思えばパワーアップしたその日からマリアは異変を感じていた。  
戦になると心が沸き立ち、残虐性が増したのはもちろんだが、明らかに性欲が強くなった。  
天使の強い理力を無理矢理吸収した副作用なのか、単に本能が目覚めただけなのか考えれば考えるほど分からない。  
昨夜もデビルとの行為の最中に自分を持て余していたのだった。  
(もうあの男では、物足りない。満足できん・・・)  
眠り足りた朝、彼女は自慰行為に耽っていた。  
白魚のような指が秘所を這い回る。そしてしなやかな体が弓のように仰け反り、絶頂を迎える。  
悶々とした気分もさっぱりと晴れて、休暇の始まりとしては悪くない。  
洗顔等を済ませた後、シンプルな丈の長いラベンダー色のワンピースに着替え、  
鏡台の前に座って必要最低限の化粧品と自分の顔を交互に見ては睨み合いをしていた。  
「目の色は・・・シャーマンカーンも赤いことだし、このままでいいな」  
不器用な手つきをして髪を鏝で内側に巻いた後、  
化粧でシャープな面立ちをいかに消すかという大掛かりな作業に挑んでいた。  
「よし。ここまですれば悪魔には見えんだろう」  
しかし、慣れない装いは普段の重々しい武装をするよりも肩がこるような気がする。  
外出する準備を終えて鏡の前で最終チェックをしていると突然大きな顔が現れた。  
「メイク、下手糞」  
「うわぁぁぁあああああああああああ!!??」  
「チークが濃すぎよ、ぼかしなさい」  
デビルは腰を抜かしているマリアに構わず手際よくチークを伸ばしていく。  
「・・・何故お前が化粧のやり方を知っているのだ?!」  
「ヘッドたるもの、お化粧位できて当然!」デビルは得意げに胸を張る。  
「ほぉ・・・天下のスーパーデビル様に女装の趣味まであったとは。では出かけて来る」  
「待って〜!そんなにおめかししてどこ行くの?おせーて!」  
「何処だっていいだろう。お前には関係ない」  
「デートか?相手は誰だ?おせーて!おせーて!」  
「遊びではない。天使に化けてスーパーゼウスに近づき、情事が終わった後、  
寝首を掻っ切ってくるのさ。どうだ、私の特性を生かしたいい作戦だと思わないか?」  
マリアはデビルの反応を密かにからかって楽しんでいた。  
「本気で言ってるのか、サタンマリア」デビルは声のトーンを低くする。  
「冗談に決まっているだろうが」  
(く〜〜〜〜この性悪が!!人の気も知らないで・・・!)  
「やっぱそうだと思った♪近づいたとこで、誰かさんみたいなガサツで色気の無い痩せっぽちには見向きもしないだろう。  
奴はヴィーナス白雪のようにボインボインでムッチリとした可愛い子ちゃんが好みで・・・」  
マリアの顔つきはカチンと変わり、米神には青筋が浮き出ていた。  
デビルはそれに気づかぬまま卑猥なジェスチャーをしている最中に、強烈な踵落としを何発か食らって引っくり返った。  
「やい、最後まで話を聞け!お前なんかどんな格好してもだれが相手にするか!身の程を知れ!馬鹿も〜〜ん!!」  
「フン、勝手にほざいてろ!」マリアはデビルに一瞥もくれずに窓から軽々と外の闇へ飛び立った。  
 
