「hellfire」  
 
…息苦しさと、辺りを支配する狂気の炎舞。  
 
あらゆるものを焼き尽くす罪の炎。獄炎。  
日常から切り離されたこの檻の中で、開放を求め抗う者達。  
人間の業にかりそめの命を与えられ、本能のまま蠢く者達。  
その二つに相容れる事無く、ただ冷酷に、焔硝の如く地を駆ける。  
 
 
 
…その「檻」は自らを囲い込んだ者達により、今、崩れ去ろうとしていた。  
 
 
 
「…チッ、あーあーどこだよここはよ!」  
一人の警官が、苛立ちを隠せず声を上げる。  
死者の群に追われ、無我夢中で路地を駆け抜けたどり着いたこの建物。  
ラクーンシティの一角にあるこの建物の中庭へ辿り着いた頃にはもう、愛用の銃の弾も底をつきかけた上、  
挙句の果てには爆発かと、煙のたちこめる中庭で警官は馬鹿げている、と声を荒げて叫ぶ。  
「…アップルインだ。騒ぐな」  
少し離れた場所で辺りを伺っていた、作業服の男が低く呟く。  
冷静に振舞うこの男も、実際のところ大分苛立ちが募った様子である事は表情で伺えた。その目つきに血の気が混っている。  
「ふん…何だってんだアイツラは…」  
「…ここに居ても危ないんじゃない?先に進みましょう」  
今度はワインレッドのスーツで身を固めた女性記者が、不協和音の予感をちらつかせる仲間達を促した。  
作業服の男が爆発の衝撃で吹き飛んできたアルミの箱を蹴り飛ばす。  
 
「…!ちょっと…」  
「…先に行くぞ」  
「おい!!」  
「…はあ。それじゃ私も。お先」  
呼び止める警官の横を、気にも留めずスタスタと通り過ぎるスーツの女性。  
「アリッサ!」  
そのまま、爆発で吹き飛んだ扉の闇に消えて見えなくなった。  
 
「…何…だってんだ!馬鹿共が!」  
「あ…あの…」  
 
すぐ近くで、女性の声がする。  
徐々に煙がひいていくと、辺りの様子が伺えるようになる。  
取り残されたのは警官だけではないのだ。  
ふと横を見やると、小柄な女性がどうしていいかわからない様子で立ち尽くしていた。  
「えっと…ケビン、とりあえず私たちも…」  
言った瞬間に街の中から、風に乗って悲鳴と咆哮が耳に響く。それを耳にした女はびくっと体を震わせると、  
それ以上言葉を紡ぎ出せなくなってしまうのであった。  
男───ケビンは、女を見下ろしながらしばらくの間沈黙していたが、やがて大きな溜息と同時に、  
右手で髪を掻き毟ると言葉を返す。  
 
「…ヨーコ、俺から離れるんじゃねぇぞ。いいな」  
「あ…はい…」  
 
血の匂いと辺りに立ち込める淀んだ煙が、建物の内部を支配しているのがわかる。  
その凄惨な光景が、自分たちの置かれた状況をより鮮明に認識させた。  
もう既に息のつける場所など残ってはいないのだと。  
 
 
 
「ひでぇな・・・こりゃ」  
 
部屋は爆発の衝撃でひどく歪み、壁には亀裂が縦横無尽に走る。張り巡らされたパイプは根元から  
ぽっきりと折れ、蒸気が噴出していた。これだけの損壊を容易くなせる爆発の威力を想像する事は、  
至極容易なものであった。  
そして、床に無造作に捨てられた人形のような消防隊員の亡骸が、己の命を以て全てを物語っていたのである。  
ヨーコは、ケビンの背後でなるべく視線に入らぬよう、目を伏せ黙って俯いている。  
 
「…行くぞ。ついて来い」  
「う…うん」  
 
ケビンの後を追うように、梯子に手をかけ、一段ずつゆっくり登っていく。  
下は見ないようにした。…思い出してしまうから。  
真っ直ぐ梯子を見つめ、無心に努めるが、先程まで生きいてたという意識が頭の隅で燻(くすぶ)り、ちらつくのである。  
華奢な体が、ふるふると震える。深く目を瞑ると何かを一掃するように首を振り、唇をきゅっと引き締めて  
ドアを開けるケビンを追った。  
 
