「私・・・あなたとなら逃げてもよかった。・・・どこまでも・・。」  
 
無惨にも血の気を失い、かつての鮮やかな色を微塵も呈さないその唇から  
別れの言葉が告げられる。かすれるように発せられたその音は、  
まるで命の灯火が消え失せる最後の時に漏れる溜息のようだった。  
 
彼の肩口の銃痕からは止まりかけていた血液が再び溢れ  
袖を伝い、彼女を支えている片腕を止め処なく濡らす。  
幾度となく死線をくぐり抜けてきたことによる、全身を蝕む疲労。  
極限状態まで張り詰め磨耗した精神、そしてその血糊のぬめり。  
 
ぶるぶると腕を痙攣させながら、  
それでも必死に彼女の体躯を支えていたが、彼の抵抗も虚しく  
その指から少しずつ・・・彼女の生命が滑り落ちてゆく。  
 
「さよなら・・・」  
 
ふっと腕から彼女の重みが消え失せた。  
後には闇の中に耳に痛いほど漂う静寂だけ。  
それを引き裂くように、彼の絶叫が辺りに響き渡った。  
 
 
 わっと沸き起こる歓声と拍手に背を押されるように  
レオンははっと我に返った。  
 
 
(・・・どうかしている。)  
 
自分を戒めるように首を2・3度大きく振ると、  
彼は煌びやかに彩られたパーティーホールを端からぐるりと見渡した。  
 
そう、今はこんな過去の感傷に浸っている時ではないのだ。  
グラハム夫人のスピーチが終わり、「ありがとう」と彼女が  
微笑むと会場からは再び盛大な拍手が沸き起こった。  
 
ここワシントンD・Cのホテル・フォー シーズンズでは  
米大統領夫人の生誕日を祝い、祝賀パーティーが催されていた。  
会場には各政界の貴賓から財界のトップ、  
ハリウッドセレブの名声を欲しいままにしている俳優女優まで  
様々な賓客が顔を揃えている。  
 
この日のレオンは大統領をはじめ、彼らに不測の事態が起きぬよう  
会場各所に配置されたシークレットサービスの1人として  
警護に当たっていた。  
 
グラハム夫人にインペリアルローズの美しい花束が手渡される。  
そして笑顔で夫人とキスを交わした女性―――彼女は  
グラハム大統領と夫人の愛娘であるアシュリー=グラハムだった。  
 
世間には報道規制が敷かれていたため公にはなっていないが  
大統領令嬢・アシュリー=グラハム拉致事件から数ヶ月。  
その彼女を救い出したのは、単身ヨーロッパに派遣された  
レオン自身である。  
 
あの時負ったであろう心の傷を微塵も感じさせない笑顔で  
アシュリーは来賓客に向かって上品に手を振る。  
こうして見ると彼女も立派なファースト・レディだなと  
レオンはあの事件を振り返りながらふっと苦笑した。  
 
この日を少しでも楽しんで欲しいからフォーマルより  
どうぞカジュアルで・・・とは夫人の要望であり  
アシュリーはふんだんにレースをあしらった可憐な  
キャミソールドレスに身を包んでいる。  
そして彼女は胸元を、母に送ったものと同じローズであつらえた  
コサージュで飾っていた。  
 
レオンも警護役とはいえ、この華やかな祝いの席で  
無骨な物々しさを出さないために、ややドレスダウンした  
ブラック・タイ姿で出席している。  
最もタキシードジャケットの下には拳銃を挿したショルダーホルスターが  
装備されているのだが。  
 
 
 宵の口を過ぎたころ、祝賀会場は喧騒ともつかぬ熱気に包まれ  
招待された紳士淑女達はせわしなくテーブルの合間を渡り歩き  
社交の辞を述べる事に余念がない様子だった。  
 
レオンはふと、ウェイターからカクテル・グラスを受け取る  
美しいオリエンタル系の女性の存在を瞳の片隅に捉えた。  
 
薄紅色に染め上げられた上質なシルクに、鮮やかな牡丹の刺繍。  
ベアバックのチャイナドレスがしなやかな身体によく似合う。  
マーメイドスタイルのスカート丈には大腿まで深くスリットが入れられており  
そこからすらりと長い脚線が覗く。  
 
