「S・T・A・R・S」  
コート姿のタイラントがそう呟きながらジルとカルロスの隠れる部屋の前を通り過ぎてゆく。  
「今ので何度目かしらね」  
鍛え上げられているのもかかわらず、見事なプロポーションを維持しているジルが  
生まれたままの姿でカルロスに馬乗りになっている。  
「5度目だ」  
未だジルに咥え込まれたままのカルロスが答えた。  
「何でそう断言できるの?」  
「奴が通る度にお前が求めるからだ。その回数と一緒なんだよ」  
簡易ベッドに横になったカルロスは下半身だけ裸という  
いささか情けない格好だったがジルの攻めにそんな恥かしさも  
消し飛んでいた。  
もともと脚を怪我した彼の治療のためにズボンを下ろしたジルだったが  
ワザとか本気か下着まで下げてしまったため一気に事に及んだのだった。  
何故か二人が達した後に必ずタイラントはドアの前を通るのだ。  
まるで見計らったかのように。  
「まさか」  
ジルはある仮定を思いついた。  
「私たちがこうやって消耗するのを待っている?」  
この状況下での異常な昂揚によって体力をかなり消耗していた。  
例えばレッドゾーンという言葉が当て嵌まるくらいに。  
「いくら奴でもそこまでの頭があるワケ」  
カルロスがそこまで言った時だった。  
丁寧な、しかし確固とした自信のあるノックが響く。  
そしてもう一度。  
この部屋に人がいることを確信している音だ。  
「S・T・A・R・S」  
ジル・バレンタインはネメシスの罠に嵌まったことに気がついた。  
 
 そしてネメシスは堂々とドアを開けたのだった。  
「鍵掛けてなかったのかよ」  
「開ける事はあっても閉めるなんて一度も無いでしょ」  
 カルロスを咥えたまま、馬乗りのジルが言い返す。  
2メートルはある身長で器用に身を屈めて部屋に入ってくるネメシス。  
二人は繋がったままで近くにあったハンドガンを取り巨体へと向け撃つ。  
とはいえショットガンもグレネードランチャーも無い。  
しかもハンドガンの弾も込めてあるだけ。30発に満たないそれが尽きるのはすぐだった。  
更にさっきまで二人は激しく交わっていたのだ。  
ネメシスの渾身の一撃で即死なのは間違いなく、  
足腰も立たないままでは逃げるのも無理だ。  
「誰のせいでそうなったんだ」  
思わず愚痴るカルロスのモノを締め付け千切る勢いで黙らせるジル。  
 二人は覚悟を決め、その時を待ったがいつまでもそれが来ない。  
締め付けられる痛み思わず目を瞑っていたカルロスがジルに促され、  
恐る恐る目を開くとそこには驚くべき光景があった。  
 ジルは流石というべきかネメシスを睨み付けていたのだが、  
そのネメシスはどこ吹く風。  
 分厚い防弾コートの胸元にめり込んだ銃弾を払い落としてから、  
悠然と二人の目の前で右手の人差し指を立てて左右にゆっくり振る。  
まるで「悪戯はいけないよ」と窘めるかのように。  
 
 そうして二人の脇にあるテーブルに近寄ると奇妙に脹らんだ  
コートの両ポケットに手を入れ、中身を次々と取り出した。  
 救急スプレーが6本とアンブレラのロゴマークの入った  
何種類もの強精剤、精力剤、強壮剤、栄養剤の数々。  
 更に内ポケットからは頑丈なケースに入った注射器とアンプルが数本。  
後で分かったのだがそれはアンブレラの研究所が秘密裏に試作した媚薬。  
Tウイルスを注射したウナギから採り出した強力な皮下注射型のものだという。  
 唖然とする二人を尻目にネメシスは悠々と部屋を出て行った。立てた親指をカルロスに向けて。  
「…フフフ」  
 いきなり笑い出すジル。  
「いきなりどうしたんだよ」  
「いいわ。この挑戦、受けてやろうじゃないの」  
「おい」  
カルロスの問いかけを無視するジル。  
「ねぇ、カルロス?」  
艶然と微笑むジル。それはまるで別人のように妖艶で神々しかった。  
この時、カルロスはタイラントに女性体があったらこんな感じではないかと思った。  
「な、なんだよ」  
「この薬、全部使うまでこの部屋から出ないからね」  
「へ?」  
 カルロスにとってのサバイバルが、今始まったのだ。  
 

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