これは夢の続きなのかもしれない。ぼんやりした頭でジュリアは考えた。  
だってこんな展開は、現実だと信じるのにはあんまり出来過ぎな気がして。  
 
ラウルと「愛し合う」夢を見て、それで股間を濡らすのは、今回が初めてではない。  
目を覚ますたび、夢だったことに安堵し、同時にほんの少しだけ残念に思い、  
そしてそう思ってしまう自分を最低、と罵る。  
だから今日、そんな夢を見て跳ね起きた先にラウルがいたのはきっと、  
この悪しき習慣を断ち切るチャンスなのだと思った。  
はっきりとラウルが拒絶してくれさえすれば、きっともうそんな夢なんて見ないと思った。  
今まで通り、ただの弟として、ジャグリングのパートナーとして彼を見られるようになると思った。  
なのにラウルは、ちっとも拒絶してくれなかった。  
拒絶してくれないから、ジュリアはどんどん自分を傷つけた。  
いっそめちゃめちゃに傷ついてしまえばもう懲りて、  
ラウルに対してそんな感情を抱くこともないだろうから。  
どんなに傷ついても、それはきっと弟に対しておかしな感情を持った罰なのだとジュリアは納得できた。  
そして自虐的な感情はどんどんエスカレートし、  
およそ想像もしなかった形での処女喪失にまで及んでしまった。  
 
「僕は、ただ、姉さんのことをもっと、愛したかったんだよ……」  
「愛してるんだ、姉さんのこと……だから、姉さんの気持ちも、教えてほしい」  
 
耳を疑った。  
 
  愛してる?  
 
  私を?  
 
  それは、女の子として?  
 
  だったら――ラウルも、私と同じ気持ちなの?  
 
実際にラウルと繋がっている部分からくる痛みがなければ、  
これも全部夢なのだと思ったであろうほどに、甘美な響きの言葉。  
自虐的な心が押し込めていたものが全部溢れ出してしまった。  
 
  どうしよう……嬉しい。  
 
けれどジュリアはどうしても、素直になれなくて。  
ラウルはそんなジュリアに、不器用な言葉で気持ちを伝えてくれた。  
だからジュリアも、精一杯、不器用に気持ちを伝えた。  
抱きしめられて、愛してる、と言われて、ようやく気持ちが吹っ切れた。  
優しく揺さぶられて、気を使われて、痛いのにとても幸せだった。  
背中をゆっくり撫でてくれるラウルの手が心地よかった。  
自分の体でラウルが気持ちよくなってくれることが、嬉しかった。  
そんなつもりなんて全くなかったのに、いつの間にか涙腺から熱いものがこぼれ落ちていた。  
 
 この奇妙な浮遊感。まるで、自分が自分でなくなってしまったよう。  
 
唇で涙を拭ってくれるというシチュエーションがドラマチックすぎて、  
やっぱり夢なのかもしれないといぶかしみ、  
ジュリアはそっと股間に意識を集中して痛みを確認した。  
 
 目尻から頬にかけての涙を拭っていたラウルの唇が耳たぶを掠める。  
「ふあ……」  
信じられないほどの気持ちよさに、思わず甘ったるい声が出た。  
そのまま舌先で耳の輪郭をなぞられるともうそれだけで体の力が抜けて、  
くたりとラウルに身を預けてしまう。  
「姉さん、血、拭くから…ちょっと我慢して……」  
「え……ちょっと……」  
言いながら、ラウルがズボンを脱ぎだしたので、ジュリアは面食らった。  
「僕のはもうシミができちゃったから」  
そう言われてみれば、股のところに黒い染みが広がっている。  
ラウルは脱いだズボンを適当に丸めると、ジュリアの内ももを伝い落ちる  
血と精液の混じったものをそっと拭った。  
「ん……くすぐったい」  
内ももを撫で上げられ、全身がぞくぞくした。  
自分がものすごく敏感になっていることがわかる。  
くすぐったいのではなく気持ちいいのだとジュリアは自覚した。  
「ふ…」  
傷ついた秘所に優しく布地を押し当てられて、思わず声が漏れる。  
事後処理でまで気を使ってくれることが、素直に嬉しかった。  
「立てる?」  
「……無理かも」  
弟に甘えさせてもらう日が来るなんて思ってもみなかった。  
支えてもらいながら立ち上がり、ジュリアはベッドに倒れ込む。  
シーツの上に俯せでいると、ラウルに抱き起こされた。  
踵で引っかけてしまった、乱れた毛布が床に落ちる。  
 