軽くボディーパーマがかけられたブルネットのロングヘアを  
頭上で高く結い上げ、そこには翡翠を彫って作られた  
高価な蓮の花のかんざしが挿されている。  
ふいに、彼女の視線とレオンのそれとが絡み合う。  
 
・・・似ている。  
 
眼が合ったのは刹那だったが、レオンは吸い寄せられるように  
その女性を見詰めていた。  
パールのラメが入ったラベンダーのシャドウでアイラインが強調され、  
レオンの知っている彼女の瞳より更にシャープな印象を受ける。  
唇はピンクベージュのグロスで彩られ、光を受けて艶やかに輝いていた。  
 
大勢の人間が行き交うホールで、且つ遠目に見ているに過ぎなく  
ただの自分の思い過ごしなのかもしれない。  
しかもメイクの仕方も色の好みも全く彼女のものとは違う。  
レオンは、かつて彼女が自分に宛てたメッセージを頭の中で思い描く。  
紙面にはワインレッドのキスマークが薄く残されていた。  
だが裏を返せば女の面持ちは化粧によっていくらでも様が変わるのだ。  
 
 
(君なのか・・・? エイダ。)  
 
レオンの心臓がどくんと1度大きく跳ねる。  
そう、彼女は生きていたのだ。  
あの事件の中での思いがけない再会―――。  
 
けれどレオンが再び巡り会った彼女は六年前、  
彼の腕からすり抜けてしまった「エイダ」とはどこかが違っていた。  
 
遥か彼方を真っ直ぐに見据える澄んだ瞳。  
そこに宿る時に冷徹とも思えるような強い意志。  
結局レオンはかつて感じたような、エイダの女としての揺れる想いを  
幾分も彼女の中に見出せないまま最後に見失ってしまったのだ。  
 
『またね、レオン。』  
 
彼女はそう言った。  
あの6年前の別れの時に告げられた決別の言葉とは違う。  
それが何を意味しているのか、彼の思惑の及ぶところではなかったが  
レオンは2人の間できしきしと音を立てながら繋がる  
細く、でも長い運命の鎖の存在を感じずにはいられなかった。  
 
しばらく様々な考えを巡らせながら軽く溜め息を吐き  
虚空を泳いでいた視線を再び戻す。  
しかしそこに「彼女」の姿は見えなかった。  
慌てて周囲を見回したものの、やはり何処にもその存在を確認できない。  
 
彼の中で、今の自分が置かれている立場と彼女とが双方  
秤に掛けられ大きく揺れ動く。  
レオンは霞のように自身にかかる迷いを振り払うと、  
人込みを縫うようにすり抜けてパーティー会場を後にした。  
 
廊下で捉まえた幾人かのボーイに行方を尋ね、  
レオンは彼女を追ってゲストフロアへと足を踏み入れた。  
ここはホテルの中でも貴賓達の宿泊に充てられている  
スイートルームが並んでいる。  
カーペット張りの床をそっと踏みしめながら、  
慎重に周囲を散策するレオンの背後から唐突に女の声が聞こえた。  
 
 
「私に何か御用かしら?」  
 
はっとして後ろを振り返る彼の目前には、  
あの女性が微笑を浮かべながら静かに佇んでいる。  
レオンの背筋にぴりっと緊張が走った。襟を正す振りをして  
そっと拳銃の位置を確認し、レオンは彼女と同じように柔らかく笑顔を作った。  
 
「失礼。実はあなたに少しお尋ねしたいことが。  
お時間を頂いて構いま・・・  
 
―――――――!!?」  
 
彼がそう言い終えるやいなや、女性は自身の結わえられた髪に手を掛け  
勢いよく首を振った。ばさりとブルネットのウィッグがほどけ落ち  
床にふわりと広がる。現れたのはストレートボブのショートヘア。  
それは紛れも無く、レオンが窺い知る人物だった。  
 
「エイダ・・・やっぱり君か。」  
 
その刹那、彼の斜め背後の扉がけたたましく開かれ、  
黒い影がレオンの首を激しく殴打する。  
エイダの存在に動揺していた彼は完全に虚を突かれてしまい  
抵抗する術も持たないまま、暗闇にのまれるようにそのまま意識を失った。  
 
