レベッカ=チェンバーズの前に現れたのは、もはや見飽きたといっていい生物だった。  
緑色の皮膚に、自分より二回りは大きいその体。異様に長い腕の先端には巨大な爪が埋  
め込まれている。  
「シャアアアアアッッッ!」  
その怪物は恐ろしい咆哮を上げ、レベッカに飛びかかった。とっさに前方に転がり、そ  
の一撃を避ける。怪物の腕が振り下ろされたとき、レベッカはすでに態勢を整えていた。  
片膝を床に着けマグナムリボルバーを構える。怪物が振り向く前に、引き金を引いた。  
凄まじい衝撃とともに、銃身から火が吹く。それは怪物の後頭部に着弾し、貫通する  
ことなく、その頭部内を引き裂き死に至らしめた。悲鳴を上げる暇もなく絶命した怪物  
通称ハンターは血を噴出しながら痙攣していた。  
「ふう・・・」レベッカは額の汗を拭い、その身体を壁にもたせかける。ハンターの爪  
は人間の首ぐらい、造作もなく斬り落とせる。この狂った夜の中で学んだことだが、  
戦った後すぐに思い起こすとぞっとする話だった。  
どうも、この数時間に渡る疲れは尋常じゃない。こんな惨状にいるのだから、当然と  
いえばそうなのだが、自分は必要以上に疲れている気がした。その原因はわかってもいる。  
自分は必要以上に恐怖を感じているということなのだろう。背後から、真上から、側面から、  
いつ襲われるか分からないというプレッシャーは、まだ経験の浅いレベッカに取って  
かなりの精神的負担となっていた。  
「・・・はぁ」目を閉じ、再び溜息をつく。今頃になってビリーの戦闘力が、どれだけ  
自分の助けになっていたかが分かったような気がした。卓越した銃捌きだけでなく、後ろを  
任せられるという安心感も大きかったのだろう。しかしそれを言ったところで、もう遅いだろう。  
彼は化け物が潜む川に流され、もう一時間近くが立つ。普通に考えれば生きているはずもない。  
「・・・・・・・・」  
しかし、死ぬところを見たわけでもない。  
「・・・・行かなきゃ」  
レベッカは気配を殺しながら歩き出した。彼も自分もこんなのが死に場所で良い筈がない。  
絶望するのはまだ早いと、そう思った。  
 
「・・まずいわね」  
レベッカの目の前に一つの危険が迫っていた。  
・・・ズブッ・・・ズズズッッ・・・・  
引きずるような音とともに、何かが目前の角にいる。何であるかは容易に想像はついた。  
列車の散策から今に至るまで何度も交戦したヒル・・・。自らの生みの親である、  
マーカス博士に擬態している、おぞましい化け物だ。アレはそう簡単には倒せない。  
しかも、横に狭いこの部屋で戦うのはかなり不利だ。  
レベッカは頭で考えるより早く直感で認識すると、即、前の部屋に戻った。そして、天井  
に張り巡らされているパイプの上によじ登る。擬態ヒルがやって来たのはほんの数秒後だっ  
た。  
・・・ズブブッ・・ズッ・・・  
気味の悪い音を立て、レベッカのいる、丁度真下を探り回っている。  
「・・・ふっ」  
細い息を吐くと、音を立てないように銃を一丁取り出した。  
黒光りしているそれは、レベッカの手には不釣合いな大きさである。  
-----デザートイーグル-----拳銃としては最大の50口径を誇る。  
R・P・Dの友人が護身用に貸してくれたものだった。人間相手なら太い血管に当てただけで  
血液を逆流させ、心臓を破裂させるだけの破壊力を持つ。貫通力のある弾を使えば、ヒル同士  
の結合力程度、簡単に引き剥がせるだろう。  
弾を込めると両手で構えた。そして擬態ヒルに銃口を向ける。重量に腕が下がるのを我慢し、  
レベッカは引き金を引いた。  
 
「・・・・くっ」打ちつけた身体に活を入れ、ビリーは立ち上がった。片手に  
は折れたナイフが一本。目の前には無数の刺し傷のついた、蛙の化け物の死体。  
ついさっき殺した奴だが、さすがに肉弾戦で化け物を相手にするのはきつい。  
しかも何百フィートと、川を流された後では尚更だ。取り敢えず骨折はしてい  
ないし、先ほどの交戦中の傷も大したことはない。しかし武器の不足は問題だ  
った。マグナムとハンドガンは流されたし、残った弾丸もほぼ皆無。ベルトに  
括りつけておいたナイフは2本とも無事だったが、そのうちの一本は根元から  
へし折れていた。  
「・・・・クソッ」悪態をつきながら、折れたナイフを放り投げる。  
実験体に使用された亡骸の方に目を向けた。鉄パイプが数本。取り敢えず適当  
な長さのものを手に取る。こんなものではゾンビ程度にしか対抗できないだろ  
うが、無いよりはましだ。  
この部屋の扉は二つあるが、片方には鍵がかかっている。必然的に進む道は一  
つに限定された。意を決し、その扉を開ける。そこには床に群がる無数のヒル  
ども。生理的に嫌悪感を抱く光景ではあるが、いいかげんにもう慣れた。  
適当に踏み潰しながら進むと、水槽室という部屋に出た。荒らされているが敵  
の気配は無い。床に数発のショットガンの弾が落ちていたので、拾い上げた。  
今のところは全く役に立たないが、レベッカと合流できれば利用法はある。  
もっとも合流できればの話で、彼女が生きている保証は無い。強力な銃器  
をいくつか持ってはいたが、それだけでどうにかなるほどこの夜は甘くないのだ。  
そして彼女が死んでいた場合、ビリーの生還率も一気に下がる。ナイフと鉄パイプ  
で戦うには相手が悪すぎだ。  
「・・・・」  
思えば裏目に出た人生だと思う。無実の罪で死刑宣告にされた上、こんな化け物の  
巣に紛れ込んでしまったのだから。しかもこの窮地から脱出できたとしても、陽の  
光の下で堂々と生きることは極めて難しい。  
だがレベッカの生還に手を貸すのは悪くないとも思えた。まだ少女であるが故にと  
いうこともあるだろうが、殺人犯の烙印を押されて以来、自分を信用した人間は彼  
女が初めてである。そうと決まればやるべき事は一つ。余計な事は考えずに前進す  
るだけだ。  

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