ガシャアアアン!!  
 
 
突然の音に、ヨーコは顔をあげた。  
トイレの横――――そこに位置しているダクトから、呻き声と共に二本の腕が伸びてきたのだ。  
 
「ひっ!・・・な・・・何?」  
同時に、ホールからの悲鳴が古びたバーを支配する。  
その後に続き、ドタドタと走りまわり、何やら大声で叫ぶ人の声。おそらくは客の誰かの声だろうか。  
 
(ど・・・どうなってるの・・・?)  
この時彼女には、一体何が起こっているのか理解できなかった。  
「と・・・とにかく逃げなくっちゃ・・・」  
まず最初に思い浮かんだ事は、この状況の正確な認識、そして打開である。  
そのためにはこの女子トイレから外に出て、ホールの様子を確かめる必要があった。  
普段は物静かで控えめな彼女ではあるが、その性格とは裏腹に精神的強さを兼ね備えており、  
一度ひとつの事に気をやると止まらなくなる。  
持ち前の探究心の強さが、時に意外なタフさとして行動に表れる事もある。――――彼女の場合、そんな感じだ。  
 
・・・どんくさい事もしばしば。  
 
この時彼女はほんの一瞬だが、やはり一つ忘れていた。ホールの様子に気をとられ、音も無く這いずっていた化け物の存在を。  
・・・彼女らしい、と言えばらしいのだが・・・  
 
ナップサックに持っていたハサミをしまい、トイレを出ようとしたその時には、既に遅かった。  
踏み出そうとした彼女の右足が急に重くなる。  
「えっ・・・!?」  
そのままバランスを崩したかと思うと、トイレの床に激しく体を打ち付けられてしまった。  
「あうっ!!」  
思わず呼吸が止まる。とっさに頭をかばって体をひねらせたので、強打せずに済んだ。・・・何が起こったのか理解できない。  
ふと、足元に目をやる。見ると、どす黒い斑点の目立つ手が、足をがっちりと掴んでいた。まるで死人の手だ。  
そのまま、視線を手の先に移動する。・・・顔を背けたくなった。  
・・・かろうじて見て取れるが、おそらく生前は30代といったところか。  
醜く変色した顔。ところどころ腐食が進んでいる。涎を垂らしながら、ねっとりとした視線で自分を見つめていた。  
 
「うあ・・・あ・・・」  
・・・恐怖で声が掠れ、言葉にならなかった。おぞましい姿のゾンビが目の前で這いつくばっているのだ。  
彼女は酷く動揺した。無我夢中で掴まれた足を振り解こうと、ゾンビの顔を目掛けてがむしゃらに蹴りこむ。  
対してゾンビももの凄い力で、ヨーコの足首をがっちりと掴んでいる。そのまま、ヨーコの体を引き込もうとしているようだ。  
ヨーコの華奢な体が、ずるっずるっ・・・、と徐々に引き寄せられていく。  
「い・・・いやああああっ!!!」  
ヨーコはありったけの力を込めて、さらにゾンビの顔面を蹴り上げた。その瞬間、彼女の靴だけがすぽんっと脱げてしまう。  
「!!?わあっ!」  
「グオッ・・・?」  
ゾンビは脱げた靴を不思議そうに眺めている。  
(この隙に・・・逃げなきゃ)  
 
ヨーコは仰向けになった体を反転させ、トイレのドアを目指して走り出そうと、のろのろと体を起こした。  
普段、パソコンのモニターに向かっている事が多い彼女は・・・運動神経はあまりいい方ではない。  
 