 
誰かの声が聞こえる―――。  
 
 
『俺が守るって言っただろ』  
 
あれは・・・俺だ。6年前、あの時の自分自身。  
ほんのひと時しか着る機会に恵まれなかった蒼いラクーン・ポリスの制服。  
痛々しく身体に巻かれている包帯。薄く滲んだ血の汚れ。  
そして傍らに居るのは・・・。  
 
『あなたに死んで欲しくないの。  
少ししか一緒にいなかったけど、私忘れないわ・・・。』  
 
『・・・・俺は・・』  
 
『私に人を愛する資格はないの。でも、あなただけは・・・。』  
 
『生きてここを出るんだ。待っててくれ。』  
 
 
違う、そうじゃない。あの時俺が言おうとしていたのは・・・。  
どうして言えなかったんだろう。  
けれどそれは俺自身が一番よく解っている。  
 
彼女の一切に惹かれ、あの地獄の街から無事に救い出したいと  
心から思ったのは真実だ。  
でも・・あの頃の俺は何一つ持ってはいなかった。  
力も金も実績も。そのくせ馬鹿正直で無鉄砲で。  
 
 
だから自信の裏付けになるものが欲しかった。そう・・・  
「彼女を最後まで護り抜いた」という事実が。  
 
その後になら・・一人の男として堂々と彼女の前に出れると思っていた。  
 
今となってはお笑い草だ。  
つまらないプライドに意固地になって、そして彼女を死なせた。  
彼女は・・・エイダはあんなにも俺に真摯に接してくれたのに。  
 
もし言っていたら・・・  
彼女は何もかも捨てて俺を選んでくれたかもしれない。  
言えばよかったんだ。  
 
『君が好きだから一緒に居て欲しい』 そう一言。  
 
 
・・・あれから俺はがむしゃらに自分を鍛えた。どんな過酷な訓練も、  
生と死が常に隣り合わせの危険な任務にも耐えてきた。  
俺は彼女に贖罪したかったのかもしれない。  
けど・・・それで俺に何が残ったというのだろう。  
 
エイダ・・・君は・・・。  
 
彼の中で混濁した意識が次第に鮮明さを帯びていく。  
まだ鈍痛の残る首を少しもたげて周囲を伺う。どうやらホテルの一室らしい。  
視界に映る部屋の装丁は目を見張るほど豪華で気品があり  
客室の中でもかなりランクの高いキャピタル・スイートのようだ。  
 
その絢爛な作りの寝室に置かれた、これもまた豪華な  
キングサイズのベッドの上にレオンはタキシード姿のまま寝かされていた。  
 
「お目覚めかしら? レオン。」  
 
弾かれたように上体を起こし、声の方向へ顔を向ける。  
ベッドから少し離れた部屋の壁に、もたれるように寄りかかりながら  
エイダが立っていた。先ほどと同じようにその口元には微笑みを浮かべているが、  
今度のものは冷たい・・言うなれば氷の微笑のであった。  
 
 
「エイダ・・・一体どういうつもりで・・。」  
 
「待って、その前に。もう1人ゲストを招待して構わないかしら?」  
 
彼女が指先をぱちんと鳴らすと、寝室のドアが静かに開いて  
見知った顔がそこから覗く。明るい金色の髪と瞳。  
会場で見かけたドレス姿の上から、今はルイ・ヴィトンのピンクのショールを  
羽織っている。間違いなくアシュリーだ。  
 
彼女はレオンの姿を見つけると顔をぱっと輝かせ  
半開きになっていたドアを開け放ち寝室に足を踏み入れたが  
部屋の隅に佇んでいる人物に気付いて表情を曇らせた。  
 
 
「さっきの人じゃないの?  
あれ・・・あなたって・・・。もしかしてあの時の。」  
 
「アシュリー?! どうしてここに・・。」  
 
 
アシュリーはようやく事態を察知したのか、  
一瞬だけレオンと目を合わせると、そのまま顔を伏せた。  
表情から不安と後悔がありありと見て取れる。  
大方の事情を察して、レオンは心の中で短く舌打ちをした。  
 
