明治三十七年(1904年)二月に開戦した日露戦争。  
日本陸軍は満州でのロシア軍との決戦を目指して朝鮮半島と遼東半島  
から進撃。  
鴨緑江や南山の戦いで勝利を収めた日本軍は八月二十四日に満州南  
部の遼陽で待ち受けるロシア軍へ攻勢を開始した。遼陽会戦の始まりで  
ある。  
 
暗闇の中を集団がそろりそろりと動く。  
その集団は黒を基調とした軍服と帽子を被り、手には着剣した三十年式  
歩兵銃を携えている。  
彼らの正体は日本陸軍の歩兵部隊である。  
この部隊、名古屋第三師団所属の歩兵第三十四連隊第一大隊は夜の  
闇に紛れた戦法を実行すべく闇の中を静かに移動している。  
遼陽会戦は黒木大将の第一軍による弓張嶺での夜襲成功や奥大将の  
第二軍と野津大将の第四軍による前哨戦の勝利で幸先の良い始まりを  
見せていた。  
だが、三十日から開始された総攻撃ではロシア軍が頑強に抵抗を始め  
て日本軍は苦戦を強いられる事となった。  
そして翌日の三十一日。歩兵第三十四連隊はロシア軍の篭る首山堡を  
占領すべく夜襲を仕掛けようとしていた。  
 
「露助の連中はまた逃げるさ」  
依田三郎二等兵はその言葉を反芻していた。  
この遼陽会戦の前に補充兵として歩兵第三十四連隊に着任した依田は  
古参兵から冗談交じりでこう言われた。  
(確かに逃げたな)  
二十七日に鞍山站を豪雨の中で攻めた時にはあまり抵抗せずロシア軍  
は鞍山站から退いた。  
(今度もそうだといいな)  
まだ本格的な戦闘を経験していない今の依田は極度の緊張に体を強張  
らせていた。それは未知の生死の境へと進む緊張だ。  
「!!」  
遠くで何かの叫び声が聞こえる。どう聞いても日本語ではない。  
その叫び声が響くと共に首山堡から銃声が響き始めた。  
「見つかった!」  
依田は戦慄した。  
 
首山堡まであと三百メートルの所で連隊はロシア兵に発見されて銃撃を  
受けた。  
「伏せ!伏せろ!」  
小隊長である榊原操少尉が即座に命じる。依田もこれに従って地面に伏  
せる。  
「第一大隊!俺に続けぇ!突撃!」  
突如、大隊長である橘周太少佐が大隊全部に聞こえる様に命じる。  
「中隊!突撃ぃ!」  
大隊長の意を受けて中隊長が命じる。そして小隊長も命じる。  
「小隊!突撃!」  
榊原は立ち上がるとサーベルを抜いて駆け出す。それに小隊の兵士が続く。  
首山堡は標高九十七メートルの首山と言う丘に作られた陣地の事である。  
首山堡を占領すると言う事はこの九十七メートルの丘を駆け上がった上での  
話だ。  
今、第一大隊は銃弾が飛び交う中でサーベルと銃剣を振りかざし丘を駆け  
上がっている。だが、彼らはロシア軍の銃弾を受けて次々と倒れて行く。  
「行け!俺に続け!」  
橘少佐は名刀「兼光」を振るって兵を鼓舞する。  
「怯むな!敵陣はもうすぐよ!」  
榊原もサーベルを振るって鼓舞する。だが、一瞬言葉が女性のものに  
なっている事に気が付かない。それは小隊のほとんどの兵がそうだった。  
(まるで女言葉だな)  
だが依田は一瞬の違いに気が付いていた。  
 