先ほど全身を強打した影響もあったのかもしれないが、その動作は極端に言えば”スロー”だった。  
もっとも、彼女自身は一生懸命動いているつもりなのだが。  
靴を拾う間もない。急いで女子トイレの入り口へ向かう。  
その動作の遅さがアダとなる。ゾンビの意識はもうヨーコに向かっていた。  
「グオオオッ!!」  
せっかく捕まえかけた獲物を逃がしてなるかと、再びヨーコに掴みかかる。  
「きゃうっ!!」  
どたっ。  
今度は左足を掴まれ、思いっきり転倒してしまった。先程とは違って受身もろくにとれていない。  
「んんっ・・・」  
(だめだ・・・早く・・立たなくちゃ・・・)  
ころんだ時に頭を打ってしまったのが不幸な事に、この時、ヨーコの意識は朦朧としていた。  
今すぐにでも、この場から逃げなくてはらない。  
目の前には、恐ろしい化け物がいる。何とかして逃れなくては。  
・・・そう思っていても、頭が思うように働かず、体も動いてくれない。  
その一方で、先程の様な抵抗もできずにうずくまるヨーコを見て、獲物を得た喜びにゾンビは興奮していた。  
あとはこの間の抜けた獲物にかぶりつくだけ。  
そう考えた(つもりだった。)ゾンビは、低いうなり声を上げる。  
「グウオオハアアア!!・・・ァ・・・?」  
――――同時に、まだ自我が保てた頃の意識が蘇ってくる。  
・・・抵抗できずにいる女を犯す。  
・・・今なら簡単に血肉を貪る事も可能だが、その前にこの若い女の肉体を堪能してからでも遅くはない・・・  
本能的にとった行動なのか、無い頭で必死に考え抜いた事なのか。食欲を抑え、性欲が上回った結果だった。  
「グフフ・・・グフハハアアッ!!」  
ある意味、緊張感の無いゾンビである。  
 
かすかに香る女の匂い。ほんのり汗ばんだ白い肌。必死の抵抗で少し荒くなった吐息。  
加えて、目も虚ろげな無抵抗の華奢な女。  
 
ゾンビの股間は、これから堪能するであろう獲物を目の前にし、はちきれんばかりに膨張していた。  
おもむろに腰を落とし、ヨーコを仰向けにさせると、手元にあった先ほど靴が脱げた右足にゆっくりと顔を近づける。  
「・・・う」  
ゾンビの荒い鼻息がかかり、ヨーコは次第に意識を取り戻しつつあった。  
(・・・?何も・・・してこない?・・何、してるの・・?)  
ゆっくりと閉じかけていた目を開いてゆく。目に映ったのは、自分の足を持ち上げ、顔をうずめるゾンビの姿。  
その時、ゾンビの爛れた舌が、ヨーコの足の裏をねっとりと舐め上げる。  
「ひゃうあっ!」  
あまりのゾンビの行動に意表をつかれ、ヨーコは一気に意識をもちなおした。  
(なっ・・・!)  
顔を押し付けるようにして、ヨーコの小さな足の指、間を丹念に舐めつくされる。  
「い・・・やああっ!んっ・・うあっ・・!」  
(な・・・何・・これえっ・・・ひょっとして・・・)  
ゾンビの股間を見てしまったヨーコは、嫌でもそう認識してしまった。  
(私・・・こんな得体の知れない奴に・・・犯されちゃうの・・・!?)  
ちゅぱっ、くちゅ・・・ちゅぷっ・・ぴちゃぴちゃ・・  
「・・ん・・くっ・・ふっ・・ふああ・・・!」  
ゾンビの卑猥な唾液の音と、自分の息遣いのみが流れる空間。  
おぞましい感覚が、ヨーコの思考を奪っていく。  
 
(嫌だ・・・そんなのは絶対に嫌だ・・・!)  
 
