その街はオアシスの近くとあってか、夜になると大層な賑わいだった。
雑多な賑わいと熱気、少しでも視線を上げれば澄んだ闇の夜空。
俺たちは次の基地に向かっている途中だった。
だが、サラジンの乗ったヘリがエンジントラブルをおこし、
仕方が無く近くの砂漠に下りた。
こんな僻地など、我々のいるところではなかった。
今日の夕方には北の大きな都市についているはずだったのに・・・
見渡す限りの砂漠に垂直に刻まれたかのような岩肌、
そこを抜けると突然広がる大きな町。
オアシスを中心に町が扇形に広がっている。
陽が傾きかけたら砂漠は冷えると無理やり町で宿をとることになった。
サラジンは一度訪れた事がある町らしく、軍の顔が利く一番大きなホテルと
レストランをとった。
夕食をとり、ホテルの部屋に向かったのは辺りがベルベットのような青い闇に
包まれた頃だった。赤い絨毯の廊下に通され、部屋に案内される。
俺は慣れない環境に思わず制服の衿を緩めた。
「お疲れですか?ミノス様」
後ろをついていたメイジャスが俺のため息に反応する。
「・・・まあな。お前は大丈夫か?ユニットに砂が入ってないか?」
ふよふよと浮いているフライングユニットはかなりの精密機械のはずだった。
「もちろんどんな場所にも対応できるように作られてますから・・
ご心配・・ありがとうございます。」
頬がうっすらとそまる。俺は何気なく言っただけだったが、
そんな反応されるとこっちも困る。
意味も無く真っ直ぐ続く赤い絨毯の模様なんかに目をやって視線をそらす。
「おい。メイジャス。お前の部屋はこっちだ。」
前を歩くサラジンが大きなドアの前で呼びかけた。
茶色いドアを開けるとさらに豪奢な絨毯が目の前に飛び込んできた。
飾り細工の素晴らしい窓、所々に飾られる工芸品、絨毯のそばにある
足の低いベッドには布の天蓋とカーテンが下がっている。
こんな宿など泊まったことがない。
カプセルの中で産まれ、育った自分には白い剥き出しの壁も麻のシーツも
蝋燭のランプも目にするのは初めてだ。
これでも町で一番の高級ホテルらしい。
「メイジャス、ここで大丈夫か?」
同じバイオミュータントとしては環境に慣れないのは同じかと
少し心配だった。
「・・はい。とても素敵なお部屋ですね」
俺の心配をよそに、目新しいのか、部屋の飾りやランプの光を嬉しそうに
眺めている。
部屋を案内してくれた従業員は窓の傍のソファにお茶をいれた後、
ごゆっくり、と外に出た。
ドア口に寄りかかっていたサラジンが俺の背中を小突いてきた。
「お前の部屋は向かいだぞ?それともこっちの部屋の方がいいか?」
「ばかいうな!わかってるって!」
メイジャスが部屋を気に入ったようで俺は回り右をして部屋から出ようとすると
またサラジンがドアをふさいだ。
「おいおい。彼女をユニットからおろしてやれよ。」
「・・わかってるって・・」
メイジャスのユニットは前の戦闘での経験を生かして足の着脱が可能になった。
ユニットは複雑な構造をしていて、外に出向くことのあまり無かったメイジャスは
施設内では研究者達の手でユニットを外していたが、
これからは他の施設や長い移動にも対応できるように
自分で取り外せるように改造してもらった。
「メイジャス、ソファに座るか?」
せっかくお茶も入れてもらったのだし、ソファに座った方がいいかと
メイジャスを呼んだ。
「ああ、ミノス様、これくらい自分で出来ます」
浮いていたユニットを床につけ、足を外している。
「いい。」
足首から先のない足をユニットから出し、自らの手で移動しようとしていた
メイジャスを制し、抱きかかえてソファにおろした。
「・・あ・・ありがとうございます」
ゴブラン織りのソファは柔らかいらしく、メイジャスの身体をゆっくりと受け入れた。
ドアの方からわざとらしいため息が聞こえる
「あ〜じゃあ俺はちょっと外行ってくるから。お前らはゆっくりよろしくやってろよ〜」
「な!・・お前、何処へ行く?」
俺は真っ赤になってドアのサラジンを追いかけた。
「バーカ。ヤボなこと聞くなよ。お子様には退屈なトコだ」
「・・お・・俺も行く!」
ドア口でギャイギャイともめている俺たちをメイジャスが心配そうに見ている。
