フランス革命期元帥、ジャン・ランヌとその妻ルイーズ・アントワネットの一夜です。  
漫画「ナポレオン」のランヌの影響が強いです。  
 
 
 
 
 青天は徐々に赤が蝕み、古代紫のヴェールをまとい、やがて濃紺の素肌をさらした。街中に点々と焚かれた  
篝火が石畳を妙に幻想的に見せている。  
"彼"は、まだ戻っていなかった。結婚して一週間と数日を過ごし、彼は戦場へ帰っていった。初めて送り出した  
そのときは、婚礼のときよりも美しく整っていたように思われた。  
 ルイーズ・アントワネットは徐々に強まる夜風から逃れるように、窓を閉じた。眼が乾く。僅かに走った痛みに  
瞼をおろしてみると、涙が溢れてきた。思い切り沁みる。その感覚に慣れた頃、ルイーズはようやく目を開けることができた。  
だがその涙が必ずしも肉体の反応でだけ流しているものでないことを、彼女はよく理解していた。それだけではない。  
幼い頃から周囲はよく見えていた子供であったし、何処かで背伸びをしているときにはそんな自分にも気づいていた。それを人は澄ましているだとか、聡明だとか、大人びているとか評価する。或いは伯爵家令嬢という枠組みは  
十八になったばかりの彼女を少女ではなく一人の女性として映し出すのだ。自意識とのずれを感じたことはない。  
ルイーズはさめた、己の白い頬を撫でた。少し乾いている。あとでオイルを与えるべきかもしれない。  
既に彼のいないベッドで眠り、数週が過ぎている。  
"彼"の姿が、瞼の闇に過ぎった。初めて出会ったときの姿がそこにはある。他の元帥も場にはいたが、ルイーズは  
ぴたりと彼に目を留めていた。革命時代によく似合う、三つ編みにされた後ろ髪。厳しげにつりあがった眉の下、  
まるで樫の樹のような深い色の眼が並んでいる。力強く、まるで睨み返すようにルイーズと目を合わせたその男は、  
じきに口元だけを歪めて手を伸べてきた。  
――ジャン・ランヌです  
 名乗った男の顔はよく灼けていて、傷にまみれていた。足などまだ完治していなかったために、びっこをひいていたのを  
おぼえている。不潔そうな感じや、陰険そうな感じはしなかった。ただ、少年らしい青臭さを残しているのに、  
どこかでは自分を投げ捨てているような印象が不思議な男だった。ルイーズは直感的に、この男が求婚してくることを悟った。  
そしてそれは現実となった。結果、ルイーズは妙に広い二人部屋で、今をもてあましている。既に針子には  
飽きてしまったし、編めるものも縫えるものも終えてしまっていた。先ほど使用人を呼び出して湯をすすったものの、  
今では冷め切っている。新しいものを遣すよう、頼む元気もなかった。  
ルイーズはベッドまで、ふらふらと足を運んだ。よく洗われ、干されたシーツの上に倒れこむ。布団が柔らかく  
ルイーズを抱きとめた。深く呼吸すると、陽光のにおいが鼻腔に流れ込む。ルイーズはシーツの海に身を進めながら、  
突っかけていた靴を散らした。普段ならばまずしない行為であるが、なぜかこのときだけは投げ出したくなったのだ。  
仰向けになり、ルイーズは額に手の甲を預けた。天井からぶら下がる明かりに目を閉じ、再び"彼"を想起する。  
初夜のことだ。あまり語らず、しかし黙し続けているわけでもなく、時折体の痛みを気遣いながら、彼はルイーズの中に  
入ってきた。破瓜の痛みは徐々に失われたものの、まだ達するには至っていない。少しずつではあるものの、  
その感覚に近づきつつはある。しかしその矢先、夫は遠征へと出てしまった。  
ルイーズは枕元に手を伸べ、その下にあるものをつかみ出した。リボンだ。彼が眠る前にほどいたものだろう、  
置き忘れられているのを昨夜発見した。  
 少し嗅いでみると、彼のオーデコロンが香った。ずっと布の下にあったから、においは揮発していない。  
血は見当たらなかった。  
そっと唇を近づけ、ルイーズはリボンをいとおしんだ。瞼を開く。真っ青な、国旗にも用いられているその色は、  
彼がいつか語っていた海の色だった。それを拾い上げる自分の指は、波を受け止める砂浜だ。そしてそれを見つめる  
ルイーズの眼は、彼の駆る馬の毛色に違いなかった。彼女は仰向けになったまま、リボンをそっと首元、胸元へとのせた。  
 
しばしそうしていると、じわりとそこだけが暖かくなるような心地があった。ルイーズはぴくりと眉をひそめ、  
続けて現れた彼の姿を見つめていた。瞼の奥、記憶の彼は表情を引き締めている。真剣な眼差しは、男が兵士であることを  
嫌でも思い出させた。戦場では自分が、どうあるべきなのか。多くを語ったわけではない。ただ、どんな兵士こそが  
真の兵士たるかを、彼は教えてくれた。ルイーズにとって必要のない知識ではあるかもしれない。だが彼女にとっては  
それが、夫を知る手段のひとつであった。彼の過去も、考えも、深くは知らぬうちに結ばれてしまった。その事実が  
余計に、若妻の心を苛んでいる。  
この楔のように打ち込まれた寂寞が何故起きるのか、ルイーズは既に気づいていた。体の火照りが日に日に、  
