シンディは久しぶりに感じられる外気に晒された。伸びた植物を伝い、病院の屋上へと進む。
どんよりと重たい死臭の漂う空気から抜け出したと思った矢先、今度は肌に絡みつく鬱蒼とした
森の空気が彼女を出迎えていた。
加えてとうとう一人になってしまった孤独感と不安が彼女の恐怖をより煽り、足を踏み出すことがいちいち躊躇われた。
…どうして私達は、こんな目に遭わなければならないの。
さっきまで、二人とも手を伸ばせばすぐ触れられる位傍に居たのに。
二人の安否を気遣った。見渡せば、ここには危険らしい危険といったら手すりの無い屋上の縁か、
或いは抜け落ちた床への転落か。
どちらにせよ敵らしい敵の存在は見当たらず、少しばかりの安堵感が心の隅に広がり、二人を気遣う
余裕が生まれていた。
未だ襲いくる斧男の姿を思い出せば、建物内にいるであろう二人は現在大変危険な状況にある。
一度この開けた屋上に来たものの、殺人鬼の徘徊する場所に戻るには相当な勇気が必要だった。
……死にたくない。
何度も戻りかけた。その度に踏み出そうとした足が床を踏みしめる前に警告を促して止まる。
彼女は動けなくなっていった。動けと頭の中で命令してみてもその命令が短絡を引き起こしたかのように、
宙に浮いたまま進み出す事は無い。
───助けなければ。
───戻らなければ。
「…………っ!」
歯を食いしばって感情を押し殺す。
三人が揃えば撃退など可能なのだと。
足が地に付く。シンディはその確かな感触に思わずはっとすると、すぐに正面に向き直りもと来た道を引き返し始めた。
それは切り立った外壁から聞こえてくる。
壁に爪を立てるようなカリカリというこそばゆい音と共に、黒い覆面が外壁を登ってきたのである。
シンディは今度こそ、灯火のついた意思に唐突に杭を打ち込まれたような恐怖に苛まれた。
「きゃああああああ!」
堪らずシンディは走り出した。方向など考える間も無く、とにかくこの男から遠ざかりたい一心で駆け出す。
バランスを崩してもすぐに起き上がり、地を這うように無我夢中で走り抜ける。
そして突き当たった奈落の底は、見れば木々から遥かに高い行き止まりである。
ここから落ちたらまず助からないが、シンディは一瞬飛び込みそうになった体を抑えなおした。
肩口に置かれる重たい感触。それが斧であると気付くには時間など必要なかった。
「……動くな」
背後から聞こえる曇りがかった声。
その声に従順に、シンディは手をあげて命乞いを何度も口にする。後ろ向きのその声には嗚咽が混じり、
男の嗜虐心を駆り立てる。端から殺しにかかる事が目的ではなかった男は、その後ろ向きの女の肢体を
舐めるように眺め回した。
恐怖に震える肩。豊満であろう乳房。細く、絞られた括れのある腰に、しなやかで美しい脚線。
この獲物はさぞかし良い声で鳴いてくれるに違いないと興奮を露にした。
斧の切っ先を正中線上、背中の襟にあてがうと、ゆっくりと斧を下に移動させる。
その重みのみでいとも簡単にぴり、ぴりと服が真っ直ぐ裂けていくのである。
「……ひっ」
シンディの体が恐怖で竦みあがった。ゆっくりと晒される肌のきめ細かさに男は酔いしれ、
下着のホックをも切り払うとさらに腰まで引き裂いていく。
斧に力を込めるたび、シンディは掠れた声を漏らし、服が裂かれる光景を頭の中に描き出す。
男の視点に立てば、自分の後姿がどのように映るかなど想像は容易かった。
ピンク色のショーツを裂くと、ぷるんと震える臀部が姿を現す。きりきりと食いしばった歯から
音を立てながら、男は目の前の女が羞恥と絶望に染まりゆく様子を声のない狂喜で愉しんだ。
女の体からは震えが止まらない。立っているのもやっとであろうか、呼吸は不規則に、
温度の低い外気の中でも肌が上気していくのが手に取るようにわかる。
……死にたくないか、女。
……敢えて恥辱を享受するか、女。