コンピューター関係には抜群の才能を持ち、(自称)大学生でもあるヨーコにはまだ、男性経験は一度もない。  
 
男というものにはあまり興味は無かった。いや、あったのだが、異性とのつきあいが苦手だったのだ。  
中学の時も、高校の時も、周りでは誰が付き合ってるだの、キスしただの、エッチしただの。  
そういう話で他のクラスメートが盛り上がっている中で、なかなか溶け込めないでいたのだ。  
その体質は20を迎えた今になっても変わらず、ここ数年、男とはろくに会話も交わしていない。  
男性と交わる事はおろか、キスでさえした事もないのだ。  
 
・・・そんな彼女がこんな場所で、こんな化け物に・・・これからされるであろう事を思うとひどく恐怖し、鳥肌がたった。  
「やめてっ!!離してえ!!」  
必死に逃げようともがいたものの、弱弱しい抵抗はゾンビにとって何の意味も持たない。  
(何か・・・何か武器になるものは・・・)  
 
・・・その時、ヨーコの目に光る物が映し出された。・・・ハサミだ。ハサミが床に転がっている。  
おそらくは先程転倒した際に、ナップザックの中から飛び出てきたのだろう。  
(・・・コレさえあれば、何とか・・・!)  
 
ヨーコは必死に手をのばす。が、足をゾンビに押さえつけられている為、ハサミまではどうしても届かない。  
ヨーコの指が空を切る。床が爪によって、かりっ、かりっ、と音をたてる。  
「もう・・・少しっ・・・」  
思い切り腕を伸ばし、じりじりと距離を詰める。  
「グオアァッ!!」  
この行動にゾンビもようやく気が付き、ヨーコを逃がすまいとぐいっと引き寄せる。  
「やああああああ・・・・・」  
ヨーコの体は、再びゾンビの元へするすると手繰り寄せられてゆく・・・  
 
彼女の子供のような小さい体はもう、逃げられないようゾンビによって抱えられるようになっていた。  
舌が今度はより強く這い回る。逃げようとした為か、ゾンビは怒りが収まらないようだった。  
もう、ヨーコに反撃の余地はなくなった。  
 
しばらく彼女の味を堪能した後、ヨーコのベルトに手がかかる。  
そのまま恐ろしい力で無造作に金具をはずしてゆく。壊した、と言うのが適当だろうか。  
抵抗もむなしく、ゆっくりと、ヨーコのズボンが下ろされていく。  
「あ・・・あ・・・」  
真っ白な太腿がさらけ出され、ヨーコの下着が露になった。  
その様子を楽しむかのように、一瞬、ゾンビがにたあっと笑ったかのように見えた。  
未だ誰にも触れられた事の無い太腿にゾンビの舌が唾液の線を描く。  
「ああああうっ・・・」  
ヨーコの体が電気を帯びたように、ぶるぶるっと小刻みに震える。  
ゾンビの手がゆっくりとヨーコの上半身に伸び、続いて上着をも脱がしにかかる。  
「誰か!誰か助けてえっ!!!」  
ヨーコは抵抗しながらも、普段の彼女からは出ないようなありったけの声を振り絞って助けを求めた。  
しかし、周りからは既にまともな人間の気配は感じられなかった。もう既にこのフロアから移動してしまったのか。  
(そ・・・そんな・・・)  
 
ヨーコの頭の中で、絶望の二文字がだんだんと、色濃く浮かび上がってくる。  
何か、方法はないのか。助けを呼ぶ方法が・・・  
「・・そ、そうだ!携帯・・!」  
 
先程、バーのカウンターに座っていたケビン。とかいう男から番号を聞かれていた(!)事を思い出した。  
 
彼女にとって、そんな経験は初めてだ。違う事情で話かけられる事はあるのだが、こういったプライベートでの接触は経験は少ない。  
まして、それが口説かれる事になるとは・・・複雑な気持ちだった。  
アップルストリートを抜け、彼女はバーに入ってカウンターに座る。ウェイトレスにオーダーを頼んだあとしばらく、同じくカウンターの少し距離を置いた位置から、こっちをじいっと見つめる熱い視線(笑)を感じたのだ。  
男は警察の身なりで、しきりに髪をセットしたあと、ヨーコに近づいてきた。  
最初は酔っ払ってるな、という事で相手にもしなかったヨーコだが、口ベタなヨーコは男の巧みな話術に翻弄され、あれよあれよと言う間に強引なやり口で番号を聞きだされてしまった。  
彼は警察の人間だし、なによりこの現場に近い知り合い(?)と言えば、彼が一番近くにいることは確かなのだ。  
ゾンビの手を必死ではねのけ、上着ポケットに入っていた携帯を急いで取り出し、震える手でリダイアルする。  
―――どうやらまだ電話はつながるようだ。  
「ケ・・・ケビン!?助けに・・・」  
《ケビンだ。用のある奴はピーっとなったら御用k》  
「・・・・」ピッ  
男は、いざと言う時に頼りにならなかった。  
 
