ぼくはヤマト王子!
聖フェニックス様のおともをして『次界』ってところを目指す若神子の一人だ!
そういうと、一緒に旅してるクロスエンジェルはいっつも『かわいいかわいいですの〜♪』
とか子ども扱いするけどさ…そりゃあ僕はまだまだ10歳くらいの子供だけどさあ。
…でも、いくら強がっても…
魔肖ネロとかいう悪いやつの前にぼくたち若神子はなすすべもなかったわけで。
スーパーゼウス様がやつをたおしてくれたからよかったものの、ぼくたちはなにもできなかった…
これじゃあ…このままじゃあ聖フェニックス様の足手まといになるだけじゃないか!! だめだ!
ぼくたちは も っ と 強 く な ら な い と い け な い ん だ !!!
魔肖ネロが崩壊していくのをみながら、そうぼくが強く念じたときだった。
ぽわーっと。
ぼくの体はとつぜん光につつまれたんだ。
なんだなんだ!? そう慌てふためいたけど、ちっともいやな感じはしない。むしろ心おだやかで。
ぼくは、いや、よく見たらダンジャックやアリババや、若神子みんなが光に包まれていた。そして、そのままどこかに運ばれていく。
そうしてみえたのは天聖門。下にはスーパーゼウス様や聖フェニックス様や十字架天使がいた。
ぼく、どうなるの? アゼンとするぼくの目の前に、天使がひとり現れたんだ。
それは如面菩薩だった。
正直に言おう。今まであった女の子天使のなかでは一番かわいらしいとおもう。
ポヤヤンとしたクロスエンジェルとはちがって、しっかり者なところが…って、いやいやいや! そういうのはおいていて!!
などと、あわあわしているぼくを、如面菩薩はクルンとしたひとみで見据えながらこういった。
「ヤマト王子。あなたは今からパワーアップするのです。」
一瞬なにがなんだかよくわからなかった。
「そう、ヤマト王子から…ヤマト神帝へ。」
しばらくして、彼女の穏やかな言葉が、ようやくぼくの頭にとどいた。
パワーアップ。
…本当に? …パワーアップ!? 神帝? 本当に!? 無性にうれしさがこみ上げてくる。
「そ、それで聖フェニックス様のおともをして『次界』に行くことができるんだね!?」
その問いに如面菩薩はコクリととうなずいた。
や…やったぁぁぁ――――っ!! 大声で叫びたい気持ちだった。
「はやく! はやくパワーアップさせてよ!! どうするの!? どうすればいいの!?」
彼女はしばらく間をおいてからつげた。
「それは…私とあなたが合身することで…」
なるほど、がっしんかあ。うんうん。
…
……
……?
ねえ、なんで顔を赤らめてるの?
「なんでもないわよっ!」
あ、いつもの如面菩薩だ。
「が、合身っ!!」
そうして、なんだか下をチラチラとみながら、やけくそぎみに叫んだ彼女はぼくに近寄って、手を体に触れた。
それがはじまりだった。
ドクン!!
と、その瞬間、如面菩薩の指先からものすごい力が自分に注がれてはじめたのがわかった。
す、すごい! ものすごい力がみなぎってくる! でも、如面菩薩は苦しそうに声を上げていた。
ドクンドクン!
「……あぅぅぅん!」
だ、大丈夫!?
「…だ、大丈…夫…力を吸われている感じなだけ…で…ぁぁっ!?」
……なんか…苦しそうにしては変な感じのような…
ドクンドクン!
「あっ! …ぁんっ!?」
もしかしてうれしがってる?
「そ! そんなことあるわけないでしょう!?」
ものすごい顔で怒られてしまった……なんかぼく変なこといったかなあ?
そうこうしている間にも、体からどんどん力がわいてきていた。あれ? ぼく、ちょっと手足が伸びてない?
「…そうよ…ぁ…だって神帝だもの……はぁ…っ! …」
如面菩薩はびくん! と体を震わせると息を切らせながらそうつぶやいた。
手の先を見ると…うわ!? ぼくの体の中に如面菩薩の手首まで入っちゃってる!?
……あれ? でも全然痛くない。
「そう…痛くない…いたくな…いのよ…………あのね……どっちかっていうとね…?」
そこで如面菩薩は顔をうつむけながらつぶやいた。
「き、気持ちいいの……ぁうんっ!」
ドクンドクン! ドクンドクン!
そのとたんに力がさらに強くなり、彼女は叫びはじめた。
「あ! あ! だめ! 言っちゃったら…我慢できな…っ!!」
あの…ホントに大丈夫? なんだか声が変だよ? 顔も真っ赤だよ!?
「…平気……平気だから…っ! はあん! はぁぁんっ!!」
すでに彼女の腕はひじまでぼくの体に埋まっていた。
「入っちゃうっ…あっ…あっ…あ…っ! …はいっちゃ……!!」
!!
