くろぴの・ネタ (ピノコの年齢設定は適当)
往診で遅くなったその日、帰宅するとキッチンから甘い香りが漂ってきた。
「ピノコ? まだ起きてたのか」
声を掛けると、涙声の返事が返ってくる。
「お、おかえんなちゃい、…先生」
「どうした、なんだこりゃあ?」
見ると、テーブルの上にもシンクの辺りにも、黒い固まりだの滴りだのがこびり付いている。
「ふぇえ……、らって、明日はバエンタインなのよさぁ」
あぁ、私にチョコを作ってくれようとしたのか。
配合を間違って(いや勝手に変えたのかも)、おかしなことになったらしい。 しかし、この有様ときたら…
「ああーん、ちぇんちぇい! ピノコ悲しい、おいちいの作ってあげたかったんらよぉ」
チョコまみれの手で顔を覆う。
瞼にも頬にも、ぺたぺたと黒い跡がスタンプを押したように散る。
「分かってる、気持ちだけで充分だよ」
BJはピノコの前に座り、その肩に手を掛けると顔を近付けた。
「顔がパンダみたいになってるぞ、おまえ」
「え、いやぁだ…」 半ベソをかいて、また手を目元に持っていく。
「手からきれいにしないとな」
小さな手を取り、ゆっくりと舌で舐め取ってやる。
「…ちょっと変わった味がするな、ここもか?」
頬や瞼に付いたチョコも、丁寧に舐め上げる。
「ちぇんちぇ、…」 染みが取れた頬をほんのり染め、ぽわんとした目でこちらを見る。
小鍋に残った濃茶色の半固体を指ですくい、味見をする。 …確かに、なんだか違う味だ。
「失敗しちゃったわのよ…」
「大丈夫、不味くはないよ、ほら」
もう一度指ですくい取り、ピノコの口元に近づけると、小さな唇が開きとろりとしたものを受け止めた。
指が中に吸い込まれ、可愛い舌が柔らかに蠢く。
「一番美味しくなる食べ方をしよう」
口の周りを汚したチョコを舐め取り、そのまま蕾のような唇を味わった。