「ちょっと、狭いね」  
当たり前だ、シングルベッドなのだから。2人で寝るようにはできていない。  
けれどラウルのその言葉にはどこか寂しげな響きがあった。  
そういえば、ラウルが最後に「いっしょに寝たい」と言ってきたのはいつだったか。  
ジュリアはもう、思い出せなかった。  
 
それはなんだか、とても寂しいことのような気が、する。  
 
仰向けに寝かされて覆い被さられると、自分と大して変わらない体格のはずの弟が  
それでもジュリアが思っていたよりはしっかりした体をしていることに気付いた。  
「ラウル、あんた……」  
「ん? なに?」  
「……あんた、男の子なのよね」  
当たり前の事実を確認するように呟けば、ラウルはちょっと困ったように微笑む。  
「うん、男だから……だから、女の子がどうすれば気持ちいいのか、よくわからないんだ」  
ラウルがしてくれることなら何でも気持ちいい、なんて恥ずかしすぎて言えなくて。  
「……あんたの好きにして」  
……言ってから、かえって恥ずかしい台詞になってしまったかもしれない、と思った。。  
それでもラウルは察したのか、優しくジュリアに口づける。  
触れるだけのキス。  
それでもただそこに想いが込められているというだけで、蕩けそうなほど気持ちよかった。  
体が熱い。  
無意識に、内ももを擦り合わせてしまう。  
唇を重ねているだけなのに。  
舌だって使っていないのに。  
 
「ひぅ…っ」  
喉から変な息が漏れる。  
ラウルが、ジュリアの首筋に舌を這わせたので。  
そのまま鎖骨の線にそって、ついばむように口付けられる。  
ラウルの唇が触れるたび全身が跳ねて、  
もう自分は敏感を通り越して淫乱になってしまったのではないかとジュリアは心配になった。  
「ぃたっ」  
布越しに胸を触られて、ジュリアは小さく呻く。  
まだ膨らみかけの胸は細心の注意を払って触れないと、どうしても、痛い。  
「ご、ごめん!」  
慌てて体を離したラウルの手を掴み、脇下に誘導した。  
仰向けになっているので横に流れた乳房が、微かに彼の手のひらに触れる。  
「ここ……撫でるみたいに、するの……そしたら、痛くないから……触って」  
弟に、こんな風にものを頼むのは初めての経験だ。  
ほとんどの場合、ジュリアは頼むというよりも半ば強制する形で、ラウルを使っていた。  
「してほしい」ではなくて、「させたい」だったような気がする。  
それに気付いて、ジュリアは急に燃えるような羞恥心に襲われた。  
今の自分のあまりの弱々しさに、困惑してしまう。  
自分で言うのも何だけれど、もっと毅然とした人間だったはずなのに。  
よりにもよって、弟の前で、こんなに弱い姿を晒しているなんて。  
 
