…兄さん。  
私の前では、空威張りしなくていいのよ。  
誰にも言ったりしないわ、ホントは弱い人だってことを。  
 
兄はいつも手袋をしているから、骨張った手は見かけよりずっと滑らかで、少し冷たい。  
その指先で耳の後ろから顎先をなぞられると、情けないほど体が痺れてしまう。  
何度抱かれても、私はもっと兄が欲しくて気持ちまで蕩けそうになる。  
どんなに淫らな目で愛撫をねだっているのか、想像すらしたくない。  
 
私は枕に顔を押し付けて声を殺し、大きな掌が乳房を掴む刺激に、ただ堪えている。  
器用な指が私の中にぬるりと潜り込み、一番弱い部分を軽く引っ掻かくと、総身が痙攣するのを抑えられない。  
泣き出す私を見下ろし、泄らしたように滴る液体を、突き出したお尻に、腿に、背中に塗り付けられた。  
「いやッ、…は、早く、あぁ……」  
ねだっても、まだ焦らされるのは分かってる。 さんざん手指で私を嬲ってから、ようやく兄は入ってくる……  
 
 
──初めて私たちが関係を持ったあの夜のことを、今でもはっきり覚えている。  
ひどく酔った兄は、私が当時住んでいた家を突然訪れ、居間の床に体を投げ出した。  
父を自らの手にかけた、あの時からひと月程過ぎた頃だった。  
 
兄らしくもない醜態に嘆息しながら、私は上掛けを運んだ。  
削げた頬にかかる髪を払い、そっとのぞきこむと、苦しそうに顔を歪めてなにやら呻いている。  
そのまま動けずにいたら、微かに言葉らしきものが聞き取れた。  
 
「……くそッ、薬も器具も、…全然足りやしない」  
「礼なんて言うな、…やめろ」  
唇を震わせて、途切れ途切れにもらす言葉の意味を、私はようやく思い当たった。  
かつて兄が軍医として赴いた先には、重傷を負い、それでも死ねず呻き続ける大勢の怪我人がいたという。  
人手も物資も追いつかない中で、満足な処置など到底出来るはずもない。  
彼らを苦痛から救う為に兄が選択した道は、「楽に死なせること」だった。  
 
死んでいく患者から言われる感謝の言葉を、身を切る思いで聞いた時もあっただろう。  
そんな悪夢に、まだ兄は苛まれ続けていたのか。  
判断を早まって父を死なせたことが、古い罪の意識を呼び覚ましたのかもしれない。  
 
 
──俺だって、医者だ!!  
そう叫んだ瞬間、兄は上掛けをはね除けて勢いよく起きあがった。  
目の前の私を放心した顔で眺め、しばらくして自分の今の状態に気付いたようだ。  
「死神」と呼ばれる男の横顔を見てしまった後ろめたさに、私は狼狽した。  
 
「…邪魔したな」  
平然と額の汗を拭い、渡した水を飲んで立ち上がる。まだふらつく様が心配で、私は思わずその痩躯を抱き締めた。  
このまま別れたら、もう二度と会えなくなるという予感があった。  
酷い姿を晒した相手の前に、プライドの高い兄が平気で現れる訳などないのだから。  
 
「触るな、離せッ!」  
振り向いた目が、私を強く睨み付ける。 ひるみそうになったが、ぐっと堪え、私はわざと声を荒げた。  
「『俺の仕事は神聖なんだ』、って威張ってたじゃない…しっかりしてよ!」  
そんな言葉を私から聞くとは思ってもいなかったのだろう、兄は意外そうに顔をしかめた。  
憤りを加えた表情は見る間に強張り、ゆっくり持ち上げた手からは怒気が伝わってくる。  
 
ぶたれる、と覚悟した私は顎を引いて身構えたが、兄は手を私の肩に置き、口元に薄笑いを浮かべた。  
「ああ、頼まれれば何人でも殺してやる、…例え家族でもな」  
静かな口調からは、なんの感情も読みとれない。  
私は怖くなって、肩に置かれた手を握り締めた。 この人を、今すぐ暖めてあげなくては。  
革手袋を無理やりはずすと、思った以上に冷たい感触に肌がぞくりとする。──何故だか、涙が溢れてきた。  
 