いよいよヨーコは絶望感に襲われる。その隙にナップザックは放り投げられ、上着はひきちぎられてしまった。  
その時、トイレの廊下の前を数人が近づいてくる気配を感じた。―――誰かが助けに来てくれたのか。  
・・・ケビンだ。ケビンが着信に気付き、助けに来てくれたに違いない。  
彼女の心に希望の光が差し込む。早く気付かせなくては。  
「ケビン!!助けて!!ここよ、女子トイレの中!!早くっ!」  
その声に反応し、足音がぴたりとやんだ。そして、ゆっくりとドアが開いていく。  
「ケ、ケビン!!助けに・・・」  
黒いジャケットに「SECULITY」の文字。それにウェイターの制服。よかった、さっきホールにいた人達だ。  
ゆっくりと視線を上げる。そこで彼女はおかしな事に気付いた。肌が・・・死人のように土気色だった。  
・・・やって来たのは、同じく股間を膨張させた、バーのウェイターと警備員のマークを含むゾンビ達の群れだった。  
「いやああああ・・・・・・・」  
 
もうなす術がなかった。ゾンビの群れが彼女目掛けて我先にと一斉に襲い掛かってきたのだ。  
「やあああっ!!やめてえっ!!やめてー!!」  
服や下着は無残に引きちぎられ、手足を押さえつけられ、あっという間に彼女は裸にされてしまう。  
そのうちの一人が、ヨーコの少し小ぶりな胸に舌を這わせる。  
「ふあっ!・・・ううっ!!・・」  
さらに別のゾンビが、今度は反対の乳房を貪り、乳首を弄ぶ。  
「あううっ!!」  
その間に他のゾンビ達も次々と、ヨーコの体に舌を這わせてゆく。首筋、脇、指先、脇腹、背中、臀部、太腿、ふくらはぎ・・・  
相手への配慮など何もない、まるで餌に群がる獣のような愛撫。  
ヨーコの体は群がるゾンビ達によって埋め尽くされ、見えなくなった。  
 
今まで体験したこともない感覚の波に襲われ、悶える。・・・気が飛んでしまいそうだった。  
一方でまた別のゾンビがヨーコの足を押し広げ、まだ一度も役目を果たした事のないヨーコの秘部に荒い呼吸を吹きかける。  
「んああっ!!だ・・・ダメっ!!お願いやめて!」  
言葉が通じるはずもない。彼らはウイルスの影響により、とうに理性など失っているのだ。  
・・・が、瞬間、ゾンビの動きがぴたりと止まった。  
(つ・・・通じた?)  
―――ヨーコが一瞬、ひるんだ隙をゾンビは見のがさなかった。  
その隙をつき、ヨーコの秘部にがっぷりと顔をうずめ、舌を乱暴に押し当てる。  
「んああああああああっ!!!!」  
ずぶずぶと、舌が花弁をこじ開けてゆく。何とも言えない感覚に、ヨーコの中で何かがこみあげてきた。  
―――ヨーコの秘部から、熱い液体が溢れてくる。  
「うあ・・・!!」  
ぷしゅっ・・・  
全身に力が入る。太腿でゾンビの顔を締め付け、びくん、びくんっと数回痙攣した後、彼女の体は力なくうなだれた。  
 
