「ああんっ、ダメですの!みんなが起きちゃいますの」
「ちょっとだけ、ちょっとだけだよクロスエンジェル!」
「あはーの、ヤマト神帝さんってばエッチですの〜」
皆が寝静まった夜。
飛び岩の中で、一組のカップルがもぞもぞと重なり合っていた。
言わずとしれた仲良しカップル、ヤマト神帝とクロスエンジェルである。
「…あっ!あぁん、あああああんん!!」
「うっ、ああっ、ダメだクロスエンジェル!イっちゃうよぉ」
「私もイキそうですの!んっ、んはぁぁぁぁんっ!!」
「くっ…むはぁ…」
二人は事を終え、ぐったりと横になった。
「きゃーの、ヤマト神帝さん、ステキでしたの」
「ええっ?あはっ、照れるなあクロスエンジェル」
「やっぱり私には、ヤマト神帝さんしかいませんの〜」
仲良く語り合う二人。その時だ。
黒い影が立ちはだかった。
「へぇ〜、それは本当かよ、クロスエンジェル」
「誰だっ!?」
ヤマト神帝が叫ぶ。影は二人のそばに近づいた。
それは神帝男ジャックだった。
「どういう意味なんだ、神帝男ジャック?」
「ふんっ、ヤマト神帝だけなんて、嘘っぱちだってことだよ。
今まで黙ってたけど、オイラとクロスエンジェルは…」
「ごめんなさいの、ヤマト神帝さん!」
クロスエンジェルが、突然がばっと起き上がり、頭を下げた。
「そんな…ウソだろ……?」
「本当さ。昨夜だって、クロスエンジェルはオイラの下でヒィヒィ言ってたぜ」
神帝男ジャックはニヤニヤしながら言った。
「ちがうんですの、ヤマト神帝さん!
私は神帝男ジャックさんの、相談に乗ってただけなんですの。
それが気づいたら、いつの間にか…」
「クロスエンジェル…」
「神帝男ジャックさん、とってもすばやいんですもの…」
クロスエンジェルは悲しそうにヤマト神帝を見た。
ヤマト神帝は、クロスエンジェルの潤んだ瞳を見つめ返した。
「嘘だと言って欲しかったよ。
まさか君が、神帝男ジャックと…」
「ちょっと待ったぁ!」
暗闇から新たな声がかかった。
「何っ!?」
一同は驚いてそちらを見る。そこには腹巻きをした人影が立っていた。
「一本釣神帝!」
「クロスエンジェルと付き合ってるのは、神帝男ジャックだけじゃないぜ」
「どういうことだ!?」
ヤマトと男ジャックが叫ぶと、一本釣神帝はクロスエンジェルを見つめた。
クロスエンジェルはまつげを伏せる。
「ま…まさか君、一本釣神帝とも?」
「はいの」
クロスエンジェルはうなだれた。
「そんな…なんで…」
「だって一本釣神帝さんって、とってもたくましいんですもの」
「この腹巻き野郎……。まさかクロスエンジェルを力ずくで?」
「なっ、人聞きの悪いことを言うな!自然にそうなったんだよ」
ヤマト神帝、神帝男ジャック、一本釣神帝はその場でにらみ合う。
「ストーーーップ!」
再び、暗闇から声がかかった。
「やめないか君たち。レディーの前で」
優雅な物腰の人影が、そう言いながら近づいてきた。
「神帝ピーター!」
「話はすべて聞かせてもらったよ。クロスエンジェルを責めないでくれ」
神帝ピーターは芝居がかった動作で手をふった。
「すべての責任は僕にあるんだ。
彼女に寂しい思いをさせ、他の男に走らせてしまった僕に…」
「はぁ?」
「ってことは…」
「まさか…。クロスエンジェル、君、神帝ピーターともカンケイしてたのか?」
「はいの」
クロスエンジェルは気まずそうにうなずいた。
「一体どうして…」
「だって神帝ピーターさん、カッコいいですの」
それを聞き、神帝ピーターは薔薇のように美しい笑みを浮かべた。
クロスエンジェルはポッと頬を赤らめる。
他の三人はムッとしてピーターをにらみつけた。
その時だ。
「フッ。愚かな争いはやめたまえ」
暗闇から、三つ編みヘアにリボンをつけた人影が出現した。
「神帝フッド!」
神帝フッドはため息をついた。
「男と女は、いつも一対一の真剣勝負だ。
恋人と会えない時間に、自分を磨こうとするのは良いことじゃないか。
クロスエンジェルだって、私やみんなとエッチすることで、
自分を高める努力をしているのさ」
「そ、そうだったのか!」
一本釣神帝がハッと目を見開いた。
「なわきゃねーだろ!ダマされてんじゃねーよっ」
神帝男ジャックが一本釣神帝の背中を叩く。
「クロスエンジェル…君、神帝フッドとも?」
ヤマト神帝が悲しそうにたずねると、クロスエンジェルはうなずいた。
「だって神帝フッドさんって賢くて、すごくHな裏ワザを知ってるんですの〜」
クロスエンジェルは赤面する。神帝男ジャックはハッとなった。
「えっ?てことはオイラにしたあのワザも…」
「じゃ、僕にしてくれたアレも…?」