けれど、ほんの少しだけ……頼ってしまいたい気持ちが、確かに、ある。  
 
壊れ物を扱うように撫でられる、ふたつの胸の膨らみ。  
緩やかな快感が、頭と、それから脚の付け根の間に伝わる。  
「はぁ……ん」  
困ったことに、布越しでは少し物足りなくなってきてしまった。  
だからといって、直接触って欲しいとは、今のジュリアには言いづらい。  
服の上からでもこんなに気持ちいいのに、直に触られたりしたらどうなるかわからない。  
胸だけじゃなく、そう、既に一度指と舌でさんざん弄られた、股の間の割れ目だって。  
今同じようにされたら、多分あの時よりももっとずっと気持ちいい。  
それはきっと、想像もできないような激しい快感。耐えられるかどうか、わからないほどの。  
ジュリアは少し怖くて、だから言い出せず、もどかしい快感に脚を擦り合わせた。  
「あぁっ!」  
すっかり硬く立って、布地を押し上げていた乳首を摘まれる。  
なるべく乳房を圧迫しないようにしているのか、ラウルは指先だけでそこを捏ねる。  
「あ、は、だめ、だめぇ…あぁ、はあぁん!」  
女の子の悦ばせ方を知らないなんて絶対嘘だと思ってしまうほど、  
ラウルの指の動きひとつひとつがいちいち気持ちいい。  
これまでと全く違う強い快感に、ジュリアは何度も体を痙攣させた。  
「はぁ、はぁ…」  
「……」  
不意にラウルが起きあがり、ジュリアが全身に感じていた重みが離れた。  
「姉さん、脱いで……僕もちゃんと脱ぐから」  
言いながら、ラウルは自分の寝間着のボタンを外し始める。  
 
ブラジャーは、寝間着の下には着けない。ショーツは、さっき脱ぎ捨てた。  
だから、今着ているネグリジェを剥ぎ取ってしまえばもう、ジュリアの身を隠すものは無くなる。  
躊躇ったのは、ほんの一瞬だった。  
どうなるかわからない不安と、とにかく直接触って欲しいという欲求とがせめぎ合い、  
僅差ではあったけれど後者が、勝った。  
 
 カーテンの隙間から漏れる月明かりが、ちらちらと互いの裸身を照らす。  
「姉さん、綺麗」  
「……」  
裸を見られるなんて、別に初めてではないのに、ジュリアは恥ずかしさに黙り込んだ。  
「姉さん、綺麗」  
もう一度言って、ラウルはジュリアの首筋に口付ける。  
「んん……」  
軽く肌を吸われて、初めての感触に背中がぞわぞわした。  
そのまま、今まで露出していなかった部分への愛撫が始まる。  
「ひゃっ、ゃ…っ」  
二の腕の柔らかいところと、ウエストの、一番くびれている部分。  
その2ヶ所に吸い付かれると、ジュリアは他の場所に触れられる以上に大きな声が出た。  
わけのわからない「ぞわぞわ」が全身に広がるその場所は、くすぐられるとどうにも辛抱できないところ。  
触られただけでくすぐったくてどうしようもない場所というのはつまり、  
こういうときに触られると気持ちよくてどうしようもない場所なのだということをジュリアは知った。  
ラウルもそれがわかったのか、それとも単にそこに触るとジュリアの反応が違うことがわかったからか、  
左右の同じ場所を何度も吸い、時折舌でつうっと舐めあげた。  
くすぐったくて、でも気持ちよくて、ラウルの頭を掻き抱く。  
「あぅっ、あ、ふあっ、そこ、だめぇ…! ひあっ!」  
直接乳首に触れられ捏ね回された上、舌で舐められてジュリアは叫んだ。  
とんでもない快感。けれどここよりもっと敏感な場所があることを、ジュリアはもう知っている。  
それは勿論、ラウルも。  
膝を持ち上げられて、そのまま左右に脚を開かされてしまう。  
道路上で轢き潰されて干からびたカエルみたいな、無様な格好。  
股の間から、グロテスクな水音が出たのがジュリア本人にも聞こえた。  
自分では見えないけれど、そこがぐちゃぐちゃに濡れてぱっくり口を開けていることがわかる。  
自分から押し倒して強要したときには、気持ちが高ぶっていたこともあり何とも思わなかったのに、  
今逆に押し倒されてこうしてじっくり見られると、ものすごく恥ずかしい。  
月明かりが結構眩しくて良かった。  
もし電気の灯りの下でこんなことになったら、たぶんジュリアは恥ずかしすぎて、死んだ。  
 