世の中には「女みたな男」と言う人がいる。  
これは外見がそう見える者と性格がその様に感じる者の二つに分けられる。  
榊原は前者だと依田は考えていた。  
「俺が小隊長の榊原少尉だ」  
部隊に着任した時に上官だと名乗った榊原。その顔は軍人としての威厳が  
あったが、何処か女性的な細く柔らかな顔つきが見て取れた。  
「まるで歌舞伎の女形みたいだな」  
依田はそう言う第一印象を受けた。だが、実際はれっきとした男の性格であ  
った。同期の下士官に「操ちゃん」とからかわれると「いい加減にしろ」と怒っ  
ていた。  
だから依田は榊原を「女形みたいな顔の小隊長」と言う風に考えていた。  
だが、一瞬出た女言葉に少し戸惑ったが目の前の風景に圧倒されてそれは  
消し飛んだ。  
 
「ぐわ!」「ぎゃ!」「があああ!」  
首山堡から降るロシア軍の銃弾を受けて日本軍兵士が悲鳴と絶叫を上げて  
倒れていく。  
「もう直ぐだ!頑張れ!」  
倒れた兵士の横で榊原は兵達を叱咤する。第一大隊は出血を強いられながら  
も橘少佐を先頭に進む。  
(露助の連中は逃げる?嘘じゃないか!)  
頑強に抵抗するロシア軍の姿を前に依田は心の中で叫ぶ。  
(くっそう、このままじゃ全滅だ!)  
「ぼさっとするな!」  
依田は思わず考え事をしながら呆然と立っていた。それを見つけた榊原が左手  
で依田の背中を強く叩く。  
「すいません!少尉殿!」  
叩かれた直後に依田は大声で榊原に謝る。  
だが、その直後に依田と榊原の視界は白い光に包まれ、体は強い衝撃を受けた。  
 
 
依田はまるで眠っていたような感覚から醒めた。  
意識が戻ると体に痛みを感じる。  
(どうしたんだ?俺?)  
未だ頭が醒め切らないながらも体を起こそうとする依田。  
「?」  
ふと右手に柔らかい感触が。依田はそこに目を投じる。  
「少尉殿!」  
依田は驚いた。どうやら倒れた榊原の上に依田が倒れていたようだ。  
(死んでしまったのか?)  
倒れている榊原はぐったりとしている。  
(それにしてもこの感触は?)  
依田の右手は榊原の胸にある。そこにはやはり柔らかい感触がある。  
(まさか・・・・・・・・・・)  
依田は赤子の時以来触っていない女性を象徴する部分が思い当た  
った。  
(榊原少尉におっぱいが!?)  
依田は混乱した。だとすれば榊原は女なのである。依田の知る限りで  
は日本陸軍に女性の士官や兵士はいない筈だ。だが、榊原の胸は  
女性である事を示そうとしている。  
(いいじゃないか、そんな事は!)  
依田は今の思考を止めようとした。上官の体がどうだろうとヒラの一兵士  
が気にしてどうすると。  
「うーん・・・・・・」  
その時、榊原が唸った。どうやら意識が戻ったようだ。  
「あっ少尉」  
榊原の目が開く、依田は上官の復活に無邪気に喜ぶ。  
「おい・・・・・」  
だが意識の戻った榊原は多少不機嫌そうに依田に言った。  
「あっ、すいません!!少尉殿!」  
依田の右手はまだ榊原の胸を掴んでいた。  
 
