休憩時間を利用してマチルダとミハエルがいっしょに外に出たのは、  
まだ日も高い時間帯のことだった。  
柔らかい下草に隣りあって腰掛ける。  
「合宿って、とっても楽しいのね」  
森の空気がおいしくて、マチルダは大きく深呼吸する。  
ミハエルはそんなマチルダの姿を見て、小さく笑った。  
「まったく……あんなに楽しそうなマチルダを見るのは初めてだな」  
「そう?」  
「今までずっと男だらけのチーム内で頑張ってたんだもんな。  
 ……やっぱり、女同士で騒いでるの、楽しそうだ」  
「うん、あのね、わたし、あんな風に女の子で集まってわいわいやるの初めてで、すっごく楽しい!」  
木漏れ日が彼女の可愛らしさを強調するようにきらきらと降り注いでいて、ミハエルは目を細める。  
「良かったな」  
「うん! 特にね、fサングレのジュリアさん! わたし世界大会の時からずうっと憧れてて、  
 実際お話ししてみたらやっぱり素敵な人で、もう、こんな風に仲良くできるのが嬉しくって!  
 せっかくのチャンスだもの、もっともっと、お話ししたいな」  
チャンス。その言葉に、ミハエルははたと気付いた。そう、今、マチルダとふたりっきりなのだ。  
これをチャンスと言わずして何と言おう。シチュエーションだってバッチリだ。  
木漏れ日溢れる自然豊かなこの場所で、マチルダに言ってしまおう、君が好きだ、と。  
考えてみれば今ここでの自分たちはバルテズソルダというチームではないのだ。  
つまり、チーム内でのお約束、抜け駆け禁止というのももう自分には適用されないはず。  
 
  悪いな、クロード、アーロン……マチルダの恋人になるのは俺だ!  
 
かなり都合のいい方向で考えをまとめたミハエル。  
もったいぶるようにあさっての方向に目を向けて話を切り出す。  
「と、ところでマチルダ……今、ふたりっきりだな……」  
マチルダは何も言わない。  
「こんな時に、こんなことを言うのはあまりよくないかもしれない……でも、  
 そんな風にはしゃいでる君を見てたら……我慢できなくなってしまったんだ」  
マチルダはやっぱり、何も言わない。  
「マチルダ……俺…俺、君のことが好きなんだ!」  
振り返り、マチルダの肩をがっしと掴もうとして……その手はむなしく空を切った。  
「あ、あれ…」  
 
「じゃあねー、ミハエル、頭脳労働がんばって!  
 わたし、このチャンスを逃さないようジュリアさんともっともっとお話ししてみる!」  
 
マチルダはとっくに立ち上がり、駆けだしていた。  
爽やかなそよ風が木の葉をなぶって、、ひどくわびしいかさかさという音を立てる。  
 
「そりゃないぜ……」  
 
ミハエルは、がっくりと肩を落とした。  
 
 マチルダは、とぼとぼと歩いていた。  
ジュリアと話がしたくて、それで心当たりを探して回ってようやく彼女を見つけたとき。  
見てはいけないものを、見てしまった。  
 
  ジュリアさん、キス、してた……。  
 
弟とつるんでいることの多いジュリアは、今日もラウルといっしょにいた。  
いっしょにいて……そして抱き合ってキスしているところを、マチルダは見てしまったのだ。  
それも、恋人同士がしているような濃厚なキスを。  
あの2人が正真正銘血を分けた姉弟であることはもう見た目からして間違いない。  
けれどあんな、姉弟でするはずの無いようなキスをしていたということは。  
つまり、ジュリアはラウルのことが好きなのだろう、男の子として。  
ラウルが血を分けた双子の弟である以上、彼がジュリアにとって特別な存在なのは  
ある程度は仕方のないことなのだろうとマチルダは思っていた。  
そのラウルが異性としても特別なのだとしたら――特別の特別、特別の二乗な存在だ。  
そんな相手に、マチルダが勝てるはずはない。  
マチルダは、ジュリアのことが好きだった。恋と呼んでいいほどに、好きだった。  
いやむしろ、それはもう恋そのもの。  
男の子に囲まれた環境でブレーダーとして頑張っていたマチルダにとって、  
ジュリアは密かな憧れだった「お姉さま」そのものの存在だったのだ。  
強くて、格好良くて、美人で――それにとても、優しい。  
いつも仲の良さそうな双子の弟に、密かな嫉妬心を抱いてしまったのは本当。  
でも頑張れば、同性の友達として、ラウルと同等の「特別」になれるんじゃないかと思い、  
彼女が自分のお姉さまになってくれたら、と控えめな妄想に耽っては頬を赤らめていたマチルダ。  
その妄想も、もう手が届かない夢の国のおとぎ話。  
 