増している。その焼けつくような痛みは肉体があるからこそ訪れるものなのか、それとも心の中に巣食う何かなのか、  
そこまでは特定できなかった。いや、恐らく両方だろう。ルイーズはリボンをつまみあげ、中空に浮かせて見つめた。  
リボンの穂先が、大きく開いた胸元をなぞった。くすぐったさに目を細めながら身を起こすと、窓がかすかに  
開いていた。蝶番の鳴る音がする。ルイーズはぶらさげたリボンと窓を見比べ、やがて背中のほうに体重を預けた。  
肌が徐々に粟立っていることに、ルイーズはすぐ気づいた。リボンが踊り、ゆれるたび、妖しい感覚が表面を  
なぞっていく。しばらくそうして遊んでいると、ルイーズの肉体はしかし次の要求を抱いていることに気づいた。  
開いた胸が、期待に震えている。恐る恐る、あいている手を膨らみに伸ばした。横になっている分多少流れはしているが、  
十分な山がそこにはあった。やわらかく持ち上げてやる。その中心に、服のしわに混じってひときわ高い部分が  
見られた。ルイーズは指を伸ばしかけ、しかしそのはしたなさに躊躇った。リボンをきゅうと握り締めると、  
彼のにおいが流れてくる。彼の、裸の胸が、ふっと呼び覚まされた。  
――気分は、悪くないか  
 ああ、そうだ。具合を確認する言葉もあった。ルイーズは羞恥のあまり忘れていた彼の台詞を、改めてひとつ  
思い出した。答えることができない彼女を彼は決して責めず、ただ慈しむように愛撫を施してくれた。うまい下手は  
よくわからないが、できる限り丁寧に扱ってくれているらしいことだけはわかった。そしてそれが、普段  
慣れない所作なのだろうことまでは想像がつく手つきだった。たしかに力のある人だから、相当加減がいるのかもしれない。  
しかし当のルイーズはただ瞼を硬く閉じ、夫婦ならば誰もが結ぶ"契約"が無事終わることを望み続けるばかりだったのをおぼえている。  
今の自分にルイーズは、問いかけてみた。それでいいのか。本当に、ただその行為を享受すればそれで良いのだろうか。  
本当に、望んでいるものはないのか。  
踊っていたリボンを掌に巻き、唇にあてがった。再び、彼のにおいが訪れる。気づけば、乳房を包んでいた掌に  
力がこもっていた。  
「……っ……あ……」  
体が、反応している。ルイーズはビスチェのほうまで、布をじりじりと下ろした。彼の指づかいを、彼の手つきを、  
彼の息遣いを、体が覚えている。記憶の彼は丁寧にリボンやボタンをくつろげ、少しばかり頬を引き攣らせ、  
まじまじとルイーズの肌を目でなぞった。それだけで、かすかな刺激に踊らされたルイーズの官能はかっと燃え上がった。  
はじめこそ確かめるように遠慮がちだった手つきは、自身でその丸みを楽しむかのような撫で回し方になっている。  
今までのルイーズからは、考えられないような技巧がそこにはあった。  
 ルイーズは決して、もともと好色ではなかった。自身を慰めるなど、経験どころか手を伸べてみたこともない。  
知識として全くなかったとはいわないが、触れて確かめてみようと思わなかったこともまた事実だ。  
更にいえばルイーズは前述のとおりの賢さで、社交に長けてはいた。が、こと男性関係となると妙なところ晩熟なのだ。  
さらりとあしらうところまではいくらでも返せるのだが、本気で好意を持った相手には極端に口数が減る。  
相手を退屈させぬよう、強がって喋りはするものの、彼女自身ではいまひとつ調子が乗らないような心地がするのだった。  
そしてそれは、"彼"に対してもまた例外ではないのだ。  
 
「くっ、あ……あ、ああ」  
簡単に纏め上げた髪が邪魔で、ルイーズは首を振りながらいやいやをするようにシーツへと髪を預けた。ほろほろと  
崩れていく。緩やかなウェーブのかかったセミロングが、押しつぶされるように広がった。  
 だがルイーズは、もう一歩至りきれない自分に気づいていた。快感はあるのだが、違う。彼に触れられた  
あの記憶より、もう数段も劣るような鈍い感触なのだ。かといってただ触れている、わけでもない。中途半端な、  
どうしようもない歯がゆさにルイーズは唇を開いた。  
「……あなた……」  
いうと、掌の中で乳首が心地よさを訴えてきた。ぞくぞくと背筋を這い登ってくる感覚。  
「あなた……あなた」  
ルイーズは鼻を鳴らしながら、むずかるように繰り返した。きいきいと蝶番が啼いている。背筋が自然と反り、  
掌に押し付けるような格好になった。  
 硬く閉じた瞼が、不意に熱くなる。彼の手がほしかった。こんなにも頼りなく、若く、幼い手ではない。  
あたたかく、強く、逞しく、すべてを預けても惜しいとは思わなかったあの掌。彼には前妻がいたというが、  
ルイーズの純真では到底理解の及ばない感情だった。あの掌以外に身を開くなど、考えただけでも寒気が走る。  
ルイーズはここにきてようやく、灼けつくような思いを飲み干した。気づいてはいたのだ。だが、受け入れられなかった。  
これだけ苛烈に、誰かを想うのははじめてだった。そしてそれゆえに浅ましい目で相手を見てしまうことも、  
