「一体、いつまで待たせる気だ?」  
 
 
 
キリコは僅かに苛立ちながら、目の前のソファに腰掛ける少女に向かって問いかけた。  
 
 
 
「そんなのピノコらって知やないわのよさ」  
 
 
 
問いかけられたピノコは面倒くさそうにキリコを見ると、不機嫌そうにポツリと答えを返した。  
 
 
 
 
 
静まりかえった岬の診療所では、主の帰りを二人の人物が今か今かと待ち侘びていた。  
 
ひとりは、彼の最愛の妻、ピノコ。  
 
もうひとりは、彼の最大の宿敵、Dr.キリコ。  
 
ブラック・ジャックを挟んで対極を為す二人。  
 
何故、彼等がブラック・ジャックの帰りを一緒に待つことになったのか、その訳は一本の電話にあった。  
 
 
 
夜の帳降りる頃。  
 
電話のベルがけたたましくリビング中に鳴り響いた。  
 
何時もの様に仕事の依頼か何かの電話だろうと、受話器を手にしたブラック・ジャックだったが、彼の予想に反して電話の相手は彼の最も毛嫌するDr.キリコだった。  
 
彼がブラック・ジャック邸に電話をするのは、決まって彼の患者をブラック・ジャックに横取りされた時である。  
 
何時もと同じく、自分の患者を取ったの取らないだの、キリコとあまり噛み合わない会話を交わし、一方的に電話を切られ、ブラック・ジャックは不愉快極まりない状態に陥っていた。  
 
こういう時はそっとしておくに限る、とブラック・ジャックの事を知り尽くしていたピノコは、イライラと煙草を吹かす彼を見て見ぬ振りをしていた。  
 
それから間もなく、再び電話のベルが鳴り、ピノコが電話を取ると、電話の相手は今度は先程キリコが話していたキリコの患者の肉親からだった。  
 
死にたいと望む患者と違い、患者の家族はほんの少しでも生きる望みがあるのなら彼に助けて欲しい、と電話の向こうで泣きながら訴えている。  
 
ブラック・ジャックに伝えると、とりあえずその患者に会いましょう、ということになり、ブラック・ジャックはピノコに行き先を告げず、診療所を後にしたのだった。  
 
慌ただしく出ていった彼に、ピノコはひとつ溜め息をついた。  
 
鉄砲玉の様な彼に慣れているピノコは、普段と変わりなく家事を済ませ、彼がいつ帰ってきてもいいように食事の支度も全て終えていた。  
 
 
 
そんな時に………  
 
 
 
扉を蹴破る様に、キリコが診療所に訪れたのだった。  
 
どうやらブラック・ジャックが彼の患者を隠していると睨んだらしく、ブラック・ジャックへ抗議に訪れたのだった。  
 
彼の読みは間違ってはいなかったが、時、既に遅し。  
 
ブラック・ジャックは依頼主に会いに行った後で、診療所にはブラック・ジャックの助手兼オクタン、ピノコの姿しかなかった。  
 
突然のキリコ訪問にピノコは驚きを隠せないでいたが、直ぐに気持ちを切り替えてブラック・ジャックの不在を理由にキリコには帰って貰うことにした。  
 
が、しかし、子供の使いじゃあるまいし、ここで引き下がっては男が廃る、とピノコが止める隙もなく、キリコはズカズカと無遠慮に上がり込み、リビングのソファに腰掛けたのだった。  
 
こうなっては梃子でも動きそうにないキリコに、ピノコは渋々滞在を許すことにしたのだった。  
 
閑話休題。  
 
 
 
「おい、お茶ぐらいだしてもいいんじゃないか?」  
「お客様じゃないのにお茶なんか出すわけないじゃないよのさ」  
「……親に似てクソ生意気なガキだ」  
「先生は親じゃあありまちぇん!そえに何度も言うけろ、ピノコはガキじゃないよのさっ!!」  
「はい、はい、わかったからお茶」  
 
 
 
一々シャクに障るよのさ、と言いながらもピノコはキリコにお茶を入れてやった。  
 
我が物顔で寛ぐキリコにイライラしながら時計を見ると、時計の針は既に23時を回っていた。  
 
今の時点でブラック・ジャックからは何の連絡も来ない。  
 
 
(この分では今夜は帰らないかもしれない)  
 
 
そう思い、ピノコはキリコへ帰宅を勧めることにした。  
 
 
 
「もう遅そいかや今日は帰れば?先生、帰らないかもちれないし……」  
「いや、奴に一言伝えるまでは帰らんっ!!」  
「れも……」  
 
 
 
その時、静かなリビングに電話のベルが鳴り響いた。  
 
 
 
.  
 