依田は慌てて榊原から離れた。離れながら「すいません」を連発していた。  
「二等兵。お前・・・・・・」  
榊原は上半身だけ起こした。その目の前には泣きそうな顔で立つ依田がいる。  
「少尉殿。すいません。こんなつもりは」  
立ちながら依田は慌てて謝罪する。だが、榊原の表情は硬いままだ。  
「ヤポンスキー!」  
すぐ近くで叫び声。気を失っていた一人のロシア兵が目を覚まし、目の前に敵兵  
である榊原と依田の姿を見て驚いていた。  
「うあああああ!」  
ロシア兵は銃槍を装着した1891年式3リーニア歩兵銃を振りかざして榊原と依田  
に突進する。  
「ろ、露助め!」  
依田も銃剣を装着している三十年式歩兵銃を構えてロシア兵に立ち向かう。  
依田はロシア兵の銃槍を銃身で払い銃槍から逃れ、今度は依田の銃剣がロシア兵  
の腹を狙った。  
「ふん!」  
だが、ロシア兵は払われたリーニア歩兵銃をそのまま振り落として三十年式歩兵銃を  
依田の両手から落とした。  
「!!」  
武器を失った依田は硬直した。  
(俺は死ぬのか)  
死を覚悟したその時、ロシア兵が後ろへと向く。榊原がサーベルでロシア兵の背後  
から迫ったからだ。  
「ちえい!」  
気合を入れた様に榊原がサーベルでロシア兵を斬ろうとした。  
「何!」  
素早く向き直ったロシア兵はリーニア歩兵銃を掲げる様に両手で掴んで銃身の中央部  
でサーベルを受け止めた。  
 
「このぉ!」  
榊原はめげずに第二撃を左から打ち込む。  
だが、ロシア兵はサーベルが振られる寸前に後ろへと避けて回避した。  
避けたロシア兵はリーニア歩兵銃を構え直して榊原へと銃槍を向ける。  
「くうっ・・・・・・」  
榊原はたじろぐ。このロシア兵には勝てないと感じたのだ。  
(覚悟を決める時ね)  
榊原は心中でそう決心してサーベルを構え直す。  
「ふらああああ!」  
ロシア兵は叫んで榊原へ銃槍を突き立てる。榊原も正面から斬ろうと  
サーベルを振り上げる。  
「ぐっは!」  
突然ロシア兵が動きを止めて悶絶した。  
「・・・・・・・・・」  
ロシア兵の背中を三十年式歩兵銃に装着した銃剣で依田が刺していた。  
「ぐうう、う」  
ロシア兵はそれで力を失った様によろけている。  
そこへ榊原が止めでサーベルで首筋を斬る。  
「があああああ!」  
血を吹きながらロシア兵は絶命した。  
「このおおおおお!」  
だが依田は銃剣で死体となったロシア兵を何度も突き刺す。  
「止めろ!止めんか!」  
榊原は依田の腕を掴んで止めさせた。  
「行くぞ!二等兵」  
すぐにこの場所から離れようと榊原は考えた。  
 
 
榊原と依田は砲弾が炸裂して出来た穴の中にいた。  
状況が分からない以上は身を隠しておこうと榊原は考えた。  
(大隊はどうなった?後退したのか?いや、連隊自体はどうしたのだろう?)  
榊原は状況を推測で考えてみた。  
榊原の所属する橘少佐の第一大隊は首山堡を占領出来たのだろうか?  
出来なかったのかも知れない。あの銃撃だ容易には無理だろう。南山でそれ  
は経験している。  
榊原の所属している第三師団は五月二十六日に遼東半島にある南山を攻撃した。  
五時間近い砲撃の後に第二軍に属する東京第一師団と大阪第四師団と共に第三  
師団は歩兵を突撃させた。  
だが、南山からの激しい射撃が日本軍の突撃を阻んだ。  
南山はロシア軍によって要塞化されていた。多数の陣地に地雷。それに八門のマキ  
シム機関銃が巧みに配置されて死角の無い射線を構成していた。  
そこへ突入した日本軍歩兵は次々と倒れ死傷者四千三百名以上に昇った。  
南山はこの日の夜に砲弾を撃ち尽くしてようやく占領した。この渦中に榊原はいたの  
だ。  
(早く味方に合流しないと)  
それが今の榊原の願いだった。  
 
榊原は掌握できた唯一の部下である依田の様子を見た。  
あれから気を落し、今では穴の中でへたり込んでいた。  
(これはいけない)  
孤立しているかもしれないこの状況では唯一の部下が戦闘不能では心許ない。  
(どうすれば・・・・・)  
榊原は悩む。だが、それはすぐに何かの策が浮かんで解決した。  
(少し恥ずかしいが、仕方ないか・・・・)  
 
