常日頃から些細なことで泣いてしまうたちだったせいか、
あの時自分がどうして泣いていたのか、ラウルはもう覚えていなかった。
けれど確かあの時は、どうしても我慢できないくらい辛いことがあって、
いつものようにジュリアが抱きしめて頭を撫でてくれてもちっとも泣きやめなくて、
だからひょっとしたら思い出すのも辛いこととして封印してしまったか、
もしくはその後の出来事があんまり強烈すぎて記憶がぼやけてしまったのかもしれない。
とにかく、その出来事があった時、彼は泣いていた。いつものように。
「…まーだ泣いてるの?」
呆れたような、けれどとても優しい声音でジュリアが呟く。
ラウルは答えるかわりに大きくしゃくり上げた。
どこの部屋だかすら覚えていなかったけれど、ふたりはソファに座っていた。
ラウルはジュリアの胸に顔を押しつけるようにして泣いていて、
ジュリアはそんなラウルの頭に顎を乗せて時折背中を撫でていた。
「……」
おもむろに、ジュリアがラウルの肩を掴み、からだを引き剥がした。
驚いて縋り付こうとする弟の顔を両手でそっと挟む。
ほっぺたを引っぱられるのかもしれないと思い、ラウルは身構えた。
けれどジュリアはただ、ラウルの濡れた頬を優しく撫でるだけ。
なんだか気持ちよくて目を閉じたラウルの唇に、ジュリアが自分のそれを押しつけた。
「んっ……?」
最初は少し驚いたけれど、これも気持ちよかったので、ラウルはおとなしくしていた。
ジュリアの唇は柔らかくて、熱っぽくて、それになんだか甘くて、
そういえば唇同士のキスなんてこれが初めてなんだということに思い至る。
僕たち姉弟なのにこんなことしていいのかな、と少しだけラウルは思った。
ほんの、少しだけ。
ラウルの肩が、ぴくっ、とわずかに震えた。
口の中に、ぬるぬるした何かがさし込まれた。ぬるぬるした――ジュリアの舌。
唇の裏側や歯列を優しくなぞられて、なんだかどきどきしてくる。
ちゅるん、と舌を絡め取られて、ジュリアの温かい唾液が自分の口の中に
流れ込んできたけれど、不思議と気持ち悪くは感じなかった。
むしろとても気持ちいい。意識が吹き飛びそうなくらい。
時々せつない息を漏らしてますます強く唇を押しつけてくる姉の、
その吐息すら全部絡め取ってしまいたいほど、ラウルはいつの間にか興奮していた。
ずっと続けていて欲しいのに、息が苦しくて仕方なくなってきた。
顔に血が上る。我慢できず、ジュリアを押しのけて新鮮な空気を吸い込んだ。
「ご、ごめん、お姉ちゃん…でも、く、くるしくて……」
吸って、吐いてを何度か繰り返して呼吸を整えていると、
不意にとんでもない場所に触れられる感覚が走った。
「な……」
股の間を、ズボンの上から撫でられている。
「だ、だめだよそんなところ…お、お姉ちゃん……!」
ズボンのベルトに手をかけられ、焦ったラウルはジュリアの肩を掴もうとした。
けれどジュリアはそれをするりとかわし、ラウルに軽くキスをした。
それからとびきり優しい、ラウルにしか見せないような微笑を顔に浮かべる。
「いいから」
何がどういいのかさっぱりわからなかったけれど、
めったなことでは見られないその笑顔でラウルは何も言えなくなってしまった。
ジュリアはラウルの頭をそっと撫でながら立ち上がった。
そのまま床に膝を突き、ラウルの前に跪くような格好になる。
心なしか少し突っ張っているように感じるズボンの前部分。
そこを姉にじっと見られて、恥ずかしさでラウルの顔が真っ赤になった。
ズボンの前が開かれて、恥ずかしい場所に直に触れられてしまう。
そこは少しいつもと様子が違っていて、なんだかちょっと硬くなっていた。
「ぁ…! き、汚いよ、そんなこと……っうぁ!」
何度か握ったり放したりして、硬さの増したそこにちゅっと口づけ、舌を這わせるジュリア。