初めてだったのだ。ルイーズにとりそれは、伯爵家令嬢としてもマダム・ランヌとしても、存在を認めること自体、  
許されることのないものなのだ。  
「ジャン……ジャン」  
指先は正直だった。こりこりと硬くしこった乳首を単調にこすってみる。はじめは痺れるような快楽があったが、  
じきに失せてしまった。ルイーズが半泣きになりながら首だけ寝返りをうつと、ベッドからリボンが滑り落ちていく。  
あっと声を上げて拾おうと身を起こした。  
 しかしその瞬間、ルイーズのすべてが停止した。  
 伸ばした指の先、もう一つの指がリボンを拾い上げている。触れた瞬間、寒気に似た感覚が走った。ごつごつとした、  
骨っぽい大きな手。見紛うはずもなかった。何しろ部屋に入れるのはこの男と、自分と、呼び出した場合の侍女や使いだけなのだから。  
 ジャン・ランヌはかける言葉も特に浮かばないのか、顔色ひとつ変えずにルイーズと目を合わせていた。  
彼が持つと可憐とはいえないリボンが、丸まった両指の隙間から垂れ下がっている。ルイーズはようやく手を引っ込め、  
身を縮こまらせながら布団を翻した。  
「お、おかえりなさい」  
ルイーズは激しい動悸に呼吸を乱されながら、寝具に声を吸わせた。彼が今どんな顔をしているのか、確認する術はない。  
 寝台の膝あたりが軋むのを感じた。どうやら彼もまた、上がったらしい。近づいてくる気配がある。ルイーズは  
息を殺し、膝を抱えるように逃れた。  
「ただいま」  
ふさがれた聴覚では、それだけ聞き取るのが精一杯だった。布同士のこすれあうがさがさと鳴る音が耳にうるさい。  
 ルイーズは慌てて服の胸元を持ち上げると、寝具の際からそっと目までをさらけだした。十三歳年上の夫は、  
顔色ひとつ変えずに自分を見下ろしている。涙で視界は潤み、顔から火が出ているのではないかと錯覚するほど熱かった。  
「ど、何処からごらんになりまして」  
どうにかそれだけを震える声でいうと、ルイーズは掌に爪を立てた。いつからかわからぬほどに、彼が入ってきていることに  
気づかぬほどに、夢中になっていた事実がどうしようもなく恥ずかしくてたまらなかった。今彼が腰にさげたままの  
サーベルを引き抜き、自分の咽喉を突きたいほどだ。  
 夫はなんと答えるべきか、悩んでいる様子だった。それはつまるところ、かなりはじめのほうから彼がいたことの  
証明に他ならない。嫁にもらったとはいえ、女に対する礼儀は弁えているのだろう。  
「……ごめんなさい」  
あまりのことに、ルイーズはついに涙を止められなかった。大粒の雫は彼女の目尻を伝い、耳のほうへと流れ落ちる。  
さすがのジャンもこれには参ったようで、微動だにしなかったはずの眼を見開いていた。  
「ごめんなさい! 申し訳ありません……あなたさまの装飾品で、このような、破廉恥な」  
幾度も繰り返し、ルイーズは唇を噛んだ。  
「恋しいあまりとはいえ、許される行為ではありませんわよね」  
混乱で舌が滑った。次々にこぼれる響きに、夫は眉をひそめている。これ以上困らせてはいけないとわかっているのに、  
ルイーズは強張った指先を震わす以外何もできなかった。  
 
 身を焼かれるような羞恥に、ルイーズはいやいやと首を振って瞼を閉じた。以前この無骨な夫は、別の女性と  
結ばれていた。その女性は妻であったけれども、彼がエジプトに遠征している頃、密通した上に子を孕んだそうだ。  
だからこそ彼はそういった、性的なことに対し敏感なのではないだろうかとルイーズは感じていたのだ。  
こんな淫らな女とは思わなかった、離縁する! そう突きつけられたとて、何ひとつ不思議はなかった。ルイーズにとり  
ジャン・ランヌとは、そういう人物に映っていたのだ。  
しかし訪れたのはあたたかい、少し乾いた感触だった。じわりと熱が伝わってくる。瞳を恐る恐る開くと、  
ルイーズの額には彼の掌が乗っていた。  
「……私の前でしてみなさい」  
妙にかしこまった調子でジャンはいった。普段は自身を俺と呼ぶ人だから、ルイーズにとりそれはひどく珍しいことである。  
しかしそれ以上に、驚きが勝っていた。ルイーズは確かめるように唇を開きかけたが、ジャンの言葉はそれを押さえ込んだ。  
「それとも、もっと乱暴な言われ方でないと安心できないか」  
部下の前、或いは舞踏会で見られるか否か程度の口調の次は、随分と極端な意見だった。勇猛果敢な歴戦の将軍は、  
紳士としての立ち振る舞いは見事だが、女の扱いに疎いらしい。無理もない。元々、染物工になるはずだった  
平民である。この革命の時代でなければ、ルイーズと出会うこともなかったであろう男だ。そもそもそういったものを、  
期待するほうが無粋かもしれない。  
 だがルイーズはその、無骨な気概に惹かれていた。十以上も年の離れた、しかしどこか子供じみた彼を、  
どうしようもなく愛してしまっていたのだ。  
ルイーズは指先でそっと涙を拭い、ゆっくりと布団をずらした。まだぐずり続ける鼻をすすって、おずおずと  
彼を見上げる。  
「……許してくださるの」  