「ごめんなさい・・・私どうしてもまたレオンに会いたくて。」  
 
 
『レオン・S・ケネディが会場に来ていますよ、お嬢様。』  
 
招待客にもみくちゃにされながら、ようやく化粧室へ解放された  
アシュリーに耳打ちしてきたのは今目の前にいる女性だ。  
もっともその時はロングの黒髪を結い上げた髪型だったのだが・・。  
 
あの事件でその女の人を見たのはほんの少しだけだったし、  
いま改めて目前にするまですっかり忘れていた。  
 
『彼に、内緒で会わせて差し上げます。』  
と親しげに誘い掛けてくる彼女をアシュリーは素直に信じてしまった。  
 
父が主催する今日の祝賀会は、それほど格式ばったものではないとはいえ  
身元が怪しい人物が紛れることは無いはずだし、  
用心を重ねて、父と対立的な立場にある政治家は招待リストには入っていないのだ。  
 
だから彼女もあの事件の事情を知っているレオンの関係者で  
自分に気を利かせてくれたに違いない・・・アシュリーには  
そうとしか考えられなかった。  
 
父はあの事件以来、改めて礼が言いたいからと  
アシュリーが何度も頼みこんだにも関わらずに  
1度もレオンに会わせてはくれなかった。  
 
 
「彼は仕事なのだから。」  
「恐い思い出は早く忘れてしまいなさい。」  
 
その言葉の一点張りでアシュリーを黙らせてしまった。  
けれど彼女は納得できずに日々不服を募らせていた。  
どうしても・・・またあのレオンと再会を果たしたかったのだ。  
 
故に「少し疲れて気分が優れないので部屋へ下がります。」と  
両親やガードに断りを入れ、会場を抜け出すという冒険に及んだのも  
全てその純粋な気持ちからに相違なかった。  
 
 
「エイダ・・・何が目的だ?」  
 
「下手に動かないでレオン。ベッドにはね、爆薬がセットされてるの。  
それほど規模は大きくないはずだけど  
人の身体をえぐり取るくらいは充分よ?  
 
あなたが少しでも怪しい素振りを見せたら、私は即座に  
爆破のスイッチを押すわ。」  
 
 
片膝を立てて、臨戦態勢に入ろうとしていたレオンを  
素早くエイダが牽制する。その手には黒いプラスチック製の  
小さな筒が握られていた。お互い一触即発の張り詰めた空気が流れたが  
 
「あなたは自分の力で逃れられたとしても彼女はどうかしらね?」  
そう不敵に笑って脅迫を突きつけてくるエイダに成すすべなく  
レオンは肩の力を緩めた。  
 
「レオンあなたはいつも賢明で助かるわ。それじゃ教えてあげる。  
目的は・・・お金よ。拍子抜けしたでしょうけど。」  
 
エイダは自身の足元に置かれているジュラルミンケースから  
小型のデジタルビデオカメラを取り出すと、スイッチを入れて  
機械の具合を確かめ始めた。  
 
「イルミナドスの連中じゃないけれど・・・  
組織を維持発展させていくのにはなかなかお金がかかるものなのよ。  
それをこれから大統領にご援助願い出て、  
快く受けてくださるように手を打とうというわけ。  
 
