ロックフォート島を脱出した喜びも束の間、自由への翼だったこの輸送機が動く牢獄と変してどれくらい経っただろう。
外部から強制的に自動操縦に切り替えられて言う事を聞かなくなった操縦桿を手放し、コックピットの壁に寄り掛かって座った俺は窓の外をぼんやりと眺めていた。
さっきまで座っていた操縦席から見えるそれとは違い、全く変化の見られないこの景色からは、今どの辺を飛んでいるのかさえ分からない。
「なあクレア、今どの辺だろうな…」
言い終わらぬうちに肩に重みを覚え、俺は隣に座った彼女を見遣った。
すぅ、という微かな音を立て、温かい息が触れる。
「何だよ…寝ちまったのか?」
無理もない。刑務所に収容されてから今までずっと、休む間もなく戦いっぱなしだったのだから。
―女のくせに、頑張り過ぎるからだぜ。
兄さんの行方を捜すためだけに、厳重な警備を誇るアンブレラの研究所に忍び込んだ女。重火器を難なく操り、化け物だらけになった刑務所をあっさり脱出してのけた女。
大口を叩いたくせにドジを踏んでばかりの俺を、何度も助けてくれた女。
俺の肩にもたれ心から安心しきったように眠る今の彼女からは、そんな勇ましさは少しも想像出来ない。
「う…んっ…」
小さく喘ぐような声と共に、彼女が僅かに身を捩った。触れ合った腕と腕から伝わる優しい温もりが、不意に俺の心臓を鋭く焼く。
「…クレア」
思わず見つめたその寝顔の美しさを、俺は改めて再確認した。それと共に胸に覚えた熱は、早鐘のような鼓動に乗って全身を駆け巡る抑え難い疼きへと変わる。
俺の視線は彼女の白い肌をゆっくりと滑り、続いて柔らかそうな唇を撫でた。ノーメイクにも関わらず、その唇は誘うようにいやに血色が良い。
触れてみたい衝動が、不意にこみ上げる。
―仕方ないだろ。
―そんな色っぽい顔して、無防備に寝てる方が悪いんだぜ?
誰にともつかない言い訳を心の中で練りながら、俺は彼女に引き寄せられていった。
前髪がそっと触れ合う。
そして唇と唇が触れる刹那。
「ん…?」
まだ眠そうな声と共に、碧い瞳が薄く開いた。
「あっ…ク、クレア!」
眠っていた彼女が目を覚ましてしまった事に気付くのに、そう時間はかからなかった。
「スティーブ?」
「あの…いや、違うんだ、これは…」
この状況では言い訳のしようがない。そんな事は分かっているのに。
「寝ている私に、キスしようとしたの?」
「えっと、だから…」
見苦しく慌てる俺の言葉は、途中で遮られた。