アシュリーは声が枯れるまで、必死にレオンの名前を呼び続けた。  
 
叩き続けているその扉はとても頑丈な作りのものであり、どう足掻いても壊す術は無いのだと、  
実際に閉じ込めらると否応無く立ち塞がる現実の恐怖に涙が滲む。  
 
「レオン!レオン…!」  
彼と別れてからそれ程時間は経っていなかった。どこか廃棄された研究所を思わせる、機材の並ぶ薄暗い  
廊下を抜けこの狭い監禁部屋にほうり込まれたのはつい先程の事である。視線を思わず背けたくなるような薄汚い  
風貌の男に担がれ、酷い家畜に似た体臭が鼻を衝いて堪らなかった。男の肩の上での必死の抵抗は成す術も無く、  
まるで意に介さぬ程無力に等しかったのだった。  
 
鈍い音を立て扉が無常に閉まり、無音に包まれた途端心細さが募る。瞼の裏には暗闇しか留めておらず、  
 
彼女は握り締めた拳が痛くなっても助けを求め続け、赤く腫れてもなお扉を叩くのを止めようとはしなかった。  
 
彼女は見ていた。そして知っていたのだ。ここの人々が既に人ならず、人外の異形の者と化すおぞましい姿を。  
そしてその奇生体が自らの体にも寄生しており、今猶脈々と息を潜めている事実も。  
 
「レオン…!」  
 
アシュリーは震えた。内の恐怖と外の恐怖に晒され、予兆の知れない恐怖に怯え、いつでも気がふれて  
しまいそうだった。まともではないこの状況は現実であるのだと、  
打開策を立てようと、もう幾度と無く繰り返した。  
 
自分を冷静にと装う事は既に限界に来ていたのである。  
 
視線に気がついた。この部屋には自分だけで無い事を理解する。  
 
後ろを向けば、赤い目をぎらつかせた男が二人程、壁際でこちらの様子を伺っていた。  
その視線にアシュリーは身を一瞬竦めるが、こちらに危害を加えるような気配が無い事を察知すると、  
背を向けぬよう注意深く対峙した。男達は武器は持っていなかったのである。  
 
しかしながらどうも様子が不自然である事に、彼女は一抹の不安を残していた。男達からは殺意のような  
ものこそは感じられないものの、浮ついた口元に加えその異常な視線が、明らかに自分の監視だけとは思えない  
雰囲気を醸し出していたためである。  
男達がこちらに近づいて来る事で、それは徐々に肥大し確信に変わっていった。  
 
ゆっくりと迫る新たな恐怖に怯えアシュリーは一目散に扉へと飛びつき、先以上に声を上げて助けを乞うが、  
男はそんなアシュリーに手を伸ばすと、力任せに扉から彼女の体を引き剥がし、軽々と宙に放ってみせた。  
苦痛の声を漏らし、アシュリーは床に体を打ちつけてしまう。  
 
「あうっ!」  
男は苦しそうに身悶えるアシュリーを見下ろしながら笑みを浮かべるが、ふとした機転で再び表情を改めると、  
眉間に皺を寄せて低く咆哮した。男の指す天井には、小さな機械音と共にレンズを絞る監視カメラが伺える。  
もう一人の男が壁の隅に設えてあるスイッチを一つ一つ操作すると間も無く、カメラはぴたりとその動きを止めた。  
 
アシュリーは焦燥感に駆られた。どこか尋常ではない男達の行動が、ある嫌な予感を彼女の頭に  
ちらつかせ始めた結果である。  
 
「…何……何なのよ…!」  
男達は両手を体の前に構え、彼女には判らない言葉を呟きながらゆっくりアシュリーに迫る。  
徐々に距離が縮まり、アシュリーは尻餅をついたまま後ずさりで距離をとった。焦りのためか、呼吸が難しい。  
足が竦んで腰が砕けて立てない程、恐怖と絶望感で潰れそうになる。  
 
「こ、来ないで!来ないでってば…っ」  
天井に備えられた蛍光灯がチカチカと頼りなく、男達とアシュリーを照らし出す。大きな影が段々とアシュリーの  
目の前で大きくなると、彼女に当たる僅かな光を遮っていった。  
背中に位置した棚の箱が当たる。手探りで後ろの様子を伺うが、隙間が無い。壁際に追い込まれ行き場を失った  
アシュリーは、徐々に伸びてくる男の手から視線を逸らす事が出来ずに、ただただその場で震える他出来なかったのである。  
 
