心地よい風が吹き抜ける、春の終わりのある昼下がり。  
ピノコは拭き掃除に精を出していた。  
寝室ではブラックジャックが大いびきをかいて眠り込んでいる。急患のオペの執刀に駆り出され、昨日の夜から今朝の明け方まで一睡もできなかったからだ。  
先生を起こさぬようにと物音に注意しながらピノコはせっせと作業に勤しむ。  
「ふ〜…次はちぇんちぇえのお部屋なのよさ」  
髪の生え際にじんわりと湧いた汗を腕でごしごし拭い、ドアを開けて中へ入る。仕事に関することは完璧でありたいブラックジャックの姿勢が、整頓されたデスクや順序よく並べられている本棚にしっかりと反映されていた。  
水で湿らせた綺麗な雑巾でデスクの上を磨こうとした時、ちらっと引き出しからはみ出ている何かが視界をかすめた。  
「…ん?なんらこえ…」  
気になって引っ張ってみると、ほとんど抵抗もなくするすると姿を現した。  
淡いピンクの封筒。裏には住所と──明らかに女の名前が記されている。  
(おんなぁ〜っ!?だえっ、ちぇんちぇえとどーゆう関係なのぉっ!?)  
ピノコの頭がショックと疑惑でぐらぐら回る。  
絶対に部屋の中のものは勝手にいじるなといつも厳しく言い聞かせられてきた。  
 
(れもっ…ちぇんちぇえぐっすい寝てるち…)  
ばれやしないという悪魔の囁きが少女に約束を破らせた。  
ピノコにないちょで隠れておちゅき合いちてゆ相手だったやどうちよう…?震えを帯びてきた指先でゆっくりと開封していく。  
「ピノコ、何をしている?」  
あまりに突然に声をかけられ、ピノコは思わず飛び跳ねた。一体いつのまに目を覚ましていたのだろうか──ブラックジャックは寝起きとは思えぬ真っ直ぐな足取りでこちらへ近づいてくる。  
「ん…?」  
驚いた際にピノコが床に落としてしまった封筒に気づき拾い上げる。  
「…勝手に机の中をいじるなとあれほど言っておいただろう」  
射抜くような冷淡な口調にピノコは身を縮こまらせて後ろに下がる。  
「あのっ…らって引き出ちかやちょこっと出てたかや…女の名前らし、気になって…」  
「これは以前に手術をした患者からのお礼の手紙だ。」  
ブラックジャックは封筒を元の場所へ戻すと、  
「それ以上言い訳はきかん。罰としておしおきだ」  
ギシッと回転式座椅子に腰を落とした。  
 
(………)  
ピノコは激しく後悔したが今さらどうすることもできない。誓いを守らなかったり嘘をついたりするのが何よりも嫌いなブラックジャックは、どんなに言葉で謝っても決して許してはくれないのだ。  
彼の怒りを鎮めるためには“いつもの方法”に従うしかなかった。  
「…わかったのよさ…」  
ピノコは観念したように声を押し出し、ブラウスのボタンを上から順に外していく。  
肩ひもを抜いてジッパーを下ろすとお気に入りの赤いスカートがストンと床に舞い広がった。  
ブラウスも脱いで、いよいよ最後に残ったパンツに手をかける。  
ブラックジャックの熱い眼差しが痛いほどさらされた素肌に刺さり、こみ上げてくる恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまう。  
何度経験しても慣れない“おしおき”。  
しかもいくら薄暗いとはいえ日光が最も活動している時間、普段は隠している部分も全て丸見えの状態なのだ。  
おずおずと裸体を手で覆うピノコを  
「こっちに来なさい」と呼びかける。  
「いつも通り、膝に腹ばいになってお尻を向けな」  
ピノコはブラックジャックの上に乗っかり言われたままのポーズを取る。  
宙に振り上げられた男の右手が乾いた音をたてて少女の桃肉を打った。  
 
「ふぁ…んっ…!」  
痛みに体がぴくりと跳ねる。容赦なく殴打の嵐は続き、ついにピノコは泣き出してしまった。  
「うゃぁあっ…ちぇんちぇ…も…やめてえぇっ…」  
「まだ駄目だ…反省が足りてない」  
紅く膨れ上がった尻は皮膚が擦れ、同じ刺激でも苦痛は倍になる。叩かれるたび嗚咽を撒き散らしながら、ピノコはぼんやりした聴覚である異様な音を聞き取っていた。  
あ……ちぇんちぇ…また…。  
それはいつもいつも、こうしてピノコのお尻を責めている時に流れてくる、ブラックジャックの荒々しい息づかい。  
ただの運動から来る呼吸の乱れとは違い、突き上げてくる感情を抑えきれずに洩れ出た狂気の欠片といおうか……何よりしっくりはまる表現は“興奮している”だった。  
おしおきの恐怖は痛覚だけではなかった。  
先生の様子が明らかに普段と異なる。それも完全に変貌するわけではなく、いつもの先生がふとした瞬間に別の仮面につけ替えるのだ。  
ピノコが最も恐れているのは──この歪んだ異質な裁きを心のどこか奥底で待ち望んでいる気がする、不確かな自分自身であった。  
やっと室内に静寂が蘇る。傷ついた双桃は空気に触れただけでもひりひりと焦げたが、とにかくピノコは一息つきぐったりと全身の力が抜けていく。  
 
