藁をも縋る思いで洋館に迷い込んだジル・バレンタインらS.T.A.R.S隊員は、新たな脱出経路を探るべく  
建物内を探索していた所だった。  
 
何故このような立派な作りの洋館が、ひっそりとこのアークレイ山中に建っていたのかはわからない。  
加えて一行がこの洋館に飛び込んだ時にはつい最近まで人が生活していたような痕跡もあり、疑問を  
残す点が現状としていくつも数えられたのだが、脱出経路が無くなった今となってはそのような事に  
探りを入れている場合でもなかった。  
それ程状況は逼迫していたのだ。ジル達アルファチームの本来の目的は行方を眩ましたもう一つの  
チーム、ブラヴォーチーム隊員の捜索だった。しかし現在、ジル達アルファチームに死亡者が出た上に  
辺りは化け物達が犇いている。このままでは自分達の命も脅かされると考えた一行は方々に別れ、  
とりあえず館の内部を探る事になったのである。そして見つけた、ブラヴォーチーム隊員の亡骸。  
ここに来て残存するアルファ隊員は、数名の生存の可能性があるブラヴォー隊員を捜索しつつ退路を  
確保するという考えに至り、ウェスカーの指示で再び分かれた現在、残るジル、バリー、クリス、そして  
ウェスカーの四人はそれぞれ館内部を彷徨い歩いているところだった。  
 
ジルはとある個室の扉を注意深く押し開けた。  
勿論館内部の把握の為でもあるが、同時に、ここに来る途中に使い果たしてしまった唯一の武器M92Fの弾薬を  
どこかで調達出来ないものかと隈なく探し回っていた事も理由の一つにある。  
ジルは焦燥にあった。武器の無い今、再び化け物が襲ってきたら、という懸念を払拭しきれぬ為である。館の移動は  
緊張が常に絶えず、とにかく抗える術の無い自分にとってまず一番に考えるべきは戦闘の回避と念頭に置き、足音を  
殺して周囲を注視した。ぎし、ぎしと軋む床板が余りにも心許なく、ジルはその額に汗が吹き出る思いだった。  
部屋を見渡し、何者も居ない事を確認する。そこは何の変哲もないただの個室で、ベッドに本棚、クローゼット、  
そして机などがそれぞれ壁際に置かれていた。ジルはそこでようやく安堵の息を漏らすと、つかつかと部屋内に踏み込み  
机の引き出しやサイドテーブルなどを物色し始めた。しかし期待とは裏腹にお目当ての弾薬は見つからず、ジルは  
はあ、と溜息を漏らし、疲労の溜まった脚を落ち着けようとベッドにすとんと腰を下ろした。  
ふと視線を上げれば、正面にクローゼットが見える。  
 
 
ジルは再び腰を上げて、木製のクローゼットの傍に歩み寄った。クローゼットは微かな隙間分だけ開いていたが  
中は暗くて見えない。ジルは取っ手を掴み、両の扉を開け放った。  
途端、中から何かが勢い良く飛び出し、自分の体に覆いかぶさってきた。咄嗟の出来事にジルは思わず悲鳴を  
上げてしまう。  
 
それは死体だった。薄汚れた白衣を纏った、男の死体である。血の気は一切なく、何より触れたその  
皮膚の冷たさで即座に理解できる。ジルは倒れそうになる体を足を踏ん張り懸命に堪えた。かなりの  
重量だった。とても気分の良いものではないし、すぐにでも振り解きたい所ではあったのだが、ここで  
予想外の展開がジルの身に起こったのである。  
 
