昔むかしのインドに、王族の生まれでありながら衆生の生老病死を目の当たりにし、世の虚しさから 
人々を救うためにと出奔した、一人の修行僧がおりました。  
 彼は六年もの長きにわたって山に篭り、苦行を続けていましたが、そこで得られたのは「このような 
やりかたでは悟りを開くことなどできない」という苦い経験則だけでした。  
 心身共に疲れ果てた彼は、下山してほどなく小さな村に辿り着くと、飢えと渇きに堪えかねて力尽き、 
道端に倒れてしまいました。  
 
「……あの……大丈夫ですか、旅の人?」  
 ためらいがちな優しい声が、修行僧の耳をそっとくすぐりました。  
 顔を上げると、楚々とした愛らしい顔立ちの少女が目に映りました。彼女は木製の椀を手にして、心 
配そうに見つめていました。  
「あぁ、済まない。ここ数日、何も口にしていなかったのでね」  
 半身を起こして土埃を払いながら、修行僧は気恥ずかしい思いで答えました。  
「やっぱり。おなかをグゥグゥ鳴らして、『み、水』……って口走ってらしたから」  
 はにかんだ笑顔で少女が言うと、釣られたように彼の腹から蛙の鳴くように不細工な音が響きました。  
「いやはや」  
 真っ赤になって頭を掻く修行僧に、少女は白い乳粥(カルピス)が入った一杯の椀を差し出しました。  
「よかったら召し上がってください」  
「……かたじけない。君の名前は?」  
「はい、スジャータと申します」  
「私はシッダルタという者だ。それでは有り難くいただくよ、スジャータ」  
 匙を手に取り、椀の中身をすくって一口含んだ、その瞬間。  
(な、なんという美味な……!)  
 乳粥の芳醇な香りと甘さ、そして瑞々しい潤いが舌先から口いっぱいに、そして喉の奥から体中へと 
広がり、鼻腔を吹き抜けて。  
 世界を覆っていた灰色のヴェールが取り払われ、いきなり極彩色の光景が広がったように視界が鮮明 
さを増し。苦行の疲れも何処かへ飛び去ってしまい……。  
 生きていることの歓びを全身で再確認しつつ、彼は一心不乱に乳粥をすすりました。  
 そんな修行僧の様子を、少女は微笑みながらじっと見守っておりました。  
 
「ぷはぁ……生き返ったよ。いや、生まれ変わった気分だ。ありがとう、スジャータ」  
「良かった。お役に立てて、私も嬉しいです」  
 うっすらと頬を染めて、少女は笑顔で言いました。そのつぶらな瞳が、修行僧の口元に止まります。  
「あの……お口に、お米粒が……」  
 ほっそりした指先で口元を拭うと、指先を自分の唇に。いつも家族にしているような気軽さでした後、 
相手が見知らぬ男性であることを思い出して、スジャータは恥ずかしさに真っ赤になってしまいました。  
「いや、これは恥ずかしいところを」  
 しかし修行僧は気に留めることもなく、少年のように快活な笑顔を浮かべていました。  
 長年の苦行で疲れ果て、やつれ汚れてはいるものの、精悍で彫りの深い目鼻立ちをした美丈夫。それ 
でいて純朴なシッダルタに、いつしか少女は心ときめいていました。  
 また、修行僧も、この可憐で献身的な少女に惹かれはじめていました。  
 
 その時、何という偶然の悪戯でしょうか。  
 一陣のつむじ風が、二人の間を吹き抜けたのです。  
「きゃっ!」  
 少女の纏っていたサリーが、はらりと肩口から落ちました。  
 なめらかな褐色の輝きを帯びた素肌が顕わになり、小振りで整った形の乳房……現代で俗に言う「て 
のひらサイズ」の美乳……が顔を覗かせます。  
 ほんのりと汗ばんだ少女の体臭が、風に吹かれて修行僧の鼻腔をくすぐりました。  
 先程の乳粥が、鈍っていた彼の五感に……いや六感に鋭敏さを取り戻させたのでしょうか?  
「ス……スジャータ!」  
 我知らず、シッダルタは少女の胸に顔をうずめ、その尖端をついばんでいました。  
「お、おやめくださいシッダルタ様! ……ぁ……はぁあん……っ!」  
 かよわく泣くような声で抗う少女を、彼は煩悩の赴くままに貪りはじめたのです。  
 
 ぷるぷると震える柔らかな双丘の片方を鷲掴みにして揉みしだき、もう一方の頂を唇でチュウチュウ 
音を立てて吸い、前歯でガッチリと咥えながら舌の先で転がし。  
「ふわぁあ……んんっ……おやめ…ください……許して……ぇ……」  
 涙ながらに訴えかけるスジャータの声が、いっそう彼の男を奮い立たせます。それが愛しさなのか、 
それとも嗜虐心なのかは誰にも分かりません。彼自身にさえ。  
 彼の掌と口の動きは、さらに速さと激しさを増して少女を責めたてました。  
 やがてスジャータの声には僅かに快感の色が宿りはじめました。  
 シッダルタの巧みな愛撫に、華奢な肢体をくねらせては逃れようとしたものの、背中から腕を回され 
て絡めとられ、ついには為すがままに踊らされる身となってしまいました。  
「くむっ……ふうっ……あぁああん、そんなに吸ったら……出ちゃいますぅ……」  
 跡が残るほどに強く乳首を吸われているうちに、少女の胸の奥からは奇妙な疼きが湧き上がってきま 
した。  
 そして……  
「あぁぁんっ……もぉダメ……出る、出ますぅっ……!!」  
 ぷしゃああっ!!!  
 何という不思議でしょう。まだ男を知らず、身篭ったこともない少女の乳房から、甘い匂いを漂わせ 
ながら母乳が噴き出したのです!  
 肉欲に身を委ねた修行僧の顔面を白く汚し、口の中へと飛び込む乙女の乳。  
 先程の乳粥に勝るとも劣らぬほどまろやかでコクがあり、原初の歓びに満ちた甘露のごとき味わい。  
 まさにそれは、生命の水でした。  
 シッダルタは興奮のあまり、両目から歓喜の涙を流しつつ叫びました。  
 
「スジャータ、おぉスジャータ。香り広がるスジャータ!!」  
 
 それから彼は少女を草陰に連れ込み、お返しとばかりに自身のカルピスをたっぷり注ぎ込んだ……か 
どうかは、定かではありませんが。  
 
 事が済んだ後、正気に返ったシッダルタは、いたいけな少女を……しかも命の恩人を無惨にも汚して 
しまった罪深さに打ちのめされ、恐れおののきました。  
 彼は這いつくばって地べたに頭をこすりつけ、何度も何度も誠心誠意謝罪しました。  
 しかし少女は、ただ静かに微笑んで、彼の行いを責めようとはしませんでした。  
「良かったです……」  
 うっとりと頬を染めて呟くスジャータに、虚を突かれて彼は顔を上げました。  
「……え?」  
「いえ、その、良かったと言っても、そういう意味じゃなくって……嫌だわ、わたし何を言ってるのか 
しら、あの、つまり……」  
 言わんとすることをはかりかねて茫然とするシッダルタに、少女は花のような笑顔で。  
「元気になってくれて、良かったです。これからも、あまり無理なさらないで下さいね」  
「……ありがとう、スジャータ」  
 
 肩から重い荷物を下ろしたかのように、修行僧は柔和な笑顔を返しました。  
 そして少女に見送られ、彼は再び悟りを求める旅路についたのでした。  
 
 
 ……この逸話が、とある乳製品メーカーの商品名とCMの由来だそうな……?  
 

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