「はあっ・・・はあっ・・・ああ・・」  
彼女の事などはいっさいお構いなしに、ゾンビ達はなおも彼女を責めたてていた。  
彼女の思考はだんだんと麻痺し、意識が遠のいていく。  
 
「も・・・もう・・」  
そう言いかけた彼女の口内に、熱くて大きい何かがねじこまれた。  
「んぐううう!!むぐうっ!!」  
目の前に立っていたのは、あのウェイターだった。彼女の口に最大限にそそり立ったものを挿入してきたのだ。  
 
まだキスもした事のない口でフェラさせられる・・・ショックだった。  
彼女は涙を流しながら、口内の異物感と異臭に懸命に耐えた。  
「むぐっ!うんっ・・ごふっ!」  
 
その時だった。マークが彼女の陰唇を押し広げ、自分のペニスをあてがった。  
高く聳え立った彼のペニスは、周りにいたゾンビの誰よりも大きかった。(恐るべき50代・・・)  
「!!!むぐうーーーっ!!!んうううーーっ!!!」  
それに気付いた彼女はこれまでに無いほど激しく腰をひねらせ、抵抗をみせる。  
「むごんごおぉむうあごお〜〜〜〜!!!!!」  
(お願いやめてえっ!!そんなの入れられたら・・・っ!!)  
しかし、多勢に無勢。こうも押さえつけられては、彼女のか弱い抵抗など、傍からみて無に等しかった。  
マークは腰を沈め、ずぶ・・ずぶ・・とゆっくり侵入を試みる。  
「か・・・はっ・・・」  
 
消え入るような声で、ヨーコが呻く。体は弓なりに反り、侵入を拒むかのように、マークのペニスを折れるほど締め付ける。  
負けじとマークも力任せに押し入り、ペニスが根元まで入り込んだ。そのまま、激しく腰を動かす。  
連結部からは鮮血が愛液に混じり、ペニスの抽送がよりスムーズになってゆく。  
「あああああーーーーっ!!!んっ!んあっ!あうっ!!」  
ヨーコがどんなに痛がろうが、苦しかろうがお構いなしの乱暴な運動。己の欲のみ果たすため、無我夢中で振り続ける。  
「ひっく・・・やだあ・・・ひっく・・・えうっ・・」  
「グウ・・イイ・・モット・・ダ・・!!」  
泣きじゃくるヨーコには、マークがかたことながらも言葉を発したように聞こえた。まだ、意識の奥底で自我が残っているのか。  
先程までバーで酒を飲んでいたのだから、この様な姿になってまだそう時間はたっていないだろう。  
・・・彼は完全にはゾンビ化していないのだ。  
「や・・やめ・・てっ・・お・・願いもう・・動かな・・いで」  
彼女の言葉は届いているのだろうか。・・マークはまるで聞いていない様子で、残酷な言葉を発した。  
「デ・・デル・・ハア・・ハア・・デル・・・」  
パンパンパンパンパンパンッ!!  
腰の動きがより激しくなる。彼の絶頂が近いのだ。ヨーコも再び、絶頂を迎えようとしている。  
ヨーコの体が、わなわなと縮こまる。足の指先がきゅっとまがり、手に力が込められる。  
「ふ・・・あああああ・・・・」  
(な・・・中だけはいやあっ!!)  
もう、声にはならなかった。マークを止めるものは誰もいない。  
「グ・・・グオオアアアアアアッッ!!!!」  
「やああああああああああああっっっ!!!!」  
びくっ、びくっと、マークの体が震える。満足したような表情で泣き腫上ったヨーコの顔を見下ろす。  
ヨーコの目は、宙を泳いで焦点が定まっていなかった。もう、声も出ない。  
マークが立ち上がると、交代するように今度は別のゾンビが腰を秘部にあてた。  
ヨーコの腰を浮かせ、さらにもう一人のゾンビがヨーコの菊門を弄りはじめる。  
(まだ・・・やめてくれないの・・・もう、許して・・・)  
そのまま、ヨーコは目の前が真っ白になっていった。  
 
 
 
