クリア受信の憂鬱
『……はあっ…んっ…そこ…いい…。あふぅ…ぴちゃ…ちゅっ…ん
…もっと……』
(ああ…また始まったのね…)
毎晩のように頭の中に直接響いてくるその声に、軽い溜め息ととも
にクリア受信は心の中で憂いの言葉を呟いた。
クリア受信は悩まされていた。妹のクリア送信の事である。
イタ電に悪魔化させられ、連れさらわれた一件以来、クリア送信に
明らかな変化が現れたのだ。
あの大人しかった妹が、よりにもよって、連日毎夜どこからか男を
自分の寝室に連れ込むようになっていまったのである。
クリア受信が初めてそれを目撃したのは、妹が取り戻されてからちょ
うど一週間後のことだった。
寝静まったはずの邸内にヒトの気配を敏感にキャッチしたクリア受
信は不審に思い、様子を伺うため自分の寝室を後にした。
気配は妹の寝室に向かう廊下からだった。
再びイタ電が妹を連れさらいに来たのではないかと不安に思いつつ
も、廊下の曲がり角から恐る恐る顔を出したクリア受信が見たもの
は悪魔や魔守などではなく、なんとクリア受信の知らない男性天使
と口づけを交わす妹の姿だった。
「ちゅ…ン…ぺちゃ…んふぅ…レロ…ちゅぅぅ…ちゅぱっ」
男の長身に合わせるようにあごを上げ、軽く背伸びしながら両腕を
男の首に絡ませて一心不乱に情熱的なキスに没頭するクリア送信の
表情は、生まれたときから今まで片時も離れることなく共に育った
実の姉であるクリア受信が見たこともないような、妖しく淫蕩なも
だった。
動揺するクリア受信が薄明かりの中で目を凝らすと、二人とも瞳を
閉じてはおらず、男は子供が買ってもらった新しいおもちゃを眺め
るように、クリア送信はまぶたを半分くらい下ろし、さも愛しい者
に抱かれているかのように熱っぽいまなざしで、互いの瞳を見つめ
合っていた。
微弱な光に映し出された男の姿は、身長はやや高く、スレンダーで
髪を明るめの茶色に染めた、少し日焼けした今風の若者だった。
軽薄そうな外見に、クリア受信はその男に対してあまりいい印象は
持てなかったが、今はそんなことは問題ではなかった。
しばらくすると、男の方は濃密なディープキスだけに飽き足らず、
左手でクリア送信の乳房を撫で上げるようにやわやわと揉み、右手
をクリア送信の尻にあて、掴むようにして彼女の秘部を自分の股の
こわばりに押し付けだした。
驚いたのは、股間を押し付けられたクリア送信が、まるでそれを待
ちわびていたかのような嬉しそうな表情で、円を描くように悩まし
く腰をうごめかしながら、男の行為に応えるように自分から密着し
た部分をいやらしく擦りあわせ始めたことだ。
(う、うそ…。あのクリア送信があんなこと…)
物静かでおとなしいと言われてきた自分よりも、さらにおっとりと
した妹からは想像もつかなかった目の前の光景に、あまりにも信じ
られないという強いショックとある種の喪失感を味わいながらも、
今まさに目前で繰り広げられている男と女が互いの『性』をまさぐ
りあうという淫靡な行いに、クリア受信の頬は赤く染まり、知らず
知らずのうちに熱をはらみだした切なげな吐息をあたりの空気に溶
け込ませはじめていた。
口付けというにはあまりにもエロティックなキスを堪能し、男の方
からそっと口を離すと、唇の端から糸を引きながら熱病にうかされ
たかのような面持ちでクリア送信が男に囁いた。
「あふ…、ねぇ…もう我慢できないの…。ベッドに連れていって…
おねがぁい…」
「あいかわらずいやらしいんだねえ。ふふ…、いいよ。今夜もじっ
くり楽しませてやるよ」
「ああ…」
クリア送信はまるで教祖のありがたい言葉を賜ったときの熱心な信
者のような表情で男の台詞に胸を熱くさせ、ふたたび強く男の口を
むさぼってから、男を連れて自分の寝室へ入っていった。