飛び上がる様にソファから立ち上がると、ピノコは電話の受話器に手を掛けた。  
 
 
 
「モチモチ……あっ、先生!!ヒドイよのさ何の連絡もくえないれ……えっ?ウチョ!?帰れないの!?なんれ!?あっ、ちょ、せっ、先生っ!!」  
 
 
 
ピノコの叫びも虚しく、ブラック・ジャックからの電話は途絶えてしまった。  
 
その様子を黙って見ていたキリコだったが、電話に向かって悪態雑言を喚き散らすピノコに近寄り、思わず少女に声をかけてしまった。  
 
 
 
「なぁ、嬢ちゃん……」  
「なんよ!?アンタも聞いてたれちょ!?先生は今夜は帰らないわよの!!」  
「…………」  
 
 
 
烈火の如く怒り狂うピノコに、キリコは言葉を失った。  
 
怒りたいのはキリコとて同じ。  
 
しかし、そこは大人である手前、冷静さを装い、キリコはピノコの肩に手を置いた。  
 
 
 
「まぁ、落ち着いたらどうだ?奴さん、明日には帰ってくるんだろう?」  
 
キリコにしては珍しく優しい言葉を掛けたのだが、そんな事をピノコがわかる筈もなく、肩に乗るキリコの手を思い切り払い退けた。  
 
 
 
「うるちゃいっ!アンタにはカンケーないわよのさっ!!用がないなや、さっさと帰ってっ!?」  
「…………」  
 
 
 
関係ないも何も、今の今までブラック・ジャックの帰りを待っていたのは、自分の患者を彼に横取りされ、その事に対して抗議するためだ。  
 
しかも、どうやらブラック・ジャックの行き先は問題の患者の所のようで、はっきり言って関係はある。  
 
さすがのキリコもピノコの一言にカチンときた。  
 
ピノコの小さな肩を掴まえると、驚くピノコの顔を覗き込んだ。  
 
ピノコを捕える瞳の輝きは、刃の様に鋭く光っていた。  
 
 
 
「……いい加減にしろよ?俺だってかなり頭にきているんだぜ?ここまで奴にコケにされて黙ってると思うか?」  
 
猛禽類の様な眼差しに捕えられ、ピノコは背筋がゾクリとした。  
 
頭の何処かで『この男は危険だから速く逃げなければ』と思うのだが、体が言うことを聞かず、身動きが取れなかった。  
 
 
 
「そ……そんなこと、ピノコのせいじゃないもん……」  
「そう、嬢ちゃんのせいじゃない……悪いのは全てブラック・ジャックだ……」  
「きゃあっ!?」  
 
 
 
一瞬、自分が何をされたかピノコはわからなかった。  
 
背中に鈍痛を感じ、開いた視界には天井を背にしたキリコの顔が見えた。  
 
 
 
「な…なにを……!?」  
「奴は俺から何もかも奪っていく……だから俺も奴の大事なモノを奪う……」  
「え……?や…やっ……!」  
 
 
 
キリコは襟元のタイを解き、ピノコの体をうつ伏せにすると、両手首を後ろで交差にして解いたタイで抵抗出来ない様にピノコの両手をしっかり縛りつけた。  
 
 
 
「いやぁっ!はなちてっ!!」  
「諦めるんだな」  
 
必死に逃げようと試みるピノコを軽々と捕まえると、仰向けに返した。  
 
怯えるピノコの上に馬乗りになり、キリコはスラックスのファスナーを下ろすと、中からまだ体積の増していない肉の塊を取り出した。  
 
 
 
「やっ!やらぁっ!!」  
「うるさい口だな……まずはその口で扱いてもらおうか」  
「やっ……!んっ、ん……っ!」  
「歯を立てるなよ?少しでも噛んだりしたらどうなるかわかってるだろうな?」  
「うっ、ぐぅ……うっ……」  
 
 
 
嫌がるピノコの頭を掴むと、無理矢理少女の口を開き、自身の欲望に満ちた塊をねじ込んだ。  
 
「ふぅ……うっ、んっ、んっ、くぅ……っ」  
 
 
 