気がつくと、天井が目の前に広がっていた。  
 
ゴトン、ゴトン、と、物の揺れ動く音がする。  
自分はどうなったのか。ここはどこなのだろう・・・  
「ここは・・・」  
「よう、気が付いたみてーだな」  
ぬっと、彼女の目前に男の顔が近づく。ひっ、と彼女は身を竦める。  
・・・ケビンだった。  
「おいおい、もう怖がる事はねえよ。助かったんだよ、お前」  
「・・・助かっ・・た・・?」  
「おう。ここは警察の輸送車の中だ」  
景色がはっきりとする。自分は添えつけの長椅子に寝かされている。向かい合うように、ケビンが座ってこちらを見ていた。  
「お前の着信に気付いてな。俺もいきなりの事で、まさかお前がまだ一階に居たなんて・・てっきりもうどこかに行っちまったのかと」  
「・・・」  
「ずっと探してたんだぜ。お前の事。どこにも居ないから、下に戻って探したんだ。そしたら・・その・・・・見つけたってワケだ」  
「・・うっ・・」  
あれは夢、ではない。被せられたジャケットの下で、まだ体がズキズキと痛む。  
「と・・とりあえず今は休め!詳しい事は署に戻ってからだ!な?」  
「・・・うん・・・」  
ケビンが、そっと頬をなでる。優しくて、暖かかった。紛れも無く、人間のぬくもりだった。  
 
警察署に着いてから、シャワールームで体を何度も洗う。・・汚れが落ちない気がした。  
替えの服を用意してもらい、袖を通す。外に出ると休憩室のような場所で、ケビンが手招きをしていた。  
 
「よう。どうだ、少しは・・・落ち着いたか?」  
ほれ、と、紙コップに入ったコーヒーを差し出す。それをヨーコは無言で受け取った。  
しばらくの沈黙のあと、コーヒーにゆっくり口をつける。・・・暖かさで、気持ちがほぐれていくような気がした。  
「・・うん、もう大丈夫・・・」  
「お・・・そうか・・そりゃ良かった!」  
大げさに振舞うケビンを見つめる。気を使ってくれているみたいだった。あれだけの事があったのなら、ショックはそう拭えないだろう。  
ヨーコ本人も、立ち直ったワケはない。・・・ただ、気を使ってくれるケビンを困らせたくなかった。  
「・・・ゴメンな。・・助けが遅れて」  
初めて、異性と交わってしまった。それもあんな最悪な形で・・・そして自分が経験した、あの感覚。  
頭が真っ白になっていった、あの感覚。  
「え?・・・う・・ううん・・・謝らなくていいよ別に・・・ちゃんと助けに来てくれた・・・」  
もし、あれがおぞましいゾンビではなく、暖かい血の通う人・・・だったら。  
・・・ケビンであったなら。どんな感じであったのだろうか。  
 
「・・・ぉい、おい!」  
「おい、さっきから人の顔ばっかり見つめやがって。何だ、今さらになって俺様に惚れたのか?」  
「・・・あ・・・!!」  
顔から耳まで真っ赤になった。ケビンに、自分が考えていた事が全て見通されている感じがして。  
「・・!い、いやあ!ようやく俺様の魅力に気が付いたのかよ?何か照れちまうなァ!わははは!!」  
「・・ち・・違いますっ!!」  
ぼかっ!  
「ぶおあっ!!?」バターン!  
「あっ!!ゴメン・・!ごめんなさい!」  
鼻血を噴いて倒れるケビン。思わず、”グー”で殴っていた。  
「ヨ・・・ヨーコ・・・しゃん・・?」  
目を回して倒れているケビンを見て、ヨーコの顔にもようやく笑顔が戻った。  
「・・もっと早く、来て欲しかったのになあ・・」  
 
 
 
 
「・・・でも、ありがとうね・・・」  
 
 
 
 
 
 
・・・そういえば、男の人を叩いたのも、これが初めてだった。  
 

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