無我夢中で、兄が後ろによろけるほど強くしがみついた。  
「…駄目、行かないで!…兄さん、お願い!……」  
我ながら芸の無さに呆れる。でも、私は必死だった。なりふり構ってなんかいられない。  
押し戻そうとする兄の胸から、私は離れなかった。 頭上で舌打ちする音が聞こえた。  
言葉が思い付かない。 不快そうな顔を見上げ、私は服を床に落としていった。  
 
「ユリ、おまえ……」  
その先を続けさせたくなくて、目を見張る兄に口付けた。酒の匂いに、こっちまで酩酊しそうだ。  
射抜くような目が、私をじっと見ている。  
 
「おまえは、…馬鹿だ」  
兄は溜息をついて呟くと、私の腰を片腕で引き寄せた。  
急にこみ上げてくる不安を抑え、私は目を伏せて兄に身を委ねた。  
 
馬鹿でいい。愚かでもいい。 離ればなれに過ごすより、ずっとましだから。  
背を壁に押し付けられて、荒っぽい愛撫が続いていた。   
胸元に、首筋に、唇と舌が這い回る。 痣が残るかと心配になっても、痛みに似た快感で動けない。  
長い指は未だ冷えたまま、持ち上げた膝の裏にその先を食い込ませる。  
 
「そのまま立ってろ」  
短く言うと兄は身を屈め、腿の内側に舌先を移動させる。  
私は脚を閉じかけたが、抵抗は許さないと膝を固定された。  
「あ、……っ!」  
首を横に振っても、内腿にかかる吐息は遠ざかることはない。下半身にぎゅっと力が入る。  
膝の間に埋まる顔が上下に動くと、もう倒れそうになった。  
「脚を開け」  
有無を言わせない指示を告げる唇が、腿の付け根までなぞり上げる。私は身を捩って逃げた。  
 
「お、お願い、……いや、いやなの」  
涙で鼻が熱くて痛い。 兄は目の高さを合わせ、下着の中に手を滑り入れる。  
「口でされるのは嫌、か…二度目のお願い、だな」  
長い指が、湿った恥毛に触れて、開きかけた花弁を押し分けた。 思わず短い声が出てしまう。  
覆い被さる体は、ついさっきまでふらついていたとは思えない……まるで立場が逆転したみたいだ。  
 
「しっかり立て、三度目のお願いは大事にとっておくことだ」  
きっぱりと言い放ち、兄はその指を深く私に埋め込んでいった。  
「……くうっ…!」  
自在に動く指先に私は翻弄された。熱く濡れた秘芯は、意識しなくても収縮を始める。   
後ろのすぼまりに続く短い谷を指が幾度も滑り、溢れる愛液が膝まで滴り落ちるのを感じる。  
「あぁっ、ま、待って、やめてぇっ!…」  
達してしまう直前に、私は兄の体を思い切り押し退けた。  
ずるずると床に崩れ落ち、薄く開けた目の間から、蒼い顔がぼやけて見えた。  
 
「オヤジに、……詫びるつもりだった」  
吐き捨てられたその言葉で、辺りが乾いていく。  
返事が出来ないまま、私は目を逸らした。 涙が頬を伝い、汗ばんだ体が弛緩していった。  
 
 
「どうかしてたな、全く」  
ついさっき脱ぎ落とした服が、こちらに向かって放り投げられた。  
「兄さんが謝るなんて、似合わない。悪いのは…私も同じ」  
いつもの黒っぽい上着を引っかけた後ろ姿には、なんの反応も現れない。  
……待って。違うのよ、ずっと知りたかった事があるの。  
私は兄より先に手袋を見つけ、そっと近付いて、背後から上着のポケットに納めた。  
 
「お父さんを見送ったら、なんだか気持ちが楽になったわ…、もっと早く死なせてあげれば良かった」  
「愁嘆場はウンザリだ、もういい」  
「私は、…兄さんに追い掛けて欲しかったのよ、きっと」  
私の本音をいなしていた背中が動きを止め、続く言葉に耳を立てているように見える。  
今なら言える。少し息を吸い込んで、私は質問を投げつけた。  
「ねえ、お父さんがいなくなったら、……私を探す理由は無くなるの?そんなに口実が必要なの?」  
 
