ラウルが、すまなそうな顔で私の腕を掴んでる。
ラウルが、私のことを心配そうな目で見つめてる。
――ラウルが、私が口をつけたハンカチの臭いを嗅いでた。
「元気、出た?」
「……うん……ありがとう、お姉ちゃん」
ラウルの手が、ジュリアの腕から離れた。
「じゃ、私はちょっと……」
「え? ど、どこいくの? やっぱり具合悪くなったの?」
このままだとこいつついてくるわ、と感じたジュリアは焦った。
「違うわよ……もうっ、トイレよ、トイレ! レディにこういうコト言わせるんじゃないわよ!」
「あ……そう…なんだ。ごめん」
ちょっと顔を赤らめて俯くラウル。
ジュリアはかなり切羽詰まった様子で部屋を後にした。
「お姉ちゃん……よっぽどトイレ我慢してたのかなぁ」
ジュリアにとって不本意すぎる誤解を抱いたまま、ラウルはそそくさと
出しっぱなしになっていた自分のものをズボンにしまい込んだ。
息が荒くなっているのは、全速力でトイレに駆け込んだからだけでは決して、ない。
「はぁ……」
自分がしてしまったことに、今更ながら自己嫌悪に陥り、ため息をひとつ吐く。
姉弟なのに。
お姉ちゃんなのに。
キスなんかして。
その上、あんなところを、口で。
更にその上、その上……
「ぅ……」
下着をおろすと、股のところに小さな染みが付いている。
……その上、欲情してた、なんて。
最低、と唇を噛みしめる。
あんなこと、するつもりなんて無かったのだ、勿論。
ただ、いつも以上に泣きじゃくり、自分の胸に縋り付いてくるラウルのことを見ていたら
たまらなくなってしまって、気がついたら顔を撫でていた。
自分でも気付かないうちに、唇を重ねていた。
それだけでは我慢できなくて、したことも無い、舌を使ったキスまでしてしまった。
ラウルが無抵抗なのが嬉しくて、それで何か、箍が外れてしまったのかもしれない。
我に返ったときには、ラウルのものを口いっぱいに咥え込んでいた。
視線を感じて見上げたら、ラウルはすっかり頭がとろけてしまったような顔をしていた。
今この瞬間、ラウルの頭の中は、泣いていたことも何もかも忘れて
ただ自分のことだけでいっぱいになっているのだと思うと、もうダメだった。
下腹のいちばん奥のところがじんわりと熱を持って疼きだした。
弟の性器をしゃぶりながら、ジュリアは何度も何度も、内ももを擦りあわせていた。
ラウルが気持ちよくなって、それで辛い気持ちが吹き飛んでくれたらいいと望んだのは本当だ。
けれど、自分のしたことは結局純粋に弟を想ってのことだけではなかったのかもしれない、
ということがジュリアは悔しかった。
弟を慰めるふりをして本当は彼を自慰の道具にしただけだったのかもしれないとさえ思う。
……でも、それでも。
指先で、おそるおそる触れてみる。いちばん敏感な場所に。
「あ……」
ぬるりと、尿とは明らかに違う感触がそこにあった。
「ふぁ…ラウル……ラウル……んっ」
この手が、この指が、もし、もしも、ラウルのものだったら。
自分が彼にしたように、もしラウルにここを、この場所をいじられたら。
自分はどうなってしまうのだろう。
きっと、今まで通りに気丈に振る舞うことなんてできない。
きっと、さっきのラウルのように、頭の中がとろけて何にも考えられなくなってしまう。
それはあまりにも甘美すぎる妄想。
叶えられることがあってはならない願望。
それでもジュリアは、それを頭の中から振り払うことができなくて。
想像する。
ラウルが、自分の脚の間に手を滑り込ませる光景を。
確かめるように割れ目を指でなぞる様子を。
そしてそこを、そっと開かれる感覚を。
それだけでもう、指先に絡む熱が増える。
でもそれ以上は、無理だった。
理性が、そこから先に進むことを許さなかった。
それに実際問題、
男を悦ばせる方法は聞きもしないのに懇切丁寧に教えてくれる女性団員達は、
なのに本番で具体的にどこをどう触られてどういじると気持ちよくなれるのかは
「それは実際してみるまでは知らない方がいい」なんて言って教えてくれないので、
これ以上どうしようもなかった。
「何、やってんのかしら、私……」
満たされないもやもやを抱えたまま再度大きなため息を吐いて、
ジュリアは控えめすぎる初めての自慰の後始末をした。