……さあ、存分に鳴くがいい。死にたくなければ、私を愉しませてみせろ。
着用していた同色のブラジャーが、ぱさりと地に落ちていく。
崖淵に佇んだ二人の影が、徐々に距離を詰めていった。
「お願い……止めて、………止めて、ください……」
スカートの裾まで斧を下ろしきると、真っ二つにされた衣服の類は全てコンクリート上に積み重なり、
シンディは持った体の全てを男の目前に曝け出した。
シンディは恐怖に引き攣った顔で眉を歪ませ、目を閉じ、何度も懇願した。
「ああ……っ」
男は心の中で高笑いする。支配欲がふつふつとこみ上げ、女のすすり泣く声が耳に心地よい。
震える背中に指を這わせると、女は背筋を伸ばして息を漏らした。
そのまま背筋に合わせて指を下降させ、摩擦の無い感触に耽る。
この崖際で無抵抗の女を自分の意のままに出来る快感は堪らなかった。
───もっと怯えろ。もっとだ。
お前が喜ばせてくれるというならば、私はお前を心の一片に至るまで蹂躙してやる。
臀部に到達した指は柔らかに震えるその肌に力を増し、一気に尻肉を掴み上げた。
もう片方の腕をも伸ばすと、後ろから乳房も同じように鷲掴みにしてみせる。
「あっ!?きゃあああ!」
男は激しい反応を見せたシンディの体と体を密着させ、乱暴に指を蠢かせ、こねくり回す。
全身で感じる女の感触は彼の興奮を煽り、性器を充血させた。
噛み付くように首筋を舐めあげ、甘い香り漂う髪と肌の芳香を鼻腔一杯にまで吸い上げる。
臀部を歪ませ、乳房を押しつぶし、更に手は荒々しく頂点の蕾を人差し指と親指で押しつぶした。
徐々に頭を持ち上げるそれを摘み、弄り回す。
「…痛っ!あっ、んんああああう!」
シンディは堪らず、愛撫の手を跳ね除けようと必死に抵抗する。男は携えた斧を持ち上げ、シンディを
壁に叩き付けると凄まじい音と共に斧を壁に打ちつけた。
黙らせるにはその一撃で十分だった。
すぐ横に突き刺さった斧の衝撃は彼女の声を奪い、また抵抗する術をも失わせた。
恐怖で膝から折れる彼女の両肩を掴み、再び壁に押し付けるとしっかり彼女をその場に立たせ、
無造作な力でストッキングを引き裂いていく。
「…………っ………」
放心状態に陥った彼女の目は一点を見つめ、下半身でストッキングを破る男の手つきに合わせ
首をかくかくと揺らしていた。
男はその艶かしい太腿に両手を沿え、指を這わせると、徐々に内股へと接近を試みる。
未だ余韻に震える彼女を無視しつつ、彼女の股間を下方から覗き、彼女のの裂け目へ向けて熱を帯びた吐息
を吹きかける。そのまま指で縁取ると、その太い指を強引に赤い肉壁の内部へ吸い込ませた。
「ひ……あ…」
惚けていた彼女の体が意思に反して反応を見せる。内部へと侵入するその指の動きを妨げるように蠢き、
体を前屈みに屈伸させるも、男の指の動きは更に激しさを増してその空洞をめちゃくちゃにかき回していった。
指で下腹部の部位を擦ると、彼女の悶え具合が一層の力を見せ、それは奥に進めば進むほど顕著に現れた。
差し入れた指は上下に激しく蜜壷をかき回し、彼女の震えにパターンをつける。
「…んあ、あ、あっ、ふあっ」
下から突き上げるように指を出し入れする。その速度は挿入したばかりとは大きく異なる。
徐々に卑猥な水音を増すその動きは彼女の感覚に内部から侵入し、快感を否応なく受け入れさせるのだ。
恐怖で引き攣っていた彼女の顔は次第に曇っていき、自分の体を暴力的に高めていく男の行為に今にも
泣き出しそうな表情に変わっていったのである。
彼女の苦悶もお構いなし、男は十分に濡れた指を勢いよく引き抜いた。
糸を引くその指を眺め悦に浸ると、すぐさま彼女の太腿を持ち上げ、股間から膨れ上がった陰茎を外気に晒す。
ぶるん、と勢いよく空を見上げたそれは静脈が血流の増加によりどくどくと浮かび上がっている。
血液は熱く温度の集中を感じ、沸点を迎え卑猥な様相を醸し出していた。