いきなりサラジンが俺の首に手を回し、強引に顔だけドアの外にひっぱった。
「・・・花街だよ。お前がいったってなんもできないつーの」
その台詞に不覚にも固まってしまった俺をさらりと部屋の中に押し込んだ。
「朝まで帰ってこないからな。お前も彼女と楽しめよ。」
悪戯する子供のように楽しそうな声でささやくと
「じゃあな。メイジャス、ミノスのことよろしく。もてなしてやれよ?」
手をフリフリ、ドアが閉まった。
「・・あの・・・なにか軍への連絡でしょうか?」
「・・そんなんじゃない。」
ゆらめく蝋燭の炎がジジっと燻った。
「ミノス様、お茶でも・・飲まれますか?」
「ああ。」
飾り窓からは町の熱気と砂漠から吹く涼しい風が静かに入り込む。
メイジャスはさっきの従業員が入れていたお茶をグラスに注ぐ。
金の模様が描かれた小さなはグラスは独特の香りを漂わせる。
ソファから身体をずらし、どうぞ、とグラスをテーブルに置いた。
俺に、そこに座れと、言っているのか。
「美味しいですね。このお茶」
ふいに隣からの声に俺の心臓は飛び出しそうだった。
「あ・・ああ。いい香りがするな」
「この地域でよく飲まれるハーブティーだそうですよ」
さわやかなお茶の香りと共に鈴の様な声が心地よく俺の耳に届く。
その白いのどから奏でられる声はどうやって鳴ってるんだろうか。
そんなことをぼおぅっと考えながらメイジャスの首元を見つめていた。
「・・・・?なにか・・・?首についていますか?」
俺がのどを見つめているのに気がついたのか首元を手で隠しながら
顔を真っ赤にした。
これでは変態ではないか。
「い・・いや。その、お茶・・気に入ってよかったな」
本当にどうでもいい一言だった。
俺も顔をあわせられずにテーブルの方を向きなおした。
メイジャスも居たたまれなかったのか、めずらしく話をしてきた。
「・・サラジン様はどちらにいかれたのでしょうか?
ヘリの方を見に行ったのでしょうか?」
「あー・・・その。まあ。そんなところだ・・」
「まあ。では私も修理のお手伝いに行きます。エンジンの制御機能なら
私のユニットでも修理は出来ます。サラジン様の現在位置を・・」
腰を浮かせたメイジャスの肩を掴んで慌てて止めた。
「いや、探さなくていい!!」
勢い余ってテーブルに肘がぶつかり、グラスが倒れた。
運悪く俺の制服にお茶がこぼれ、グラスが絨毯の上に落ちた。
「まあ!大丈夫ですか?ミノス様」
ティーポットの下に敷いてあったクロスをつかみ、俺のズボンを拭う。
俺は気が動転してなすがままだった。
あらかた湿気はクロスが吸ったものの、俺の周りにはあの独特のお茶の香りが広がる。
その香りに我に返る。いや、正確には煽られたと言ったほうがいいだろう。
クロスをもつ手を止め、そのまま掴んで引き寄せる。
急に目の前に顔を寄せられ、驚いた顔のメイジャスを見つめる。
何が起きたのかわからないような顔が、徐々に染まっていく。
「・・・ミノ・・ス・・さ・・」
先に口を開いたメイジャスの声を掻き消すように唇を合わせた。
思っていた以上に柔らかい唇。蕾のようにふっくらとして甘い。
俺の中の何かの遺伝子が、ぞわぞわとうずいた。
本能か、ミュータントに予め設定した機能か、
俺は無理やり唇をこじ開け、舌を入れた。
お茶の、味がする。
微かにもれる声は喉から直接響いているように聴こえた。
俺の身体の全機能がメイジャスの全てを感じ取る。
優れた機能を持つがゆえに感じる全て。
唇を離したときにはメイジャスの身体は柔らかいソファに沈んでいた。
少し息を荒くして、瞳を閉じていた。
目を開けるのが恐いのか、ぎゅっと閉じたまま
顔はおろか首元まで真っ赤にして身体を強張らせていた。
「・・・メイジャス。」
恐がらせてしまった事に後悔し、耳元で優しくささやいた。
「すまん。・・・・」
その言葉に頑なに閉じていた瞳をうっすらと開いた。
少し潤んで、独特の瞳が一層可愛く見えた。
そのまま耳に優しく口付けて絹糸のような髪に触れた。
メイジャスは恥ずかしいのか、顔を手で覆いながら震えている。
「メイ・・」
指の隙間から頬に流れるものを見てしまい、一気に心臓が跳ね上がった。
「・・メイ・・す・・すまん・・。その・・」
