私、山田きょうは今・・・数人の男の人といっしょにホテルに来ています。
ホテルと言っても普通のホテルじゃなくて・・・・・いわゆるそーゆうホテルです。
男の人達は周りでみんな忙しそうに機械にコードを繋げたり、スタンドを立てていたり、カメラをチェックしていたりしています。
そう・・・・これからここで私は・・・・・
どうしてこうなったのか・・・というと、それは数日前に遡ります。
いつものように学校が終わって家庭教師のバイトから帰ると、アパートの前に車が停まっていました。
ちょっと大きめの・・・たぶん外国の車だと思います。
その前を横切ろうとした時、突然ドアが私の行手を遮る様に開いたんです。
そして驚いていた私の前に男の人が降りてきました。
「・・・・あんたが山田きょう・・・か?」
「え?あ・・はい・・・・そうです・・けど・・・・」
男の人は派手なジャケットに不精髭で、ちょっとだらしない感じでした。
どうやら私を待ち伏せしていたようです・・・・・・でも・・・なぜ?
私が身を堅くして警戒していると、男の人は銜えていたタバコを吸い込み、大きく煙を吐き出した後、タバコをその場にポトリと落として
踵で揉消しました。
そしてこっちを向くと、いかにもめんどくさそうに・・・・
「実はあんたのオヤジの借金の件でここに来たんだが・・・・」
「え・・・・?」
思いもよらない話だった・・・。あの膨大な借金は父が失踪した後の取立てで、もう済んだと思っていたのに・・・・。
何かの悪い冗談の様に思った。
・・・・一瞬、目の前が暗くなった。
私とあすは、あの時のことは忘れない・・・・忘れられない・・・。
住み慣れた家も・・・いつもきちんと畳まれた服が入れてあったタンスも・・・おいしいごはんを食べた机も・・・そしてお母さんとの
思い出の詰まった物も・・・・すべて取り上げられ、失くされていった日々を・・・
「部屋に行ったら妹しか居なかったんで、ここで待たせてもらったぜ」
「・・・・!?」
あす・・・・あすにこんな話、聞かせられない・・・・
「あ・・あす・・・妹にこの事言ったんですか?」
「・・・いや、あんな子供じゃ言ってもしょーがないから・・・・・言ってねぇよ」
「そ・・・そうですか・・・」
その男の人の言葉に心底ほっと胸を撫で下ろす。
あすに心配を掛けたくない。それ以上にあの時の・・・・あの辛い思い出を、あすには思い出させたくなかった。
「とにかくここで話すのも何だし・・・ウチの事務所まで来てくれねぇかな・・・返済方法とかいろいろあるし・・・・」
男の人は私を車へ乗せようと指示する。
でも・・・・・
「こんな所、他の人に見られていいのか・・・?」
「!?・・・・・・・・・・・・わ、わかりました」
そう・・・こんなところに何時までも居たら、誰かに・・・あすに見つかってしまう。それだけは避けなければ・・・・
たとえ私がどうなっても、あすだけは・・・・
私は・・・怖かったけれど・・・しかたなく車に乗り込み、男の人の言っていた事務所へと向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・あす
事務所に着いた私は当初不安に思っていた事も無く、やさしい感じのおじさんが出迎えた。
「わざわざ来てもらってすみませんねぇ・・・」
「いえ・・・」
「ままま・・・こちらに座ってください。今、お茶を出しますので・・・」
そう言うとおじさんは奥の小さい台所でお茶を入れてくれた。
事務所は古いマンションの2階で、部屋の中もあまり荷物は置かれていないようだ。
「すまないねぇ・・・ウチも苦しくてねぇ」
低姿勢なおじさんの様子に、強張っていた私の気持ちも幾分か和らいでいた。
おじさんはひとつひとつ丁寧に説明をしてくれました。
借金は元は少なかったはずが、利息が増えに増え70万円くらいになっていました。
今までの取り立てられた借金から比べれば少なかったですが、それでも今の私達にはとても払える金額じゃなかった。
