心臓の奏でるビートだった。  
 
 グラスをあげて、透明な液体を彼女は飲み干していく。赤い赤い唇が開き、強い酒の中で踊る朱い舌が誘うようで。  
 飲み干した後で、舌が唇をゆっくりとねぶる。その様をじっと見つめていた彼は、見つめ返す女の瞳に気づき、あわてたように灰のおちそうだったタバコを灰皿にこすりつける。  
 ごくり、とのどが鳴った。  
 レヴィの指がひょいっと持ち上がり、ちょいちょい、と手招くように動く。つられて上体をテーブルの上に屈み込ませると、頭を押さえ込まれた。  
「何っ」  
 言いかけた唇をふさぐ粘膜の柔らかさ。強引に割り開かれた口腔に、灼熱の液体がすべりこむ。注ぎ込まれた酒を嚥下し、焼けるような喉の熱さと、それとはまた違う体の熱にロックは相手の舌をむさぼらずにはいられなかった。  
 酒にまみれた二つの舌が、ねっとりと絡まり、つっつき、ひっぱりあう。歯列の裏をこすり、舌の裏側を舐めあげ、歯茎をいらう様に舌がうごめく。  
「あいっ、かわら、ず、キスは、うめえな」  
 切れ切れの言葉が、唇の端からもれる。上唇だけをくっつけあったまま、ロックはにやりと笑みをもらした。  
「キスしかほめてくれないんだ」  
唾液でてらてらと濡れ光るレヴィの唇を、ゆっくりとなめまわす。ちろちろと切なげに出てくる彼女の舌から逃げるように。  
「ほ、める、だけまし、だ、ろ」  
 憎まれ口を叩く口から、唇を離すと、一瞬「あ」と女の声がもれる。柔らかく片方の掌で頬を包むように彼女の顔を支え、顔中に降らせる、ついばむようなキス。  
 唇の端のごく近くまで寄って、唇には触れずに離す。  
 そんなことを何度も繰り返し、顔中がキスに埋まる。  
 
「顔、じゅうっ、ベタベタになるっ、だろ」  
 もどかしげに体をゆするレヴィ。あいかわらず左手は押さえられているが、本気で動けば動けない訳はない。ただ、なんとなく意地悪されているような気分で、体を動かさずにいられないのだ。  
「顔中?体中だよ」  
「おまえ、なあっ」  
 照れたように叫ぶレヴィに、再び激しく口づける。  
 片手を強く握りあい、お互いに、空いた手が、相手の髪の毛の間や、肩口や、背中や、いろんなところをまさぐっている。  
 二人とも中腰のまま、レヴィなどはイスを後ろに蹴倒してしまっている。ロックの愛撫が進むに連れて膝が笑い始めた。  
「そ、そろそろ、ベッド……」  
 服の上から、己の胸……特に乳首を入念にいじくる男の手をやさしく押さえて、女は普段とは違う微笑を浮かべる。その瞳の中に揺れる情欲の炎が、死んだような闇を少しでもあたためてくれるような気がして、ロックは余計にそれが欲しくなる。  
「だめ」  
 押さえた手を、上から包み込み、レヴィ自身の手で胸をもみしだかせる。さらに、テーブルの下で足をのばして、彼女の脚の合間にもぐりこませる。びくり、と彼女の体が震えるのを感じた。足先が、ゆっくりと太股を登っていく。  
「だ、だって、ほら、テーブル……んぅ、邪魔だろ」  
「あ、そうか」  
 
言うなり、テーブルをひっくり返す。灰皿も吸殻もグラスも何もかも大きな音を立てて、床にぶちまけられた。驚いたレヴィが呆然と床とテーブルを見つめる。  
「おま……ひゃっ」  
 ぐい、と強くひっぱられて、次の瞬間には、ロックの腕の中にいた。両手で腰を抱えられ、足がほんの少し、宙に浮いていた。  
「乱暴者」  
「……悪い仲間がたくさんいるからね」  
 つりあげられたまま、口をふさがれる。強く強く抱きしめられているせいで、乳房が押しつぶされて、敏感になった乳首がこすれる。落ちそうな不安感から、レヴィも相手を強く抱きしめた。  
 ああ……コイツの背中、結構広いんだな。  
 そんなことを思う。  
 ほんの少しだけ、嬉しかった。  
 