息苦しさと、ブラック・ジャック以外の男のモノを食わえさせられている屈辱感に、ピノコは涙が溢れるのを止められなかった。  
 
そんなピノコの様子を全く気に留めないキリコは、ピノコの口内がまるで女性器であるかのように、容赦なく挿入を繰り返した。  
 
挿入を繰り返すうちに、彼の欲棒は固さと体積を増してきた。  
 
キリコの牡の欲望を深く突き入れられる度に、ピノコは吐き気が喉をこみ上げ一層涙が溢れてきた。  
 
 
 
この苦しみが早く終わってしまえば楽になるのに……  
 
 
 
ピノコがそう思った時、キリコはピノコの口内から欲望にまみれた肉の棒を引き抜いた。  
 
 
 
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」  
 
 
 
ようやく屈辱から解放され、ピノコは荒く息を吐いた。  
 
これでキリコの気が済み、戒めを解いてくれたら、と淡い期待を抱いていたが、キリコの牡はまだ達しておらず、衰えることなくピノコの唾液でヌラヌラと妖しい光を放っていた。  
 
 
 
「嬢ちゃん、口で奉仕するのが中々上手だな」  
「も……やぁ……ゆゆちて……」  
「おいおい、このままで終わると思ってるのか?まだまだこれからが本番だ」  
「えっ……やっ、やめっ……!!」  
 
 
 
ピノコの期待も虚しく、キリコは彼女の足の間に体を割り込ませると、ピノコの少し短めのスカートを捲り上げた。  
 
否応無しにピノコの履いていたショーツに手をかけると、あっという間に剥ぎ取った。  
 
 
 
「いゃあ──っ!!」  
「うるさい口だな、これでも食えてろ」  
「んっ!んんっ……!!」  
 
 
 
ピノコの履いていたショーツを掴むと、キリコはピノコの口の中にそれをねじ込んだ。  
 
再び息苦しさがピノコを襲い、それ以上に今から起こるであろう行為に、ピノコは恐怖で体が震えた。  
 
大きく脚を開かれ、幼い性器が蛍光灯の下で晒されている。  
 
「嫌がるわりには、嬢ちゃんのココはヌルヌルしてるぜ?何時もブラック・ジャックのモノを飲み込んでるんだろ?大したエロガキだな……」  
「ん──っ!んんっ!んぅん……っ!!」  
 
 
 
ピノコの柔らかな花弁を指先で広げ顔を近付けると、キリコは潤いを湛えた蜜壷の中に舌を這わせた。  
 
それ自体が別の生き物の様に蠢き、ピノコの中を掻き回した。  
 
その度にピノコの小さな体が大きくのけ反り、下半身を中心に沸き起こる快感に耐えきれなくなっていた。  
 
心は拒絶しても、体がキリコの愛撫を受け入れてしまう。  
 
 
このまま快感に身を委ねたらどんなに楽だろうか……  
 
だが、ピノコの理性は失われず、反って感覚を研ぎ澄ましていた。  
 
ワザとピノコに聴こえる様に、ジュルジュルと音を立ててピノコの中から溢れる蜜をキリコは口に含んでいた。  
 
透明な蜜がピノコの花弁や臀部を濡らし、淫らな光を放っている。  
 
キリコは一旦、ピノコの柔らかな花弁から顔を離すと、口周りの蜜を拭った。  
 
 
 
「タップリ潤ったな……それじゃあ、本番に入るか……」  
「んっ、ふぅっ…!!んんっ……!!」  
 
 
 
今から我が身に降り掛かる恐怖に、ピノコは身悶え、後退りをしようとした。  
 
だが、大人の、しかも男のキリコに敵う筈もなく、あっさり捕まり、腰を掴まれたかと思うと無理矢理股を左右に広げられた。  
 
 
 
「うぅっ!!んんっ!」  
「観念するんだな、恨むなら奴を恨め……」  
「んっ!んん───!!」  
 
 
 
キリコは嫌がるピノコの花弁に己れの反り返る牡を押し当てると、ピノコの中に一気に突き刺した。  
 
一瞬の出来事に、ピノコは体が強張り、緊張と恐怖と屈辱に体中が震えた。  
 
 
 
「なんだ、入れただけでもうイキそうなのか?よっぽどスキモノなんだな」  
 
入れただけで動こうとしないキリコを、ピノコはありったけの思いを込めて睨みつけた。  
 
口を塞がれ、身動きの取れない彼女には、それが精一杯の抵抗だった。  
 
 
 