少し間を置き、低く笑う声が聞こえて、兄はゆっくり向き直った。  
「さすがに俺の妹だ、気に入ったよ」  
顎をぐいっと持ち上げられた私は、口元を無理に歪め、相手の冷笑を真似ていた。  
嗜虐的に目を細めた顔が近くに来たと思うと、息苦しい程口中を蹂躙される。  
歯や舌を受け止めながら固くなった体は、軽く押し倒された。  
「やっ、…に、兄さん待って!…」  
「いい加減にしろ、何だ」  
 
「…あの、こんな場所じゃ嫌なの…」  
それだけ言うのが、やっとだった。あまりに気恥ずかしくて、頬が熱くなってしまう。  
苛立った兄は私に上着を被せ、荷物を扱うように、さっさと肩に担ぎ上げた。  
「い、痛いわ」  
「最初っから言え、おまえの部屋はこっちか!」  
蹴破るように寝室のドアが開けられ、私はベッドの上に放り出された。  
被せられた兄の上着も、ずり落ちかけた下着も、あっという間に剥ぎ取られた。  
 
「今度は逃げるなよ」  
頬を掠め、耳元で聞く低い声は、まるで麻酔だ。 逃げる力なんて、とても入らない。  
この瞬間、兄の手に落ちたと思い知った。  
 
耳の輪郭を、細く尖らせた舌がなぞる。  
両腕を押さえ、不必要な接触を拒否してのしかかる体は、怖いほど威圧的だった。  
私は、器用な舌先に乳暈を突つき捏ね回され、ただ息を喘がせるしかない。  
いっそ、噛み付いて欲しい。 肌の表面で疼く感覚は、体の中心の奥深くまで届いた。  
 
兄は膝立ちになると、私の両膝を掴んで、高く持ち上げた。  
驚く間もなく、足先は不安定に宙に浮いて、背中の中程までがシーツから離れている。  
ほとんど、空間に逆さに吊された状態にされてしまった。 世界が逆になったかと錯覚した。  
どうにか体を支えながら、大きく開いた脚の合間が、兄の眼下にあることにやっと気付いた。  
「えっ、にいさ、……」  
開け放ったドアから、居間の明かりが届いている。  
少し前に、兄の指でいたぶられた場所がどんな状態なのか、全てを晒してしまっていた。  
 
「いつも、澄ました顔してるのになあ」  
呆れ声で言う兄は、既に濡れて膨らんでいるだろう様子を眺め、クッと嗤う。  
「こ、…こんなの嫌、降ろして、ねえ」  
その肩の辺りで両膝を捉えられたまま、私は身を捩った。  
兄はお構いなしに、既に硬くなった肉軸を突き立て、いきなり奥に分け入った。  
 
「──ああぁ、……っ!」  
全身が、びりびりとその刺激にうち震えた。  
とうとう、兄に貫かれる感覚を知ってしまった。  
ぬめって絡み付く入り口は、なんの疚しさも覚えずに、ただ異物を深く呑み込む。  
ぐちゅぐちゅと蜜を掻き出される音に、ふしだらな女だと宣告を受けた気持ちになった。  
 
「……んんぅっ、…駄目、こ、壊れちゃう、兄さんっ!、…」  
内蔵まで突き込むような抽迭に、後ろ暗さを拭われてどんどん昂っていく。  
足の甲や足首に時々触れる舌の感触が、更に追い打ちを掛ける。  
それでも不安定な姿勢では、快感より苦痛になってしまう。私は、本気で解放を求めた。  
 
兄は脱力しそうな私の脚を降ろし、今度は腿が胸を押し潰すほど押し付け、曲げさせた。  
「な、何で…、」  
再度苦しい体勢になって、もう抵抗すら出来ない。  
直前まで犯されていた陰部は、ひくついたま粘液を垂らしている。  
「中途半端は大嫌いだ、覚えとけ」  
そんなの昔から知ってる。 何でも白黒はっきりさせないと、気が済まない人だったから。  
だけど、それにしたって…、どうしてこうも乱暴にしないといけないの?  
 