ロックの体に掴まったまま、レヴィは裸に剥かれた。ガンベルトが邪魔なおかげでTシャツは首のあたりにわだかまっているが、他は全て、一枚一枚はぎとられて床に放り投げられている。  
 肌の上を、ロックの指が、舌が、唇が、こすりつけられる顎先が、手の甲や爪の先までが、蠢き、すべり、踊っている。一つ一つの感覚が、体の中から掘り起こされていく。  
 足と手で、尻たぶを割り開かれ、敏感な部分が外気にさらされる。  
「くうっ」  
 まだ直に触られていないのに、どろりとあふれだすほどに蜜が溜まっているのに自分で気づき、レヴィは戦慄した。ロックはそれに気づいているのだろうか。  
 気づいていてほしくないと思いつつ、気づかれているだろうという絶望のような確信がある。  
 だからこそ、彼はけっしてそこに触れようとしないだろうから。その一番敏感な部分に触れることなく執拗に愛撫を繰り返し、自分を追い詰めていく男の心を感じ、それが体の芯をしびれさせた。  
 くちゅり……ちゅぷ……ぬぷくっ……。  
 意識してみれば、尻を揉まれるたびに、小さな音がもれている。耳に残るいやらしい音が。  
 
「口開けて」  
「ん……うんぅ」  
 ぼんやりと彼の言う通りに口を開く。その顔をロックが見おろすようにした。彼の瞳はとても淫らな目をしていた。そして、それに写る自分も。  
 ほんの少しだけ離れた男の口の中から、ぐじゅぐじゅと白濁した唾液が垂らされる。口の中に次々落ちてくる、あたたかなそれを、舌で懸命に絡め捕るレヴィ。はずれて頬に落ちようとする唾も、おいかけて口の中に収めた。  
「んぅ……」  
「おいしい?」  
「んなワケあるか」  
 ウソだった。そんなことがあるはずがないのに、何故かロックの唾液はとても甘くておいしく感じた。  
「そうかい?俺はレヴィのどこでもおいしいけどな」  
 照れもせずそんなことを言う。普段のおどおどした風情はどこにいってしまったのだろう。レヴィは少しだけ胸が高鳴るのを感じた。  
「人を食い物みたいに言うなって……あぐっ」  
 肩口にいきなりかみつかれた。少し力を込めたくらいだから、痛いというよりは驚きからの叫びだが……おそらく、痕は残るだろう。  
「コラ、食うな、食うな」  
 腕に力を込めて体を離そうとしたら、今度は乳房を頬張られる。乳房全体をほおぼって、そのまま噛むかな、と思ったら、熱い息を全体に吹きかけられた。  
 
「くう、な、って……あ……くぅあ……」  
 唇が乳房を押しつぶしている。歯が軽く乳首の付け根にあたって、歯の列がゆっくりと、そこをこする。しかも上下の歯で逆方向にだ。  
「んぁう……」  
 乳首の先をとがった槍の穂先のような舌がつつきあげる。好きなように乳首がなめられ、ねじられ、つぶされる。  
「そこ……あうっ、好きだよ……な、おめえ……あぅうん」  
 にやりとした笑みが返ってきた。自分も好きなんだろ、とその目が言っているようで、一人赤くなる。もれる声すら止められない。  
「うは……ふ……っ、あ……あ、あ、あ」  
 空いてるほうの乳房も手でもみしだかれ、もう一つの手が、ついに股間へと伸びるのを感じる。毛の先を弄ぶように細かく動くその指。  
「あふ……」  
 触れるか触れないかのところを、ずっと動いているその指に、こらえきれなくなって腰が動き出す。  
 こすりつけようとしたその瞬間。  
「え……」  
 不意に体を離され、床の上に立たされた。両腕も外されて、なぜかにっこりと微笑まれる。  
「そろそろ、銃外さないとね」  
 そう言われて、まだ銃をさげていることにようやくの様に気づくレヴィ。だが、下ろされた理由がそれでないことも彼女はわかっている。  
 
「あったく……」  
 さすがにいらついて、銃をはずしたあとで乱暴にシャツを脱ぎ捨てる。唾液と汗でべとべとな服が、ぱさり、と床に落ちた。  
「レヴィ」  
 不意に名を呼ばれ、声のほうに向く。男はその姿をしっかりと目に焼きつけた。  
 まとめていた髪をほどいて、流れるようなその髪が、肌の白さを際立たせ。  
 張りのある膚、形よくつんと上をむいた乳房。見事にくびれた腰。尻から足に流れるラインの美しさ。  
 その膚の全てが汗でぬめ光り、上気しつつ豊かな芳香を巻き上げている。  
 美しい、と正直に思った。女豹の如くに。。  
「綺麗だ」  
「ば……馬鹿野郎」  
 それでもレヴィは、その体に向けられるロックの視線の熱さを、確かに感じていた。  
 強く強く感じていた。  
 