語尾を上げ、できるだけ品よく聞こえるようにルイーズは尋ねた。額にあったジャンの手がすべり、髪をゆっくりと  
梳きはじめる。  
「許すも何も」  
夫の目は穏やかだった。そして、静謐だった。まだ彼女の知らない、大人の男が持つ色香だ。  
 ルイーズは自分の背筋に、かつて彼に抱かれた興奮がよみがえっていることに気づいた。彼の目が、見ている。  
そらされることなく、優しく、壊れ物にでも触れるようにだ。その事実だけでルイーズの胸はすぐに満ち、溢れかえってしまった。  
気づけば彼女の腕は身を起こすよう力をかけており、その指先はジャンのうなじに伸ばされていた。  
「ジャン」  
細く華奢な腕がしたたかに、兵士の太い首筋へ絡む。浅く灼けた彼の頬にルイーズは濡れた頬をすり合わせた。  
傷痕を湿らせる感触に、ジャンが目を細める。時に一師団を、時にサーベルを、時に銃剣を抱き締めるその腕は、  
しかし今は新妻を受け止めていた。  
「ジャン……ああ、どうしたらいいのですか、私」  
ほどけきったブルネットはやわらかく、ジャンの鼻腔へラベンダーの芳香を運んだ。  
 それが切欠としか思われなかった。ジャンはことさらに強くルイーズの身を、恐らく呼吸も苦しいほどに  
抱き寄せた。ただ目の前の震えた娘が、愛しくてならないようだった。  
「どうしたいんだ、おまえは」  
感情を滲ませぬようにしながら、ジャンはできるだけ穏やかに口にした。傷だらけで愛想もない顔は戦友からこそ  
この上ない信頼を勝ち取るが、女にとっては恐怖の対象でしかないことをよく理解しているのだ。勿論ルイーズは  
外見ひとつで評価を変えるような女ではないことも知っている。  
 だがジャンは、この硝子細工のような女がかわいくて仕方ないのだった。だからこそ、扱いが思い切り  
不器用になっているという自覚もあった。  
「……いたいです」  
ジャンの胸を少しばかり離れ、しがんだままルイーズは目を細めた。  
「あなたといたいです、ジャン。心からお慕いしているのです。どうか、どうかご寛恕くださいまし……」  
鳶色の眼がゆれるたび、締め付けられる感覚がジャンをざわつかせた。穏やかを決め込もうとしていたはずの  
彼の目に、一筋の欲望が走る。  
 ルイーズはようやく、夫の眼差しを満たすものが理知だけでないことに気づいた。  
それからはあっという間だった。ジャンの唇がルイーズのそれを蓋をするように塞ぎ、舌を挿し込み、執拗に  
絡めだした。溢れていた唾液を蜜であるかのように彼は次々と吸い上げ、飲み干し、歯列を割って幾度も口内を  
抉った。鼻から甘い声を漏らすルイーズの身をベッドへ再び返しながら、ジャンはその上へ跨っていく。まだ  
口は離していない。  
 
ぬめぬめとした内壁、頬のかすかな襞をジャンは丁寧になぞった。抑えていたものが彼を、強く突き動かしている。  
"何処でも闘える兵士"は、初めてその貪欲な様をさらした。  
ようやくルイーズの唇を解放したジャンは、うっとりと飲みきれなかった唾液をこぼす彼女を撫でた。はじめ  
この女と、結婚できるとは思わなかった。求婚はしたものの、いくら将であるとはいえ、まだ身分はあちらが  
上だったからだ。最終的に結婚を是非と受け入れたのはルイーズ本人だったという。  
「ルイーズ」  
ジャンの呼びかけに、ルイーズは掌で返した。先ほど彼自身がしたのと同じように頬を撫でたあと、指先で頬の傷を  
なぞっている。その手はゆっくりと、ジャンの首筋へ移動していった。そこでとまる。その先を望んでいるのだと、  
ルイーズの目は訴えていた。ジャンは自ら制服の前をくつろげ、着やせする厚い胸板をさらした。  
「ああ」  
半ば陶酔的に、ルイーズは吐息を漏らした。首筋でとまっていた手はジャンの肩へ進み、ふくらみにある銃創へ  
触れる。くるくると幾度か形を確かめたあと、胸に走る細かな切り傷を撫でた。  
「……怒らないのですね」  
その手つき、眼差しにはまだおびえが見られる。遠慮がちで、本当にそんなことが許されるのだろうかと  
問うているようだ。ジャンは吐息とも笑みともつかぬ声をふっと漏らし、乳首に到達しようとしていたルイーズの  
手を軽く掴んだ。  
「くすぐったい」  
出会ったときと同じような、口元と頬をゆがめた笑みだった。あのときもそうだったが、下品で野卑な印象が  
ないことは本当に不思議でしかない。もし他の男が同じ顔をしたなら、恐らくなんと陰険で気味の悪い男だと  
思っただろう。ジャンは取り立てて見目の麗しい部類ではなかったが、ルイーズに不快を抱かせたことは一度も  
なかった。髪粉もちゃんとふっているようだし、癖の強い髪を下ろすのはベッド以外で見たことがない。  
「ジャン、これは夢なのですか」  
ルイーズはまじめに尋ねたのだが、その質問はジャンの硬い表情をついに崩した。破顔するさまを見たのは  
初めてかもしれない。  
「貴族の夢には温度があるのか」  
気持ちのよい、まさしく"笑顔"でジャンは返した。それは何より無邪気で、ルイーズの胸にあった不安や恐怖を  
簡単に一掃してしまった。  