獣性を剥き出しにした兄は、冷淡に私を穿ち続ける。  
「…お、お願い、やさしくして……」  
喉の奥がひりついて痛い。 声の掠れを悟られたくなくて、小さい声で懇願した。  
反面、ずたずたになる程抱かれたいという気持ちもあった。  
荒ぶる塊に突き刺され、このままずっと受け入れていたい。  
 
強い刺激に、私の粘膜がじわじわと締まり始める。  
冷え切っていた兄の体が別人のように熱くなり、こめかみの辺りから汗が落ちた。  
「にいさ、……あぁ、…んくぅっ……!」  
前後に激しく揺さぶられ、私のお尻がギュッとすぼまる。  
すがり付きたいのか、振り払いたいのか、もう何も分からなくなっていた。  
 
 
明け方、目が覚めると既に兄の姿はなかった。  
そして私の体の中にも、何故か「痕跡」は感じられない。 不思議な気分だった。  
下半身にずしんと重い気怠さはあるのに、不自然なほどいつも通り…全て夢だったのか。  
それとも… 私の意識が遠くにあったとき、兄が何か「処置」でもしていったのか?  
まさかと思いながらも、私は有らぬ想像をしてしまい、一人きりの部屋で顔を赤らめた。  
 
半月後、思い切って兄の病院を訪ねることにした。  
どんな挨拶をしようかと悩んだけれど、予行演習なんて、きっと役に立たないだろう。  
とりあえず兄が好みそうな軽食を手土産に、そこへ赴いた。  
無機的なものだと先入観を持っていた私には意外だったが、瀟洒な外観の建物は玄関が広く  
濃い緑の葉で護るように、高い樹が枝を伸ばしていた。  
来客が私だと分かった兄は、予想通り不機嫌な顔で私を出迎えた。  
 
「ここには来るなと言ったろう、何の用だ」  
「…たぶん、ろくな物食べてないんじゃないかな、と思って…」  
兄は露骨に眉をしかめ、私をさっさと二階に案内した。  
「入院患者がいるんだ」  
「えっ?」  
「後から行く、奥の部屋で待ってろ」  
 
患者…、ああ、だから余計にピリピリしているんだわ。 兄が担当するという意味は、つまり……  
違う日を選べば良かったと後悔しても、もう遅い。 今日は、すぐに帰ろう。  
机の上を見ると、カルテや新薬の情報らしい書類が並んでいる。  
──抗悪性腫瘍剤、筋緊張弛緩剤…副作用、臨床成績、有効成分に関する理化学的知見。  
いきなりドアが開き、吹きこんだ風がぱらぱらとそれらを飛ばした。  
 
「何してる」  
険しい表情の兄が、書類を拾い集める私を見下ろす。  
「別に何も、…ただ拾っただけよ」  
私はさっと机を離れ、窓辺へ立った。 高台にあるこの部屋は風通しが良く、初夏でも涼しいくらいだ。  
無言で外を見ていると、庭の一角に白い花がいくつも咲いている。  
 
「あれは、百合の花だ」  
いつの間にか兄は、すぐ後ろの大きな椅子に腰掛けていた。  
 
それを選んだのは…この人だろうか、それとも手入れを任せている業者?  
ぼんやりと植え込みを眺める私の肩を、白衣を着た兄が捉える。 驚きで、息が止まるかと思った。  
「百合の花ってのは、いやらしい花だと思わないか?」  
「ど、どういう意味、…」  
声が震えるのが、自分でも分かる。  
「蕾のときはツンと気取った顔してるのに、一旦花びらがめくれ上がると  
 雌しべから蜜を垂らして、やたら甘ったるい匂いを撒き散らすんだからな」  
 
──あれは、夢や錯覚なんかじゃない。  
肩に置かれた手の感触、抵抗する力を私から奪う声。 あの晩のことが、一瞬で全身に甦った。  
「結構痛め付けたつもりだったが…、まさか来るとはね」  
兄は私を抱き竦めると、片方の手を服の中に滑り込ませ、胸をすくい上げるように揉みしだく。  
「おまえも、同じようになってるかもしれんな」  
「何を…、違うわ」  
 
振り返り拒絶する声は、瞼や耳元に触れる兄の唇になだめられた。  
「診てやる、声を出すと下に聞こえるぞ」  
スカートを捲り上げた兄の手が腿から下腹を伝い、恥丘をとらえる。 その湿度が相手に隠せる訳もない。  
「……っ!」  
「汚す前に脱いでおけ」  
するすると下着は降ろされ、くるぶしに引っ掛かった。  
「にいさ、……あ、やめっ、…」  
 