「そんな色っぽい眼で睨まれると、余計可愛がりたくなるねぇ……それとも、ソレを期待してるとか?」  
「んんっ!んっ!ん───っ!!」  
 
 
 
いきなり、キリコが動き出した。  
 
ゆっくりとだが、ギリギリまで引き抜き、そして思い切り突き入れる。  
 
挿入前に散々嬲られたピノコの秘部は感度がかなり良くなっており、少しの摩擦で体中に激流が走るくらいの快感を感じた。  
 
 
 
「凄い締め付けだな……それほど気持ちいいのか?」  
 
 
 
キリコの腰の動きは徐々に速まり、ピノコの中に楔を打ち込む度に、肉がぶつかり合う音と粘着質の卑猥な音がリビング中に響いていた。  
 
結合部も、ピノコの臀部から床まで、タップリの蜜が飛び散り、それに伴い挿入の滑りがスムーズになっていた。  
 
「ふ……っ、うぅ……っ!!」  
「ほら……もっと、いい声で鳴いてみせろ」  
「はぁ……っ、やぁ、やぁっ……あぁあ……っ!!」  
 
 
 
ピノコの口から枷を外すと、キリコは腰の動きを速めた。  
 
結合部分がピノコに見える様に高々と脚を押し上げると、ピノコの更に奥深く楔を突き刺した。  
 
 
 
「ひぃっ……!!いゃあっ!!」  
「嫌とか言いながら、しっかり奥まで喰わえ込んで離さないじゃないか……かなり奴に仕込まれてるんだな……まだガキのクセにこんなに淫乱で将来が思い遣られるな……」  
「あっ、あっ、あぁっ!!」  
 
 
 
グチュグチュと卑猥な音を立ててピノコの中を掻き回すキリコに、ピノコは翻弄されていた。  
 
ブラック・ジャックに女として開花された体は、自分の意思とは関係なく、キリコの動きに合わせて悶えていた。  
 
ブラック・ジャックのソレに比べ、幾分細いキリコのモノは、彼より長さがあるらしく、ピノコの未知の奥までしっかり届き、ブラック・ジャックとはまた違う快楽をピノコにもたらしていた。  
 
彼の思惑通り、全てを奪われてしまいそうな恐怖がピノコの脳裏を横切り、ピノコは心の中で必死に愛しいブラック・ジャックの名を呼び続けた。  
 
そうしなければ、心が砕けてしまいそうだった。  
 
ギュッと閉じた瞼から、ポロポロと涙の粒が流れ落ちる。  
 
ブラック・ジャックに対する申し訳なさと、自分の不甲斐なさと、キリコに対する憎しみと、それら全てが消えてしまいそうな快感が、波の様に押し寄せる。  
 
 
(いっそ、狂ってしまえたら……)  
 
 
そんなことを考えて瞳を開いた時、一瞬、キリコと視線が絡みあった。  
 
ピノコは彼の瞳の中に自分が映っていないのを感じた。  
 
いや、映ってはいるのだが、何処か虚ろで、諦めと悲しみが混ざっている様な、そんな瞳の輝きだった。  
 
彼の視線に耐えきれず、ピノコは瞳を反らすと、再び瞼を強く閉じた。  
 
彼の深い悲しみに引きずり込まれない様に、強く、しっかりと、瞼を閉じたのだった。  
 
「楽しかったぜ、嬢ちゃん」  
 
 
 
荒い息を吐きながらぐったりと床に横たわるピノコに、キリコは言葉をかけた。  
 
彼は既に身支度を整えており、相変わらず何も映していない様な色素の薄い瞳で、ピノコを見下ろしていた。  
 
ようやく息が整ったピノコは、ゆっくりと身を起こし、キリコの視線を受け止めた。  
 
 
 
「ブラック・ジャックに今日の事を伝えるんだな……俺の患者を横取りしたら、次はこの程度じゃすまないとな……」  
「………………」  
「………なんだ?なにが可笑しいんだ……!?」  
 
 
 
黙ってキリコの言葉を聞いていたピノコだったが、自分でも気付かぬうちに口元が綻んでいたらしい。  
 
見咎めたキリコが問い詰めると、ピノコはポツリと呟いた。  
 
 
 