 続けて、嵐のような激情が体中をめぐった。瞬間的に、炎へ油を浴びせかけたように、ルイーズの全身をそれは  
走り抜けた。この男がほしい。この男に、触れたい。ルイーズは直感にも似た本能の囁きに、もはや抗おうとはしなかった。  
再び訪れた接吻には自らも舌を差し出し、彼から流れてくる唾液を飲み干し、あいた手は懸命に彼の背を撫でた。  
少しでも彼が心地よいと感じてくれるように、少しでも彼が離れたがらないように。媚びていると思われるかもしれない。  
ただここに幸福があるのだと伝えたかった。ルイーズの幸福をどうか少しでも、夫に与えたかったのだ。  
ジャンの手はそれに応じるように、ルイーズの体へふれた。肌掛けを邪魔そうにどけ、白くさらけた乳房を  
乱暴に鷲掴みにする。ルイーズが身を捩じらすと僅かに力が緩んで、やわやわともったいぶる手つきへ変化した。  
ようやく口が離れると、粘ついた糸が二人の舌をつないだ。  
ルイーズはあれほどに待ち望んだ彼の掌へ押し付けるように体をゆすった。少しばかり顔を傾け、視線だけは  
しっかりとジャンをとらえたまま、浅ましい欲求を仄かに差し出している。夫は妻の媚態に目を細め、首筋へ頭を  
沈めた。白くくぼんだ鎖骨の陰を強く吸い、そこをかわいがるように舌先でつついては嘗め回す。快楽に直結する  
愛撫ではなかったが、ルイーズはぞくぞくと這い登る背徳的なよろこびに目を細めた。  
「ジャ……ン」  
うつろな目で追いかけた夫の姿は、豊かに上下する乳房の前へ降りていた。妻の声にジャンはまたかすかな笑みを  
浮かべ、度重なる蹂躙ですっかり勃ち上がっていた乳首へ指をかけた。  
「あっ、あ」  
ジャンの股座の下、ルイーズの身が跳ねた。きゅっと小刻みにひねりあげるたび、甘い悲鳴が上がる。今までより  
力加減は巧みになっている。慣れたのか、無遠慮になっただけかはわからない。ジャンは妻の狂態を観賞するかのように  
指をおどらせた。  
「さっきこうしていたな」  
彼の問いに、再びルイーズは激しく紅潮した。それまでジャンを支えていた白い小さな手は顔を覆い、唇を  
かみ締めていやいやと首を振る。否定ではない。まださほど長くはない夫婦生活だが、そのくらいは把握できた。  
 
「俺のを見て、おぼえたのか」  
あくまでジャンの問いかけはやわらかいものだった。血気盛んで喧嘩っ早い、あの男と同一人物と誰が思うだろう。  
「他に、誰がいるのですか」  
ルイーズは夫のする細かな意地悪にようやく反論した。返す言葉を失ったジャンは彼女の胸に顔をうずめ、  
頬を摺り寄せてから乳首をひねりあげた。  
「それもそうだ。悪かった」  
詫びのかわりに、と口にしたわけではない。ジャンはつまみあげた蕾を含むと、乳暈までを吸い上げて弄んだ。  
舌先で小さな穴を抉りながら、口づけと同じように幾度も食みなおす。今までルイーズに披露したことのなかった  
性技は見事に彼女を堕落させた。背をのけぞらし、鼻を鳴らして彼女は快楽に打ち震えている。彼と比べれば  
ずっと小さな手がシーツを切なげに掴んだ。  
 ジャンは乳房から離れると、そのままへそへ指を伝わせ、肌着をこじ開けてルイーズを探り出す。ぷっくりと  
肉のついた恥丘には立派な茂みが呼吸のたびそよいでいる。わざとこすり、音をたててやった。  
「や、やめてくだ……」  
「駄目だ」  
身を縮こめて逃れようとするルイーズの太ももを強引に押し広げ、ジャンはついに彼女の左脚を裸にした。  
揺れる灯篭のあかりに女肉が浮き彫りになる。既にしっとりと濡れたそこはまだ閉じているが、ジャンを待ち望んで  
赤く染まっていた。  
 半分だけ着衣の乱れた妻はどうしようもなくいやらしかった。まだ花びらに触れてもいないのに膚は上気し、  
薔薇色にその頬や体を染めている。少しウェーブのかかった黒髪は乱れ、その中で小さなかわいらしい顔が恥らっていた。  
しかし先程の、ただ泣いていた乙女とはわけが違う。  
その上、ジャンからすれば暫時であった会えない時間の切なさがそこへ加わり、ルイーズはまるで色気を  
もう五年分は足したような魅力を放っていた。抱けば抱くほど、いい女になる。ジャンは己の熱が、力が増していくのを感じた。  
ジャンの変化に気づき、ルイーズは目を見張った。恥ずかしいといって一度も見ようとしてこなかった夫の股間が、  
布をきつそうに押し上げている。やはり一度は目を泳がせてしまったものの、二度目に視界へみとめたときは  
はずせなくなっていた。  
ルイーズはシーツを掴んでいた手をほどくと、ジャンの膝へ乗せた。意図がわからないのだろう夫はその手を  
ちらと見やり、もぞもぞと身を動かした。  
「……重いか」  
かけられていたジャンの体重が少し軽くなる。ルイーズは慌てて、彼を呼び止めた。  
「あっいえ、そうでは……なくて」  
鳶色の眼が誘っていることに、彼女自身でさえ気づいていなかった。しかしルイーズの真意といえばまさしく  
その通りであったし、肝心なところで鈍感さを発揮したジャンにでも感づけるほどである。驚きに強張った顔が  