彼女には本当の自分を隠し通しても一度行きたい場所があった。そこは天聖界、マンマの里。  
以前に魔化子を連れ戻すために降り立っただけなのだが、全てを包み込むような穏やかで温かい空気が  
悪球エリアにも似ていて忘れられなかった。あそこには戻りたくても戻れない。  
「少し休憩でもするか・・・」天聖門に続く途中のエリアに降り立ち、  
マントを外して休む場所を探していると、面識がある賑やかな団体が近づいて来た。  
(まずい、こんな姿を見られてはならん!)  
マリアは大木の後ろに身を隠し、すばやく伏せた。  
だが、ヤマトの抜群な視力はそれを見逃さずに次界創造主の名を叫ぶ。  
「聖フェニックス様〜!来てくださーい!人が倒れてますよ〜!」  
「それは大変です!早急に手当てをしなくては!」フェニックス達は即座に駆け寄り、石のように動かない体を強く揺さぶる。  
「起きてくださいの〜!」「生きてますかー!?」「大丈夫〜!?」「おーーい!」  
マリアの耳元で同時に様々な声が飛び交う。(生き地獄だ。。。どうして私がこんな目に・・・)  
「う〜ん・・・困ったなあ。」ヤマトは腕を組み、つぶらな目をくるりと回し愛嬌のある丸い顔を深刻そうにする。  
「よし、こうなったら息があるか確かめてみよう!」  
男ジャックと二人で仰向けにしようとしたところで、マリアはスクッと立ち上がった。  
「あの・・・少し日差しが強くて眩暈がしただけですので・・・ご心配を掛けてすみません」  
(ええい、これ以上嬲り物にされてたまるかっ!)  
マリアは出来るだけ声色を変え、顔を伏せながらしおらしく演じる。だが、柄にもなく心臓が早鐘を打っていた。  
「怪我もなくて本当によかったですね」フェニックスの言葉にアリババは何度も頷く。  
(か、可愛いではないか・・・。。)  
二人の愛らしく無垢な笑顔につられ、マリアは不覚にも微笑みを返してしまう。  
アリババがサッと目を逸らす。あどけない顔が仄かに赤らんでいる。  
互いに別れを告げて通り過ぎ、距離がある程度遠のくと後ろからマリアに関する話題が聞こえてきた。  
若神子たちは大きな声で相変わらず溌剌と喋っている。  
「それにしても、すんごい綺麗な子だったなあ〜」(ヤマト)  
「まーの!浮気は許しませんの!プンプン」(十字架)  
「はぁ〜・・またどこかで会いたいなぁ。名前ぐらいきいとけばよかった(遠い目)」(アリババ)  
「お前は本っ当に年上に弱いんだから〜w」(男ジャック)  
「女天使の一人旅か・・。しつっこいサタンマリア達に狙われなければいいが」(フッド)  
「そういえば、どことなくサタンマリアに似てた様な・・」(牛若)  
マリアの足取りがぴたりと止まり、耳を澄ませる。  
「え〜〜〜?!そんな馬鹿なw」(他の若神子大爆笑)  
「さっきのか弱い美女とあいつは雲泥の差だな」(一本釣)  
「全くだ!同じ女性だとは思えないね」(ピーター)  
「サタンマリアなんて野蛮で怖いだけですし・・・」(照光子)  
「これ!人の容姿についてつべこべ言うものじゃありません!」(フェニ)  
 
(おのれ〜〜!!!・・好き勝手にいいおって・・次に会った時は覚えてろ・・・!)  
 