獄炎。  
ホテルの中へとドアをくぐれば、先程までの淀みが一層強く感じられ、熱気が肌を包みこむ。  
普通に呼吸しようとすれば思い切り煙を吸い込む事になり、噎せ返る。  
……侵入者を拒むような、建物が生きているような…  
そんな感覚を全身で受け、思わず歩を踏み出せなくなる。  
至るところで炎が燃え盛り、侵入者の進路を嘲笑うかのよう阻む。灼熱。  
適当なドアを開けて窓から外に顔を出すと、幾分熱気はひいていった。内部と外部では別世界のように。  
咳き込みながらも、空気を求めて窓枠を乗り越える。新鮮な空気───なんて事はない。先程と何ら変わりのない  
吐き気のする重く淀んだ空気ではあったが、それでもこの状況では幾分ましだったのである。  
「ヨーコ。ちょっと無理を言うようだが…ここを渡るぞ」  
ケビンが指差したその先には、通路など無かった。  
「えっ?あの…」  
「さっきの見取り図では、この先に非常口があるはずなんだ。ここを渡っていけば…」  
「む…無茶ですよ…だって落ちたら…」  
「ああ、わかってるって。だけど他に道が無いだろ?」  
「…火、ですか」  
「…進むしかねえのさ」  
一瞬、下を見やるヨーコ。その下は幾分深い。数メートル先はもう闇に溶けていた。先程の梯子くらいの高さでも  
結構あるが、どうやらここは地階も含めた高さであるらしい。足が竦む。喉が痛い。両手を胸元にやったまま俯いてしまう。体は震えていた。  
「…そりゃ…怖いよな。俺だって怖い。わかってくれ。下は見るな。俺が横についてる。…そうだ、俺を見てろ!そうすれば怖くねえだろ?」  
「えっ…」  
ヨーコは俯いていた顔を急に上げると、ケビンを見上げる。  
「…あ。俺の顔も怖い、か…?」  
頭を掻き毟り、首を傾げるケビン。  
「…い、いえ、そんなんじゃ…」  
一瞬気持ちが解れたのか、クスッと笑みを浮かべるヨーコ。そしてすぐ決意したように表情を正し、口を少しくの字に結んで言う。  
「…やります」  
「よし、いい子だ」  
ヨーコの頭を無造作に撫で回し、肩をポンと叩くと、二人はゆっくりと歩みを進めた。  
 
ざり、ざりっと、ゆっくりと足を進める二人。  
 
「…あわ…」  
「バカ、下見るなって言ったろ!前向け前!」  
「う、うん…」  
何歩進んだだろうか。もう大分進んだような気がする。目の先には道のりは長く、さらに角の向こうにも  
距離があると考えただけで気が遠くなりそうだった。  
…もう嫌…早く終わって…  
そう願う彼女の思とは逆方向に、不穏な足音が彼女の心内で響き、その存在を徐々に大きくさせる。  
何か、おかしい。…音だ。音が聞こえる。  
 
 
「ね…ねぇケビン…何か音が…」  
「…」  
「…ケビン?」  
「…こいつだ」  
 
ケビンが首で指す方向には、窓が備えられていた。  
その窓越しに、女性が窓を叩き続けているのが見える。  
……顔が爛れ、生気を感じられない女性の姿が。  
「…っ…!」  
全身から血の気が引き、思わずバランスを崩しそうになるヨーコの体をケビンが片手で支える。  
壁に張り付いたまま、がくがくと膝が震えて一歩も踏み出せない。  
 
「慌てるな…まず俺が行く…」  
「ケ…ケビン!」  
 
「…ご対面、と…」  
ゆっくり、窓の前を通過するケビン。薄いガラス越しに、ゾンビとケビンが向き合った。  
汗が吹き出し、ごくり、と喉が鳴る。  
「へっ…アンタがもう少し美人だったら…ファンでもおっかけでも結構なんだけどよ…」  
 