榊原は依田に近づく。  
「依田二等兵」  
榊原は依田を呼んでみる。依田は力無く「はい」と答える。  
「元気が無いぞ。それじゃあ露助にナメられるぞ」  
こう励ます意味で榊原が言うと依田は抑えていたものを吐き出す様に言った。  
「俺は怖いです。ロシア兵が。あんなにでかくて、力が強くて。さっきも少尉と二人ががりでようやく殺せたんですよ。またあんな奴と戦うのは怖いです」  
榊原は予想通りだと感じた。やはり戦意を失っている。  
「依田。元気を出せ」  
榊原は軍服の上着のボタンを外して上半身をはだけた。そこからは白い肌と小ぶりな胸がこぼれていた。  
「しょ・・・・少尉殿・・・・・」  
その姿に依田は目を奪われる。  
「来い。依田、溜まっているものを吐き出せ」  
榊原は穴の中で寝そべる。依田はごくりと唾を飲み込む。  
 
依田は恐る恐る榊原の身体に近づく。  
黒い軍服の間に広がる柔らかそうな白い肌。戦場では見られない光景が依田の目に広がる。  
「本当にいいのですか?」  
不安そうに依田は言う。  
「いいのよ。来て」  
榊原は女の言葉で依田に言った。  
「さっ、榊原少尉殿!」  
依田は無我夢中で榊原の身体に挑む。  
まずは小ぶりな胸を揉み、乳首を吸う。  
「あ・・・・・・は・・・・・・んん・・・・」  
榊原は断続的に喘ぎ出す。  
(まるで赤ん坊みたい)  
胸を貪る依田を見ながら榊原は思った。そう思うと、依田が可愛く見えてくる。  
榊原は無心で左手で背中を抱き、右手で依田の頭を撫でていた。  
「少尉殿・・・・・・少尉殿・・・・・」  
胸の中で抱きしめられる事に依田は感動した。ここまでしてくれる上官への感謝と包まれる快感からであった。  
さらに快感を充足させるように依田は激しく胸を貪る。  
「あん・・・・あん・・・・そこ・・・・はあ・・・・」  
胸から伝わる快感に榊原の息は荒くなった。  
 
 
開戦前。  
榊原の同期の村田少尉は落ち込んでいた。  
「今は調子が悪いだけだよ。これからじゃないか」  
榊原はこう励ます。  
その村田少尉は演習で自分が指揮する小隊の進出が遅れて中隊の攻勢開始が遅れた事を悔やんでいた。しかも演習後には中隊長から叱責されて落ち込んでしまっていた。  
「村田。街に行くぞ」  
そこへ同期の槇田少尉が村田を誘った。  
「飲みに行くのか?」  
榊原はそう思った。だが、槇田は首を横に振る。  
「男はな、女で元気になるのさ。俺の行き付けの店を紹介するぞ」  
嬉々として槇田は言い、村田の顔に生気が蘇る。  
(そう言うものなのか)  
榊原はよく分からないまでも納得した。  
 
そして今、依田を元気にさせる方法としてこの記憶から身体を依田に許している。  
胸に満足した依田は榊原のズボンを脱がしている。  
ズボンを脱がせると榊原の細く引き締まった生足が露になる。  
腰には白い褌が締められている。依田はその褌を解こうと手を伸ばす。  
良く見ると股間の部分に染みのような部分が見える。  
(濡れているのか・・・・・・・・)  
それを見て依田の興奮は高まり、少し荒く褌を解く。榊原の濡れた秘部が露となる。  
「行きますよ。少尉」  
依田もズボンと褌を脱いで固く立つ男根を露にする。  
「いいわよ」  
「少尉殿!」  
依田は榊原に下半身をぶつける。  
 