意思を持つかの如く目の前の女体に感歎をあげ、徐々に彼女の秘部目掛け迫っていくのだ。
「いやあああ……!やめ……やめてえっ…」
掴んだ太腿を担ぎ上げ、男は彼女を壁に押し付ける。昂った陰茎を茂みのさらに下、裂け目に
隠された女の象徴に触れさせる。
股間に触れる、確かな男の肉の感触。欲望の塊。シンディは呼吸を引きつらせ絶望感に苛まれた。
叫んでも叫んでも、男は行為を止める筈など無い。
自分が下手に抵抗すれば斧は壁に刺さる事無く、今度は自分に向けられて振り下ろされるだろう。
……いやだ。
……そんなのはいやだ。
……死ぬのは、いやだ。
きりっ、と噛み締めた唇から血が滲む。痛みなどは最早問題ではない。恥辱に塗れる事に悔しさで涙が溢れる。
「うっ、ううっ」
男の肉塊が狭い入り口を叩く。力に任せてその入り口をこじ開けると、今まさにその内部へ一歩を
踏み入れた所であった。
シンディの口から苦しみを訴える声が漏れ、壁に押し付けられた背筋がずるずると屈んでいく。
シンディの顎が宙に振りあがった頃には既に、男の陰茎は一気に彼女を刺し貫いていた。
「あ、あは……あっ…!ひゃぐうぅっ!」
華奢な体をコンクリートに打ちつけ、男は無茶苦茶に腰を突き動かす。
摺れた背中の皮膚は赤く染まり、男は更に開いた片手で胸を揉みしだく。
豊満で滑らかな丘陵を描いていたその乳房は見る影もなくその形を歪められ、視界の中で揺れ動く
男の覆面の下からは荒々しい息遣いがしきりに漏れていた。
「うっ…か……ひゃうっ……う、んうう……あっ、あっああああ」
ぴたぴたと、音すら鈍らせる森林の空に肉の打ち据えられる衝突音。
持ち上げられた足がくらくらと撓り、がむしゃらに己の欲望を果たそうと動く。
「いっ…!…だ、だめえぇやあああああっ」
───鳴け。
「お…ねが……くっう……ぎ……あうん…っ」
───鳴け。
「ひっ、ひ…い……いやあああああっ!」
───鳴け。
一際抽送が激しくなり、男は興奮に我を忘れて乱暴に腰を打ち付ける。
連結部から溢れた愛液が男の行為を助長させ、彼女に激しい振動が走る。その度に漏れる声が高くなっていった。
ずるずると腰が落ちていくシンディをそのまま床のタイルに押し付けると、覆いかぶさるような
体勢に持ち込み、抵抗を抑え込む。
焦燥感が次第に大きくなる。男のなすがままに貫かれ、喉からはもう言葉らしい言葉は生まれてこなかった。
荒々しい男の力を逸らそうと腰を浮かして逃げようとするが、男はその腰をがっちりと押さえつけ、離さない。逃さない。
「むっ……ふっ……ふ…っ」
「ひゃあうっ…」
男の絶頂が近い。根元まで深々と差し込まれたそれは滴る愛液に塗れ、乾いたコンクリートが染みを広げていく。
シンディの全身の皮膚が激しく振動し、足の指がわなわなと縮こまっていく。
断続的に苦しみに喘ぐ吐息を吐き出し、シンディは必死に懇願する。
「なか…はぁっ…!…中は、……っだめえぇぇえっ」
男は一息に腰を叩き付けると、一際大きな咆哮をあげて果てる。
「おお…おおっ!」
「いやあああああああああ!」
吐き出された欲望は男の尖りから何遍も脈打ち、シンディの下腹部を白く濁した。
さらには胸、首、そして顔に陰茎を近づけると、男は白濁液を全身にぶちまける。
寸前でシンディの懇願を聞き入れたのか、或いは自分の意思でそうさせたのか。
男は敢えて内部に注ぎ込もうとはせず、絶頂寸前で引き抜くと白く染まったその光景で欲望を満たしたのだった。
「はあっ!はああっ!」
男は肩を震わせて、その光景にぞくぞくと見惚れた。
ぐったりと首を垂れ、全身にどろりと滴る白色を輝かせた女の姿に酷く興奮を覚える。
自らを捕食する猛獣に迫られ小刻みに震える小動物のような印象の女に再び欲情をみせた男は、シンディの
顎を掴み、自分の股間に近づける。
「……咥えろ」
シンディは呆然と、まどろむその光景に向かって徐々に密着させられていった。