「俺にしたあの体位もか?」
「ぜーんぶ神帝フッドさんに教えていただきましたの」
「なにぃ!?」
愕然とする一同。その時だ。
『ピ〜ヒャララ〜〜♪』
突如、暗闇から、笛の音が聞こえてきた。
神帝たちは顔を見合わせる。
「…なぜここで笛の音が聞こえてくるんだ?」
「…もちろん理由は一つしかないだろ」
「てことは、彼も…?」
「へっ?ま、まさか…!!」
口々に言い争う神帝。
その前に、下ぶくれの頬を持つ人影が現われた。
「牛若神帝!」
「皆さん、こんな深夜に何をしているのですか。明日の戦闘に差し支えますよ」
牛若神帝が厳しい声で言った。
「彼はクロスエンジェルとは無関係みたいだよ」
ヤマト神帝が小声でささやくと、神帝フッドは首を横にふった。
「どうだろう。本人に直接聞いてみたらどうだい」
「そ、そんな!いきなり聞くのは…」
「じゃあ俺が聞いてやるよ」
一本釣神帝が申し出た。
「そうか、君は牛若神帝とは親友だったよね」
うなずくヤマト神帝。
「でもデリケートな問題だから、うまく聞かないとダメだよ」
神帝ピーターが心配する。
「そうだぞ、大丈夫か?さりげなーく聞き出すんだぞ」
「直接的なことを言ってはダメだよ」
みんなが口々にアドバイスし出すと、一本釣神帝は肩をすくめた。
「わかってるって。ちゃんとさりげなく聞き出すよ」
「ならいいけど…」
皆が不安そうに見守る中、一本釣神帝は牛若神帝に向き直ると、口をひらいた。
「えっと、お前クロスエンジェルとヤッた?」
「一本釣神帝ー!!」
「お前ってヤツは!?」
神帝たちの咆哮が、飛び岩の中に響き渡る。
一本釣神帝は怪訝な顔をした。
「は?何怒ってるんだ?」
「もう、いい…」
ヤマト神帝はがっくりと肩を落とすと、クロスエンジェルを見た。
「君、牛若神帝とも関係があるの?」
「はいの」
クロスエンジェルは恥ずかしそうにうなずいた。
「最初からクロスエンジェルに聞けば良かったのに」
「しーっ!」
神帝フッドのつぶやきを、神帝ピーターがたしなめた。
ヤマト神帝はうつむいた。
「クロスエンジェル。一応聞くけど…どうして?」
クロスエンジェルは小首をかしげた。
「だって…えーと、なんだっけ?」
ガクッ、と転びかける牛若神帝。
「あの…念のために聞きたいんだけど…」
ヤマト神帝がおずおずと切り出す。
「クロスエンジェル、まさか君、アリババ神帝とは何もないよね?」
「はいですの〜」
クロスエンジェルがうなずいた。
「よかった…。そ、そうだよねー。アリババ神帝は、今いないし…」
「そうですのよー。騎神アリババの時にしたっきりですの」
「してるのかよ!」
神帝男ジャックが口から泡を吹いた。
「え、ええっ!?君、若神子の頃からアリババと!?」
ヤマト神帝は驚いた。
「まあの、他の皆さんとも若神子の頃からですのよ」
「……。」
ヤマト神帝はクラッとめまいがした。
「で、騎神アリババとはどういう理由で…」
気力をふりしぼりたずねると、クロスエンジェルはもじもじとした。
「本当に馬並みかどうか、試してみたかったんですの!」
「あ、あの…クロスエンジェル?」
ヤマト神帝の目が点になった。その後ろから
「で、どうだったんだい?あいつのブツは」
神帝フッドが真顔でたずねる。
「神帝フッド!そういう事は…」
「よさないか、レディに対して」
他の神帝があわてて止めたが、
「はいの、馬並みでしたの!」
クロスエンジェルはケロッと答えた。
「そ、そうかー、馬並みかー。あははははー」
ヤマト神帝がうつろな目をして笑った。
「大変だ!ヤマト神帝が壊れたっ」
「大丈夫かヤマト神帝?しっかりしろっ!」
「畜生、お前の死を無駄にはしないぜ」
「まだ生きてるよっ」
辺りは蜂の巣をつついたようなパニックに陥った。
その時だ。
「おやめなさい、皆さん」
静かだが、凛とした声が響き渡る。
見ればそこに、派手なクジャクの尻尾を持ち、
くちばし型のサンバイザーをかぶった男性がたたずんでいた。
「ヘッドロココ様!!」
神帝たちはシーンと静まり返る。
ヘッドロココはコツコツと足音を立てて、神帝たちに近寄った。
「先ほどまでの件、すべて聞かせてもらいました」
うなだれる一同。
「あのー、一体どのへんから聞いていらっしゃったのですか…?」
ヤマト神帝がおそるおそる尋ねる。
「『ああんっ、ダメですの!みんなが起きちゃいますの』の辺りからです!」
「ぼ、僕とクロスエンジェルがエッチしてた時からじゃないか…」
ヘッドロココのきっぱりした返答に、ヤマト神帝が顔をひきつらせた。
「今夜は私が宿直だったので、たまたま聞こえてしまったのです。
別に毎晩耳をすませているわけではありません!