 いつの間にか、マチルダは女の子達で使っている寝室まで来ていた。  
夜寝るとき以外でこの部屋に用なんてないので、中には誰もいない。  
マチルダはまっすぐに、ジュリアの使っているベッドに向かう。  
もうとっくに温もりを失っている布団を掻き抱き、その匂いを嗅いだ。  
 
  ジュリアさん……ジュリアさんの匂い、ちょっとだけするような気がします……。  
 
胸がせつなくなって、そのままベッドにころんと寝そべってしまう。  
ここでジュリアが寝ていたんだ、と思うと、なんだかドキドキしてきた。  
下腹部に熱が集中しだす。  
視界の端に黒っぽい糸のようなものを捉えて、指でつまんでみた。  
 
長い栗色の髪の毛。  
間違いない、これはジュリアの髪の毛だ。  
 
確信した途端、おとなしいマチルダの理性の糸が、ぷつん、と切れた。  
 
「ジュリアさん……今、何してるんですか……?」  
呟き、つまみ上げた長い髪にそっと舌を這わせる。  
自分は痴女なのだろうかと少しだけ思い、けれどマチルダはその行為をやめることができなかった。  
開いた方の手を服のウエスト部分から下着の中に突っ込む。  
ほんの少しだけ、股の間が湿っているのがわかった。  
 
  ジュリアさん。今、何してるんですか?  
 
  ラウル君と、エッチなことしてるんですか?  
 
  ラウル君に、こんな風にここに触ってもらってるんですか?  
 
憧れの女性の痴態を妄想することへの罪悪感が、今のマチルダにはたまらない快感で。  
もどかしげに指を這わせ、敏感な割れ目をぐりぐりと刺激する。  
「きゃうっ!」  
割れ目の先にある小さな突起を擦ると、腰が大きく跳ね上がった。  
 
  ジュリアさん、ジュリアさんもこうすると、こんな風になるんですか?  
 
  ひとりでこんな風にいじったりするんですか?  
 
  ……弟さんのこと、考えながら。  
 
自分で考えたことに、マチルダはたまらなく苦しくなった。  
ジュリアの髪を唇に咥え、その手でシャツをまくり上げる。  
キャミソールとブラジャーを少しばかり強引にたくし上げて、膨らみかけの胸をいじる。  
「ふゃ、いやです、ジュリア、さ……っあん、わ、わたしも……!」  
 
  わたしだって、ジュリアさんが好きです。ジュリアさんとエッチなこと、したいです。  
  ジュリアさんに触りたいです、ジュリアさんに触って欲しいです……!  
 
快楽と、そして外気に触れた生理的反応で硬く尖った乳首を摘み上げる。  
「きゃっ、あぅん、だめぇ…! わたし、おかしくなっちゃいますっ、ジュリアさん!」  
硬く閉じた瞼の裏に、マチルダは憧れの女性を映し出し、彼女に触れられることを想像した。  
「あはっ、あぁぅ、そんな、激しくしちゃ……っ」  
自分の意志で動かしている自分の手。妄想の中では、それはジュリアの手。  
割れ目に沿って滑らせていた指を、躊躇わず膣内に潜らせる。  
「はあっ、あん、あぁんっ、だめです、だめ、だめぇっ、あぁ、あはあぁんっ!」  
片手で秘所を、反対の手で乳房をいじりまわし、腰をくねらせるマチルダの姿は、  
普段の可憐な彼女からは想像も付かないほど淫らだ。  
 
 
ぐちゃぐちゃに蕩けた秘所でいやらしく蠢く指は、どんどんその激しさを増していく。  
妄想の中で、ジュリアが優しく微笑んでマチルダを導く。  
 
「はあっ、はあっ、はあっ、ジュ、ジュリア、さ…ぁ! ああっ! んああーッッ!!」  
 
絶頂を迎えると共に、乳首を弄っていた手が胸から離れ、  
今、現実にはこの場にいないジュリアを求めて宙を彷徨う。  
 
その手は勿論、何も掴むことなく虚しくベッドに落ちた。  
 

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