徐々に険しくなり、厳しく大きな目が細められた。  
「……何をするか、わかっているのか」  
その声は諭す響きを含んでいた。ルイーズはその姿にはっとして、指を噛んで顔を背ける。嫌われてしまっただろうか、  
はしたない女だと思われただろうか。だが、ここで目を背けては以前と何も変わらない。ルイーズは頼りなく  
丸まっていた指をぎゅっと握り締めた。  
「わかりません、でも」  
続けたまま、ジャンを振り返る。  
「教えてくだされば、できます」  
少女の面影がまだ浅く残ったその貌は、彼が思っていたよりずっと成長が早いようだった。ジャンの肌蹴た制服の  
すそを掴み、うっとりと顔を上げている。唇はぽってりと熱を持って紅く主張し、頬は涙と汗で艶めいて美しかった。  
 ジャンは咽喉を鳴らしそうになり、童貞のようだと自身に苦笑した。その笑みをルイーズがどう受け取ったかは  
わからないが、様子をうかがうように覗き込んだ眼差しは前と違って感じられる。それは彼女が一線を取り払った  
証であり、ジャンが本当の意味で妻を抱ける日が訪れたということだった。  
 早速というべきか、ジャンは完全に自身をさらけだした。他の場所はあまり目立たないが、ここだけは際立って  
濃い体毛がびっしりと股間を覆っている。太ももに向かって不自然に薄くなっているのは行軍のため、擦り切れて  
しまったのだろう。  
それはルイーズの知る限り、何にも似ていなかった。どうしても何かにたとえろといわれたなら、砲筒と  
答えるだろう。色はそこまで黒くはないが、ジャンの素肌よりも濃いのは確かだ。直線的な形を成したそれは、  
根元からすると九十度ほどまで屹立している。彼の大きな掌くらい長さのあるそれが大きいのかルイーズに判断は  
つかなかったが、それが自分の中に入ってきていたのだと思うと胸が妙に熱くなった。  
 
「やめるか」  
怖気づいたように見えたのか、ジャンはそのままの声音で尋ねた。ルイーズはしかしふるふると首を振って、  
まるで熱に浮かされたように指先を伸ばしている。  
 ジャンはその手首をとって、自らの武器へ導いてやった。熱く脈打ったそれはルイーズに鼓動を伝え、彼の唇から  
溜息を誘い出す。  
血管の這い回る一物はある意味グロテスクですらあったが、今の彼女にはそう思われなかった。愛する夫の、  
力そのもの。自ら触れたのは初めてであったが、幾度もこれに貫かれた記憶は残っている。反射のように媚肉が  
濡れるのを感じた。  
「少しずつ、擦るんだ」  
ルイーズがそれをどう扱ってよいものかと考えあぐねていると、じきにランヌが口を開いた。若妻の無知を  
よくわかっているらしい。たしかにルイーズが幼い頃から受けてきた教育の中に、性に関するものはない。  
男性に触れること自体そうそう許される身分でも、機会もなかった。  
 彼の言葉に従い、ルイーズの白い手が上下した。くすぐるかのように生やさしいその刺激は、ランヌの目に  
情熱を燃やす。勃ちあがりきっていたと思われた男根はもう少しその首をルイーズの顔に近づけた。  
ルイーズははしたないことだと知りながら、その様を観察せずにいられなかった。濃いピンク色をした先端には  
小さな、かわいらしいとすらいえる穴が開いている。親指でそのくぼみにそって少し擦ると、ランヌの太ももに  
かすかな緊張が走った。思わず心配そうに見上げたルイーズに、彼は苦笑して呼吸を整えている。  
「痛いわけじゃない」  
たしかにその頬を引き攣らせているのは痛みではないようだ。ルイーズは指の腹を相変わらず慎重に夫の鈴穴へ  
這わせ、くるくると円を描き、時折キスするようにつついた。ジャンの目に切なさがちらつく。確かで、深い思いを  
感じさせるその眼差しに、ルイーズは少しずつ手の動きを変えていく。  
 砲身を握った手を丁寧にスライドさせると、ジャンの反応はまた違った色を映した。どうやら、擦るのは気持ちが  
いいようだ。ルイーズはついに身の位置をあらため、両手を使って愛撫しはじめた。  
 ふっくらと包み込むように、自分の頬を洗うときのように、砲身の側面を撫でていく。その緩慢でしかない動作に  
ジャンが焦れているのを感じ、ルイーズは顔だけを起こした。彼の呼吸に合わせ、徐々に手の動きを早めていく。  
どのようにすれば"それ"がよろこぶのか、実感し始めていた。  
だがルイーズの愛撫が速度を増そうとしたそのとき、手首が不意に掴まれた。ジャンの目はすっかり熱を帯びて、  
戦場とも日常ともつかぬ色に染まっている。呼吸は幾分か、荒い。  
「……もっと、いい方法を、教えてやる」  
ジャンはそれだけいってルイーズの手を離した。そのまま自分は彼女の開いた股間へと手を伸ばし、上半身までもを  
そこへずらして、茂みの向こうから目を合わせる。夫にさせるがままとなっている自身が急にまた恥ずかしく  
思われて、ルイーズは赤面しながら唇を噛んだ。  
「や、そんなところで……」  
彼は答えなかった。ルイーズの濡れそぼった花弁へと遠慮なくその指を引っ掛けていく。ぐっとこじ開け、  