 
長閑なあぜ道をしばらく歩くとマンマの里にたどり着いた。  
ワープや飛行する事は無論可能だが、なぜか歩きたかった。  
ここはやはり空気が違う。遠い故郷に思いを馳せて、瞼をゆっくりと閉じる。  
木陰で真綿のような植物に埋もれて座っていると、  
木そのものという独特な造りの家から決して若くはないが美しい女が出てきた。  
腕には赤子を抱えている。「あら、私に何か御用ですか?」  
「あっ・・!いいえ・・・旅の途中で仲間とはぐれてしまって、どうしたらいいのか・・」(演技スイッチオン)  
マリアは本当の事が言えるはずもなく、か細い声でしどろもどろに答える。  
そして、慈愛に満ちた表情で赤子を見つめる彼女に母の面影を重ねていた。  
レリーフに描かれた十二天使の一人、聖母マンマ。天聖門の鍵を握っている相手であると分かりつつも、マンマにも会いたかったのだ。  
マンマはフードが外れたマリアをまじまじと見つめて驚いている。  
(しまった、正体がばれたか・・・!仕方がない)  
戦魔槍を魔力で出そうとしたその時、腹時計が盛大に鳴り反射的に腹を押さえた。  
そういえば朝から水しか口にしていない。  
「まあ、可愛そうに。よろしければゆっくりと休んでいってください」  
(よかった。ばれてはいないようだ)マリアは安堵に胸を下ろす。  
マンマは快く招き入れると、眠りに付いた赤子を隣の部屋のベビーベッドに移し、  
ティーポットと焼きたてのスコーンと果物を盆に乗せて持ってきた。  
「あの赤ちゃんは、あなたの・・・?」愚問だとは思っても、聞かずにはいられなかった。  
「いいえ、あの子は今日だけ預かっている赤ん坊です。お守りのおしゃぶり小助が買い物に出たまま帰ってこなくて」  
マリアは相槌を打ちながらレモンバームティーを飲む。爽やかな風味が喉を潤し、疲れた心身を癒やした。  
向い側に座っているマンマは穏やかな物腰で、誰であろうと素直な気持ちを吐き出させるようなただならぬ雰囲気を持っている。  
それだけではなく、妖艶さも持ち合わせていて、纏っている純白のベールに隠された淫らな影が一瞬ちらついた気がした。  
冷酷非道な悪魔の中の悪魔と呼ばれるマリアですら信じがたいほど畏まって、借りてきた猫のようになっていた。  
「さあ、どうぞ。遠慮なく召し上がって下さいね」  
「い、頂きます・・」勧められるままスコーンを頬張ると懐かしい味が五臓六腑に染み渡った。  
城で出されるどんな豪華な料理よりも美味しく思えた。本来は少食なマリアだが次々と皿に手が伸びる。  
マンマはその様子を嬉しそうに見つめていた。  
(そういえば、母さんもよくおやつを作ってくれたな・・。)  
マリアの目頭が急に熱くなり、視界がぼやけて来た。  
(天使の前で泣くなんて情けない・・・ましてや私は天魔界のヘッドだぞ・・・親子の情なんて・・・)  
涙を堪えようとするが、今までずっと押し殺してきた感情が一気に溢れ出て来て止まらない。  
「心細いのね、大丈夫よ。きっとまたみんなと会えますから」  
マンマは小さな子供をあやすようにマリアを優しく抱きしめて頭を撫でた。  
優しい言葉は一層哀しくさせる。マリアはしばらく胸に縋って嗚咽していた。  
 
