助手も無しで厄介な手術を終え、ある病院を後にしたBJが封筒を二つに裂いた時、  
 後ろから駆け寄る女の姿があった。  
紙切れを握り潰した彼は、息を切らせ感謝の言葉を続ける女の顔を、複雑な表情で見る。  
その相手は、「お礼がしたい」と、食事の約束を勝手に取り決めた。  
けれど、約束の日時に指定のレストランで、待たされたのはBJのほうだった。  
急患が入って、と詫びる女を責めもせず、さっさと注文して、二人は遅い夕食を共にした。  
 
飲み直しに入ったバーで、女は不思議に感じていた事をBJに尋ねた。  
「先生、あの日何故あたしを訪ねていらしたの?」  
「それを話すには、ここでは無理ですな」 手にしたグラスから視線を女に向け、低い声でそう言う。  
「え?」 二人きりで、ホテルの客室に入るという意味に、身を固くする。  
「聞きたければ、上の部屋でゆっくりお答えします、 もう帰るつもりでしたが」  
 
冷静過ぎる程のBJの言葉に促され、いつの間にか二人は個室で向かい合っていた。  
「これを贈ろうかと」  
リボンを掛けた小箱の中からは、大粒のブラウンダイヤをあしらったネックレス。  
「まあ、……」 …これを持って、あたしの勤める病院まで?…  
「着けて下さい、お手伝いしましょう」  
鏡の前に女を誘い、ワンピースの上に一結びされたスカーフを取り去った。  
開いた襟元に顔を寄せると、来る前に重ねて付けたと分かる香水が鼻を擽る。  
 
「よくお似合いだ」  
冷たい鎖と微かに触れた指先が、女の肌をぞくりとさせた。  
「頂く理由がありませんわ」  
振り向いた女の頬にBJの唇が触れた。 ぴくりと避ける躰を、すかさず受け止める腕。  
「私は、自分に似たタイプの人間が好きでね」  
後ろから抱き竦めながら、掌で躰の稜線をゆっくりなぞり上げる。  
「随分長く待たされたんです、キスだけでは許しませんよ」  
 
「それは、でも急患なら仕方ないと言ってくれたじゃ……」  
「ふっ、あんた、世間話するために来たってのかい?」  
態度を一変させた彼の眼が鏡の中で冷たく光り、口元が歪む。  
「下のバーで "別れるのが寂しいわ"、って顔してたのは誰だっけ」  
いつか、酔っ払っていきなりからんだ時にも平然としていた彼が、凄む様な声を出す。  
「あの男で、満足してるのか?」  
 
「な、何のこと…、」 気持ちが動転して、上手く話せない。  
「つまらん男なんざ面白くないだろう、女王様」 プラチナの鎖を後ろに強く引き、喉に食い込ませる。  
肌の薄い場所を手荒に擦られ、痛みと怒りが同時に生まれる。  
「ぐっ!…、つまらないのはどっちよ、卑怯だわ!」  
「は、卑怯ときなすった。 子供じゃあるまいし、早く脱いだらどうだ」  
嗤いを堪えながら、背中のファスナーをついっと開いていく。  
女の細い喉を、片手で極めて軽く掴み、服の隙間から冷たい指先を滑り込ませた。  
 
息が、息が苦しい。 首を締められているからではなく、戦慄が身を竦ませる。  
「破かれたくないなら、後は自分で脱ぐんだな」  
はだけた服が床に落ち、女は下着姿になった。  
首から手を離すと、BJも自分の上着をばさりと椅子に放り投げる。  
重苦しさを感じる程の威圧的な眼が、指示に従えと命令する。  
 
唇を震わせながら女が下着を取り始めると、BJの眼が楽しげに細められた。  
 
「ほう、さすが上等なもんだ」  
女は背を向けて、薄手の小さな下着を最後に一枚だけ残し、胸を両手で押さえて立っていた。  
滑らかな背中、俯けた白い首筋、腰から脚への理想的な曲線。  
ゆったりとBJは腰掛けたままで、からかうように声を掛けた。  
「まだ一枚あるぞ、俺に取って欲しいってことかい」  
 