今でさえ家賃を払うのにギリギリなのに・・・
私はどうすればいいのか困惑し、やがて絶望的な気持ちになっていった。
「・・・・・このままじゃ、どうやってもお金返せないねぇ・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「どうしたらいいのかねぇ・・・・こっちとしても、このままじゃ困るしねぇ」
「・・・・すいません・・・・・」
事務所に沈黙が続く。重苦しい雰囲気が漂っている。
そんな八方塞りの空気を破ったのは、私をここに連れてきた男の人だった。
「・・・・なぁ、きょうちゃん・・・一つだけ方法があるんだけど・・・」
「え?・・・・な、なんですか、その方法って・・・」
暗雲の中を一条の光が照らしたかの様に感じ、私は男の人の方へと振り向いた。
しかしそんな私とは裏腹に、なにか言いずらそうに頭を掻いていた。
「んーーーーでもなぁ・・・・これは・・・・・・」
「言ってください。私・・・なんでもやりますから」
「もったいぶるなよ・・・・このままじゃウチも困るんだから」
おじさんも身を乗り出して催促する。
すると男の人は溜息を吐いて重い口を開いた。
「いやー・・・知り合いに映像関係の仕事してるヤツが居ましてね・・・そいつが前に企画モデルを探してるって言ってたんスよ。
だからそいつにきょうちゃんを紹介して出演させてもらえば・・・」
「映像関係?出演??」
私はその説明が分からず首を傾げた。
「まぁ、簡単に言えば・・・アダルトビデオのことだよ」
「アダ・・・?!∋∀Σ凵浴Ж?!?」
その突然の言葉に混乱した。よりにもよってア・・アダ・・・アダルトビデオなんてっ・・・
私だってそーゆうビデオが有るのは知ってるし、どーゆーことしてるのかは知ってる・・・・・・・・見た事はないけど・・・
でも・・・
「い・・いやですっ!!私、そんなっ・・・」
必死で拒もうとする私の言葉に割り込む様に、男の人は話を続けた。
「そのお仕事はお給料が高額でね、1回の出演料は大体20?30万円くらい貰えるんだよ。」
「えぇっ?・・・・そ、そんなにっ・・・」
私はその金額に驚いた。私がどんなに一生懸命働いても、その半分にも満たない。
でも・・・でも・・・・・
「初めは抵抗有るとは思うけど、でもきょうちゃんがちょっと我慢すれば直ぐに借金なんて払えちゃうし・・・・」
「ふむふむ、なるほど・・・それならウチとしても助かるねぇ」
いつの間にかおじさんもその話に頷き、賛成している。
困惑した私の中で何かが麻痺していく。何か・・・頭の中が靄が懸かった様に・・・・
「それに、きょうちゃんくらいの娘って、けっこういっぱい居るんだよ」
「へぇ・・・なら簡単な事なんだ」
そんな・・・・・・で・・・でも・・・・・
「きょうちゃんならだいじょうぶだよ・・・きもちいいし・・・お金もいっぱい貰えるよ」
「・・・生活もいままでよりずーーっと楽になるんだよ」
らくに・・・・なる・・・・
「妹さんにも好きなモノ、買ってあげられるし・・・」
・・・・あすに・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「ふぅ・・・やっとヤクが廻ったか・・・」
眠ってしまった私を見下ろすように、おじさんが吐き捨てる。
私が飲んでいたお茶には何か薬が入っていたらしい。
さっきまでやさしそうな顔をしていたおじさんは、もう別人の様になっていた。
「へへへ・・・手間掛かりましたね・・・・でも出演依頼書にサインを貰えれば、こっちのモノっスよ」
男の人の手にはいつのまにか私の名前が書かれていた。
しかし、それは2人の説得と薬の力ではあるが、自分から書いたモノだった。
「・・・こういう素人娘の裏モノは売れるからな」
「早速準備させヤス」
「ああ・・・・」
そう言うと男の人はどこかに電話を掛けに行く。
おじさんは腰を屈めて私の乱れた髪を撫ぜる。
「・・・・たっぷり稼がせてやるよ」
その口元は下品に歪んでいた。