唸り声や気配を避けながら慎重に進み、私たちは病院にやって来た。
やはりここもダメだ・・・・ゾンビどもに囲まれている・・・・だが
希望は捨てない! 何かきっと、手がかりや役に立つ物がある筈だ。
私は彼女達を連れて、点検用の梯子から上へ上がる。そして301号室の上まで
移動し、靴で窓を割って中に入った。私たちは一息つき、襟を正す。
利用できそうなカプセルは持って行こう、薬品からも何か作れる筈だ。
ア「それじゃ、行きましょ」
アリッサがドアを開けようとすると生存者が入って来た。驚かさないでくれ!
電力の復旧を試みるハルシュは、気味の悪い妖怪にあっという間に殺された。
もう常識では考えられない。私たちは感情をわざと鈍磨させ冷静を装う。
私は声が上擦らない様、カードキーの事やシャッターの説明を手早く済ます。
アリッサは怯えるでもなく、腕組して平然としている。心配なのはシンディだ。
努めてすました風に見せているが、目が泳いでいる。彼女とは一緒にいなければ。
───2手に分かれて進む。私たちは2階へ行き、大量にカプセルを作った。
シンディは止血帯を手にする。私は軽く血の止め方を教えてから、気付けに
アンモニアのアンプルを割った。そして彼女の頬を両手で挟み、やわらな唇を吸う。
B2Fで3人は合流した。アリッサから南京錠の鍵を受け取る。きっとどこかで
使うのだろう。あとはLV2のカードリーダーの先へ行ってみよう。カードはどこに?
シ「ア! アリッサ! オーマイガッ!」
ア「Huh?」
何を思ったのかシンディがアリッサの顔をひっぱたいた! どうしたシンディ!?
ア「Shit!! 何すんのこのクソ女! ハリ倒すわよッ!?」
と言い終わらないうちにアリッサはやり返している、シンディの頭をはたき返した。
シ「ち、ち、違うの! 額! 額!」
そう言われて良く見ると、アリッサの頭の上に巨大なヒルがでんと乗り、
額に口を付けてキューキューと血を吸っている!! 何故気付かない!?
シ「ヒィッ!?」
シンディは今度は私を見て跳び上がった。私は自分の頭に手をやるが、いない。
そんな彼女は足に蛭をくっ付けている。私とシンディはお互いに指差し合う。
ア「ゥゥゥウウウヴヴヴヴッ!!!」
アリッサは自分の額のヒルを剥ぎ取り地面に力一杯叩きつける! そして
シンディのスネのヒル、私の首筋に張り付いていたらしいヒルを握り潰す!
ア「あんた達なんなのよ! もう!」
その時、天井からヒルの妖怪が降って来た! うねるヒルの塊、近づくヒル男!
ア「走って! こっち!」
私たちはアリッサの後について逃げる。私は途中で輸血パックを手に入れた。
定温実験室まで逃げて来ると、行き止まりだ。さあどうする? どうすれば!?
アリッサは血の気の引く私の持つ、ボンベイブラッドとあるそれを奪い取り、
中の血を地面に撒き散らす。するとガラスの向うに見えるドアが開き、奴が
こっちへ来た! だが私たちには目もくれず地面を舐め始めた。今のうちに!
ア「来なさい、あっためるわよ」
私たちが部屋を出ると、アリッサはまるでコンビニ店員がチンするような顔で
ヒル男を加熱した・・・・。よたつく男、剥がれ落ちる沢山のヒル・・・・。
ハルシュのなれの果ての傍らからカードを拾い、南京錠を外しボートに乗る。
ア「Fuck!!」
目前に迫る妖怪の棲家に激突する前に、私たちはボートから飛び降りた。
ア「ほら! 行くの!!」
私たちはアリッサに追い立てられて来た方へ戻って行く、手に手を取って。
振り返り遥か後方を見やると、アリッサが巨大ヒルのモンスターを挑発し、
こちらへと誘っている。気味の悪い鳴き声と、時折吐き飛ばす黄色い酸!
私たちは手当たり次第に武器を手にする、銃、松葉杖、棒切れ、鉄パイプ。
そうしているうちにアリッサとヒルが来てしまった! アリッサが段差を上がる。
銃を構えるシンディ、それを制止して棒切れをヒルに投げる彼女。アリッサ?
ア「貸して」
私は鉄パイプを渡すと、アリッサはそれでヒルを滅茶苦茶に叩き始めた。
シ「イヤアアアッ」
しゃがみ込み、耳を塞いで背を向けるシンディ。何故銃を使わないのだ?
ハ「アリッサ! そのポリタンクを爆破させよう!」
ア「弾の無駄! 無駄よ無駄無駄ッ!!」
鉄パイプが使えなくなると今度は松葉杖で暴虐! それも壊れると次は蹴りだ。
ハ「人はこうも残忍になれるものなのか・・・・・」
アリッサは大ヒルを拷問の末殺してしまうと、清々しい笑顔を見せる。
珠のような汗をかいて、満足そうだ。額に赤黒いアザ、血を吸われた痕だ。
きっと私の首にもキスマークのようにあるだろう。このまま警察署に帰っても
ヨーコに心配をかけるだけだ、軽く手当てしてから先へ進む事にしよう。
一歩一歩下水を進んだ。私たちはアリッサの狂気を見て、己の正気を保てる。
・・・・いや・・・・・・彼女が・・・・正気なのかもしれない・・・・。
ア「地下からはどこにでも出られる・・・・」
ハ・シ「え?」
ア「フフ、何でも無いわ」
私たちは地上の喧騒を知らない、日の光も知らないこの地下帝国を行く。
あるのはただ水の音、饐えた臭い、鼠の気配。私たちは上へと続く梯子を登る。
どうやらここはR.P.D.の犬舎らしい。一回りして戻って来たのだ・・・・。