夏のどうしようもなく暑い一日だった。
ユリは冷え症ということもあり冷房が苦手である。なのでたいていの暑さは我慢し、その分薄着をするなりシャワーを浴びるなりしてしのぐことが多い。
この日も上は綿のキャミソール一枚、下はウエスト緩めのミニスカート、長い髪をアップにし、扇風機のみに頼って家の用事をこなしていた。
しかし今日の気温は尋常ではなく、生ぬるいでっぷりとした不快な熱気にユリは幾度か眩暈を覚え、さすがに乗り切るのは無理だと痛感した。
リモコンのボタンを押す、途端に送風口から天国にも似た快楽が運ばれてくる。
ユリはソファに寝転び、ほてった肌が爽快な感触に蘇っていく様をゆったりと楽しんだ。
人間は快適な環境を与えられると安堵の何よりの証として眠気を催す。家事がひととおり済んだ区切りもあってか、ユリも例外に洩れず小さな寝息をたてて気づかぬうちに闇の底へと落ちていった。
「おい、起きろ」
おぼろげだった音の響きが突然はっきりと脳を刺激し、ユリは眉間にシワを寄せ、薄く目を開いた。
顔を上げ、無表情に見下ろしている兄のキリコの存在に気づき、ビクッと体が跳ね上がる。
「気持ちよさそうに寝てるな」
「…もう、勝手に入ってこないでっていつも言ってるのにっ…」
キリコはいつもこうだ。ユリが食事に招いても絶対に来ないくせに、ユリがプライベートの時間に浸っているときに限って迷惑も考えず上がり込む。
万が一の時のためにと合鍵なんか渡さなければよかった、ユリは悔やむがあとの祭りだ。
「寝ているときのお前はなかなか色っぽいな」
「だから何よ…なに言ってるのよ」
「乳首が勃って浮き出てるぞ、スカートも捲り上がってるし」
キリコの露骨な物言いにユリは一瞬で頬を上気させ胸元を腕で覆った。家にいるときは楽だからとたいていブラジャーを外しているのだ。
話がとても嫌な方向に持っていかれようとしている。キリコはにやにやと笑い、ユリの上に跨ってきた。
身の危険を察し、逃げようとするユリを男の力が難なく押さえ込む。
「駄目…兄さん…」
「何が駄目だって言うんだ」
「駄目よ…兄妹で、こんな…」
「もう何回やってると思ってんだ、今さら」
男の残酷な笑い声が部屋の空気を侵す。
「もう手遅れなんだよユリ、俺たちはとっくに揃って地獄に堕ちたのさ」
ユリの頭の中で強い反発が起こる。
地獄に道連れにしたのは誰?寝ていた私に馬乗りになって、泣いて抵抗した私を鬼のように何度も叩いたのは誰なの?
無理やり犯されて、それは一度では終わらなくて、でももう叩かれるのは嫌だったから、──どんな思いで私が畜生の仲間になったか知ってるの?
キリコはユリの髪をまとめていた髪止めを外した。キャメル色の光沢がさらりと波打ち広がる。
「やっぱりお前はおろしてる方がいいな」
髪止めを投げ捨て、薄手のキャミソールの上から乳首をなぞる。
「んんっ…」
ユリは思わず顔を横に背ける。布ごしにキリコは果実を口に含み、ちゅぱちゅぱと唾液で衣服を汚していく。
「あ─…!!」
官能的な轟きが刺激を受けている胸から飛び火し、全身、特に腿と腿の間に秘められた深い溝を揺り動かす。
本当は声など出したくない、けれどそうしなければもっと声を出せと抑制のない平手が振り下ろされる。
「こんな安物、もういらんだろ」
そう言うとキリコはキャミソールを引き裂いた。
ユリの白い乳房を飾る充血した乳首が姿を現した。
キリコは執拗に、耳から首筋、胸の突起へと湿った舌を這わせ攻めたてた。それが一番ユリの弱いところだと熟知した上で、幾度となく。
空いた手をミニスカートの中に突っ込み、ショーツ越しに割れ目全体を撫でさすったり、器用に捕えたクリトリスを指の腹でいじくったりしてやる。
「あうぅっ…あっ、ん…ぁはぁんっ…!」
「淫乱な奴だ、そんな声出してそんなに気持ちいいのか?」
嘲笑うキリコの目は、自我の欲に満たされて輝いている。
ユリは悔しくて、恥ずかしくて、たまらずほてった頬に涙の粒がこぼれた。
逆らえない無力な自分に、それでも反応してしまう女の性に。人間という生き物にひたすら虚しさを感じた。
キリコは指で強く、ショーツの上からユリの秘部を押した。キュウッと鼓膜に染み入るような鳴き声が返ってきた。
「濡れてるな、欲しがって鳴いてるぞ」
いちいち報告されずとも嫌でも聞こえているのだ。そうやって指や舌だけでなく、言葉でユリの羞恥心を掘り起こすことに歓びを覚える、男の暗い性癖が下敷となっていた。
ショーツを脱がされ、大きく開かされた足の間に男が下半身を割り込ませてきた。
「んっ…!ああっ…!!」
膣がこじ開けられる焼けるような感触、そして一気に肉ヒダを掻き分け、滑り降りてきた熱の正体。決して結合など許されぬ、同じ血の通った異なる性器。
キリコはユリの尻をグイッと持ち上げ、足裏を天井に向けさせた形で腰の律動を開始した。
「あーっ…!!あっ、あっ、あぁっ!!あんっ、ふあぁあんっ…」
残忍なほど腰を打ちつけてくる男の行為、それすらも甘い甘い砂糖菓子のごとく、ユリの脳を溶かしていく。
どんなに心は拒絶しようが、どんなに罪悪感が乗しかかろうが、気持ちいいという事実は救いようもなく本物であった。
いつまでたっても鍵穴を取り替えない、──それがユリの本音だった。
終わり