「お願い、許して、こんなのは…」  
「どうせ暫く、あの男とは寝られやしないぞ」  
襟からするりとボウタイを抜くと、それで後ろ手にぐいと縛り上げる。  
胸を突き出すような格好にされ、恐怖と屈辱で女の目に涙が滲む。  
「嫌、やめて! …助けて、誰か、あぁ、ロック!」  
 
「ああ、いいねぇ あんたがあの時泣いてた顔、思い出すよ」  
 あの時? …ロックの足の切断を迫られ、困り果てて相談した、あの時のこと?  
 なんて卑劣な、あたしが一体どんなに辛い思いだったか…  
「見損なったわ、恩人だと思っていたのに!…、」  
「そんなうるさい口は、塞ぐとしよう」  
スカーフを拾い上げ、女の背をとんと押すと、そのまま前に倒した。  
 
「やめっ、……!」  
口が開いた瞬間、シュッと音を立てて薄衣が歯の合間に食い込む。  
「ふぅぅ、んん、んーっ!」  
強く頭を振ると、高く纏め上げた髪がばらけ、緩やかな巻き毛がふんわりと肩を覆った。  
目尻のキュッと上がった顔が、絶望の表情に変わる。  
 
その髪を一房手に取り、BJはうやうやしく唇を寄せた。  
頬に乱れ掛かった髪を片手で掻き上げると、怒りと羞恥で紅く染まった耳朶がのぞく。  
「手荒にしようってんじゃないんだ、女王様 …いや、桑田このみさん?」  
 
宥めすかすように優しく囁きながら、そっと耳朶を舐め、唇で挟む。  
「んんぅ!、…ふっ、っぅん…」  
拒絶の声が鼻を通り、甘い呻き声になって、艶めかしく部屋に響く。  
「手入れの良い肌だ、これもみんな奴の為か」  
冷たいままの指先が、背中をゆっくりなぞった後、下着の端にたどり着いた。  
 
「んん、…ぅぐっ、んぅぅ!」  
 解放を哀願する眼からは、はらはらと涙が落ち、スカーフに染み込んでいく。  
「大人しくしてりゃ、こんな事にならなかったのに」  
 たるみの無い、よく張った肌の感触を楽しむように、指が中へすべり込む。  
細かく震える尻を捉え、今度は乱暴に揉みしだく。  
「……っ! くぅ……っ!」  
 このみが身を捩らせると、一気に薄い下着は剥ぎ取られた。  
 
「さ、どこからいくとしますか」  
 女の躰をベッドに倒すと、おもむろにBJが後ろから近付いた。  
 片方の肩で身を支える不安定な姿勢、やや立てられた膝。  
 脇腹から胸元へなぞられると、ぐっと脚に力が入ったのが分かる。  
「んん、……ふっ、…!」  
 患部を見落とす事の無い手が、初めて抱く女の敏感な部分も的確に探り当てる。  
 相手を拒絶する為に捩っていた躰は、ただ愛撫を待つ痴態にしか見えない。  
   
屈辱と同時に与えられる快感が、下腹にずしりと熱を生み、神経が集中するのを感じる。  
 …嫌なのに、逃げたいのに、あたしはもう、何かを期待してしまっている?  
  怖いと思いながらも、この手に苛まれると、理性が痺れて滴り落ちていく…  
「あんた、最高だよ」  
 嘲るように言うBJの腕が、ふいに女をひっくり返す。  
 
口にあてがわれたスカーフに、唾液と涙が滲む。  
そんな自分の姿が恥ずかしくて、また悔し涙がこみ上げる。  
 …こんなに酷く扱われた事なんて無い。 今まで、誰にも。 それなのに抵抗出来ないなんて!…  
きつく閉じた瞼にBJの唇が触れたとき、膝を掴まれ、そのまま大きく開かれた。  
 