「あん、はあ、ああ」  
興奮した依田は最初から激しく腰を動かす。  
それは性的な興奮もあったが、出征してから今まで溜まったものを一度に吐き出すかの様に激しく依田は榊原へと挑んでいた。  
「だめ・・・・・はっ激しい・・・あん・・・」  
榊原は依田の責めに激しく呼吸を乱して悶える。  
(かっ可愛いです少尉殿!)  
その姿に依田の興奮は更に高まる。それは上官である榊原を女として可愛いと思えたからだ。  
「・・・・たっ堪らないです少尉殿・・・・」  
息を荒くしながら依田は漏らす様に言った。そして榊原の表情は照れていた様に見えた。  
(本当に可愛いな)  
依田はますます榊原を愛しく感じていた。そして依田は榊原の腰を掴んで深く入ろうとする。  
「ああっはん、あう、あん」  
男根が深く入り、榊原の神経に快感を叩き込む。もう榊原は依田の荒々しい責めにも快楽を感じていた。そうなると榊原は軍人では無く、女としての姿へと変わろうとしていた。  
「あっ、いい・・・・気持ちいいっ」  
頬は赤く、瞳は快楽によって緩ませて喘ぐ。  
「少尉殿・・・・・本当に・・・・気持ちいです」  
依田も息を荒くし、必死になって腰を振る。  
二人は戦場にいる事を忘れているかのように乱れていた。  
 
「くっう・・・・・少尉・・・殿。そろそろ・・・・」  
依田は何かを堪える様に言った。  
「あん、そっ、外に出す・・・・のよ」  
依田の言う事を悟った榊原はそう言った。依田はこくりと頷いて答え、腰を更に激しく動かした。  
「はあ、ぐう、出ます!」  
依田は寸前で男根を榊原の秘部から抜いて太股に射精した。  
依田は力尽きた様にその場へ座り込む。そして視線は抱いた上官の姿を捉える。  
黒い軍服を開いて白い胸を露にし、細い美脚が伸びている。  
(綺麗だ)  
その姿に再び依田の男根は力を取り戻していた。  
「二等兵。まだまだやれるわね」  
榊原は勃起した依田の男根を見てそう言った。  
「まだ私は満足していないのよ」  
榊原は熱に浮かされた様な目で誘うように依田に迫る。  
依田は艶っぽさを放つ榊原に圧倒されて呆けている。榊原はそんな依田を地面に寝かせる。  
「・・・・・行くわよ・・・・・」  
榊原は依田の身体に跨り腰を依田の男根目掛けてゆっくりと下ろす。  
「くっ・・・・はあ・・・んん・・・」  
ゆっくりと榊原の秘部に侵入する依田の男根に榊原は天を仰ぐ様に微かに喘ぐ。  
男根が根元まで入ると榊原は腰の上下運動をゆっくりと始める。  
「あっ・・・・あん・・・・あっあ・・・」  
潤んだ榊原の瞳が依田を見つめる。それに依田は魅了された。それは帝国陸軍少尉の榊原操ではなく、大人の女としての榊原操であるからだ。  
依田は思わず胸を両手で揉む。その刺激に榊原は身をよじる。  
「あん、それ、いいわあ、あん、もっと揉んで」  
榊原は快楽を貪っていた。腰の動きも段々と激しくなっていた。喘ぐ声も荒く過呼吸気味になっていた。  
 
