ケビンxアリッサ いきなり最終回
「わりぃが、お姫サマみてえに、抱き起こしている暇はねえぜ。
時間を稼ぐ。ソイツ使って自分で立ちな」
痛めつけられ、化け物に嬲られ、犯された女に対して投げ付けるにはそっけない、
慰めの言葉も労わりの視線も含まない容赦のない叱咤が、逆にアリッサの気力を奮い立たせた。
口腔に溜まった血を勢いよく床に吐き出すと、出かかった悲鳴を噛み殺しつつ、
医療用油紙に包まれたカプセルを取り出し、喉の奥に放り込む。
口の端から零れた血を親指の腹で唇に塗り込め、アリッサは意識して不敵な笑みに唇を歪めた。
曝け出された乳房を震わせる夜の冷気も、ツンと疼く目の奥の熱も、殊更に無視する。
そうだ。瞬きをしたら醜態を晒してしまう。アイツに弱みは見せられない。
爪が食い込むほどに掌を握り締め、アリッサは、45オートの銃声を響かせる男の肩を挑むようにねめつけた。
馬鹿な男。
だらしがなく、いい加減な男。
仕事に対する誇りも誠意も持ち合わせていない、理解不能な男。
誰もが死んだと思ったろうこの自分を、わざわざ探しに来た、脳天気でお人よしな男。
迫り来る化け物を鮮やかな銃裁きで屠りながら、がら空きの背中を自分に向けている、肝心の部分が抜けている男。
自分の命運を任せることなど到底出来ない、信頼するだけバカを見そうな男だ。だが・・・・・・。
カプセルの効果か、ボロ雑巾のようにくたびれていた身体にジワジワと活力が戻ってくる。
アリッサは転がっていた銃を拾い上げると、残弾数を確認し、ふらつきながらもしっかりと立ち上がった。
右足は、大丈夫。左足は腿から出血しているが骨に異常はない。
引き金は引ける。頭はしっかりしている。まだ、正気を保って考えていられる。
いける。
アリッサはケビンに走り寄ると、その肩にぶつかるように背を合わせた。
「ケビン!これは借りよ。私が返すまで死ぬんじゃないわよ!」
男の死角を警戒しながら気炎を上げると、死臭の立ち込める地獄に、場違いに暢気な口笛が響いた。
「上等…!やっぱ、お前、いい女だよ」