 視線に気恥ずかしくなって、ベッドへ入る時、つい胸と股間を手で隠してしまい、そんなこと、わざと男を誘う時にしかしたことなかったと自分で気づいてさらに恥ずかしくなる。  
 もちろん、ロックの手で両手とも剥がされてしまった。そのまま片手で両手首をまとめられて、腕を拘束される。もう片方の手と足を器用に使って、レヴィの足を割り開くロック。  
 さっきからじらされっぱなしのレヴィが切なげに腰をゆらす。びっしょりと濡れたそこに近づいては離れて行くロックの指が恨めしい。けして快感を途切れさせないものだから、冷めてる暇もないのだ。  
「触られたいの?」  
 頬にかかるロックの息も荒い。自分に興奮してくれているのだ、と思うとレヴィは嬉しく感じた。  
「ほんっ……とは、ロック、が、さわ、り、たいん、だろ」  
 弱々しく憎まれ口。本当はもう全然余裕なんてない。ロックに手を掴まれてなかったら、自分でいじくり始めてしまったかもしれない。  
「そうだよ」  
 言うなり、指を猛然と襲いかからせるロック。クリトリスに、めくれあがった陰唇に、そしてたっぷりと蜜をたたえた柔らかな肉の隧道に。指を踊らせる。  
「うはふぅぅうううう!!」  
 レヴィの体が反り返る。突然襲ってきた快楽に、感覚がかき乱される。  
 頭の中で火花が走ったような感覚がして、体中の神経が一点に集中する。あふれだす刺激に脳がついていけない。何もかもわからなくなって、彼女は無理矢理ロックの手をふりほどくと、彼の体に夢中ですがりついた。  
 
 きつくきつく抱きしめられて、少し驚いた様子のロックは、それでも手を止めることなく、空いた手で髪の毛をなでながら、リズミカルに彼女を攻撃する。  
「はぁふ、あう、あ、あ、いや、いや、ロック、いやぁ」  
 包皮をむき露わになったクリトリスをこすりあげる親指。溢れ出てくる愛液を陰唇なすりつける小指と人指し指。残りの二本は熱泥のようなうねくな肉壁に埋め込まれ、こすり、かきまぜ、つつき、熱い蜜をかきだし続ける。  
 ぴしゃ、くちゃ、にゅる……  
「ああっ、くる、くる、うぁあああ、いやあ」  
「こうやってレヴィを目茶苦茶にしたいんだ」  
 耳元でささやく声に応える余裕もない。じらしにじらされていたせいで敏感になっていたところを無茶苦茶に刺激されたせいで、体が震えるくらい気持ちいい。いや、気持ちよすぎて怖くてたまらない。でも……それでも……。  
「けどさ」  
 ぴたり、と指が止まった。突然のことに信じられない、という風情で男の顔を見上げるレヴィ。  
「レヴィが触られたい訳じゃないんだったら、やめとくよ」  
 ずるり、と指をひきぬこうとするロック。どぷりと音をたてて蜜があふれた。  
「ヤーーーーー!!」  
 ガリ、っとロックの背中に爪をたてて叫ぶレヴィ。腰をおしつけて、抜け出ようとする指をおいかける。  
「だめ、だめ、続ける。続けろ。なあ、もう少しで、ロック。抜いたら殺すぞ。お願いだから。お願い。さわって、いじくって、ぐちゃぐちゃにしてぇぇぇええええ」  
 自分でももう何を口走っているのかわからない。ただ勢いにまかせて、相手の体をがくがくとゆさぶる。そうして、子供のようにイヤイヤと首を振った。  
 目尻に涙まで浮かぶのを見て、ロックはさすがに驚いた。  
 
「殺されたくはないね」  
 指が動き始める。女の顔が淫蕩に笑み崩れた。ロックの頭を自分の胸に押しつけるようにしてかき抱く。  
「ああう、いい、いいよぉ。ロック。ロック。クルヨ。キテル。キテル。お願い、ロック。なあ、ロック。きもち、よく、あぐう、なり、たいよお」  
 ぷちゃ、ぐちゅぷ、にゅぷ、ぴちゃ、ぐちゃり……。  
 粘膜がかき回される音が響く。もはやレヴィの口からは意味すらなさぬ言葉の群れが飛び出している。ロックはただただいとおしげに、たのしそうに体を揺らす。  
「ぐうう。ファック、さっく、ガッデム、ジーザス、あぐふぅぅうう」  
 ロックの指がひときわ力強く動く。指を一本にして、深く深く突きいれた。  
「いっやああああああ」  
 ガクガクと体が震え、強く反り返る。ロックの体ごと持ち上げかねない勢いで体がつっぱり、足の先まで緊張する。  
 動きがとまり、がくり、と不意に力がぬける。きつく抱きしめていた腕が、だらんとたれた。  
「はふ、あふぅ……」  
 自分を見つめる目にきづくレヴィ。顔をすこし持ち上げて、ちゅっ、と軽く唇を重ねた。  
「気持ちよかった?」  
「……ん、うん……」  
 目を伏せて応える。ふと己の中で男の指がかすかに動くのを感じた。  
「あふっ」  
 一度イッたせいで、敏感になりすぎていた。ほんの少し動かされただけで、体中に電撃が流されたような気がした。  
「ロ、ロック、あたし、もうイッたから……」  
 