ラウルが、味わうようにゆっくりと、唇全体でそこを包み込み、割れ目に沿って舌を動かす。  
ジュリア自身から溢れさせたものと、先ほどラウルが出したものが混ざり合っている上、  
出血というトッピングまで付いたそこの味は、たぶん大変なことになっている。  
けれどラウルに躊躇った様子は見られなかった。  
ここのいじり方は、もう一度経験しているからわかっているはず。  
なのにラウルはいたわるように優しく舐めるだけで、それ以上のことはしようとしなかった。  
「んんっ……はあ……っ」  
胸を撫でられた時と同じ、緩やかな快感。時折ラウルの鼻息が敏感な場所にかかり、  
たったそれだけの刺激にすらジュリアはびくん、と体を跳ねさせた。  
ラウルが顔を離し、クスリと笑う。  
「姉さん、魚みたいだね」  
たぶん、水中を優雅に泳ぐ姿ではなく…つり上げられてビチビチいっている姿と重ね合わせたのだろう。  
……確かに、されるがままになっている今の自分は、  
ラウルに釣られてしまったようなものかもしれないけれど。  
それにしたって、これは屈辱だ。  
「な、なんですって…ぇ、あっ、ひゃあん!」  
敏感な突起を指先でちょん、とつつかれ、反論を封じられてしまった。  
「こんな風に、僕が触るとびくってなるところとか」  
「ひうっ!」  
今度は唇で。  
「それから……姉さんがこんなに可愛くて、僕にされるがままになってるのとか、新鮮」  
「んっ……もうっ、調子に乗るんじゃないわよ」  
「ごめん」  
からかわれた。それも、弟に。  
すっかり立場が逆転してしまったことがかなり悔しく、そして恥ずかしい。  
ジュリアはもう一生分の「恥ずかしい」気持ちを今夜だけで消費してしまった気がした。  
それになんだか、そういう、物事を考える部分がちょっと、上手く働かなくなっている気がする。  
よくわからないぐるぐるした靄が、頭の中に広がっているような。  
 
唇が、重なる。  
予想通り、変な味がした。  
「あ…っ」  
ゆっくりなかに入ってきたラウルの指を、自分の体が抵抗無く呑み込んでいくのがわかる。  
粘膜の裂けているらしい場所が少し滲みたけれど、他は何ともない。  
「あっ……ん、んっ……ふ……」  
内側を撫で回すような動きに合わせて、鼻にかかった声が漏れた。  
腰が自然に動いてしまう。  
恥ずかしい。とんでもなく恥ずかしい。  
まだ2回目なのにこんなに反応して、これではまるで痴女だ。  
それともこれが、普通なんだろうか。  
そういう基準が頭の中にできているほどジュリアは耳年増ではなかったし、  
そうこうしている間にも、思考はどんどん麻痺していく。  
頭の中が「気持ちいい」と「恥ずかしい」でいっぱいになってしまう。  
「姉さん、すごい……ぐちゃぐちゃだよ。気持ちいいの?」  
ラウルが感動したように言う。  
なんて恥ずかしい質問をするんだとジュリアは思い、けれど怒りまでは感じなかった。  
「知らない……そんなの、知らないわよ……ぁ…」  
指がもう1本入ってきた。やっぱり、ちょっと滲みるだけ。  
「あ、ぁ…や、やだぁ、だめ、だめぇ」  
掻き混ぜられる音が自分にも聞こえてくる。  
なんてグロテスクで、卑猥な音。自分の体から、そんな音が出るなんて。  
そんな音が出るくらい、感じているなんて。  
あまりの恥ずかしさと情けなさで、ジュリアは涙ぐんだ。  
「どうしたの? 痛いの? 姉さん……」  
ラウルが驚いて指を抜いた。それを残念に思ってしまう自分が恥ずかしい。  
泣き顔をまじまじと見つめられる。  
「な、何見てんのよ! バカにしてんの? さんざん痴女みたいに喘いでたくせに、  
 感じまくってたくせに、こんな時に泣き出したりして、バカだと思ってんの!?」  
「そ、そんなこと思ってないよ」  
混乱している。感情のコントロールができない。思ってもいない言葉がこぼれる。  
悔しい。この局面で素直になれないことが、悔しい。  
 