放心しきった口元に男の人差し指が差し込まれてきた。  
「舐めろ…唾を根元までたっぷり絡ませろよ」  
そうだ、“おしおき”はこれで終わったわけじゃない。  
ピノコは唾液を口に含ませ、それをたっぷり指に撫でつけていく。  
充分ぬるぬるになったところでブラックジャックは指を抜くと、次は少女の菊穴に沈めていった。  
「ぁっ……」  
不快感というより、排泄を促されているかのような焦りと恥辱。  
ぎゅうっと腹に意識を集中させ、腸壁を貪る異物をあえて他人事みたいに捉えて耐え忍ぶ。  
「よし…一度降りなさい」  
ピノコは這うように男の膝から床に落ちた。  
ブラックジャックは立ち上がるとピノコを抱きかかえ再び座椅子に四つん這いの格好で座らせた。  
(あ…アレが始まるんら…)  
すっかり予測できている未来にピノコは強く瞼を閉じる。  
ブラックジャックは膝をついた姿勢で、剥き出しになった少女の秘部をじっとりと観賞する。  
先ほどまで弄っていた菊穴は伸縮してかすかに口を覗かせている。ヒダに覆われた陰唇は綺麗に線を引いたかのように生真面目に閉ざされていた。  
ブラックジャックはズボンのジッパーを引き下げ、すでに怒張して堅くなった男根を外部にさらして右手に収める。  
 
上下に擦りながら、残った片手で割れ目を広げ具を露出させる。  
薄く粘液を帯びた幼い蜜園の、ずっと下方──お目当ての突起を発見し挨拶代わりに爪で弾く。  
「ふあぁんっ!!」  
ピノコは顎をグッと反らした。  
皮に包まれた陰豆をまずは舌の先端を使って優しく慣らしていく。徐々に充血し包皮を捲り上げるぐらい膨らんできたら二指で挟み強めにくすぐる。  
「うぁあぁっ!!ちぇ…ちぇんちぇ…痛っ…ふあぁっ!」  
ピノコが絶叫するたびに、秘裂がひくついてヒダが細かく痙攣する。  
ブラックジャックの右手の動きはますます活発になっていた。亀頭の先から透明な汁が滲み出てくる。  
とうとうクリトリスに口を押し当て、指以上の苛酷な刺激を加えてやる。  
未熟ゆえに敏感な箇所を遠慮なく吸引されたのだからおかしくならない方が稀である。  
「ふぎゃあぁあっ!!あっ!あっ!ふはぁんっ…!!」  
ピノコの小さな体がびくっびくっと暴れ、ひきつらせていた筋肉が次第に弛緩していくのがわかった。  
ブラックジャックは腰を上げ肉幹の先端を少女の菊花にあてがうと、欲情の汚物をぶちまけた。  
どろりとした液体が太ももやお尻に飛び散るのをピノコは遠ざかっていく意識の中感じていた。  
 
 
 
 
一週間が過ぎた。  
二人の間は何一つ変わりなく、今までどおりの日常に運ばれていっている。  
「ちぇんちぇえーお買い物行ってきまーちゅ!」  
溌剌とした身のこなしでエネルギーたっぷりに駆けてくピノコ。  
ブラックジャックは見送ると自分の書斎へ足を向けた。  
デスクの一番下の引き出しを開け赤いリボンで装飾された小箱を取り出す。  
それをさりげなくデスクの端に置いておく。──昔、患者からもらったお菓子の入れ物で今は中身はただの空っぽだ。  
だが、ピノコは必ずこれを目にし、そして同じ過ちを繰り返すにちがいない。  
“おしおき”は“おしおき”でしかないと割り切ってくれている。  
実にありがたいことだ。──“おしおき”という化けの皮を被った、性的虐待でしかないのに。  
(真実を知らない方が幸せなことだってあるさ…わたしはピノコを愛している、だけど傷つけたくはない…だからこの方法を選んだまでだ)  
小箱のリボンを指で撫でつつ、ブラックジャックの顔には嬉しいとも悲しいとも取れる複雑な笑みが浮かんでいた。  
 
 
 
 
 
 
 
おしまい  
 

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