とまらずにさらに突き入れながら、どくどくという鼓動にあわせて悲鳴をあげる彼女をみながらぼくは確信した。
本当は苦しいんだ。
だって、すっごい苦しそうに顔ゆがめてちゃって…
すっごい息をきらして、苦しそうに声を上げて…
ぼくに気を使っているだけできっとものすごくつらいんだ!
でも…やめるわけにはいかないのはぼくもわかっていた。
天聖界のために、これは絶対に避けて通れないことで。
そのために苦しそうに必死で耐えている如面菩薩を見て。
なんだかすごく切なくなって僕は
思わず長くなった手で、彼女をぎゅっと抱きしめた。
「…んあああああぁぁぁぁぁ―――――っ!?」
その途端に彼女は甲高い声を悲鳴を上げて全身を突っ張らせた。
「ああっ…駄目っ! 抱きしめないでぇぇっ!?」
懇願されたのに、なぜかわからないけど、僕はその声を聞いてさらにぎゅぅぅっっと如面菩薩の体を抱きしめてしまった。
肩を抱き、腰を引き寄せた。それはとても細くて、柔らかくて弱々しい体だった。ああ……こんなに体で…僕のために…っ。
彼女は、赤い髪の頭を僕の首元でフルフルと横に振っていた。
ドクドクドクドク!!
「…やぁ…っ! もっとやさし…あああっ…あああっ! ……やさしくしてぇぇ…っ! …やぁ…やああっ!?」
今までになく満ち溢れてゆく力のせいもあったと思う。もうその言葉はもう僕には届いていなかった。
抱きしめながら、抱きしめられながら、女の子の柔らかい体は力弱くもだえながら、僕の体の中に入ってゆく。
ドクドクドクドク!!
「嫌いなのに…っ…私…乱暴なの…きらいなのに…っ……んっ! …あっ!? …あぁぁぅっ!」
僕の胸に、如面菩薩の胸が沈んだ瞬間だった。
「…っはぁぁ! …ぁっ! …や…っ! …ああっ! …あん!! あっ!! あっ!! やあぁんっ!!」
彼女の声が急に大きくなる。
ズン!! と、あまりの脈動に僕の視界が一瞬揺らぐ。そして、彼女の声とともに僕の背中がつっぱりはじめて。
「やあぁっ! やあぁっ! やあぁぁあああ――――――っ!」
ズワッと。僕の背中からなにかが飛び出た。それは
白い翼だった。
「僕の…翼?」
それだけではなかった。
気がついたら、緑色だった僕の髪の毛は栗色に染まり、身にまとった鎧もより強く、硬くなっていた。
如面菩薩はあっけにとられている僕の顔を見上げるような格好でのけぞって、ぶるぶる震えていた。
そうして、数瞬のち、大きな瞳をとろんとさせたかと思うと、
「…はぁ……駄目だって…言ったのに………ばかなんだから…………んふ……うふふふ………?」
なんだか天使とは思えない怪しい目つきだった。
そうして、僕を見つめているような、見ていないような目のまま、彼女はさらに僕の体に自分をうずめはじめた。
「…はぁ…ぁん…ふぅぅ…あうぅぅ…」
体をくねらせる、擦り付けるような動きだった。
その光景に、僕は何も言えず。
「…あぅ…あぅん………んっ……は……っ」
いつの間にか、絶対に彼女が崩さなかったあぐらがとけていて、細い足を僕の足に絡めていた。
僕のできたばかりの羽根が包むように僕と如面菩薩を覆う。
「…あう…はぁ……はぁあ…んあ……」
その羽根の中で彼女は体をくねらせながら、僕の中に沈んでいった…
そうして、最後に、如面菩薩の潤んだ顔が近づいたかと思うと、
チュッ。
と、唇に柔らかいものを感じ、
気がついたら僕は地上に降り立っていたのだった。
口に手をやると、そこには柔らかいけど、とても丈夫なマスクがあった。
「ヤマト神帝よ」
と威厳のある声が聞こえた。
振り向くとそこにはスーパーゼウス様がいた。
僕はゆっくりと、確かな動作でかしずいた。スーパーゼウス様の目は何かを物語っていた。
わかる。言葉あらずとも言わんとすることがわかる。
そう、僕はもう若神子では、子供ではなくなったんだ。
僕は大人の、皆のための戦士、神帝なんだ!
僕は、僕たち『7人の神帝』はゆっくりと空を振り仰いだ。
ああ、僕はいままでなんて子供だったんだろう。
今ならわかる。天聖界の全体が。次界の本当の意味や神帝の存在の意味が。
パワーアップという行為の意…味………が……
…
……
………
視界の隅にものすごい、それこそ鬼のような顔をしたクロスエンジェルの顔が入った気がする……
…
……
………
怖い。
怖くて顔を下げられない……
硬直したまま、僕はわかるというのもいいことばかりではないなあ。
と考えていた…
聖フェニックス様、早く号令かけてぇぇぇっ!!
【終わり】