昨夜の神帝男ジャックの時も、眠くなったので二回戦までしか聞いていません」
「オ、オイラのも聞いてたのか?」
「ていうか、毎晩聞いてるんじゃねーか?」
神帝男ジャックと一本釣神帝がひそひそとささやき合う。
ヘッドロココは、ぐるりと神帝たちを見回した。
「いいですか皆さん。私たちの使命は、次界へたどり着くことです。
今は女の子のことでケンカをしている場合ではありません。
それにクロスエンジェルとエッチしたって、そんなに気持ちよくありません」
ヘッドロココの言葉に、神帝たちの間にどよめきが走った。
「ええっ!?まさか、ヘッドロココ様までクロスエンジェルとHを…?」
「まさか、そんな…」「信じていたのに!」「ヘッドロココ様!!」
涙を流す神帝たち。ヘッドロココはそんな彼らを優しく見つめた。
「皆さん、クロスエンジェルなんて、数多い女性のうちの一人にすぎないのです。
例えば、アソコの相性は私の場合、芸助の方が数倍上でした。
しかし快感でいえば、聖ウォーマン三人からの攻めにかなうものはありません」
「ヘッドロココ様…いつの間にそんな…?」
「この苦しい旅の最中にも、そんな夢のような…!!」
「聖ウォーマン三人と…じつにうらやましい…」
神帝たちが口々につぶやく。
「さあ皆さん。古いしがらみは捨て、新たなロマンスをめざすのです!
こんな所でぐずぐずしている暇はありませんよ」
「はいっ、ヘッドロココ様!!!」
ヘッドロココが飛び岩の外へ飛び出し、神帝たちもそれに続いた。
中には、クロスエンジェルだけが残った。
「はらはら〜?どうなっちゃったんですの?」
クロスエンジェルは首をかしげる。
と、外から誰かが入ってきた。
「だ、誰ですの?」
「僕だよ、クロスエンジェル!」
ヤマト神帝だった。
彼はクロスエンジェルに歩み寄ると、優しく肩を抱き寄せた。
「皆さんと一緒に、行かなかったんですの…?」
「行くわけないじゃないか?君がいるのに…」
ヤマト神帝はクロスエンジェルの瞳を見つめた。
「君が誰と何をしたって、僕の気持ちに変わりはないんだ。
ちょっと…寂しいけど…」
「ヤマト神帝さん」
クロスエンジェルはヤマト神帝の胸に顔を埋めた。
「やーっぱり私には、ヤマト神帝さんしかいませんの」
それを聞き、ヤマト神帝は寂しげに笑った。
「…無理にそんな事いわなくてもいいんだよ、クロスエンジェル」
「いいえ、本当ですの!…そりゃあ」
「そりゃあ?」
「もっとカッコイイ人や、もっと賢い人や、もっとたくましい人や、
もっとすばしこい人や、もっと馬並みな人や、もっと…えっと、何だっけ?」
クロスエンジェルは言いながら首をかしげる。
「とにかく、ヤマト神帝さんはHがヘタだけど、
誰よりも一生懸命にしてくれますの!
私はそんなヤマト神帝さんが、だーいすきなんですのっ!!」
「はは…それって、褒め言葉なのかなあ…?
でも、ありがとう。僕もクロスエンジェルが大好きだよ」
ヤマト神帝は、クロスエンジェルをギュッと抱きしめた。
「あ…なんか、もう一回したくなっちゃったなあ。
いい?クロスエンジェル…」
「まあの、こんなに固くなってますの…
ヤマト神帝さんてば、Hですの…」
崩れるようにして、重なり合う人影。
やがて飛び岩の中にはあえぎ声が響きわたり、
二人は朝になり皆が戻るまで、何度も快楽の絶頂へ登りつめた。
(完)