大統領が拒否してきたら、可愛い愛娘の痴態が世間に  
公けにばら撒かれるの。そうね、ニュースペーパーの見出しは  
 
『大統領令嬢、お気に入りのSSをかこって夜の御乱行』  
 
なんてどう・・・?」  
 
「呆れて物も言えないな・・・。その君の組織はロスの奴らと  
同じ穴の狢というわけだ。」  
 
「あら、失礼ね。あんなカルト教団と一緒にして欲しくないわ。  
確かに姑息な手だけど、奴等に比べたら  
まだまだ「人間の」汚さの範疇だもの。  
 
さて、お嬢様。お喋りはここまでにして本題に入りましょう?  
約束どおり彼と会わせて差し上げたのだから、こちらの要望も  
聞き入れて欲しいわ。  
 
そんなに難しく考えなくていいのよ。映画とか見るでしょ?  
あんな感じで彼とベッドインしてもらえばいいの。」  
 
みるみるとアシュリーの顔に怒りの表情が昇る。  
胸の前でショールの裾を両手で握るように掻き寄せると  
エイダを睨み付けた。  
 
「ふざけないで! 死んだってそんな下品な陰謀に乗らないわ!」  
 
「そう。でも断れないわよ?  
あなたが断ればパーティー会場にも複数設置されている爆薬が  
一斉に炸裂するわ。さて何人死人が出るかしらね。  
 
・・・運が悪ければあなたのお母様もお怪我をなさるかも・・」  
 
「そんな・・」とアシュリーは顔色を青く染め黙り込んでしまった。  
瞳の端にはうっすらと涙が浮かんでいる。  
エイダはそれを見て、くすりと満足そうに微笑んだ。  
 
如何様にして、エイダや彼女の組織の工作員がここへ  
潜り込んだかは不明だが、かなり様々な権力にまで手が届く位置に  
存在していることは確かだろう。  
ロス・イルミナドス教団の研究施設がある孤島を  
見るも鮮やかに粉砕した手際から見て、エイダのいう事が  
ジョークともはったりとも思えない。  
 
アシュリーは硬く握りこんでいた両手を解いて、ゆっくりと  
レオンの方へ向き直る。彼女の足元にピンクのショールがはらりと  
舞い落ちた。  
そして震える足どりで、ラメ入りのミュールを片方ずつ脱ぎ捨てると  
ゆっくりとレオンの居るベッドの上へとのぼる。  
 
「レオン・・ごめんなさい。」  
 
「君が謝ることじゃない・・・。」  
 
すでに彼女は半泣きになっていた。  
顔を上げ目尻から一粒こぼれ落ちた涙が痛々しい。  
頼りなさげに剥き出しの両腕を、恐る恐るレオンの首に回す。  
 
「レオンは・・恋人はいるの?」  
 
「いないよ。」  
 
「じゃあ好きな人は?」  
 
「・・・・遠い昔に死んだよ。」  
 
静かな声でそう呟いたレオンが、瞼をしっかり閉じたのを確認し  
アシュリーは自身の瞳も閉ざしてそっと彼と自分の唇を合わせた。  
 
電池の切れたロボットのように微動だにしないまま、  
十数秒の軽いキスを続けた後、彼女は顔を一度離し  
今度はレオンの額や鼻先、頬や顎にソフトキスを繰り返す。  
 
レオンもまるで蝋人形のように瞳を閉ざしたまま身体を堅くして動かない。  
傍から見ていればファミリーの兄妹が交わす抱擁と  
そう大して変わらないし、犬猫でももう少し気の利いた  
グルーミングをするものだ。  
エイダはそんな2人を眺めながら呆れたように息を大きく吐いた。  
 
 
「・・・困った人達ね。保育園のおままごとじゃないのよ?  
あなた達が乗り気じゃないのなら仕方ないから見出しを  
変えることにしましょう?  
 
『反グラハム派・大統領の令嬢を誘拐して集団暴行』  
 
ってね。ああ、言い忘れたけど隣の客室にエキストラが  
たくさん控えているから心配しないで。」  
 
さあっとアシュリーの顔に恐怖の色が広がっていく。  
彼女はレオンのジャケットの襟を掴むと胸に顔を埋めて肩を震わせた。  
 
「い・・や・・。嫌!」  
 
「エイダよせ!!―――――解った。言うとおりにする。  
だからこれ以上彼女を脅すような真似はやめろ。」  
 
「そうね。お嬢様はとてもシャイだから、あなたから  
イニシアチブを取って優しく教えて差し上げたら?レオン。」  
 
 
レオンはその言葉には答えず、小刻みに震えるアシュリーの肩をそっと掴むと  
1度自分の体から引き離し、彼女の腰に手を回して静かに横に寝かせた。  
 
そしてジャケットのボタンを外し、無造作にそれを脱ぎ捨てる。  
予想はしていたことだが、拳銃はホルスターごと奪われてしまったらしい。  
それから黒のリボンタイ、カマーバンドとサスペンダーを次々と外して  
白い立襟のカフスシャツのボタンを胸まで開く。  
 