「レヴィ」  
 ゆっくりと男は唇の端を持ち上げた。それと同時に指がごくゆっくりと動き出している。  
「うぁ。あぁ。ロック」  
「まさか、一度で許してもらえると思ってたわけじゃないだろ?」  
 その言葉に言い知れぬ恐怖と喜びを感じながら、レヴィは再び快楽の波に溺れていった。  
 
「この瞬間が一番間抜けだよな」  
 一戦終えて、ゴムを手早く外し捨てているロックを眺めやり、レヴィはけだるげに呟いた。汗でぺたりとはりついた前髪がなんとも崩れた感じで怪しい雰囲気。  
「しかたないだろ」  
 苦笑しながら、ロックはベッドに戻りこしかける。その腰にレヴィの手がのびた。ロックの体を支えに上半身を彼にまきつけるようにして持ち上げる。  
「綺麗にしてやるよ」  
 するすると蛇のようにロックの体にまとわりつきながら、股間に顔を埋めるレヴィ。途端、再び熱い肉の中に自身が包まれるのを感じる。ぴちゃぴちゃと猫が水を飲むような音といっしょに、一度は静まった快楽の波が、股間から這い登ってくる。  
「うぁ……」  
 予想もしていなかった行為に声がもれる。ちろちろと敏感な場所をねぶる舌の感覚に、腰が抜けるような気持ちよさを感じる。  
「別に……ん、ゴム、つけな、ぴちゃ、くても、あふ……いいんだぜ」  
 硬度を取り戻し、再び頭をもたげはじめるロック自身をくわえこみながら、声をもらす。  
「そういわけ……に、いか、ないだろ」  
 たっぷりの唾液と共に奥まで飲み込まれる。喉で一番敏感な先端をこすりあげられ、舌がねっとりと軸にからみつく。  
 ひざまずくような態勢のれヴィの髪の毛を無心になでるロック。感覚と慾情に、心と体が支配される。  
 だから、口が離れ、今度はその細い指が絡みついてきた時、そのセリフを聞いても、過剰に反応しなくてすんだのかもしれない。  
「いいんだって……どうせ、もう妊娠なんかできねえんだから」  
 
 彼はレヴィの顎に手をかけると、もちあげるようにした。レヴィも逆らわず、体を引き上げる。手はあいかわらずロックの猛るものをこすりあげている。  
 何も言わず口づけた。途端にレヴィの舌が、ロックの唇を割り入ってきた。こすりあげ、くねり、つかみあげるのと同じリズムで舌が口の中を蹂躙する。  
 応戦することなく、口の中を動くに任せて、ロックは彼女の体をかき抱く。強く、強くきしみをあげるほど。  
「あうぅっ……」  
「レヴィ、レヴィ、レヴィ、レヴィ……」  
 名を呼んだ。何度も何度も。抱きしめながら、見つめ合いながら。  
「なあ……ロック」  
 吐息のように、男の耳に囁く。悪魔のささやきに含まれた硫黄の毒のように甘く。  
「あたしを、支配したい?」  
 唐突な問いに、一瞬驚いたような顔で見つめる。その表情をそのまま写すような、闇い、闇い瞳にぶつかって、彼は慾情とはまた別の感情が心の中でふくれあがるのを感じた。  
 こくり、と頷かせたのはその思いだったのだろうか。  
「首……首を絞めてくれないか?……そうしたら、"スイッチ"が入るから」  
 男の動きが止まる。女の首筋を見つめた。刺青の入ったその首を。  
 ロックの腕が、ゆっくりと、しっかり見なければ気づかぬほどゆっくりと動き始めた。しかし、それは、確かにその視線の先へ、細い首筋へと向かっていた。  
 震えながら、ロックの手が首を包み込む。どくんどくんとうずく鼓動が掌から感じられた。  
「ロック……」  
 もれた声は、この女には不釣り合いなくらい小さく震えていたけれど。  
 確かに、確かに歓喜の色に塗りつぶされていた。  
 
 
第一話「暝い月曜日」終  
 
 
 
    第二話「鏖の雄叫びを上げ戦いの犬を野に放て」 Coming Soon  
 

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