抉るような視線を与えた。彼の眼差しに女肉はとろとろと蜜を垂らす。ジャンの指は次々と溢れるその蜜を充血した  
陰核へ塗りまぶしはじめた。パールピンクのそれへ力を軽くこめるたび、激しくルイーズの体がのけぞる。  
「あっ、は、やっ」  
太ももが閉じそうになるが、許しはしなかった。ジャンは肘を使って股を開かせたまま、面白がるように肉芽を  
いたぶり続ける。ぐりぐりと指先で押しつぶし、くるくると周辺をなぞりあげ、愛液の分泌を促した。ルイーズは  
小刻みに、しかし大きな悲鳴に似た嬌声をあげ、やがてぐずりだした。  
「あっ、あん、あぁ、そこ、いやあ」  
子犬のように妻は息を荒げ、必死にシーツを掴んで耐えている様子だった。薄っすら桃色に上気した頬が美しい。  
ジャンは口角をわずかに吊り上げ、ついにルイーズの秘所へと顔を落とした。  
 チーズのようなにおいとはよくいったものだが、若妻のそれはあまりそう感じられなかった。勿論これだろうかと  
思われる部分はある。こんな比べ方をするのはなんだが、彼の前妻とは全く違っていた。  
 
ジャンは尻を抱えるように支えながら、尖りきった陰芯に口付けた。続けて舌でねぶりあげる。  
「くひいっ」  
こらえようとして抗いきれなかった、ルイーズの声がした。甘い悲鳴はジャンの舌の動きによって断続的に起こり、  
肉体はぶるぶると快美に震えている。幾度かこじあけた女穴へも舌を差し込んでみると、うねっているのがわかった。  
引き抜いてからまた、陰核へと戻っていく。水音が立つほど吸い上げると、ルイーズからひときわ強い声が上がった。  
 ジャンはしかし、そろそろ自身の欲望を抑えきれなくなっていた。剛直の勢いに自分で気づいている。秘所から  
顔を上げ、口内にあった唾液を飲み干してから、ルイーズを抱き起こした。  
彼女の眼差しは既にとろけきっていて、ジャンと男根を交互に見比べていた。白く細い指先が、ジャンの股間へと  
伸びる。触ることに躊躇いやおびえは、もう感じられなかった。  
「怒らないでくださいね……」  
声が艶を帯びている。ルイーズはそれだけいって、頭をゆっくりと下げた。だらりと長いブルネットが落ちる。  
そのまま彼女はジャンの、屹立したそこへ顔を近づけた。  
「おい」  
「こうするのが気持ちいい、ということでしょう」  
呼びかけに妻はそういった。ジャンは思わぬ申し出を制止しようと試みたが、ルイーズが雁首へ口付けるほうが早かった。  
「……嫌だろう、に」  
ぽつりとジャンはいった。前妻とするとき、相手は知識があるようだったが、オーラル・セックスは一度も  
しなかった記憶がある。ジャンが施すことはあったが、遊び好きであった前妻には物足りなかったらしい。また、  
ぶちあけた話、彼は雰囲気を作るのが下手だ。いわゆる"俗っぽさ"を持った前妻とは、そこが合わなかったのかもしれない。  
「何故ですか、夫のものでしょう」  
口を離したルイーズがいった。彼女にとっては問題にならないらしい。彼女はすっかりジャンに夢中な様子で、  
熱心に愛撫らしきものを施している。慣れこそないが、懸命なことだけはひしひしと伝わってきた。啄ばむように、  
先端をちろちろと含んでは形にそって丁寧になぞっていく。その口がちゅっと音を立て、再び離れた。  
「あなただって……してくださったのに」  
もじもじといじらしくルイーズはいい、その羞恥を打ち消すかのように股間へと顔をうずめた。ジャンはじわじわと  
こみあげてくる感情を言葉にすることもできず、ただ、ルイーズから送られてくるたどたどしい快楽に拳を  
握ることしかできなかった。  
 もしこの女を取り上げられたら、自分はどうなるのだろうか。  
今まで、どの女といたときも考えたことはなかった。だがもしもこの女がいなくなってしまったら、他の誰かに  
とられてしまったら。そう思うと急に、わけもない怒りと悲しみが溢れてくる。存在を確かめるようにルイーズの髪を撫でた。  
彼女は両手でジャン自身を支えながら、半分ほどまでを口に含んでいる。長すぎて全部は入りきらないようだ。  
後ろの袋も、きちんと撫で転がしていた。決してうまい奉仕ではないが、様子をうかがうようにちらちらと上目遣いに  
見上げてくるのがかわいらしい。ジャンはまた少しだけほほ笑んで、心地よいことを伝えた。  
きゅう、と音が鳴った。強く吸い上げ始めたのだ。さすがにジャンもこれには呻き、ルイーズの髪をやわく掴んだ。  
「そろそろ、いい」  
呼吸が一方向で止まっていたのだろう、合図で離れたルイーズは大きく息を荒げている。笑いながらも、ジャンは  
彼女の身を引き寄せた。深く腰掛けなおし、ルイーズの尻を持ち上げて引き寄せる。膝をつかせ、またがる格好にさせた。  
「入れるぞ」  
ジャンはできるだけやさしくいって、ルイーズの薔薇色に染まった頬を撫でた。飲みきれずにいたらしい  
唾液をたらしている。まっすぐに見つめる瞳はしかし白痴などではなく、夫に対する愛に満ちていた。  
「あっ、あ、ああ」  
何かいいたいらしい。慣れない動作に顎が痛んだのかもしれない。背中をさすってやり、落ち着くのを待った。  