ゆっくりと、視界からゾンビが消えていく。まず、ケビンが渡りきった。  
 
「よし、ヨーコ…窓は見るな…落ち着いて、来い」  
「む、無理だよ…こんなの…」  
 
ヨーコの目は涙で濡れていた。その場から完全に一歩も動けなくなっている。  
「大丈夫だ…俺は通れたんだ、お前もきっと通れるさ」  
「嫌ぁ!こんなの無理よ…うっ…」  
「ヨーコ、泣くな!…わかるだろ、お前にも」  
「えぐっ…うう…」  
「ヨーコ」  
「…」  
「…ヨーコ…大丈夫だ。ほら、俺がつかまえててやる」  
再び窓に近づくと、ヨーコのもとへ手を伸ばすケビン。  
「…う」  
 
しばらくはその場で動かなかったヨーコだが、涙を袖で拭い、深呼吸すると、意を決したようにそろそろ進み始めた。  
「そうだ。その調子だぞ…」  
「…早くつかまえて…お願い、ケビン…」  
恐る恐る、横目で窓を覗き込む。見なければ良かったと、後になって後悔するも、遅い。  
ゾンビの顔は酷く焼け爛れ、皮膚が剥がれ落ち、血の気がまったく感じられない。  
腐食が激しく、窓越しでも異臭が漂ってくるような、そんな死体が窓を叩き続けている。遠くで見るのとではあまりにも違いすぎた。  
 
「ひっ…!」  
「…見るな」  
ヨーコの意識が飛びかけた。目の前が真っ白になり、足に力が入らなくなる。  
 
その時だった。  
 
限界を迎えたガラスがゾンビの一叩きと共に粉々に砕け散る。  
 
「きゃああああっ!」  
「ヨーコ!!」  
勢いでゾンビがヨーコに覆いかぶさり、体勢を崩したヨーコの体はまるでスロー再生のように、闇に傾いてゆく。  
 
…それは、まさに一瞬だった。  
 
倒れ行くヨーコの目に映る。ゾンビの影から徐々に姿を現す、銃口。  
 
 
 
ケビンである。  
右手で瞬時に愛用の銃を引き抜いていた彼は、間髪いれずトリガーを数発引く。  
ゾンビの体に弾丸が食い込むたび、血沫が飛散した。  
その衝撃でゾンビの体は横に飛び、嗚咽ともつかない喉からの空気を響かせながら、闇に飲まれていった。  
「ヨ…」  
 
彼女に襲い掛かる脅威は排除したものの、ヨーコの体はそのまま傾いていった。彼女はぴくりとも動かない。  
 
すでにヨーコの意識は遠のいていたのである。  
 
あ…  
……落ちてゆく。その感覚だけはそのままに。  
───死んじゃうんだ。私…  
 
…もう、抗う事も出来ない。闇に飲み込まれるのを、目を閉じ、待つだけだった。  
 
 
……  
ほんのわずかだが、酷く長い時間が過ぎたような…いつまで待っても、痛みも何も感じることは無い。  
地に足が着かない感覚。右手に感じる、痛みと、…温もり。  
 
「……?」  
開けた視界に映りこんだのはまたしても彼だった。  
外れかけた窓枠を掴み身を乗り出して、ヨーコの右腕を掴まえている。  
窓枠に残ったガラスの破片で、左手から腕を伝い血の線が描かれていた。  
「…ケビン…?」  
「へへ…大丈夫だって…言ったろ」  
そう言って、ヨーコに笑いかけて見せると、腕に力を込め彼女を引き上げた。  
「ケビ…」  
「怪我はねえか?…ったく通行人には道くらい譲ってくれよってんだ」  
「う…う…っ…」  
「おっと、泣くのは後だぜ。さっさとこんな所オサラバしてからにしようぜ」  
彼女の涙目の表情を見て、ケビンは安堵すると同時に、何故か自分に自信が沸きあがってくる。  
その余韻に浸っていると、こんな状況にも係わらず自然に口元が綻んでいった。…とにかく、彼女が無事で良かった。  
「……顔」  
彼女がふと呟く。  
「あ?」  
「…何で……ニヤニヤしてるの…?」  
 