兄は私の体を少し持ち上げて自分と同じ椅子に座らせ、後ろから思うままに扱い続ける。  
秘裂の中と外をまさぐられ、荒くなる息を抑えるために、私は肘掛けを握り締めた手に力を込めた。  
「そら、お天道様にも見せてやれ」  
ふいに膝を掴まれた私はバランスを失い、兄の体に凭れる格好で脚を広げた。  
 
べっとり濡れた雌しべを突き出して奥まで覗かせる白い花が、卑猥なもののように頭に浮かぶ。  
私の恥部は、陽差しを受けてカッと熱くなった。  
 
「よして、……いや、ねえ兄さん!」  
「黙ってろ」  
兄は意に介さず、私の背中を半分剥き出しにして、爪の甲を滑らせる。  
すっと撫で上げられる度に、私は身を反らせて声を小さくもらした。  
それは間を置いて何度も繰り返され、甘辛い苦痛に涙まで滲んできた。  
 
「…うぅっ、駄目、……あぁ」  
明るい窓辺で玩弄される自分の体が、まるで自分のものではないように感じる。  
悔しいほど滴る恥汁は兄の手を汚し、服からこぼれた胸の尖端に擦り込まれた。  
ぬるぬるとした感触に、私は堪らず身をくねらせた。  
媚肉の縁だけを、そっとなぞる指の動きで、花びらが大きく膨らみ、めくれ上がってしまう。  
 
「こんなに開いてるのに、しごき立てるように締まるんだ…、知ってたか」  
秘芯をくり抜きながら、兄が耳元で言う。  
私は堪えられず立ち上がったが何も出来ず、ぐしゃりとその場に膝をついた。  
「どうした、早く跨れ」  
 
かぶりを振る私に、兄は言い放った。  
「おまえ、人殺しに抱かれに来たんだろ?」  
──いったい、なんて酷い言いぐさだろう。 そっちがケンカ腰なら、私だって──  
乱れた服のままで、私は目に憤りを込めて近付いた。  
冷然とした表情の兄が私を受け止め、緩めた下衣の上に座らせる。 熱い屹立が、膣口にずぶりと刺さった。  
 
「い、……いやあぁぁっ!!」  
「今の声は、一階に届いたな」  
下から突き上げられ、私は向き合う肩に指を食い込ませた。  
兄は私の服を破かんばかりに開き、乳首に軽く歯を立て、左右にしごいた。  
 
声を上げるなと言う方が無理だ。 捩る腰を捉えた手で、逃げ道を塞がれる。  
仇敵に対するような表情で責め立てる兄の姿が、返って私を少しずつ冷静にしていった。  
 
歪んだ顔を両手で挟み、なんとか視線を合わせる。  
揺さぶられながら、私は自分の胸と腕で、銀鼠色の頭を抱え込んだ。  
「……よせ」  
荒い息の中、吐き出された言葉と同時に、兄は私の体を押し退けようとする。  
「医者なんてやめてよ、……どうして、兄さんが手を下さないと駄目なの」  
みるみるうちに兄の眉がつり上がった。  
 
「余計なお世話だ!」  
「あ、……っ!」  
体が波打つ程強く突き込まれて、一瞬喉元まで細かい痙攣にさらわれた。  
「や、やめて…、私が、兄さんを抱いてあげる、だから……」  
「ふざけるな」  
「好きなの、兄さん、…お願い!」  
兄が動きを止めた。 理解できないという顔をしている。  
 
無理強いされたくない、全身であなたを包みたい。…どうかこのまま、静かでいてくれますように。  
頬と胸をぴったり合わせ、隙間なく肌を密着させる。  
湿った下腹に力を入れると、ぴくりと兄が反応したのが分かった。  
薄い唇を舐め、そっと舌を差し入れると、歯の間が広がって私を受け入れた。  
からからに乾いた口中は、少し動きづらいけれど、私は嬉しかった。  
 
白衣をたぐり、シャツの間に手を忍ばせながら、ゆっくり腰を揺らした。  
兄が低く喉の奥で呻いた。  
深い息が首筋にかかる。 濡れた粘膜が、きゅうっと締まった。  
「はあ、あぁっ……」  
爪先立って、内腿からお尻の全体を動かしてみる。 結合部が蕩けるように熱い。  
恥毛が絡まるくらい擦り付けると、肉芽がぶつかって、たまらず声が出てしまう。  
 
「…そうだ、もっと締めろ、…噛み切ってくれ」  
食いしばった歯の奥から、兄も言葉を発した。  
 

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