 
「…助けて」  
 
 
小さな訴えは、頼れる男の耳に届く事は無かった。  
 
 
「きゃあっ!」  
一人の右手が、アシュリーの豊満な胸を鷲掴みにした。思わず声をあげ、その感触から湧き上がった悪寒が  
全身の神経を伝い震えを残し、思考をめちゃくちゃにかき回していった。  
男の卑下た笑みを目の辺りにして表情がひきつる。アシュリーは無我夢中で叫びながらその手を振り解くと、  
勢い余って木箱を倒し、派手な音を響かせ中身を辺りに散らせてしまう。それでも何とか四つん這いで棚の裏側  
の方へと逃げ込み、転げ落ちた箱の中身を手当たり次第に投げつけ怯ませようと試みる。が、もう一人の男に足首を  
掴まれ、ぐい、と引っ張られるといとも簡単に床上を引き摺られてしまうのだった。  
 
「いやっ、いやあ!離して!」  
床に両の手をつき、爪跡を立てる。唯一自由の利く左足で男の顔面を蹴りつけるも、更にはもう一人にその  
左足をも掴まれ、彼女は勢い良く引っ張られていった。手をつき精一杯に堪えるも空しく、男二人の腕力に掛っては  
アシュリー一人を引っ張る事など造作も無い事であり、あっという間に彼女は男達の目前に晒されたのであった。  
 
「ひっ……」  
アシュリーは喉を震わせ息を飲み込んだ。目前にまで迫った男の顔は醜く汚れ、肌は屍人の様に血の気が  
感じられなく思える。ぎらぎらとした赤い瞳は大きく見開かれており、興奮の為か荒げた吐息は異臭を放ち吐き気が  
こみあがって来た。涎を口の端から覗かせながら男は再びアシュリーの胸を無造作に揉みしだく。衣服を捲り  
上げ手を差し入れる。その柔らかな感触を乱暴に愉しんでいく一方で、もう一人はアシュリーの太腿に両手を添え、  
撫で摩ると、膝から内股にかけ一直線にでろりと舌を這わせた。  
 
「!いやああああ!レオン!レオン!」  
両手足を押さえつけられたままにもかかわらず、彼女はありったけの力を振り絞って  
全身をくねらせた。男の顔に暴れた膝が入り、一瞬怯ませるとすかさず上半身を反らせて  
もう一人の男の束縛から逃れようとするが、間髪入れず、逆上した男によって頬に平手を  
受けた後、馬乗りにされ両手を頭上で押さえつけられる。こうなっては所詮は女の力、  
やはりひとたまりも無いもので、下着を無造作に剥ぎ取られると乳房へ縦横無尽に舌を這わせられる。  
 
アシュリーは声にならない悲鳴をあげながら泣き咽ぶが、更には下半身に位置していた男が  
鼻血を拭いながらアシュリーの下着を力任せに引き千切り、露になった秘部を舐めるように眺め  
下ろした後で一つ、舌なめずりをすると、押さえつけた太腿を大きく開かせ顔を股間に埋めていったのである。  
 
「やあああううっ!!」  
男の荒々しく生暖かい呼吸が秘部に吹きかけられる。  
男はその甘酸っぱい彼女の香りによって欲望の昂りを見せると、今度はゆっくり、味わう  
ように、陰唇の周りを円を描くように舌を押し当てた。ざらりとした感触の舌が這い回り、  
犬の様に丹念に舐め啜られ脊髄に痺れが走った。呼吸が止まり、恐怖と悪寒で  
体の自由が利かず、思考がどこかへ消し飛ばされていく。  
背筋を反らせ震える彼女の様子を見て気を良くした男は、一通りの行為のあと蜜壷へと  
舌を差し入れ余す所なくアシュリーを蹂躙する。  
 
「ふあっ、ひぐ…っ」  
怖い、怖い。恐怖で感覚が麻痺している。  
何故、自分がこんな目に遭わなければならないのか。有無を言わさず次々と目の当たりに  
する現実の連続に曝け出され、微かな願いも踏みにじられて、彼女はただ泣きじゃくるしかなかった。  
鼓動はとうの前から早鐘の如く刻み続け、泣き腫れた顔は真っ赤に濡れている。果てには、  
こんな男達に体を曝し、行為を許してしまっている。  
 