「あなた……かわいそうな人ね……」  
「………どういう意味だ」  
 
「意味なんてないわ……ただ、ありのままを述べただけよ……」  
 
 
 
その呟やきは、いつもの少女の声ではなく、甘く成熟した大人の女性の声だった。  
 
しかも、その声は耳から聴こえるのではなく、脳裏に直接響いていた。  
 
 
 
「……ありのまま、だと?」  
「そうよ……あなた、私を汚したつもりかもしれないけれど、私は汚れてなんかいない……」  
「……………」  
 
 
 
今までの彼女とは明らかに違う瞳の輝きが、キリコの瞳を捕えて離さないでいた。  
 
 
 
「あなたに体を奪われても、あなたは私の心を奪うことは出来ないのだから……」  
「……………」  
 
 
 
一瞬、何か言いたそうな表情を浮かべたが、結局何も言わずにキリコは部屋から出ていった。  
 
後に残されたピノコは、黙って閉じられた扉を見つめていたのだった。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
星も見えない暗黒の中、キリコはバイクで坂を降っていた。  
 
来た時よりも強い苛立ちが。キリコを支配していた。  
 
何の罪咎も無い幼い彼女を、勢いで凌辱した後ろめたさが、キリコの心をざわつかせていた。  
 
そして、彼女の最後の言葉。  
 
真っ直ぐ汚れのない眼差し。  
 
強く凛とした表情。  
 
彼女の言葉通り、例え体を凌辱されても、心を奪うことは出来ないのだ。  
 
汚れない彼女の心は彼女だけのもので、おそらくブラック・ジャックでさえも手に入れる事は叶わない。  
 
 
 
「俺は……一体、何を奪いたかったんだ……?」  
 
 
 
自問自答しても答えは見つからない。  
 
最初は憎いブラック・ジャックに一泡吹かせたい為に、彼の大事な少女へ手を出した。  
 
しかし、彼女を抱いているうちに、いつしかそんな事はどうでもよくなり、一心不乱に少女を欲して激しく抱いていた。  
 
 
 
奪いたかったのは、彼女の心なのか。  
 
そして、心を奪われたのは自分の方なのか……?  
 
 
 
「……馬鹿々しいな……木乃井取りが木乃井になるなんて……」  
 
 
 
自分の中に生まれた感情を持て余しながら、キリコは深い闇へと消えていった……  
 
 
時計に目を向けると、とっくに真夜中も過ぎて既に二時近くになっていた。  
 
気だるい体を奮い起こし立ち上がると、キリコがピノコの胎内に出した体液が股の間からドロリと流れ落ちた。  
 
その感触に、先程までの行為が夢ではなかったのだと思い知らされ、ピノコは涙が溢れそうになった。  
 
キリコに強く言い放ったピノコだったが、本当は辛くて哀しくて叫びたいのを必死に堪えていたのだ。  
 
心は何者にも犯されることはない。  
 
だが、愛するブラック・ジャック以外の人間に抱かれた事実は消えない。  
 
手首に赤く残る戒めの痕が何よりの証拠で、その痕は彼の目にも必ず止まるだろう。  
 
如何にそれが不可抗力だとしても、彼が烈火の如く怒り狂うのは目に見えていた。  
 
 
 
「……とりあえじゅは、キレイにちなきゃ……」  
 
 
 
忘れてしまいたい事が多すぎて、今は考えがまとまらなかった。  
 
とりあえず、行為の跡が残らない様に、絨毯の上を綺麗に掃除をする。  
 
その後、シャワーを浴びて全てを洗い流してしまおう。  
 
今夜、彼は帰ってはこないのだから。  
 
彼の布団にくるまり、綺麗になった体で、彼の帰りを待っていればいい。  
 
 
 
 
ピノコはゆっくりと立ち上がると、体を引きずる様にノロノロと動き出した。  
 
 
 
 
夜明けは、まだ遠い──  
 
 
 
End  
 
 
 
 
 
 
 
遠い夜明け(の全然関係ないおまけ)  
 
「先生って、普段鍛えてゆ訳でもないのに体が引き締まってゆのよさ」  
「そりゃあ毎日運動を欠かしたことが無いからな」  
「え〜!?ちょうなんら、ピノコ知らなかったよのさ」  
「知らないも何も、毎晩一緒に運動してるじゃないか。ベッドの上で」  
「アッチョンブリケ〜!!!」  
 
 
おわり  
 
 
 

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