「…クソがっ…!」  
「じっとしてなさい!手当てしてやんないわよ」  
「…いらん…余計な世話を…」  
「いいから黙ってなさい!ろくに動けもしないんだから」  
「…チッ…」  
 
ホテルの警備室の薄明かりが、二人を映し出した。  
粗末な椅子には、脇腹を紅く染めたデビッドが座り込んでいる。  
その前に膝をついて、アリッサが応急処置を施していた。  
「あんな怪物相手にナイフでなんて…ホント無茶なんだから」  
「…フン…何とでも言え…」  
「私が気づいてなかったらどうするつもりだったのよ」  
「…お前が手出ししなくとも倒してたんだ…それを」  
「はい、おしまい!」  
アリッサは彼の背中をぱん、と叩くと、その場に立ち上がった。  
「ぐおっ…」  
「そんなへらず口が利けるなら大丈夫ね。立てるでしょ」  
「…お前…!」  
のろのろとデビッドは腰を上げると、アリッサに指をつきつけて言葉を発しようとする。  
 
が、口をもごもごと動かすうちに脇腹の痛みもあってか顔を引きつらせると、舌打ちを一つして顔を背けてしまう。  
結局、もとの椅子にゆっくり腰を下ろしてしまうのであった。  
そんな様子を見、ふう、と溜息を漏らすとアリッサはモニターを見ながら呟く。  
「まったく…ロビーに行かなきゃならないのに…そこら中炎だらけじゃない」  
「フン…」  
「ちょっと、アンタも考えてるの!?ここからどうやって脱出するか」  
「…当たり前だ」  
「ケビンとヨーコにもあれから会ってないし…ケビンがついてるとはいえ、さすがに心配になってきたわ。…てっきりついてきてると思ったのに」  
 
「…おい」  
「あ〜あ…何で私がこんな目にあわなきゃならないのよ、もう…」  
「…おい!」  
「何よ!!」  
「…非常時に使う梯子がある。こいつだ」  
 
デビッドはテーブルに広げてあるマップを指差した。そこには確かに梯子がある。  
「…はし…」  
「…そいつに電力を供給してやれば、ロビーに降りられるだろう」  
 
「……なるほど。…で?」  
意外なデビッドからの提案に、最初彼女は目を丸くさせていたが、すぐに表情を正すとマップを眺める。  
「どこかに非常電力があるはずだ。そいつを操作して、電力を供給する」  
「電力……ここね。この部屋だわ」  
「…決まりだな。行くぞ」  
「え?ちょ、ちょっと待ちなさいよ」  
 
「…なんだ」  
「あなた、まだ手当てしたばかりじゃないの!…血が止まるまで待ちなさい」  
「…余計な心配をする…」  
「いいから!待ってなさい」  
未だ足元のふらつくデビッドを椅子に戻し、自分はテーブルに足を組んで腰掛ける。  
 
「チッ…なんておせっかいな女だ…!」  
「死んでからそのセリフ、言えるかしら」  
(…この女…どうも性に合わねぇ…)  
「…ふう」  
 
会話がぷっつりと途切れる。  
その間頭の中で錯綜する思いが、嫌でも現実を見据えなければならないと警告するのである。  
このホテルで生き残っているのは、おそらくは自分たちだけだ。  
誰もいない警備室、逃げ遅れた客、炎にまかれた従業員達…  
 
…この「檻」のなかで、自分達は完全に孤立してしまったのだ。  
 
今、自分にとって光となるのは、数少ない「仲間」だけ。  
辺りを見回せば、容赦なく牙を向けるもの。地獄のような業火。  
どちらも情けなどなく、許しを乞いても聞き入れる事など無い。自分たちの命を奪うだけのもの。  
…この街の現状を丸ごとここに詰め込んだかのような、そんな状況に心が曇ってゆく。  
 
 
 
そして、お互い口を開くことなく…沈黙が訪れた。  
 
 
 