体が動かせないのだ。立ち堪え震える体は寧ろ男に吸い寄せられるように、意思とは反して何か  
強い力で押さえ込まれていた。ジルはその瞬間、気付いた。腰や背中の辺りにある圧迫感は  
死体の腕だという事を。気付いた時には既に遅く、ジルは死体───ゾンビの腕に抱きすくめられている  
状態にあったのである。  
ジルの眼前で、ゾンビの目の玉がぎょろりと蠢く。尚もゾンビはジルと体を密着させて来ると、ゾンビの  
粘つく唇が、醜気の濃厚な荒い呼吸が、ジルの頬に触れるまで迫る。ジルは全身が総毛立った。  
必死で顔を押し遣ろうと手を伸ばし、ゾンビの顔を退けようとしても構わずゾンビはジルとの密着を求める。  
その挙動は凡そ知能の及ぶようなものではない、ただ本能的に不器用で、無駄だらけの挙動である。ジルの  
腰に回されたゾンビの両腕は恐ろしい力で彼女の体を締め上げて来る。あまりの圧力にジルは苦悶の悲鳴を  
あげながら腰の手を振り解こうと手を伸ばすも、待ち構えていたかのようにゾンビの顔が勢い良く近付き、  
彼女の口内に蛞蝓(なめくじ)のようなおぞましい舌が滑り込んでいた。  
 
ジルは咄嗟に顔を振って逃れた。胃液が喉元まで迫り、涙が瞳に溢れてくる。訳がわからず、彼女は無我夢中で  
ゾンビの顔を殴りつけた。この時既にジルの両足は地を離れ、宙を彷徨っていたのだ。  
ジルは辺りの状況も顧みず叫んだ。何度も助けてと繰り返し叫んでも、部屋の向こうの廊下は静寂を  
保ったままだった。  
ゾンビは抵抗するジルを無造作に床に叩き付けた。頭をしたたかに打ち付け、朦朧とする思考の中でも  
ジルは腹ばいのまま、匍匐(ほふく)で床を這いずった。扉までの距離が絶望的に遠く感じられた。  
ゾンビは震えながら必死に逃げようとするジルの姿を見下すと、下手糞な操り人形のように肩を揺らしながら  
近付いてくる。そして交互に伸びる足首を掴むと、彼女の体をずるずると引き摺っていく。  
 
ジルは床に爪を立て、引き寄せられる体を必死に捩じらせる。両足で何度もゾンビの体を蹴りつけた。  
が、返ってくる感触はゴムのようで、体に寒気がぞくぞくと駆け抜けた。人を蹴った感触がしなかった。  
一方のゾンビはそんなジルの姿を見て、哄笑したかに見えた。土気色に染まったその皮膚からは凝固しかけた  
血が滲んでおり、ぼろぼろに脆く、剥がれ落ちた皮がぶらぶらと揺れ動いていたのである。  
恐怖に全身が硬直し、もう哀願する声もかすれていた。体が接近するにつれてその光景が徐々に  
はっきりと細部まで視界に映し出されていく。ジルは目を逸らせず、その光景に釘付けになってしまっていた。  
ゾンビの腐臭が、肉の削げ落ちた腹が、掻き毟られたような傷が、白い眼球が、ジルの肉体を求めて  
一つに蠢いていた。  
 
 
ゾンビは今、ジルのすぐ上から彼女を眺めていた。  
糸が切れたように膝ががくんと落ちる。そのままジルの体に覆い被さっていくと、一気に迫るその  
グロテスクな光景にジルは絶叫した。  
手を伸ばして、ゾンビの柔らかく気味の悪い体を受け止める。その体は想像以上に重く、ジルの  
伸ばした腕は肘から曲がり、圧迫に震えた。それでも残る全力を振り絞らなければならなかった。  
馬乗りになったゾンビの肉の腐った臭いが、顔を背けても鼻を突いてくる。ゾンビの喉がしきりに動くと、  
ジルの首筋に唾液がつうっと一筋垂れた。  
ゾンビは接近を拒むジルの両腕を掴み、凄まじい力で押し付けてきた。ジルの背中が床から離れ、  
腕ががくがくと震え始めた。ゾンビの両足がジルの股を割り、左右の脚に絡みついてくる。腹部が、  
呼吸でしきりに上下する。  
状況の悪化にジルは絶望する。掴まれた腕がきりきりと痺れ始め、震えながら徐々に高さを失っていく。  
ゾンビの唾液が今度は彼女の頬に垂れた。ふしゅ、ふしゅうと、ゾンビの漏れ出したような呼吸が  
近付いていった。ジルの呼吸は震え、不規則に腹部が揺れている。それでも彼女は諦めず、懸命に腕に力を込めた。  
唐突に、ゾンビが彼女の周りの部位より突出した胸元に顔を埋めてきた。その生暖かい感触にジルは  
顔を振って、しきりに悶え始める。  
 