「・・・・・・です・・・」
メイジャスが震える声で何かを言った。
「え?」
「・・・・・・ここじゃ・・・いや・・です。」
蚊の鳴くような震える声を絞り出すように言う。
「・・灯り・・・消して・・下さい・・」
俺はベッドのランプのみを残して全てのランプの灯りを消した。
ベッドの上でうつむいているメイジャスは心細げにこっちを向いた。
天蓋から流れる薄布を割って入ると制服のジャケットを脱いでベッドの向こうに投げた。
素肌がじんわりと熱を放った。
ビクっと肩を振るわせるメイジャスの傍に腰を下ろし膝の上の手に、そっと、手を重ねた。
顔を挙げたメイジャスは頬を染めて俺を見つめる。
「メイジャス、・・その・・する前に言っておく・・。」
俺は覚悟を決めてその瞳を見つめ返す。
「俺は、・・・・・お前が好きだ。だから・・・その・・」
うまく言葉が出てこない。
メイジャスは俺の手にもう一つの手を重ね、包むように胸元に抱えた。
「・・私も・・・・お慕い・・・しております・・」
その声も、瞳も、全てが愛しく思え、唇を重ねた。
そのままベッドの麻のシーツに身を沈めると、恐がらせないようにゆっくりと舌を絡ませた。
丁寧に丁寧にメイジャスの唇を舐め回し、舌を絡ませ、唾液を飲み込む。
甘い。花の蜜のような甘い唾液に酔いそうだった。
次第に息が荒くなり、唇を離すと、舌から伝う糸が切なく途切れた。
首筋にもキスをしながら腰の飾りの裏にあるホックを外す。
あわせのようになている服はこのホックを外すといとも簡単に彼女の肌をあらわにする。
そのまま勢いで下着の紐も解いた。
俺はその滑らかな肌に見入ってしまい、手が止まった。
百合の花の様に白く、軟らかな肌。小ぶりの胸に咲くピンクの蕾。
透けそうなほど艶めく体からは芳しい香りがする。
「・・・綺麗だ・・・。」
思わず呟いた言葉に彼女は再び顔を手で覆った。
それをそっと外すと真っ赤にしている頬に唇をつけ、もう一度ささやいた。
「綺麗だ。・・メイジャス。」
「・・そんなこと・・言われたの・・初めてです・・」
恥ずかしそうに笑うメイジャスに軽くキスをすると俺も笑い返した。
「・・バカ。そんな事、俺以外のヤツに言わせてたまるか。」
俺たちは試験管の中で生まれ、研究者達の中で育った。
もちろん様々な研究のために身体の全てを晒す事など日常茶飯事だ。
でもやつらの興味は俺たちの身体の機能、仕組み、力だけだ。
研究対象としてしか見ないやつらにそんな台詞など吐ける筈がない。
・・それに。
頬を染め、潤んだ瞳で見つめ返すメイジャスのこんな姿など、
俺以外のやつに見せたくはない。
そんな考えに嬉しくも、恥ずかしくも、心臓が高鳴る。
そっと乳房を掴み、揉みながら蕾に舌を這わせた。
「・・あっ・・・」
思わず漏れた声に驚いたのか唇が震えていた。
いやらしく響く水音にお互いの身体がさらに官能的な反応を示す。
手のひらに吸い付くようにしっとりと汗ばんだ胸は俺の手で小さくうねる。
さらに湿めらせた蕾を指で捏ねながら、俺の舌は臍の辺りまで下がっていく。
緊張しているのが手にとるようにわかる。
俺の手が足の間から割って入った時にはビクっと体が跳ね、強張った。
既にそこはとろりとした蜜で溢れていた。
ゆっくりと指を入れるとじゅくっと粘膜の音が響く。
「ん・・・ああ・・」
感じているのか、メイジャスの身体から奏でられる全ての音が合わさって俺の脳に入ってくる。
「ぁ・・ああっ・・・み・・ミノス・・様・・」
出し入れする指にあわせて俺の名を呼ぶ。
可愛さのあまりその声をもっと聞きたくて、耳元でささやく。
「・・メイ・・・お前の身体・・いい香りがする。」
「・・・ああん・・・・はっ・・・いや・・・は・・恥ずかしい・・」
「・・花の・・香り・・ここから・・。ほら」
さらに指を奥まで入れると胸の蕾がはちきれんばかりに立ち上がった。
蜜もさらに溢れ出し、指を増やしてもすんなりと入っていく。
少し線に沿って上下させると耐えられないように
俺の腕を制そうとするが俺が止めるわけがない。
親指で入り口の近くにある突起をつぶさないように押した。
こりこりと左右に擦ると俺の腕を掴んでいた手に力がこもった。
「・・や・・ミノス様・・おね・・がいです・・そこは・・・」