初めての刺激にラウルの背中がびくんと震える。
今されていることが、とてもエッチなことだというのはラウルにもわかる。
けれど姉が自分の汚いところを優しく舐めてくれているという事実に、
なんだかとても心が安らいだ。
このひとは僕のためにこんな汚いことも自分からしてくれるんだと思うと
とても幸せな気持ちになれた。
「ぁぅ…お、おねえ、ちゃん…」
息が熱くなるのがわかる。
先端を口に含まれ、熱い舌で転がされてラウルは呻いた。
細くて柔らかい指が、むき出しの部分をあちこちつつきまわして刺激する。
「う、あ、だめだよ、だめだよ、お姉ちゃん、だめだよ…」
硬くなるのと同時に大きくもなっていた性器をどんどんくわえ込まれて、
うわごとのように何度も「だめだよ」を繰り返す。
ジュリアの口の中は熱く濡れていて、とても優しい感触がする。
こんなものに全部包み込まれたら、自分の頭はおかしくなってしまうかもしれない。
頭の中の何もかも全部が姉のことしか考えられなくなってしまうかもしれない。
ラウルがそんなことを考えるうちにも、ジュリアは彼の性器を根元に向けて
ゆっくりと咥え込んでいく。
もうこのままこのひとに食べられてしまってもかまわない、と思った。
そんな、熱に浮かされたようにぼんやりした目で、
自分の性器を口に含んでいる姉の姿をじっと見つめた。
視線に気付いたのか、ジュリアが上目遣いでちらりと一瞬だけラウルを見た。
その瞳の優しさに、ラウルの胸は何故か締め付けられた。
口全体で吸い上げられて、自分のものがぴくぴくと動くのをラウルは感じた。
「あ、おね、おねえちゃん、もう、いいよ…」
それが何なのか具体的にはよくわからなかったけれど、
もう少しで何かがそこから出るんだという感覚があった。
そして、今のままだとジュリアの口の中にそれを出してしまうということも。
さすがに尿ではないだろうがそれにしたってこんな場所から出るものは
綺麗なものではないだろうと思い、そんなものを姉に飲ませるわけにはいかないので
ラウルはめいっぱいジュリアの頭を押しのけようとした。
驚くほど力が入らなくて、その試みは失敗に終わってしまったけれど。
「ラウル…出るの?」
自分から唇を離して、ジュリアが問いかける。
こんなことをするくらいだから彼女は当然これから何が出るのかわかっているのだろう。
「う、うん…だから、もうっ…!?」
安心して答えた途端、ジュリアは再びラウルのものに口付けた。
舌先で先端をつつかれ、ちゅっと吸い上げられて、
油断したところの不意をつかれたラウルは唐突に限界に達してしまった。
「ぅあ…!」
自分が呻いたのはわかった。
でもそのあとのことは、もう頭が真っ白になって、よくわからなかった。
少しして我に返ると、ジュリアがハンカチで口元を押さえていた。
よく見ると、口に含んだものを零さないようハンカチに染み込ませているようだ。
ラウルは自分がジュリアの口の中に何か出してしまったことを思い出し、
慌ててジュリアの腕を掴む。
「ん…何よ」
彼女の手にしたハンカチに顔を近づけると、なんだかいやなにおいがした。
「お姉ちゃん……ごめんなさい」
「なんで謝るのよ」
「だって、こんな……なんか、僕、お姉ちゃんに変なの飲ませちゃった…」
「飲んでないわよ」
「でも、口の中に出したんだから、ちょっとは飲んじゃったでしょ?」
「そりゃ、ちょっとは……でもあんたが謝ることじゃないでしょ」
ジュリアはちょっと苦笑して、ラウルの頭をぽんぽん、と叩いた。
「元気、出た?」
「……うん……ありがとう、お姉ちゃん」
実際泣きやむことが出来たのは一連の行為のお陰なので、
ラウルは素直に感謝の言葉を述べた。
むしろ疲れたような気がするのは、きっと言わない方がいいのだろうと思った。