豊満な弾力性に富むその乳房の頂点から垂直に、ゾンビは大きく口を開けてむしゃぶりついてくるのだ。  
ジルの腕がまた一つ、がくんと下がる。粘り気のある蛞蝓のような舌が、乳房を這い回った。唾液に  
濡れた胸元一帯はてらてらと透けて着用していた下着が徐々に浮かび上がっていった。  
 
腕の力の方向が変わる。既にジルの腕はゾンビの顔が首筋に埋まる程にまで落ちていたが、ゾンビは  
狙った胸元を執拗に弄んだ。ジルは堪らずに拍子の抜けた一つ高い声を漏らすと、呼吸を乱されながらも  
歯を食いしばってそのおぞましい感触に耐えた。やがて頂点の突起付近を、ゾンビは待ちかねた様に  
吸い上げる。衣服越しでも吸い付かれるその感触は伝わってきた。ゾンビの舌がしきりに蠢き唾液を  
べっとりとシャツに染み込ませていく。  
ジルは困惑していた。思考がうまく回らずにその分厚い舌の感触に身悶えた。視界がぐらぐらと捩れていく。  
天地の感覚が徐々に愚鈍になりつつあり、車酔いにもにたその感覚に吐き気を催し始めていた。  
やがてゾンビが顔を離す。彼女の意識が逸らされ始めた首筋目掛け口を開けたが、ジルはこれを  
許さなかった。それを知ったゾンビは今度は反対の乳房を口に含む。  
彼女は漏れそうになる声を押し殺した。  
毛の抜け落ちたゾンビの頭が胸の上で蠕動していた。ジルは顔を背け、唇を噛みしめていた。  
体に熱が走る。絡め取られたブーツの足先が、前後に動いた。嫌でも皮膚の感覚を鋭敏にされ  
次第に爆ぜる熱が体の内部から表面へと押し出されていく。一連の最中、ジルが声を発する事はなかった。  
鼓動は治まらず、血液の循環が全身に響き、そして目の前に映る視界を遮っていく。溜息一つで、ジルの  
体からあっけなく力が抜けた。  
それは意識した事ではない。例えるなら毒に侵されたような感覚だ。ゾンビは観念したかに見えるジルの  
首筋に今度こそ大口を覆い被せた。皮膚にダイレクトに感じる粘り気に満ちた舌の感触が確実に  
ジルの痺れを増幅させていく。  
 
消え入るような声が、ジルの口から零れた。ゾンビはでろりとうなじに滲み出た汗の雫を舐め取っていく。  
そして唸りながら、ジルの首筋、顎の下や唇に侵攻していくのである。  
床に押し付けられたジルの指がひくひくと動いていた。口腔至る所を嘗め尽くされ、舌を取り押さえられ、啜られた。  
侵入を阻止しようとした歯はこじ開けられ、ゾンビの唾液の味が口内に広がった。歯茎、舌の裏と  
全てに塗りたくられたその腐った肉のような酸っぱい味に、ジルは口の端から胃液を零した。目の前に  
閃光が走り、みるみる体から力が抜けていった。そしてしばらくのちにようやくゾンビはジルの唇から舌を抜くと、  
激しく咳き込むジルには目もくれず、今度はジルの衣服を無造作に引き裂いていったのである。  
 