ありえなさすぎで笑えて来た・・  
 
(私としたことが、無様なところを見せてしまった・・・)  
マンマは壁にもたれて恥ずかしそうに俯いてるマリアの頬にそっとキスをした。  
(えー、、これは・・・・母親が子供にするのと同じようなキスであって)  
しかし今度は唇が重なって、とうとう現状が把握できなくなる。だが、女の柔らかな唇の感触も悪くはない。  
「あなた、とても素敵よ・・・私を抱くのは嫌ですか?」  
マンマはマリアの頬を両手で押さえ、大きな瞳で縋るように見つめる。  
マリアは表情を変えずに首を振った。マンマに服の上から二つの膨らみを揉まれて体が熱くなる。  
「女の人とするのは初めてだけど」  
マリアはマンマの手を壁に押し付けて舌を絡ませてキスをした。  
その拍子にベールがヒラリと落ち、眩い金糸のような長い髪がふわりと舞う。上着を脱がそうとするが梃子摺って中々うまく行かない。  
マンマは微かに笑い、悩ましい仕草で肩のパッドを外して服を脱いだ。  
たわわに実った乳房に括れたウエスト、豊満な腰周り・・・見事に熟れた肉体にマリアは釘付けになった。  
マンマは脱ぐのを躊躇してるマリアを見計らい、ワンピースのファスナーを下ろし、ブラジャーのホックを外した。  
「まあ、雪の様に真っ白な肌ね・・・それになんて綺麗な体なんでしょう・・」  
マンマはうっとりとした表情で呟きながら、なだらかな肩と背中に唇を這わせる。マリアの微かな喘ぎ声が漏れた。  
二人は抱き合い毛足の長い絨毯に沈んでいった。互いの柔肌と乳房が重なり、茂みが擦れ合う。  
マリアはマンマの豊かな乳房を揉んだ。乳首を吸うと赤子に戻ったような不思議な気分がした。  
マンマは悩ましい吐息を漏らす。そして、マリアはマンマの下腹部に手を伸ばし、自慰をするのと同じ要領で秘所を弄る。  
女のツボを心得た巧みな動きに耐え切れずにマンマは派手に喘いだ。  
「そんなに大きな声を出すと、赤ちゃんが起きてしまいますよ・・・」  
マリアは唇を唇で塞ぎ指の速度を速めた。絨毯に染みが出来るほど濡れていた。  
日頃モラルを大切にしている種族とは思えないような彼女の卑猥さにマリアは言葉を失った。  
ふと、性母マンマという文字が脳裏をよぎる。(まあでも、ここ(天聖界)の大将もドスケベだから例外ではあるまい・・)  
マンマは髪を振り乱して美しい顔を快感に歪ませて果てた。  
「本当に初めてだったのですか?」マンマは息を弾ませながら聞く。マリアは目を閉じて力なく頷いた。  
「あら、可愛いおっぱい・・・」マンマは寝そべっているマリアの乳房を指で突付き、乳首を口に含んだ。  
「ちょ、ちょっと待て・・・あぁっ!」マリアは不意打ちにもかかわらず、繊細で蕩けるような刺激に体を震わせていた。  
マンマの手が秘所に忍び込み突起を小刻みに動かした。内部に指を深く突き入れられると声を上げそうになる。  
「ほら、こんなに濡れてるわ・・・」マンマは中指と人差し指で糸の引いた粘液を見せた。  
そして、マリアの汗ばんだ額にキスをすると何か耳打ちをした。互いの下腹部で顔が隠れる形になって粘液を啜り合う。  
初めて見る自分以外の女の部分は妖しげな花弁のようでいて、よく知っている匂いがする。マリアは突起を強く吸われて上体が仰け反る。  
「感じやすいのね・・ここもとても綺麗よ・・・」マンマは指でマリアの花弁を広げて美味そうに舐め回した。  
マリアも達しそうになりながらも太腿に顔を挟まれ熟れた果実にしゃぶりつき、指で濡れた内部を刺激する。  
女同士の交わりは際限が無く、自分が自分を抱いてるような錯覚を感じた。  
段々二人の吐息が激しくなって限界が近くなり、腰が痙攣する。そしてほぼ同時に絶頂に達した。  
 
 
ーーーーーーーーーーー以 下 エ ロ 無 し(読み飛ばし用しおり)ーーーーーーーーーーーーーーーーー  
「やっぱり似てる・・・てっきりあの人がここに帰ってきたのかと・・」  
「え?」マリアは怪訝そうに横目で見返した。しかし、あの時の表情を思い出すとつじつまが合う。  
マンマは立ちあがると引き出しの中から一枚の写真を持ってきた。  
写真を見ると目を疑った。確かに若き日のマンマと寄り添う恋人らしき少年に瓜二つである。  
(他人の空似というものはあるが、これはれっきとした男ではないか・・・!)  
「美しい巻き毛、細い鼻筋、燃えるような瞳・・・・あなたが女の子だと分かっても・・・」  
マンマは声を詰まらせる。話を聞くと彼は昔、次界を目指す旅の途中で命を落としたという事だった。  
「悪魔に・・・殺されたんですね」マリアの問いに答えずにマンマは啜り泣きをしている。  
マリアは居たたまれなくなって帰る支度をした。その時、赤子が火の付いた様に泣き出した。  
「ごめんなさい、私ったら・・・」マンマは恥ずかしそうに笑い、充血した目をこすって台所に立つ。  
「服!・・・服忘れてますってば!!」マリアは服を投げて渡した。  
「あらいけない!着替えてる間に抱っこしててくださる?」  
「え〜〜!?抱っこ??」  
マリアは仕方なしにベッドの中の赤子を抱き抱えた。  
想像以上に重くて体温が高い。  
昔ノアに聞かされた子守唄を歌ってみるが、泣き声が一段と大きくなったような気がする。  
(悪魔の子守唄は気に入らんのか。でも、さすがに赤ん坊をぶん殴って気絶させるわけには)  
マンマがミルクを持って来たところで危険な思考は途切れて赤子をここぞとばかりに手渡した。  
「まあ、熱があるわ!風邪薬も切れてるし・・・どうしましょ」  
(この女、案外そそっかしいな・・・・)  
 