恥ずかしいのか、耐え切れず俺の首元に顔を寄せる。
顔が見えないと思ったのだろうか、かえって息遣いや声が耳元に響いて俺の指は止まらない。
「ああっ!・・ああ・・」
腰のラインが痙攣するのを見ると、わざと音を立てて指を引き抜いた。
俺にはもう彼女の身体を労わることも出来なかった。
息を整える暇もなくメイジャスの腰を浮かせ、頑なに閉じていた足に割って入った。
ベルトを外し、抑えられないほどに立ち上がったものを滴る蜜と絡ませた。
強張った肩を掴み、彼女の入り口に亀頭を宛がう。さらに溢れる蜜が内股にまで流れ出ている。
腰を掴んでゆっくりとメイジャスの中に入る。
思っていたよりも入り口は狭く、角度を変えながら押し進んでいく。
肩を小さく震わせ、声を押し殺すように唇を結ぶメイジャスに胸が痛んだ。
止まらない自分の欲求と後悔の念に駆られながら震える唇にキスをした。
「息をしろ・・・・力を抜け。」
情けないほどに真剣な目を向けてしまった。
我慢していたのだろう。潤んでいた瞳から涙が溢れていた。
「あっ・・ああ・・」
中に押し進む度にメイジャスの声が大きくなってく。大方入った辺りで視線を重ねる。
異物への違和感に震えている顔がとても切なかった。
「メイジャス、・・・ゆっくり・・・動く。」
自分に言い聞かせるかのように低い声でささやいた。初めはゆっくり。奥の方を中心に小刻みに動く。
「・・・・んんっ・・・あんっ!ああ!・・・あああっ」
徐々に揺れは大きくなり、内側の肉がうねるように絡みついてくるのがわかる。
熱が直に肉棒に伝わり、どくどくと波打つ脈が肉壁に届く。
「ああ!・・あん!あっ・・・」
今度は入り口から一気に突き上げ、何度も繰り返す。
その度にぐちゅぐちゅといやらしい粘膜の音を立てる。
「・・メイ・・」
「・・んぁっ・・ああっ・・ミノ・・ス・・あっ・さまあ・・」
あまりの気持ちよさに腰の動きが止められない。
俺の肉棒がメイジャスの奥に当たる度に亀頭が擦れ、
メイジャスも次第に胸を揺らしながら仰け反ってきた。
その度に俺の名を呼ぶ。
愛しい。
こんな感情など少し前まではいらないと思ってたのに。
むしろ自分の中に俺以外の誰かを欲する感情があることなんて知らなかった。
息を荒げたまま、欲しいままに口付けを何度も交わす。
限界が近づいて一層強く奥を突く。
「・・メイ・・メイジャスっ・・」
「あんっ・・あっ!はぁ・・・あああっ!」
「ミノス・・さまっ!あああ!」
メイジャスの声に意識が飛びそうになりながら、彼女の中に全てを吐き出した。
ぐったりと横たわるメイジャスを包むように抱く。
恥ずかしいのか胸に顔を埋めたまま寄り添ってきた。
「・・顔、見せろよ」
いやいやと首を振って真っ赤になる。
「・・あんなに大きな声を出してしまって・・」
恥ずかしいですと言う声が消えるように細くなって聴こえた。
キスを諦めた俺はメイジャスの身体のラインに沿って指を滑らせていく。
ふと目をやった先の内腿から白い液体がつうっと流れ出ていた。
俺が出したものかと思ったが、もっとさらっとした液体だった。
しばし考え込んだ俺はメイジャスの肩を掴むと強引に引き離して顔を合わせた。
「お前・・・その・・初めてか?」
「そっ・・そんなこと聞かないで下さい!!」
少し怒った顔をしてそっぽを向かれた。
聞いてはいけないことだったのか?女は反応がわからなくて困る。
「すまん・・。もっと優しくすれば良かったと思ってな。」
メイジャスの前では情けないほど戸惑う自分がおかしい。
そう思いながら顔を上げると潤んだ目が俺を真っ直ぐ見つめていた。
「・・私のようなものでもいいのですか?」
「同じバイオミュータントだろう?何故そんな事を聞く。」
好機とばかりに軽くキスをした。
父も母もなく、何も無いところから産まれ、
戦いしか知らずに育った俺達でもこんな事ができるのだ。
天使か、悪魔か、など我が身の運命を問うつもりはない。
この命が本当の命かどうかすらも曖昧な存在なのだ。
でもこの世に生まれた事が初めて本当だと知ったような気がする。
「・・メイ。」
「?・・・・」
「最初に言った言葉。本当だからな。」
微笑んだ彼女の唇にもう一度キスをした。