いっそ死んでしまいたかった、という気持ちはあったが、簡単に腕力に屈してしまう女  
としての自分の脆さ、どこかで覚悟を決められぬ自分の弱さに自らを蔑んだ。  
 
結局、自分は誰かに縋るしか無いのだと。  
 
抵抗も薄く、くたっと弱りを見せ始めた彼女に男達は反り立った自身を目前に迫らせた。  
涙で霞んだ視界に映ったそれを理解し、アシュリーは絶望へと追いやられる。  
 
「…お願い……いやあ……それは嫌ぁ……」  
アシュリーは弱弱しく懇願する。男のそれはドクドクと脈打ち、距離はあるものの、  
いかにも不潔であるような様相で漂う異臭が鼻をついた。  
太腿を掴みなおし、思い切り良く彼女の秘部を暴くと、静かに腰を沈めていく。  
アシュリーは最後の力を振り絞り、必死に男を押しやろうと試みた。  
 
「駄目…!待ってお願いやめてぇっ!う…!あっ…」  
男の性器が小さな水音を立て、触れ合う。  
思わずアシュリーは息を呑みビクンと硬直し、男の腕に爪を立てた。  
 
 
「ひっ…!はっ、うあっ、うっ…や…め……」  
片方の男が、下品な笑い声を上げながらアシュリーの頬の雫をでろりと舐め取る。  
顎の髭がざりざりと当たり、這わせた舌の感触に鳥肌が立った。  
舐めながら男は味わいが美味であるかのよう低く感嘆の唸りをあげるとアシュリーの  
唇に沿って舌を往回させる。  
 
「うっ…!?む…ん…っ…ふう…」  
執拗な愛撫に顔を歪めながら、男の顔を掴み押し返そうとする。  
きゅっと硬く口を閉じて抵抗する彼女はすっかりもう一方からの攻めに気が  
回らなくなっていたようで、アシュリーの意識が逸れた所でタイミング良く、下方に位置  
した男が前触れもそこそこに一気に彼女を貫いたのである。  
 
「…!あ…かっ……あ……!」  
顎ががくんと天井を見上げ、腰が浮き上がる。口が開かれたタイミングを  
見計らって間髪入れず、男はアシュリーの口内に舌をねじ込んだ。  
横から口を塞ぎ、舌を口内で乱暴にかき回し、唾液、舌の裏、歯茎、  
余す所無く味わい尽くしていく。  
どうにも行き場を失った彼女の体は宙を彷徨い、くぐもった声で叫び声をあげた。  
 
「うぶっ!ふぐうぅっ!んん〜っ!」  
生が感じられぬ紫色の唇から流し込まれた舌は、息をつく事さえも許さなかった。  
徹底的に口内を洗い回し、その息さえも貪欲に己の内に取り込もうと躍起になると、  
貫かれた事もあってかアシュリーの指にはどこからか力が篭り、  
掴んだ男の皮膚に爪を食い込ませる。  
下では、男の昂りが彼女の入り口をぐるりと乱した所だった。  
はちきれそうなその陰茎の侵入に激痛が走り、十分に濡れきっていない  
結合部からは心許ない抽送音が響く。  
堪えきれず、アシュリーは悲鳴を漏らしてしまう。  
 
「あっ…!ああああ…!いっ、く…ふあ…っ…!」  
欲望のまま腰を突き動かし、その快感に顔を呆けさせる男とは反対に、  
アシュリーは泣き濡れた表情を苦痛に歪ませながら必死に耐える。  
抽送の動きに合わせて顎が振れ、吐息が小刻みに吐き出される。やがて唇を  
貪り終えた男が彼女の胸の谷間へと狙いを定め、陰茎を埋めていった。  
 
男の部分が触れると、ふにっと弾力性に富んだそれは形を変え、沈み込んでいく。  
両手で脇から乳房を寄せ上げると、その柔らかな感触に包まれ男はより昂りを見せた。  
そのまま前後に運動し、アシュリーの乳房をふるふると揺らし始める。  
 
「ふ…ぅあ…っ……」  
眼前には男の陰茎が迫る。それは口元まで迫ると、また距離をとり、そして再び近づいてくる。  
その隙間から伺えたのは男達の笑い顔であった。  
二人の男が自分に寄り集り、欲望を満たそうと己を突き動かす。そんな光景が  
たまらなく嫌で、アシュリーは目を硬く閉じた。視界が無くなった今、突かれている  
感覚だけが直接頭の中に流れ込んでくるが、その方が彼女にとっては幾分良かった。  
体も心もすっかり抵抗する力を無くしてしまったのなら、それならばまだ良い方向だけを  
信じていたい。そう願って。  
 
 
閉じた瞳から一滴が流れ落ちる。  
頭に浮かぶのは、レオンの顔ばかり。  
 
 
砕けそうな心の中で、彼に声が届く時を待ちわびた。  
 

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