「いたた…」  
「おい、大丈夫かよ?」  
木箱の上で、盛大に尻餅をついたヨーコに、ケビンが手を差し伸べる。  
「あ、うん、平気…」  
「気をつけろよ。この辺、色々と燃えてっからな」  
噴出す炎を慎重にかわしながら、部屋をあとにする二人。  
異変に気がついたのは、部屋を出て一歩もしないうちだった。  
「あっ」  
急に立ち止まったケビンの背中に衝突するヨーコ。  
「ご、ごめんなさい、その…」  
「…シッ!」  
「?ケビ…」  
その時、彼女にもようやく理解できた。ケビンが立ち止まった理由。  
「…ン……」  
 
…何か、いる。得体の知れない何かが。  
荒く、そして低い息遣い。人間のものとは思えない、湿った足音。  
廊下を埋め尽くす圧倒的な圧迫感に、ヨーコは震えが止まらなかった。  
ケビンはそっと、辺りを見回す。確かにいる。だが、姿が見えない。  
このままここに居ては危険だと、ヨーコの方に向き直ったとき、それは彼の目に飛び込んできた。  
「ヨー…」  
彼女の呼吸が荒い。  
この世の生き物とは思えない、脳をむき出しにして、長い舌から唾液を滴らせた怪物の姿。  
一見人間の形をしていても明らかにそれとは違う、異形の魔物。  
 
そいつが、その化け物がヨーコの背後から、彼女を抱きすくめるようにとりついていたのだ。  
 
「…ケ…ビ…」  
声にならないほど、恐怖に掠れた声で助けを求めるヨーコ。  
「くそッ!」  
ケビンが銃を構えた瞬間、その銃は別の力により宙を舞う。  
…二匹だ。  
「な…にッ…!?」  
廊下の壁から長い舌を伸ばし、嘲笑うかのように口を開く二匹目の怪物。  
「畜生…!」  
ケビンは床に転がっていった銃を体を回転させながら拾うと、肩膝を立て、間合いを詰めてきた怪物めがけて発砲する。  
…この時ケビンは気づくべきであった。死角から二匹目が出現した訳に。  
後ろで聞こえる呼吸音を頼りに振り向いた時には、既に三匹目の怪物の長い舌が一瞬でケビンの腹部を捕らえていた。  
 
ケビンの脳は、待ち構えるこの先の死を叫ぶ。怪物から伸びる舌の速度は、ケビンから見ればゆっくりと、  
スローモーションのように自身目掛けて近づいてくる。頭では理解していても、体がついて行かない。  
舌先が彼の服越しに、腹部に接触する確かな感触を感じる。目の前が真っ白になり、何も考えられなくなる。  
喉が熱い。脈々とした、体に息づく血液の流れが手に取るようにわかる。  
そのまま、彼の視界には何も写らなくなった。自分は死んだのか、若しくは生きているのか。  
 
…俺は、終わるのか。  
ケビンは刹那の動かぬ体に、懸命に働きかける。  
 
 
…終われるかよ、クソッタレが。  
 
 
「…助けなきゃならねえんだよ」  
 
廊下の向こう、ケビンのいる方から、物凄い音が聞こえた。  
それでもヨーコは恐怖で動けなかった。かたかたと全身を震わせ、耳元でおぞましい息が聞こえる。  
「あ…あ…」  
…殺される。私は殺される。その恐怖が体の自由をちりちりと奪い去る。  
だが、そんな彼女の意識とは逆に怪物はヨーコに危害を与える様子はない。  
ゆっくりと彼女の顔に、長い舌が近づく。  
その舌は怪物の唾液でまみれ、触れば酸のように溶けてしまうような嫌悪感を感じた。  
「ま…さか…」  
彼女の予感のままに、怪物は静かにヨーコの口内へと舌を滑り込ませる。  
「うむうううっ!うえぇっ……!」  
そのまま彼女の口内を徹底的に嬲る。彼女の歯、歯茎、舌の裏、大きな舌は、ヨーコの小さな口に収まり  
きれないほどに蠢く。頬肉が、舌の動きでぐにぐにと膨らむ。  
「うぶっ!むごおあごおおっ!」  
怪物は、絡みつかせた手足でより一層彼女を締め上げながら、喉の奥までヨーコの口内を蹂躙した。  
「んぐうぅ……っ…うえ……」  
胃の中のものをすべて吐き出してしまいたいくらい、気持ち悪い感覚。  
目の前が真っ白になる。ぎりぎりと抱き締め上げられ、抵抗も出来ない。  
怪物は甘美な味と鳴き声に興奮したのか、溜息にも似た息を吐き出す。  
堪らなくなったのか、顔を直接ヨーコに近づけると、舌で掻き出した彼女の唾液を飲み干し始めた。  
ごくっ、ごくっ、と、怪物の喉が鳴る。  
「ひぐっ…!」  
その光景に、彼女は言葉を失う。  
全身の力が抜け、怪物の重量を支えきれず、膝が崩れ落ちる。  
手は束縛されているため使えず、お尻を突き出すような格好で床に伏した。  
それを皮切りに、怪物の舌が進行を止める。  
 