不意に、頭を撫でられた。  
「泣かないで。大丈夫、恥ずかしくないよ、僕たち両想いなんだから」  
「え……」  
「僕だって姉さんに触ってもらって気持ちよかったんだから、おかしくないよ」  
「……」  
「それに僕、姉さんが気持ちよくなってくれた方が嬉しいし……ええと……」  
慰めの言葉が尽きてしまったらしい。  
けれど頭を撫でてくれる感触だけで、ジュリアは充分落ち着くことができた。  
今までしてあげる側だったので、気付かなかった。  
頭を撫でられるというのは、なんてすてきな感触なのだろう。  
髪の1本1本にまで神経が通っているような心地よさ。  
ラウルの手が、頭のてっぺんから首筋までを何度も伝うたび、唇からため息が漏れた。  
「ん、ラウル……」  
抱きつきたくて両手を差し出すと、背中に腕を回されて抱きしめられた。  
体重がかかって、少し、重い。  
でもジュリアには、その重みがひどく愛おしかった。  
もう本当に、すっかりあべこべな互いの立場。  
ラウルが片手を背中から頭の後ろに回して、また撫でてくれる。  
ジュリアはうっとりと、その感触に身をまかせた。  
 
「……」  
 
「……」  
 
しばらく抱き合ったままでいると、ラウルが何やらもじもじとしだした。  
「……何? どうかしたの?」  
「……あの……」  
ラウルはなおももじもじしながら、ベッドに肘をついて頭を上げる。  
「……僕、姉さんが気持ちよくなってくれればいいって思ってたんだけど……」  
切羽詰まったような表情。  
内ももに当たる、ごりごりしたもの。  
なんとなく、察しがついた。  
「……したいの?」  
ラウルが顔を真っ赤にして俯く。  
なんだか自分のペースに戻ったみたいで、ちょっと嬉しかった。  
「……うん。僕も、いっしょに気持ちよくなりたい……です」  
どうやらラウルは、最後までするつもりはなかったらしい。  
 
  ……ほんとに本気で、私のこと”だけ”よくするつもりだったのかしら。  
 
頬が緩む。微笑むのが、何故かとても久しぶりのような気がした。  
 
 
「いいわよ……来て」  
 
こんな機会でもなければ一生言いそうにない台詞。それがとても自然に出た。  
 
 
 ラウルが腰を擦りつけるようにして入り口を探る。  
なかなか見つけられないらしく、何度も割れ目の表面を往復する。  
さっきはジュリアの方からしたので、わからないのも仕方がない。  
とはいえ、じらされているような気分になったジュリアは、手を添えて誘導する。  
ばつの悪そうな顔をするラウル。  
この場にそぐわない、微笑ましい気持ちになった。  
 
「ん、ぅ…」  
 
ラウルがゆっくり入ってきた。  
意外なほどすんなりと、奥まで繋がる。  
 
予想していたのと、全く違う感触。  
無理矢理したときのようなとんでもない痛みはなかった。  
痛みがないからといって、劇的な快感があるわけでもなかった。  
入り口のところからは、ラウルの確かな質感がわかりすぎるほど伝わってくる。  
けれど奥の方はほとんど何も感じないのだ。  
こういうのが、普通なのだろうか。ジュリアにはよくわからなかった。  
 