「ああっん、はあはあ、あん、あん」  
榊原は依田に跨り騎乗位で喘ぐ。腰は肉のぶつかる音がするぐらい激しく動いている。  
「はあ、いいわあ、気持ちいい、ああん」  
榊原は己の快楽を貪るように腰を動かす。それは今までの抑えを外した姿だった。帝国陸軍の軍人として歩兵1個小隊を指揮する少尉。そして女ではなく男として生きる日々。それらを取り払って今は女としての快楽に身を任せていた。  
「あん、いいっ、あん、あん」  
榊原は興奮が最高潮に達していた。白い肌は桜色に染まり、汗が浮いて肢体の曲線をなぞるように流れる。  
(すっ凄い。少尉殿がこんなに)  
依田は自分の腹の上で乱れる榊原の姿に圧倒されていた。  
女とはここまで乱れるのだと初めて知ったからだ。依田は女性との経験は無く、実はこの時が初めてであったからなお更そう感じた。  
(もっと乱れさせてやりたい)  
依田の心に新たな欲望が沸き起こる。  
「あん、あっ?・・・あん、腰が動いてるう、んっ」  
依田はそれまで榊原にされるがままになっていたが、依田の新たな欲望から腰を動かして榊原を突き上げている。  
「凄い、いいっ、いいわあ、あん」  
突き上げる快楽に榊原は悦び、二人は共に腰を動かす。  
依田は上半身を起こして胸に顔を埋めて吸い付く。それに嬌声で榊原が応える。  
「はあん、いいわあ二等兵、いいん」  
「かっ可愛いです、少尉殿」  
 
二人とも快楽に酔っていた。  
二等兵と少尉と言う上下関係は取り外されて、ただの男と女になって互いの身体を貪っている。  
「当たるわ、いい、はん、あん」  
「はあ、はっ、はあ」  
座位で求め合う二人は息を荒げて一つの塊の様に抱き合いながら動いていた。それ程に互いは身体の温もりと快感を求めていた。  
榊原は依田の背中にしがみ付くように抱きしめて腰を動かす。依田も顔を胸に埋めて両手を背中に回して腰を突き上げる。  
「ああん、あん、ひん、いいん、もう、もう」  
泣くように榊原は喘ぐ。  
「おっ俺も、そろそろ」  
依田も堪える様に言う。二人は絶頂が近づいていたのだ。  
「来る、来るわ・・・・・・あっ、はあああん!」  
榊原は達した依田の背中を力一杯に抱きしめて爪が依田の背中を傷付ける程に。  
「ぐっ・・・・出ます」  
依田もほぼ同時に達した。背中の痛みと絶頂を同時に感じながら精液を榊原の膣内に放つ。  
榊原は力が抜けて依田に身体を預ける。依田も力が抜けて榊原を乗せたまま地面に寝た。  
少しの間、榊原は依田の胸の中に抱かれていた。  
 
 
「少尉殿」  
「どうした?」  
二人が軍服を着終える時に依田は榊原に質問した。黒い軍服を着込んだ榊原はいつもの軍人としての姿に戻っていた。  
「何故、陸軍に入ったのですか?」  
「そうだな、女として違う生き方をしてみたかったんだよ」  
「違う生き方・・・・・」  
依田は感慨深く「違う生き方」と言う言葉を反芻した。  
「おい、そこの兵隊!」  
唐突に榊原は穴の外へ向かって叫ぶ。叫んだ方向には一人、友軍の二等兵がいた。  
「何でありましょうか?少尉殿?」  
穴から出た榊原に二等兵が尋ねた。  
「貴様も大隊からはぐれたのか?」  
「いえ、私は大隊副官から命じられて連隊長へ伝令に向かう所です」  
「大隊は何処にいるんだ?」  
「首山堡にあります」  
「それは本当か!?」  
榊原は驚いた。大隊は首山堡を占領していたのだ。  
第一大隊は重傷を負いながらも指揮を執る橘少佐に続いて首山堡を攻め、ロシア軍の陣地を激戦の末に占領した。占領した時には大隊は七〇名に減っていた。  
そして橘は7つの銃弾を身体に受けてとうとう戦場の露と消えた。それも榊原は二等兵から聞いた。  
「行くぞ依田」  
伝令の二等兵と分かれると榊原は依田と共に首山堡へ向かう。  
「大隊長の弔い合戦だ」  
「はい、少尉殿!」  
こうして二人は再び戦場へと帰って行く。  
(俺は少尉殿を死なせない。貴女を守りますよ!)  
依田は新たな決意を固めたのであった。  
 
(完)  
 

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