「げほっ…うえっ」  
胃液が逆流してくる。まだ口内に残る怪物の唾液。  
涙が止め処なく溢れ、彼女の精神はズタズタにされ、それでも、怪物の蹂躙は止む事は無かった。  
今度は腹這いになったヨーコのジーンズの隙間に、舌を挿入してゆく。  
「あああ……あっ……あん…!…ああんっ!」  
ゆっくりと舌が臀部を這い回り、肛門を弄られる。  
恐怖と嫌悪感で鳥肌が立ち、歯を食いしばりながらヨーコはきゅっと力を込めて怪物の進入を必死に拒んだ。  
「んん…!う、んんっ…うんっ…!」  
…が、さっきまで弾力性に富んでいた怪物の舌は、徐々に鉄のような硬度を帯びてゆくのである。これには  
ヨーコもたまらず、恐怖に満ちた悲鳴をあげた。  
「〜〜〜〜っ……!」  
そしてそのまま、ずぶ、ずぶっとヨーコの菊門に舌がねじ込まれていく。  
「あぎっ…裂け…ちゃうううぅ…っ…!」  
排泄口から強引に進入を果たしたそれは、彼女の腸壁を余すところ無く縦横無尽に暴れまわった。  
「きゃうあっ!いぎっ…!」  
その長い舌は彼女の奥深くまで侵入を果たし、両の太腿を抱え込むと、更にはその内部で円を描くようにじっくり、  
力強く彼女を堪能していくのである。  
どんなに力を込めても、怪物の進入を拒む事が出来ない。  
ただただ圧倒的な力でねじ伏せられ、好き放題にされるのが悔しくて堪らなかった。  
「ううっ…!うう〜〜っ!」  
声にならない声で、ヨーコは唸った。  
…このまま、好きにされてたまるか。私はこんな奴なんかに屈しない…!  
息も絶え絶えに彼女は震える左手を伸ばし、ズボンのポケットをまさぐる。  
「はっ……は…っ…」  
所持していたのは小型の折りたたみナイフである。ここに来る前、ケビンから貰ったものだ。  
今になって後悔する。普段から手に持っていれば、この怪物に一突きしてこの状況を打開出来たのかもしれない。  
 
だが、手にした時からヨーコは使うのを躊躇っていた。勿論自分の身の危険が迫っているというのに、  
そんな彼女の思惑が”ある意味”では馬鹿げていたのかもしれない。しかしどうにも銃火器とは違う、肉を断つ  
という感覚がリアルに伝わってくるようで彼女は寒気を感じていたのである。  
更にもう一つ付け加えるならば、彼女の前に立つ男が彼女に襲い来る危険を全て振り払っていたと  
いうのが事実あり、彼女がそれを使用する事も無くここまでこれたのもその男のお陰であると言える。  
だが、今度ばかりはそうはいかなかった。自分を助けようとした男はもう一匹の怪物に追われ、視界から消えてしまったのである。  
怪物にこの小さなナイフを突き立てた所で、果たして致命傷となるかどうかはわからなかったが、それでも  
あのむき出しの頭部を狙えばどうにかなるのかもしれないと、自分の背後にいる怪物を横目で睨みつけた。  
幸い、怪物は彼女に夢中の様子でまだこちらには気づいていない。  
…今ならいける。  
なるべく音を立てないよう静かにナイフをポケットから引き抜くと、片手で器用にナイフを開いて握り締めた。  
そして怪物が肩を揺らして大きく彼女の香りを吸い込む。その瞬間を見逃さず、ヨーコは怪物の方へ体を捻らせると、  
頭部目掛け腕を振り下ろした。  
 