ただ。  
 
のし掛かられた体の重み。  
至近距離で感じる息づかい。  
伝わってくる胸の鼓動。  
 
そういったひとつひとつが、ジュリアの知らない興奮をかき立てる。  
 
「大丈夫? 痛くない?」  
労るような声音。  
「ん、平気……ちょっと、滲みるけど……」  
「動いても?」  
「大丈夫、よ」  
正直に答えると、ラウルは安心したように微笑んだ。  
密着したままの状態で、繋がったところを揺さぶられる。  
「あ……はぁっ、あぅ、んっ!」  
痛みが無いせいか、敏感な突起が擦れる快感がダイレクトに伝わってくる。  
気を使って動いてくれているのがわかるけれど、それがかえってもどかしく感じられて。  
「ぁ、や、だめっ、やぁ……もっ…と……!」  
思わずしがみつき、自分から腰を擦りつける。  
「あぁ、はぁん、ラウ、ル、あっ……ラウル! ああっ」  
ジュリアの反応に気をよくしたのか、ラウルの動きが大きなものに変わった。  
密着していた腰が離れ、強く打ちつけられる。  
相変わらず奥の方は何も感じられなかったけれど、  
感覚のある部分は未だかつて無いほどの快感を得、それ以上のものを貪欲に求めている。  
ジュリアはもう本当に何も考えられなくて、ラウルの体のことも考えられなくて、  
しがみついた背中に爪を立ててしまう。  
ラウルは痛みで少し眉間にしわを寄せたけれど、そのまま抽送を続けた。  
彼も何も考えられなくなっているらしく、  
ジュリアのなかをめちゃくちゃに突き上げ、腰を押し付けてくる。  
 
部屋の中に響くのは、愛し合う男女が交じり合う音、それに合わせてベッドの軋む音、  
そしてジュリアの啜り泣くような喘ぎだけ。  
 
2人が繋がっているところも、2人の頭の中も、すでにぐちゃぐちゃに蕩けてしまっている。  
愛がどうとか、何のためにとか、そんなものはどこか遠いところに消し飛んでしまった。  
ただひたすらに、互いの何もかもを激しく求め合い、与え合う。  
ジュリアの体は自分のなかで動くラウルのものを逃がすまいときつく締め上げ、  
それが胎内に吐き出すものが欲しくて卑猥に蠢く。  
ラウルが動き出してから、まだそんなに時間は経っていない。  
なのに2人の主観では、もうずっと長いことこうしているような気がする。  
考えなしに動いていたおかげで、互いの限界は間近に迫っていた。  
「ねえ、さ…っ、僕、もう……!」  
「ゃ、やぁっ、ま……っ、わたし、わたし、も……!」  
汗でぬめる背中に必死でしがみつき、ジュリアは懇願する。  
「あぅ、あ、あと、ちょっと……なの! い、いっしょ、に……ぁん!」  
「うぅ、姉さん……いっしょ、に……」  
ラウルのものはもう痙攣を始めている。  
おいて行かれたくなくて、ジュリアは必死で腰を振り、自らを絶頂まで追いつめる。  
 
「はぁっ、あっ、来て、ラウル、来てっ! あっ、あっ、ああぁ……っ!!!」  
「んぅ……っく!」  
 
ラウルは健気なほどギリギリまで我慢していたようで、  
ジュリアからのゴーサインが出た途端に勢い良くぶちまける。  
 
ほぼ同時に達することができて、満足感にジュリアは息を震わせた。  
崩れ落ちたラウルの顔を掴み、強引に唇を重ねる。  
互いに息が上がっているので、あまり長続きしなかった。  
 
 夜中に体力を消耗しきったせいで、ものすごく眠い。  
けれどこのまま裸で寝てしまうわけにもいかないので、  
ジュリアはなんとか力の入らない腰を奮い立たせてネグリジェを着、  
脱ぎ捨てたショーツを拾って掃こうとしたら湿っていて気持ちが悪かったので  
そっちは袋に入れて荷物にしまい込んだ。朝になったら新しいものを出すことにする。  
 
ラウルの方は律儀にも荷物の中から新しい寝間着を引っぱり出していた。  
ベッドに乗ろうとしたジュリアを呼び止め、手で招く。  
「そっちのベッド、汚れてるでしょ。こっちでいっしょに寝ようよ」  
断る理由なんて勿論、無かった。  
 
 
 狭いベッドのなかで、落ちないようべったりと寄り添う。  
 
「姉さん、あったかいね」  
「ラウルもあったかいわよ」  
「僕、今すごく幸せ」  
「私も、今すごく幸せ」  
「姉さん……好きだよ」  
「……私も」  
「あ、ずるいよ」  
「もったいないから言わないの」  
「ふーん……」  
「おやすみ、ラウル」  
「おやすみ、姉さん」  
 
 
今夜は2人とも、いい夢が見られそうだった。  
 
 
 

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