両手で自身を抱きしめるようにして体を強張らせている  
アシュリーの隣に、レオンはゆっくりと横臥し  
指先で優しく彼女の髪を掻き分け頭を抱き寄せる。  
 
 
「初めて?」  
 
「ん・・。」  
 
喉につまらせたような短い返答だったが、  
ぽっと頬に朱を昇らせた彼女の表情からレオンはその事を察した。  
 
アシュリーの心臓が早鐘のように高鳴る。いい年をして  
まだまだ子供だと思われているのは薄々判っていたが。  
まさかレオンと自分がこんな事になるとは夢にも思っていなかったのだ。  
 
キャンパスの特に親しくしているボーイフレンドと  
人目を盗んでキスをしたり、お互いの体を触りあったりしてアシュリーは  
自分なりに女としての成長を遂げていると自負していたつもりだったが  
どうしても性行為まで踏み切る勇気がまだ持てなかった。  
 
他の女の子の友達は皆、彼の家で・・・とか彼と旅行に行って・・・とか  
開け広げにセックスの話を楽しそうにしてはばからない。  
それを聞く分にはアシュリーも面白がって話に乗っていたけれど  
彼女自身には「大統領令嬢」という不動の肩書きが付いているのだ。  
 
どんな些細な事が父の不名誉や失脚につながるとも判らない。  
だからいつも他人からはファースト・レディとしての  
自覚や気品、優雅さが求められた。  
 
もちろんアシュリーも女である以上、そういった男女の情事に  
興味が無いわけではない。  
けれど、父や母は自分を思ん量って比較的自由な校風のキャンパスへ  
入学させてくれた。自分の立場を気負わずいつも笑顔で居て欲しいと。  
アシュリーはそんな両親の思いやりを無下にしたくなかった。  
 
 
レオンは自分をどう思っているだろうか・・・。  
彼女はレオンの心の底を覗き込むように彼の瞳をじっと見つめた。  
 
 
指の腹でそっと唇をなぞるように触れると、  
レオンは彼女のそれを自分の口で塞ぐ。  
そして優しくついばむように、アシュリーの唇を2・3度挟み  
僅かに開かせた隙間から舌先を彼女の口腔へ滑り込ませる。  
 
「・・・っ!」  
 
アシュリーの身体がびくっと硬直した。  
構わずレオンはフレンチキスをしたまま  
腰を腕で抱えるように抱き寄せ彼女と自分の体を密着させる。  
そのまま片足を下肢の間へ割り込ませると、  
アシュリーのキャミソールドレスのスカートがまくれて  
裾が大腿までずり上がり、瑞々しい太股が露になった。  
 
 
 
レオンは両腕でしっかりとアシュリーを抱きしめながら  
彼女の鼓動を全身で感じていた。  
薄いシャツを通してアシュリーの柔らかさと温もりが伝わってくる。  
この数年間、彼が生きてきた世界は常に硬く冷たく強張っていた。  
 
鉄と錆、コンクリート、草いきれと熱の立ち込めるバラック。  
鋭利なナイフ、鉛の弾丸・・・そして血と骨。  
始終見えない敵の影に神経を張り巡らせ、戦い続ける。  
 
そんな凄惨な世界が遠く霞んで見える程  
彼女の体温は圧倒的なリアリティを帯びてレオンの琴線を揺らす。  
そのひたむきで穢れを知らない処女性を  
彼は素直にいとおしいと感じた。  
 
6年前のあのラクーン・シティで起きた惨事を彷彿とさせるような  
ロス・イルミナドス教団との酸鼻極まる戦い。  
アシュリーと出会ったのはその最中だった。  
おかしな話だが、彼女の存在が無ければ自分は生きてアメリカへ  
帰還することは出来なかっただろう。  
 
『大丈夫だアシュリー!! 必ず助けだす!』  
 
そう、いままで自分が鍛え培ってきたこの力は  
まさにその時使うためにあったのだ。  
 
 
誰かを護りきる力―――。  
あの時の・・悲劇をもう2度と繰り返さないために・・・。  
 
今度こそ  
何があっても彼女を無事帰すのだと決意した鋼の意志が  
レオンの身体を最後まで支え、そして勝利へと導いた。  
アシュリーは自分に深く感謝してくれているようだが  
本当に礼を言いたいのは自分のほうなのかもしれない。  
 
6年前の惨めな後悔を、その明るい笑顔で払拭してくれた彼女に・・。  
 

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