「うっ!」  
その光景を目にしたく無い彼女は、固く目を閉じる。  
しかし、いつまで待っても肉を断つ感触はやって来なかった。代わりに、手首に感じるぬるぬるとした感触。  
おそるおそる目を開くと、彼女を蹂躙していた怪物とは別の、もう一匹が舌をのばしてヨーコの左腕を絡め取っていたのである。  
「あ……あ……」  
気がつかなかった。辺りを見回せば、彼女はすっかり取り囲まれていたのだ。天井の穴を伝い、さらに怪物の群れが  
何匹もヨーコの方へと近づいてきている。  
彼女は絶望した。頼れるケビンの姿も見当たらない。床に血痕が散乱しているだけ。  
…ケビンは殺されたんだ。この怪物達に。  
「ケビン…!?ケビン……っ!」  
彼女は泣き叫んだ。必死に、彼の名を呼び続ける。だが答える者はいなかった。  
周りには怪物たちが蠢くだけ。ケビンも、自分の命も、もう助からない。  
 
「いや…っ…ひっ、ひっく……」  
涙が止まらない。そんな彼女の様子もお構い無しに、怪物たちはヨーコの体に次々と舌を絡め始める。  
先程までヨーコを弄んでいた怪物は逆上したのか、四つんばいの彼女の上に覆いかぶさると、乱暴に彼女の体をまさぐっていく。  
そのまま無造作に彼女の衣服を引き裂いていった。  
「あっ!い、いやああっ!!きゃあああ!」  
彼女の白い肌がみるみるうちに露になっていく。圧倒的な力でねじ伏せられ、彼女はどうしようもなかった。  
「やめてええええ!やああああっ!」  
声が掠れるほど、彼女は泣き叫んだ。怪物に伝わるわけも無く、ついに彼女の下着がぷつりと取り払われてしまう。  
一糸纏わぬ彼女の裸体が怪物たちの目に曝け出されてしまったのである。  
「あああっ……こん…な……」  
目の前には、怪物たちのおぞましい顔が幾つも並び、ヨーコの周りを取り囲みにじり寄ってきている。  
そして肩を竦めると、一斉にヨーコの体目掛けて飛び掛った。  
「ひ……あ………っ…」  
あまりに残酷なその光景に彼女はもう叫ぶことも出来なかった。意識を失いかける。  
全身に怪物の舌が、指が這いまわされる。獲物であるヨーコの体に群がり、音を立て、余す所無くその肌の味を堪能していく。  
股間がぶるぶると震える。恐怖のあまり彼女は失禁していた。それを見てい怪物達は彼女の股間に飛びつくと、  
彼女の陰部を、そして滴る雫を一斉に啜(すす)り始める。  
「あ……ぎ……っ」  
股間から無数の舌に突き上げられ、尻をがっちりと押さえ込まれ、彼女の腰は宙に浮いてゆれていた。  
一通り啜り終えると、あるものは彼女のその柔らかな胸へ、またあるものは彼女の脚へ、よほど尻が気に入ったのか、  
先程の怪物は再び尻穴へと、舌を埋めていったのである。  
「か…はっ……ひぐ……うっ」  
彼女の秘部にもいまだ二匹が群がっており、陰唇をでろりと舐め上げると、彼女の小さな穴目掛けて舌を差し込んでいく。  
「はっ、はっ、はあっ…!…うっ!?ああああーーっ!!」  
横からもう一匹が舌を勢いよく滑り込ませると、男性器ではおよそ届かないほど奥深くまで一気に彼女を貫いた。  
 