種族は違っても体の構造は一緒だから平気だろうと、マリアはポケットから小さな巾着袋を出した。  
「これは万病に効く薬です。一粒砕いて飲ませてみて下さい」  
薬を飲ませてから経過をみると、赤子はたちまち機嫌がよくなりミルクを飲み始めた。  
(私もいつかは母になる日がくるんだろうか)  
マリアは赤子の澄んだ黒目がちの瞳を眺めて未来予想図をいくつか描くがどうもしっくりこない。  
「すごい効き目ね。本当に助かったわ、どうもありがとう」  
「少しでもお役に立てたようで嬉しいです」  
普段、恨まれる事はしても感謝される事はしない彼女は自分の言動にもむず痒くなった。  
「あなたさえよければ、ずっとここに居て下さい」マンマは意味深な視線を送り、頬を染めている。  
「気持ちはとてもありがたいのですが私には使命があり、戻る場所もございますので」  
マリアは心が揺れたが、努めて強い口調で断った。  
「そうですか・・・残念ですわ・・・」  
「色々とお世話になりました」  
マリアが別れの挨拶をした時、おしゃぶり小助が天聖スーパーと書かれている大きなビニール袋を抱えて入ってきた。  
「今日は野菜の特売日だったっちゃ!これでおかゆをつくるっちゃ!ところでこの人はだれだっちゃ?」  
「この方はあの子の病気を治してくれたのよ。そういえば、お名前を伺ってなかったわね」  
「マ、マリー天使と言います。。」  
マリアは全速力で考えた末に出した答えに赤面をする。なんて安直で芸がない名前だろうか。  
「また来てくださいね、マリー天使さん」マンマは名残惜しそうに微笑んだ。  
マリアはそそくさと一礼をして澄み切った大空へ飛び立った。  
「それにしても今日は天使どもに翻弄され続けた日だったな・・・よい子ちゃんになるのは二度とごめんだ!」  
 
城に戻るとデビルが広い廊下で右往左往していた。  
「こんな所でさっきから何をしているんだ?」  
「日帰りのバカンスはどうだったかね」デビルは恨めしそうにマリアの顔を覗き込んだ。  
「お前の言った事は半分外れて、半分当たっていた、とでも言っておこうか」  
(化粧しても男に見間違えられたと言ったら、鬼の首を取ったように笑うだろうなぁ)  
マリアは疲れた顔をして、マンマから手渡された土産を渡す。  
デビルはその言葉の意味が分からずに首を捻っている。  
「スーパーデビル様はず〜っとそわそわしててマリア様の帰りを待ってたんですよ!」  
そこへもの魔ねがひょっこり現れて口を挟んだ。  
「余計な事をいうなぁぁぁああああああ!!!」  
マリアは足早に通り過ぎるとデビルはかかさず犬のように嗅ぎ回った。  
「ん?何だかここらへんから女の匂いがするぞ・・・」  
「一々詮索するな、鬱陶しい!気のせいに決まってるだろ!」  
 
この日の晩餐にはマリアお手製のスコーンが大量に並んだ。  
作った本人はあの味とは違う、と納得のいかないまま食べていた。  
デビルはこんなに同じものを沢山食べきれないわよと不服を言いながらも物凄い勢いで口に運んでいる。  
そして、土産のハーブティーをすっとぼけた味がすると湯の量で濃さを変えて楽しんでいた。  
(誰にも一生言えない秘密を作ってしまったが、、あれはいい女だった。。)  
マリアはマンマとの禁じられた甘いひと時が脳裏をよぎり、顔が思わず綻ぶ。  
しかし葛藤の中で自分の使命を思い出し、優しい面影を振り切った。  
(許せ、聖母マンマ・・。だが、六魔極を一刻も早く完成させなくては)  
この時の彼女はまだ、故郷と母を一度に失うことになるとは知る由もなかった。  
 
 

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