するりと布擦れの音がする度、はらりはらりと布が床に落ちる。  
「…………」  
 男たちが見守る中、女は一枚一枚服を脱いでいく。  
 羞恥のためか、頬は紅潮し、体全体が僅かに色づいていた。  
「これが、義経の愛した女の体か……」  
「美しいのう……」  
 にやにやと厭らしい笑みを浮かべながら、男たちは女の体を品評した。  
 女はキッ、と男たちを強く睨む。  
 しかし睨んだところで、精々おどけたように肩をすくめる程度。彼女の望むような効果  
は全くなかった。  
「全部脱いだか」  
 男たちの中でも最も身分の高い者が言った。  
「それでは、その格好で舞でも舞ってもらおうか」  
「……そんなこと……できるわけ……」  
 体を隠し、それでも気丈に前を見据え、女は抵抗の意思を見せる。  
 しかし男は厭らしい笑みを貼り付けたまま、続けた  
「それとも、義経の居場所を吐くか?」  
「……」  
 女は顔を伏せた。最早顔だけでなく、全身が朱に染まっている。  
(義経様……)  
 心の中で、愛する男の名を呼ぶ。  
 彼は今、どうしているだろうか。  
 自分が囚われているということすら知らないかもしれない。  
 でも、それでも。  
(私が……貴方様をお守りします)  
 女の自分には、剣を取って戦うような力はない。  
 それでも、愛する人を守りたい。  
 それならば、女の武器は最大限に利用しよう。  
 女は、覚悟を決めた。  
「わかり……ました」  
 
 女は手渡された扇を持つと、奏でられる音楽にあわせてゆったりとした舞を披露する。  
 何も纏わぬ、生まれたままの姿で。  
 武将たちは勿論、音楽を演奏する楽師たちまで、にやにやとそれを見つめている。  
 女はその視線を振り切るかのように舞に専念する。  
(周りに男たちなどいない……だから、羞恥を感じることはない)  
 そう自分に言い聞かせる。  
 しかしながら、見られているというのは事実だ。  
 強い意志で無視しようとしても淫らな視線は彼女の体にまとわりつく。  
「……っ」  
 一度気付いてしまえば、その後はずるずると堕ちていくのみ。  
 それでも彼女は気丈にも舞い続ける。  
(義経様……っ!)  
 ただ、愛する者を想って。  
 
 不意に、音楽が止まる。  
「え……?」  
「よかったぞ。中々楽しませてくれる」  
 正面の男が言う。  
 その顔には相変わらずの厭らしい笑みが浮かんでいた。  
「これで……終わり?」  
 安心した女は、緊張が解けたせいか全身から力が抜け、ぺたりと床に座り込む。  
「いや」  
 にやり。  
 これまで以上に汚らわしい笑みを浮かべて、男は非情な台詞を吐く。  
「本番はこれからだ」  
 それと同時に女を取り囲む男たちが立ち上がり、女に近付く。  
「え……い、嫌ぁっ!」  
「気丈な様も見物であったが……やはり男に対して怯える姿には叶うまいて」  
 その男の言葉と同時に、無数の手が女に襲い掛かる……。  
 
 
「何をなさっておりますの?」  
 そこに一人の女性が現れる。  
(――あれは……頼朝公の妻の……)  
「おお、政子か」  
 首魁の男が手招きをして女を呼び寄せる。  
「……なあに、裏切り者の弟の女を、少し辱めてやろうと思ってな」  
「まあ」  
 政子は驚いたような声を出した。  
 それを見て、恥辱を受ける女は助けを求めようとする。  
「それはそれは楽しそうですこと」  
 しかし、彼女が懇願する前に、政子は先手を打つ。  
「ほう。てっきりあの女に同情して助けようとすると思ったが」  
「同情なんかしませんわ。だって、あの女の夫は、貴方の敵でしょう?」  
 そう言いながらしなを作り、男……頼朝にしなだれかかる。  
「そうだが……」  
「貴方の敵の妻は――私の敵ですわ」  
(……ここには味方はいない……)  
 落胆する女。  
 しかし、絶望の宴は無情にも始まろうとしていた――。  
 

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