ルイーズはジャンの逞しい両肩に手をそえて、ぎゅっと身を寄せた。  
「こ、この格好で、大丈夫なんですか」  
肌蹴た衣服がはらりと落ち、言葉とともにジャンへかぶさった。肩から滑ってきた手は後ろで落ち着き、布が  
彼の大きな背中を隠した。座位でするのは初めてだ。不安なのかもしれない。  
「好きなんだ」  
ルイーズは少し顔を離し、ジャンと目を合わせた。つぶやくようにいった言葉に首を傾げる。  
「この格好も、おまえも」  
こぼすようにいったジャンはしかし、ルイーズの返事を待たなかった。腰骨にそわせた手に力をこめ、一気に貫く。  
 
よく濡らしてあったために痛みと、抵抗はない。だがルイーズの秘所はジャンの一物を待ち焦がれていたようだ。  
「あ、あああっ」  
悲鳴と同時にぎゅうっと締め付けが起こり、続けて搾りあげるようにうねりだす。呻かずにいられないほど、  
ルイーズのそこはよく動いた。ジャンはしばらくその感触を楽しみ、ぴくぴくと緊張する彼女の唇を深く貪った。  
 予告もなく腰を動かしはじめる。寝台のばねを利用しながら、ルイーズの支えてある腰を上下させた。塞いだままの  
唇からくぐもった嬌声が漏れる。はじめこそゆったりとした調子であったが、やがてジャンは制御を忘れた。  
後方へ妻を押し倒し、赴くままに腰をゆすりだす。  
「ルイーズ」  
半ばうわごとのように名を呼び、ジャンは奥を奥をと彼女を犯した。今までに一度もしたことがない、強く、  
深いストロークでだ。汗ばんだ肌がぶつかりあうたびに乾いた音をたて、枕に後頭部をすりつけながらルイーズは  
女の悲鳴を上げた。  
「ジャン、あ、い、いっ」  
彼女の眼からは次々と涙が溢れていたが、それが決して苦痛や恐怖からのものでないと心から悟ることができた。  
それは彼女自身も実感しているもので、ただ目の前の夫がいとおしくてならなかった。自分を心から、愛してくれている。  
自分だけを、見つめてくれている。鳶色の眼と鷹色の眼が交錯していた。より奥底で溶け合い、交わりながら、  
二人は激しく愛し合った。  
 意識が白みはじめる。ルイーズはジャンのおさげを頼った。弱々しく掴まれたリボンが片方、ほどける。  
癖の強い、根元からくくられていた硬い髪がふわりとボリュームを増した。湿った体にへばりつき、ジャンの背中を改めて覆う。  
「ああ、ルイーズ、出るぞ」  
それが箍であったかのように彼はいった。腰からこみ上げてくる感覚はルイーズも同じで、幾度も首を振ってジャンを望んだ。  
「き、きて、きてっ、ジャン、きて」  
ついにそのときは訪れた。ルイーズは真っ白な、すべての情景が失せる場所を見た。瞬間、ジャンの熱が奥深くまで  
挿さってくる。すべてなくなったそこでも、愛する夫はそこにいた。  
「ルイー……ズ、ああっ」  
ジャンはより深く妻へかぶさり、迸る白濁を奥へ与えた。どくどくと音がしそうな量だと、体で感じる。彼女の  
肉体は決してそれをこぼさぬよう、媚肉を縮めて受け入れた。  
 二人の呼吸だけがしばし、空間を渡った。傍らにおいてあった蝋燭のあかりが弱くなっている。そろそろ消えそうだ。  
ジャンは指先でその火を叩き消し、煤を吹いて妻から起き上がった。絡みついた粘膜の力はまだ少し残って感じるが、  
引き抜けないほどではない。ルイーズの体はまだ弛緩しつづけている。  
ひゅうひゅうと咽喉が鳴っていた。目は霞んでいるように見える。ジャンは燭台の乗った引き出しから布を取り出し、  
まずルイーズの秘所へあてがった。清潔なものだ。続いて自分のものを拭う。それから倒れたままの彼女の傍らへ  
移動すると、身を乗り出すように腕で頭を支えた。  
「大丈夫か」  
ルイーズの目がようやく動き、ジャンを見てゆっくりとまばたきした。無事を伝えているのだ。それからゆっくりと  
手が伸び、ジャンの頬を撫でる。傷をなぞり、首筋を辿って、ぱたりと落ちた。  
「無理するな」  
ジャンが問うと、ルイーズは少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。どうやら体力の問題らしい。肩を支え、胸板へ  
抱き寄せる。ジャンの太い指先はルイーズの髪を引っ掛け、耳へ預けた。  
 彼女の額は汗でしっとりとしてはいたものの、まだ熱を持っていた。髪は冷えている。風邪をひいてはならないとばかりに、  
ジャンは首筋をあたためた。  
「ありが、とう」  
瞼を閉じるルイーズ。眠ったのだろうか。ジャンが枕へ寝かせてやろうかと思ったとき、不意に腕が絡みついてくる。  
耳元にルイーズの唇があった。  
「私も、好きです、ジャン」  
戒めをほどいた妻は、満足げに微笑んでいた。ジャンに身を任せ、今度こそ力を抜ききった。  
 眠ってくれてよかった、とジャンは思った。囁かれた耳が熱い。大きな右手でも隠し切れない、思わず緩む頬を  
見られずに済みそうだったからだ。  
 

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