「桑田先生? 術式の指示をお願いします」  
 白い内腿を擦り上げながら、BJは猫撫声で問い掛ける。  
「んくっ、……ううぅっ、ぐ!……」  
「ほぉ先生、これは一体どう処置したらいいんでしょう?」  
 蜜が溢れた躰の最奥を眺めて、わざとらしく困った顔を近付けた。  
 
「切迫した状況です、このままじゃ危険だ」  
わななく脚の付け根の輪郭が、ゆっくりと焦らすように指先でなぞられる。  
「はっきり教えて下さい、私は無免許医なんでねぇ」   
 ぬめり付く液体を軽く指に取ると、薄暗い部屋にいやらしく糸が光った。  
 
「…んふぅ、んくぅっ……!」  
 頭を振ってすすり泣く女の首筋に舌を這わせ、震える乳房の尖端をこね上げる。  
 スカーフの結び目は固く、歯で破こうとしても上手くいかない。  
「役に立ちそうだ」  彼は、コートからメスを取り出した。  
 
「さ、良い声を聞かせてもらおう」  
 声なんか、出すもんですか……強く睨み付ける眼が合うと、BJが満足げに口端を上げた。  
 はっとして眼を逸らす女の顔の輪郭を掴み、自分に向けさせる。  
 瞬間、その表情を見詰めた後、手の力が緩められ、女の顔が横を向いた。  
 ひらりとメスが動くと薄衣は切り裂かれ、口元の拘束が解かれた。  
 
 刃物が反転し、恐怖で締まりかけた蜜壷の入り口にあてられる。  
「早くご褒美が欲しいらしい」  
 メスを脇に置いた指を、ねっとりと絡み付く泉に深く埋め、中を探るように抜き差しする。  
 強く唇を噛んで堪える表情を楽しみながら、角度を変えて最奥の弱点まで刺激する。  
 尖った愛芽を軽くなぶると、すんなりした脚は我慢出来ずに、じりじりと動き出した。  
 自分の下腹が、ぐちゅぐちゅと繰り返し音を立て、外に蜜を吐き出す。  
 
「いっ、…嫌、違う、……っ!」  
 後ろ手に縛られた苦しい姿勢のまま、このみは口から漏れる喘ぎを必死で抑えていた。  
 …この男に、あたしは全部見られてる… 開かれた場所の外側も、内側までも。  
 悔しいのに、弄られると、勝手にそこがひくつくのを止められない。  
 まるで相手の指にすがり付くように、何度も締まり、奥まで吸い寄せてしまう…あぁ!…  
 
「凄いな、…呑み込まれそうだ」  
女の歪んだ顔と、指に伝わる粘膜の締め付けを確かめながら、更に動きを強める。  
それに反応して強く捩られた躰の上で、汗ばんだ胸が重く不規則に揺れる。  
 …いや、いや、自分の姿が相手にどう映っているのか、考えたくもない。  
 それでも、異物が大きく中を掻き混ぜ、擦り続けていくと、絞り込むような動きを始める。  
「…あぁっ、み、見ない、でぇ、……っ!」  
 気持ちとは裏腹に、下半身がうねって痙攣し、挿れられた指をきつく締め上げた。  
 
 ぐったりと横たわった女の、手首の縛めを取る。  
 その手は一瞬BJを押し退けようとしたが、気力を失ったように、ゆるゆると腕に掴まった。  
「お願い、許して… あたし、何かあなたに、悪い事したの?…」  
 痺れた手は、力が抜けるままにBJの腕を滑り落ちた。  
 
「この手が人の腕や足を切ってきたのか、確かに同類らしい」  
このみの眼がぱっと開く。 恋人と喧嘩になった夜、BJに会ったあの夜が脳裏に浮かぶ。  
「並の人間に、あんたの仕事振りは理解出来ないだろう」  
「………」  
「だから、ここに居る訳だ」  
「あ、あの人は優しい人よ! 少なくとも心底腐ったあなたより、ずっと上だわ!」  
 
