私という存在は消滅したはずだった。
それまでの苦痛は嘘のように消え去り、私は確かに「無」になったはずだった。
だが、私は喩えようもないほどの心地よさ・・いや、快感をその身に覚え、目をあけた。
目を?
視界に天蓋から垂れる桜色の薄絹がゆらゆらと揺らめくさまが見える。
これは・・・意識に流れ込むビジョンではない。
目で見ている映像だ!
私は、私の肉体は・・・!
「はぅ!」
意識するよりも先に声が出た。
先ほどからこの身に感じる狂おしいばかりのこの快感に私はもだえて・・・声をあげた。
「ああっ」
「お目覚めになりましたのね、ロココさま」
耳に、聞き覚えのある済んだ声が響く。
意識で感じる音ではなく、耳という肉体を通して聞こえる声。
思わず飛び起きた私の視界に彼女はいた。
「愛染かぐや・・・!」
その瞬間、私の思考はフリーズした。
消滅したはずの私という存在がどうして肉体をもって今こうしてここにいるのか、
なぜ貴女がここにいるのか、いや、そもそもここはどこなのか、
知りたいことはいっぱいあったはずなのに――、
先ほどからの快感が、彼女の美しい白い手によって与えられていることを自覚した瞬間
私はただもう阿呆のようにうめくばかりで、次の言葉を紡ぐことができなくなってしまった。
「ああ、奮えておりますわ!どくんどくんと脈うって・・・!」
かぐやが私のモノを握り締め、目を輝かせながらうっとりと顔を近づけてくる。
「お感じになられまして?ロココさま! 御自身の血潮の沸き立つこの感覚を!」
「ああ!」
かぐやの言葉に反応するかのように私は声を挙げ、大きく腰を揺り動かしてしまった。
濡れた舌が私の屹立したものをなぞる、たまらない感覚に息さえ詰まりそうになる。
「お、お辞めくださいっ!」
私は必死に言葉を発した。
心の片隅で、体のすべてで、このまま快楽に身をゆだねたがってる自分がいる。
だが、このままでは自分が自分ではない生き物になってしまいそうな恐怖に私は必死で抵抗の烽火を上げたのだ。
「いいえ、辞めませんわ、ここまできて辞められませんもの!んっ」
「あっ!」
強く吸われて一瞬、気が遠くなりかける。
「ほら、ロココ様のここはこんなにも悦んで!ああ、なんて・・・」
かぐやの興奮した高らかな声に意識が戻される。
「ダメで、す、・・あ、ふっ・・んんっ!!」
なにか、が私の中に進入して動めく。ああ、そんな!
「ああ、後ろに指を入れたらもっと膨らんだわ・・・ステキ、ステキ・・・!」
かぐやの舌がふたたび私をとりこんで・・・・ああっ!
絶頂の瞬間、私の視界で天蓋から揺れる桜色の薄絹が闇に霞んで・・・紫に見えた。