ゾンビの爪が肌に少し食い込み、白い肌に爪跡が赤く残る。ジルは残る渾身の力で男を蹴り上げるが  
無駄だった。ベルトが上手く外れない事に業を煮やしたか、ゾンビはベルトを引っ掴みジルの体ごと  
持ち上げていく。いとも簡単にジルの体はゾンビに引き摺られ、宙に浮かび、そして叩きつけられた。  
ジルはもう衰弱しきっていた。打ち付けられた全身が灼熱のように熱く、腫れ上がった。声にならない声で  
何度もやめてと哀願したが、聞き入られる筈もなかった。やがてベルトの金具が外れると、ゾンビは  
下着ごと一気にズボンを引き千切るように下ろした。そして再び体を揺らしながら彼女の体に一気に覆い被さり  
股間から陰茎を曝け出したのだ。  
 
その剛直は周りの部位と違い明らかに皮膚の色が違っていた。比較して見れば、血の巡りが一目瞭然である。  
静脈が黒く鼓動し膨れ上がったグロテスクに爛れているそれを、ゾンビは何の前触れもなくジルの秘唇に沈めた。  
ジルは悲鳴をあげた。ゾンビの肉塊が、自らに侵入すべく陰唇をこじ開ける。脚を懸命に振るが、ゾンビに  
届かなかった。身動きが取れなかった。  
それは、強烈な刺激だった。  
彼女はゾンビの力に翻弄された。ゾンビの腰が何度も彼女を突き上げ、かき回し、肉を捕らえた。  
体をより密着するように引き、柔らかな肌をそのざらついた指で撫で回し、ゾンビは喘ぐように呼吸していた。  
ジルは口元から胃液を零したまま、空ろな視線で天井を見上げていた。断続的に吐き出される呼吸と  
泣き声が、部屋に木霊する。  
 
彼女の目の前で動く化け物は体を落とし、ジルの喉元にかぶりつく。片手で乳房を揉みしだき、一方の片手で  
ジルの両腕を頭の上で押さえ付けていた。再び唇に舌を差し込もうとするゾンビにジルは必死に歯を食いしばったが、  
やはりそれは敵わなかった。残る胃液とも唾液ともつかぬ液を啜りつくされた。その所為か、ジルは顎を上げたまま  
再び胃液を逆流させた。ジルの目から涙が零れ落ちた。  
 
ゾンビはがむしゃらに腰を突き動かす。奥まで到達した剛直は一度震え、そしてまた引き返し、再び  
彼女の肉壁を押し遣った。痛みが何度もジルを襲った。それもその筈、満足に愛液さえ分泌されなかった  
そこは男の侵攻に擦れ、加えて行為の相手を考えれば快感などあったものではなく、ジルはただゾンビが  
一秒でも早く果てるよう、陰部に力を込める一方だったのだ。串刺しにされるような、そんな感覚に意識が  
飛びそうになるのを必死に堪えていた。  
 
時間が刻々と過ぎていく。  
部屋の外は相変わらず無音に包まれており、部屋内に聞こえるのは二つの呼吸音のみだった。  
ゾンビは口元をひしゃげながら、己の欲求を満たすべくひたすらに動き続けた。ジルの目線は既に、どこに  
定まる事も無くただ宙空を彷徨っていた。  
やがて男が一際大きく腰を叩きつけ始める。ジルは絶叫した。駄目、駄目だと心の中で何度も叫んだが、  
止まらなかった。ジルの内部が、全てがゾンビに犯されていく。視界が振れ、奥へ、さらに奥へと彼女の奥底へ  
何度も何度も放たれた熱の塊が溶けていった。ジルは顎を振り上げ、脚を曲げながら痙攣した。  
呼吸が止まり、意識が徐々に薄れていく。逃げ出す事も叶わずに、ジルの腰はがっくりとその場に落ちた。  
 
ゾンビは果てた陰茎をずるりと引き抜いた。ジルは顔を背けながら、ひくひくと泣き咽ている。  
───だが、ゾンビがジルの体を手放す事は無かった。ゾンビは力無い彼女の体を引き摺ると  
唾液の筋を伸ばし次第に大きく口を開き、そしてにたりと哂ったのである。  
 
 
 
 
再び、ジルの悲鳴が部屋に木霊する。  
部屋の隅に落ちているベレー帽の、S.T.A.R.Sバッチが薄明かりに光っていた。  
 

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