「恐ろしくは、ないか」
秀頼は、千姫の手を取った。
ぬばたまの闇の中、千姫の表情は分からない。
いっそのこと、恐怖に泣き叫んでくれればよいと、秀頼は思った。
千姫の涙ならば、己の心に巣食う獣を、宥められるかもしれないと。
「ああっ…あ、あ!」
秀頼の、獰猛なまでに激しい愛撫に、千姫は幾度も悲鳴をあげた。
汚れを知らぬ処女である千姫にとって、それは甘やかな苦行であった。
いつもは絹のように白い千姫の体が、無数の赤い華に蹂躙され、うっすらと
桃色に色づいている。
呼吸は、痩躯が破れんばかりの荒々しい。
相貌も体も、まだほんの少女に過ぎない千姫の乱れ様が、秀頼をますます
狂わせた。思いの外豊かな両の乳房を、秀頼はいきなり鷲掴みにした。
「ひっ…!」
「どうじゃ、お千」
「あ…あ…」
「悦いか。ならばそう言うてみよ」
「う…右府様…」
恥じらいに、千姫は視線を背けた。いかにも生娘らしい、その様が、秀頼の
嗜虐心を煽った。脳裏には、母・淀殿の声が響いていた。
『お千を、逃がしてなりなされ』
「いや…!」
両膝を捕まれ、高々と脚を開かれたとき、千姫は両手で顔を覆った。
秀頼の口唇が、残忍に笑う。
『そなたとお千が、想い合うていることは存じておる。
…この十年、辛い思いをさせたのう』
『母君』
『このうえ、お千を殺しとうはあるまい。
お千とてまだ十九、この城とさだめを共にするには若すぎる。
ましてお千は、真実そなたの妻ではないものを』
「ああああっ…!!」
千姫は高く叫んだ。
しとどに濡れているとはいえ、処女地である。
秀頼の男を受け止めきれずに、そこはぎしぎしと軋んだ。
やがて、とろりと溢れ出た、破瓜の血の匂いを嗅いで、秀頼は凶暴な喜びに震えた。
―――コレデ我ガモノ、我ガ妻ジャ
己の声をした獣が、秀頼の中で猛り狂った。
目を覚ました千姫に、秀頼は詫びた。
武家にあるまじく、劣情に身を任せた己が、恥ずかしかった。
千姫は笑って、首を横に振った。
「何を謝られることがありましょう。お千は幸せでございます。
やっと、右府様の妻になれたのですもの」
弾んだ声音が、秀頼への想いを真っ直ぐに伝えた。
秀頼の心は、十二年の昔、千姫の輿入れの日に還っていた。
『千にござりまする』
屈託無く笑いかけてくる、世にも愛らしい花嫁が、幼かった秀頼の目に
どれほど鮮やかに映ったか。淀殿の周囲に侍る、能面のように無感情な
女達しか、当時の秀頼は知らなかった。
怨敵徳川の娘。いざとなればほふらねばならぬ人質。淀殿はじめ、城の大人達から
どれほど憎しみを吹き込まれようと、秀頼の心は変わらなかった。
淀殿の気まぐれで、年に幾度か許される逢瀬の都度、秀頼の想いは募った。