「…結局、ただの女ってことか」  
 静かなその声に、もう嘲りの色は無い。  
 ふいに覆い被さり、直前に指で絶頂に導いた場所に彼自身が押し入ると、白い躰が猫のようにしなう。  
「あ、あぁもう嫌、お願いっ!……!」  
 一度達した躰は、さっきよりも敏感に反応しながら、あっさりと奥深くまで銜え込む。  
 嫌だと言いながら、少し突かれるだけで、知らずに腰が揺らめいてしまう。  
 
「いい加減、素直になれ」  
 BJが少し中からずれ、女の入り口の辺りを刺激する。  
 このみが短く声を上げて、開いた脚を思わず相手に絡めかけ、さっと離す。  
痺れていた手に少しずつ感覚が戻ってきたが、  
  それでも相手を押し戻す事はせず、押し寄せる波に耐えてシーツを強く掴んだ。  
 
 細く整えられた眉が、ぎゅっとひそめられる。  
 どこにも掴まりたくない、せめて繋がった部分に力を入れる事くらいしか。  
「どうしてあんたは…、こんなになってまで」  
 奥に再度分け入ったBJが動くたび、熱くぬめった音が二人の耳に聞こえる。  
 快感に耐える息遣いを抑え、このみは相手から顔を背け、口元を震わせる。  
 
「違う、違うわ、あたしは…、」  
 血が滲むほど噛んだ唇から次の言葉が出る前に、その傷口が舐められる。  
 薄目を開けると、また顔が無理に起こされ、正面にBJの顔があった。  
「こっちを見ろ、その顔を見せてくれ」  
「あ、あなたって人は…噂通りの鬼だわ、でもここまで酷いなん…あぁぁっ!」  
 
 女を見据え、表情を歪めたBJが強く奥まで責め立てた。  
「…は、離して、もう、勘弁して…!ぅくっ、」   
 懇願など聞かず、つながったまま女の片脚と顔を支える。  
「いいか、今あんたの中にいるのは俺なんだ」  
 視線をぴたりと合わせ、まるで女を罰するように激しく突き上げる。  
 
「い、い、嫌ぁ、駄目っ、ああ、…ああぁぁっ、……!!」  
大きく揺さぶり突かれ、目眩の中で、もう一度このみは絶頂に達した。  
 波の中で壊れそうな感覚に、一瞬意識を手放し、シーツに躰を沈めていった。  
 
「…桑田先生」  
 落ちていた髪飾りをサイドテーブルに置き、自分だけ服を整えたBJが声を掛けた。  
「私は一文にもならない手術なんざ、やらない主義です」  
 憑き物が落ちたように静かな声音に、返って不安を覚え、このみが顔を上げる。  
「ところが、酔っ払いの美人に惚れたらしい …くだらん話だ」  
 平然とした様子のBJは、驚きで眼を見張ったままの女に向き直った。  
 
「安心なさい、二度と近寄りゃしません」  
 極めて無機的に、乱れた髪をそっと手で梳いた。   
 ついさっきまで、相手を執拗に苛んだ手。   
 そして、その恋人の足を完璧に整復した手。 それは患者の為ではなく、おそらく…  
 
「お前さんは綺麗すぎて、ぶっ壊したくなっちまう」  
 不可解なその態度と言葉を、どう扱っていいのか分からず、困惑して大きく身を退く。   
(…変わり者なんでね)  小さく呟いて、ベッドからBJが離れた。  
 素肌にふわりと毛布が投げ掛けられ、すとんと緊張が緩む。  
   
「おやすみ、女王様」   
 コートを引っ掛け、夜の闇に消えるように出て行く背中を、このみは何故か目で追った。  
 医者としての誇りも寂しさも、この男こそ知っているかもしれない。  
 初めて目にした技術は、まさに賞賛に値するものだった。  
 そのせいで、不思議な親近感を覚えてしまったのに。  
 
……何故? どうして最後まで、冷血漢でいてくれなかったの?……  
 乱暴に扱われた時とは違う涙が溢れてくる。  
 静かに冷えていく部屋で、女は一人で泣いた。  
 
 
     (終)  
 
 
 

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