彼女の顎は一気に天井を向き、悲痛な叫び声をあげる。見開いた目に口はぱくぱくと痙攣し、舌はぴんと伸ばされる。  
本気で、自分は死んでしまうと彼女の意識が告げる。  
…このままでは、このまま蹂躙され続ければ。  
そこへ、怪物の一匹が彼女の舌を絡めとり、空いた口を埋め尽くす。  
「うぶあぐうううっ!はっ、むぐううあぅあううっ!」  
彼女の全身から、くちゅくちゅと卑猥な音が発する。乳首を吸われ、脇の下を舐め上げられ、太腿、ふくらはぎ、臍、  
首筋、更には脇腹や手足の指まで吸い尽くされる。菊門を攻める怪物と秘部を攻める怪物達の舌が彼女の体内で  
蠢きあい、ヨーコの腹部がそれにあわせて上下していた。  
次々に犯される全身の感覚で、彼女の精神は錯乱していた。頭も視界も、嗅覚も聴覚も全て麻痺したように、  
ヨーコは半ば意識を失いかけていたのだ。  
体は悲鳴をあげ、心は壊れる。辺りは真っ白に、目は白目をむきかけながら、彼女は残った最後の力で  
懸命に意識を保とうとするのだった。  
もう、指一本動かす力も無い。ただ犯され続け、いつ迎えるかもわからぬ終焉を待ち続ける。  
「ああ……あん…あっ……あっ……」  
彼女の顔からみるみる生気が抜け、声もとうに掠れ、体が力なく揺らされる。  
小さな体は、群がる怪物達の姿で見えなくなっていた。  
そしていよいよ、穴という穴に侵入した舌の動きが一層激しくなる。肛門からは血が滲み、口内の舌は喉をついて、  
彼女の呼吸すらも奪う。そして挿入された二本の舌は勢いを早め、一方は円を描くようヨーコの体内を舐め回すと、  
もう一方はその抽送をどんどん早めていったのである。  
「…っ……くは…っ…うっ、……は…むぐ…っ……」  
床に貼り付けられていた体が、全身が宙で揺れている。他の怪物達も釣られて体に貪りつくと、彼女の体液を一斉に啜る。  
舌が物凄い勢いで、ヨーコの体を揺さぶっていく。  
そしてついにヨーコの体に痙攣が起きる。しかしながら力むような力は残っておらず、 
股間から大量の液を無様に垂れ流していく。  
「う……ぎ……っ……」  
パシャッ、パシャッ、と、床に彼女の体液が振りまかれる。その量は半端なものではなく、彼女の体内の水分が  
底をついてしまうように思えるほど、床には既に大きな水溜りが出来上がっていた。  
 
そこへ我先にと、怪物達が彼女の股間にばっと群がる。  
まるで母の母乳を求める動物の赤ん坊達のように、未だ止まらない彼女の愛液を吸い尽くしていく。  
床の彼女の水溜りを啜るものまでいる。  
 
「…はあぁ………」  
その光景を目の当たりにして、彼女の意識はついに途切れた。  
手脚は床に投げ出され、股間に蠢く怪物の顔に合わせ、体ががくんがくんと揺れる。  
怪物達はヨーコの愛液を啜り終えると、彼女に巻きついた幾つもの舌で、ヨーコの小さな体を宙に  
浮かび上がらせる。  
まるで生贄を差し出す儀式かのように、高く、そしてゆっくりと。  
 
両足に絡みつかせた舌を巧みに動かし、彼女の脚を徐々に開かせる。  
まず一匹が、暴かれた彼女の秘部を舌でなぞりあげた。そして再び、意識の無い彼女の体内に舌を挿入させていく。  
愛液と唾液にまみれたそこはすんなりと舌を受け入れ、抽送を容易に許してしまうのであった。  
 
じゅぷ、ずちゅ、ちゅく、ちゅく…  
 
既にヨーコの声も無く、辺りは卑猥な水音と、怪物達の息遣いのみが響くだけである。そして時間が経ち、  
一匹が満足すると、今度はもう一匹が舌をねじ込んでいく。やがてもう一匹、さらにもう一匹。  
彼ら全員が満足のいくまで、獲物であるヨーコは意識もないまま、ひたすら犯され続けるのである。  
 
ヨーコの閉じられた瞳から、つうっと涙が線を引いていく。  
 
 
 
…悪夢は、始まったばかりであった。  
 

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